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20話「少年少女はまた一歩学ぶ」

 クラス対抗練習試合がの日程が正式に決定されてからというもの、放課後は全て魔法の特訓をする為に使われて一学年全体が慌ただしい雰囲気の中、各自が”無詠唱”という魔術士にとってアドバンテージとなりうるものを会得しようと奮闘していた。

 

 もちろんだがその中に望六達も含まれている。

 彼らが軸となり無詠唱の他にも魔術士の基本的な立ち回り方や戦い方などの教えているのだ。


 そして既にある程度の無詠唱が使えるナタリアからは無詠唱のコツを教えて貰ったりと、それなりに毎日がハードモードだが何とか一組の全員はこなしていた。

 ……だがそんな特訓も休日を返上して行っていると、それは本当に突然の出来事であった。


「ん? なんだ、この震える感覚は?」


 晴れた昼下がりのグラウンドの真ん中で望六がいつも通りに無属性の魔法を放っていると突如として宵闇月影から振動のようなものが伝わってきたのだ。

 

 彼はその違和感に握っていたデバイスを自分の目の前に持ってくると、それは直感なのか本能的に察知してしまったのか……今なら無詠唱が発動出来るのではないかと漠然と思えてしまったのだ。


「ま、まさか。……だけどやってみる価値は充分にあるかもな」


 特訓のしすぎで頭がおかしくなっているのかと望六は一瞬考えたが、既に頭の中で少女の声が聞こえてくるホラーじみた事が起きている時点でお察しだと考えるのを辞めた。

 

 それにこのまま無詠唱を獲得出来ないで練習試合に挑むのは彼としては絶対に避けたい所なのだ。だからこそ、この宵闇月影が何かを訴え掛けて気ているような状態は到底見過ごす事は出来なかった。

 

 望六は改めてデバイスを構え直すと脳内で術式を叫ぶようにして魔力をデバイスに流し込む。

 そして思いっきり叫ぶと――


「はああぁぁーっ!!」


 彼のデバイスの刃先には球体状の魔法が出現しそのまま前方へと放出されると、ある程度の距離を進んでから小規模の爆音を辺りに響かせた。当然その音は一組の全員に聞こえていたらしく、


