21話「少年達は少女達に恐怖する」
望六が月奈による手刀で肉体的ダメージを負うと回復までに二、三分掛かったがなんとか歩けるまでに動けると直ぐに一樹達と合流すべく売店へと向かった。
そして望六が売店へと到着すると彼の目の前に居る一樹達は既にお菓子か飲み物類をを買っていたらしく手にはレジ袋が下げられていた。
しかもナタリアからポッキーのようなお菓子を貰ったのか、一樹と月奈の口には細長い菓子が咥えられている。
ちなみに一樹達の横にはナタリアが口をモゴモゴとさせて立っているのだが、その左手には菓子の箱を持っていたので直ぐに彼女があげた物だと分かったのだ。
そんな光景を望六が何とも言えない気持ちのまま見ていると……
「おっ! やっと来たか望六!」
「随分と遅かったな。私としては手加減したつもりだったのだがな」
二人は彼の存在に気が付いたらしく一樹は手を振りながら声を掛けてきて、月奈に至っては両腕を組みながらあの威力の手刀を手加減と言い張っていた。ならば彼女が本気で攻撃してきたら一体どれほどのダメージとなるのだろうかと望六は少し考えただけで足が震えた。
「ひゃらだのほうはだいひょうぶかい?」
と、そこへナタリアが口をもごもごとさせた状態で話し掛けてきた。
恐らくまだ口の中にお菓子が残っているのだろう。
「あ、ああ。今のところは大丈夫だな。……しかしナタリアよ。口の中の物を飲み込んでから喋ったほうが良いぞ? 何を言っているのかまったく分からんぜ」
望六は何となくこう言っているだろうと予想して返す。
「ん……っ。でも望六は僕の言っている事が分かったじゃないか」
彼女は飲み込むような仕草をしてから口を開いた。確かにナタリアが言っている通り何となくだが彼には言っている事が理解できた。
しかしそれはたまに一樹がご飯を食べながら喋り掛けてくるから、変に慣れていたからかも知れない。
「まあ……な。それよりナタリアはそのお菓子が気に入ったのか?」
「うんっ! この細長くてチョコレートがコーティングされているお菓子は凄く美味しいよ! ……でも僕的には細い方より太い方が好きだけどね」
本当に軽い感じで何気なく望六は聞いたつもりなのだが、ナタリアから返ってきた言葉に何処かいやらしいものを感じてしまうのは何故だろうかと彼は頭を悩ませる。
そしてその会話は無論隣に居る一樹達にも聞こえていたらしく月奈が頬を若干赤らめた様子で目が泳ぎまくっていた。更に一樹に至ってはいつもの能天気ぶりが発揮されているのか、近くの商品棚に視線が釘付けで特に反応は無かった。
「あっ……指にチョコが付いちゃった」
望六がどう返事をするか悩んでいると、ナタリアが不意にそう言って指先を自分の口元へ近づけて舌を使って綺麗に舐めとり始めていた。
だけど彼女がチョコを舐めとる仕草は何処となく望六に見せつけてきているような、そんな気がしてならない。何故ならナタリアの潤んだ瞳はずっと彼へと向けられているのだから。
「……普通にハンカチとか使ったらどうだ?」
その視線と仕草に耐えかねた望六は少しだけ視線を逸らしながら言うと、
「んー、だって勿体無いじゃん。それにこうやった方が望六も嬉しいでしょ?」
彼女は的を的確に射抜いてくるような言葉を放ってきた。正直に嬉しい、嬉しくない、かで言えば断然嬉しいのだが……ここは売店だ。ゆえに他の女子生徒達もいる訳で。
望六の周りには不思議と顔を赤く染め上げた一年や二年の人達が呆然と立ち尽くして見てきている状況なのだ。
「流石にこれは居づらいな……。と言うよりそろそろ食堂の方へと向かっておくか。休日の食堂は何故か混むからな」
この場に居づらくなったと思い望六は場所を変えようとする。
「そうだな! てかなんで俺達の周りには人だかりが出来ているんだ?」
先程まで商品棚に夢中だった一樹が急に割って入ってきて困惑した色の声を出していた。
逆に今のいままで何も気づかなかったのだろうかと、改めて彼の能天気ぶりに恐れを抱いた望六である。そして月奈も望六の提案には賛成しているのか先に売店の出入り口へと向かっていた。
きっとナタリアのアレが恥ずかしいのと周りの野次馬達が嫌だったのだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……あっ、あぁぁぁ! なんだこれは!?」
売店を出て一年の校舎に戻ると望六達は食堂を目指して歩いていたが、そこへ一樹が急に何かを見つけた様子で声を荒げていた。
「ひぃっ!」
するとその声量の大きさに月奈は肩を大きく上げて反応させると珍しく情けない声を出していた。
……だがそんな彼の大声は隣を歩いていた望六にもしっかりと聞こえていて最早痛みを伴うほどに耳がキーンと鳴っていたが、一体何をそんなに声を荒げるているのか気になり一樹の方へと視線を向けた。
「うるさいぞ一樹。急にどうしたんだよ?」
今更遅いと思われるが一応耳鳴りがしている方を片手で塞ぎながら尋ねた。
「び、びっくりしたぁ……」
「急に大声を出すな! 馬鹿者!」
それと同時にナタリア達も同様に一樹の方へと視線を向けると、月奈だけは怒りが顕になっているようだった。
しかしそんな女子達の声にもお構いなしに一樹は動揺した右手で壁の方を指差すと、
「こ、これだよ望六! み、見てみろ!!」
焦った声色でそう言ってくると震えているのは手だけではなく声の方も同じだった。
「んだよ……ったく。えーっとなになに?」
望六は少なからず面倒だと思いながらも、一体何がそうまで一樹を驚かせたのか……。
これが実に下らない事であれば彼は一発一樹の頬を殴ろうと決めて視線を壁の方へと向ける。
――するとそこには何時ぞやの【WM広報ボード】が壁に掛かっていて記事が新しいのに更新されていたのだ。しかしこれだけなら別に何も驚く要素はないはずだが……、
「お、おいおい……なんだこれは!! この最初の見出しはあの時の一方的なインタビューの事か? しかも記事の後半はクラス対抗練習試合の事も書かれているし……どうなってるんだよ!?」
望六は広報ボードに書かれている事に目を通していくと、不覚にも一樹と同じ反応をとってしまった。だがそれも無理はなかった。何故ならそこに書かれていた事とは望六と一樹が春からインタビューを受けて言わされたフェチと好きなタイプがでかでかと書かれていたのだ。
しかも若干手が加えられているのか望六の腋フェチという部分に運動後の腋が特にという一文が添えられていたのだ。
……これでは傍から見たら彼は相当マニアックなフェチ野郎と思わてしまうのではないだろうか。
そして一樹の方も同じように改変が加えられていて、風呂上りのうなじという文が書かれていた。恐らく一樹の場合はこの部分を見て声を荒らげていたのだろう。
「……へぇ。望六って腋が好きだったんだね。しかも運動後の汗にまみれたのがさ」
しかしそこへナタリアが急に低い声でそんな事を言ってきた。
だが望六はその時、背筋に冷たいものが這いよる感覚を受けると直ぐ顔を彼女へと向けた。
「いやこれは色々と違うんだ……。俺にこんな変態じみた性癖は……」
望六は事情を説明しようと彼女に目を合わせようとするが、ナタリアの瞳は既に深淵のように暗く染まっていて光なんぞ何処にも無かった。
「あとさ、これはなに? どうして望六の周りにメス猫達がいっぱい居るの? しかもこの”金髪の人”と”メイド服を着た人”とは特に親しげに話している様子だし……。ねぇ答えてよ。ねえってば、ねえねえねえねえねえ」
その異様な雰囲気に彼は本能的に目を逸らしてしまうと、彼女はボードに貼られていた写真を見て何かを思ったらしい。
その写真には望六とエレーナとメリッサと一組の女子達が仲良く写っている光景のものだ。
「あ、いやこれには富士山よりも高い事情があってだな……。だからそんな怖い目をしながら距離を縮めてこないでくれナタリア……」
「だったらその事情をちゃんと説明してよ。全て、隠さず、ありのままに。……それと先に言っておくけど今の僕は理性を失い欠けてるから……おかしくなっちゃったらごめんね。あはっ」
ナタリアが自らの理性をギリギリのラインで保っている事を微笑みながら告げてくると、やはりこの状況は相当に不味いものだと望六は自覚せざる得なかった。
そこで彼は一部の望みを掛けて、この状況を打破してくれるであろう可能性を持っている能天気代表の男。そう、一樹に助けて貰うと喉を捻り潰す勢いで声を出そうとしたのだが……、
「か、一樹お前からも何か言って……やっ……マジかよ」
彼の視界に映ったのは一樹が月奈に胸元を掴まれて壁際に押し付けられている場面だった。
しかも月奈の表情は怒りなのか分からないが、口元は歪んでいて目つきは鋭利な刃物のように鋭くなっている。
「かか、一樹ぃぃい! これは一体どういう事だ! 風呂上りのうなじが好きとはどういう意味だ! いつからお前はそんな望六みたいに変態になってしまったのだ!」
「ぐ、ぐるじい……は、離してくれ……月奈ぁぁ」
壁際に追いやられた一樹は苦しそうな表情を浮かべて月奈に何かを言っている様子だ。
だけど彼女の言葉から察するに、一樹が立派に変態の道を歩んでいる事に不満があるらしい。
だがその例えとして自分を引き合いに出すのは些かどうだろうかと望六は思う。
「……はぁ。一樹は駄目そうだ……な”ぁ”っ!?」
しかしそんな事を思っているとナタリアが一気に距離を縮めてきて、今や二人は鼻先が触れ合いそうなぐらいに近い。そして彼女の目はどこに焦点が合っているか分かららず、彼の恐怖心を駆り立てるのには充分過ぎた。
「は・や・く・説明してよ。ね?」
ナタリア自分の唇に人差し指を当てながら囁いてくると、それは小悪魔なんて生易しいレベルのものではなかった。
恐らく説明の仕方によっては、この場で命を刈り取られるような雰囲気すらあるのだ。
「あ。ああ分かっている……。じ、実はだな――」
冷や汗のような雫が自身の頬を伝って落ちていく感覚が伝わってくると、望六は震える体を無理やり押させながら事情を説明し始めた。
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