「い、今のって望六くんがやったのかな……?」

「そりゃぁ~そうでしょ~。じゃなきゃあんなに爆音のする魔力量を込めるなんて不可能だしー」

「私は見たよっ! 望六くんが詠唱しないで魔法を発動したところを!」


 その女子たちの声には聞き覚えのある柚南の声も入っていたが、どうやら望六が無詠唱で魔法を発動したところを一部の女子にはバッチリと見られていたらしい。

 だが周りから聞こえる驚きの声はそれだけではなかった。


 何故なら望六の近くで特訓に励んでいた彼らも……


「お、おい望六! いまのはもしかして……!」

「う、嘘だと言ってくれ……。あの望六が一番最初に無詠唱だと!?」


 一樹と月奈が共に驚きの表情を浮かべてゆっくりと望六に向かって歩み寄って来ている様子だ。

 だが月奈が言っていた『あの望六が一番最初』とは一体どういう意味なのだろうか。

 望六は彼女の放った言葉に少なからず疑問を抱いている。


「あはっ。やっぱり僕が思っていた通りに望六が一番最初に無詠唱を覚えてくれたね。これは望六から何かお礼をして貰わないとね……ふふっ」


 次にナタリアから短く笑ったような声が聞こえてくると、何故か不思議な事に望六の背中に冷たい風が当たったかのようにビクッと体が震えてしまった。


 これは彼の体が何か危険を予知でもしたのだろうか。

 更に言わずもがなナタリアも望六の元へと小走りで駆け寄ってきている。


「それで! 一体どうやって無詠唱が発動出来たんだってばよ!」


 にじり寄って来た一樹が顔をめいいっぱい近づけて聞いてくる。


「だってばよ!? 一樹……お前急にどうした? キャラ変わりすぎだろ」


 望六は彼の口調がおかしくなっている事にツッコミを入れずには要られなかった。

 しかしその望六がそのツッコミを入れると一樹の隣に立っていた月奈が視線を鋭くして睨んできた。


「ええい馬鹿な事を言うな一樹! 今は無詠唱をどうやって発動したのかを聞くのが優先だろう!」


 そのまま望六を睨みながら月奈が一樹に少し怒ったような口調で言う。


「お、おうそうだったな! つい急な出来事に変な口調になってしまったぜ……」


 一樹も我を取り戻したのかハッとした様子で苦笑いを浮かべていた。

 それから一樹達の横からナタリアがそっと顔を覗かしてくると、


「無詠唱出来て良かったね望六! やっぱり僕の教え方が良かったのもあると思うけどねっ!」


 何やら誇らしげな表情と共に豊満な胸を張って望六にそう言ってきた。

 確かに彼女の助言がなければこの無詠唱獲得までは、かなりの時間が掛かった事だろう。

 なんせ知識無し、経験なんて無論ない状態だったからだ。


「ああ、そうだな。ナタリアの言っていた意味が少しだけ理解できた気がするぜ。だけど……」

「ん? だけど、どうしたんだ?」


 望六の含みのある言い方に一樹が不思議そうな顔をして聞き返していた。

 だが彼がなぜ『だけど……』を付けたかには理由がるのだ。


 それを話す事は恐らく無詠唱獲得までの道のりに必要な事だと望六は必然的に分かると、その場に一組の全員を呼ぶことにした。即ち皆に彼なりのアドバイスを教えようとしているのだ。


「すまないが全員集まってくれ! 無詠唱について分かったことがある!」


 その呼び声をグラウンドに響かせると一組の女子達はデバイスを握っていた手を下ろして全員の顔が望六の方へと向いた。そしてそのまま小走りで皆が駆け寄ってくると、


「なになに~? ついに無詠唱の攻略できた感じ?」

「おお!! 望六くんが一番に使えたんだ! 流石は【魔法を無効化する黒き候補生】だね!」

「その二つ名はいま関係あるのかな……。でも! 望六くんが使えたのは事実だもんね! やっぱり凄いよっ!」


 何やら学園側から勝手に与えられた二つ名で呼んでくる女子が居たようだが、望六は何とも言えない表情を作って反応すると次に集まった皆に自分が如何にして無詠唱の発動が行えたかの雰囲気……というか体感を話すことにした。


「無詠唱を発動する条件……いやちょっと違うな。無詠唱を行うにはデバイスからの振動を――」


 望六が自ら体感したデバイスの振動という事を皆に話すと一組の全員は首を傾げたり、本当にそんな事で無詠唱が使えるのかと若干疑っているような視線が向けてきたが、事実彼は使えているのだ。だからこそ誰も文句を言葉にはしなかったのだろう。


 ――それから望六が話を終えると改めて特訓開始となかったが、デバイスが振動すると言う事を踏まえてからの特訓は何かが違った。


 それは望六が無詠唱を獲得してからの特訓はまるで宵闇月影の振動が共鳴するかのように次々とクラスメイト達のデバイスが揺れていき、あっという間に全員が何の前触れもなく無詠唱が発動できるようになったのだ。


 ちなみに望六の次に無詠唱が使えたのは一樹と月奈だった。

 二人は説明を聴き終えたあと再び特訓へと戻ると……なんと驚く事にいきなり無詠唱が発動出来たのだ。その余りの急な出来事に一樹と月奈は目を丸くして呆然としていた訳だが。


「す、すごい……。こんなにも連続的に無詠唱が使えるの者が現れるって……イタリアでもこんなのは見たことがないよ」

 

 ナタリアが一組の全員が無詠唱を発動している光景を見て呟くと、望六はそれを聞いて思案を巡らせた。つまりこの状態はある意味特殊で普通ならありえない光景なのだろうと。


 ならば考えられるのは日本のデバイスは特殊な物で、宵闇月影の振動をきっかけに何らかの同調でも起こしたのだろうか。そして次に考えられる事としては、これは一種の集団心理で望六の話をきっかけに新動が起これば必然的に使えるものだと錯覚したからこそ出来たのか。


 以前、七瀬が思いの感情で魔法は左右されると言っていた事から思い込みというのも原理となりうる可能性があるのだ。

 しかしどちらにせよこの土壇場で一組の全員が無詠唱を獲得出来たのは大きな一歩と言えよう。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれからグラウンドでの特訓を終えると、一組の全員は解散して残り少ない休日を楽しむ事になった。と言ってももう直ぐで夕食の時間となるので、そんなに時間的には余裕がある訳ではない。


「望六のおかげで俺も無詠唱が使えるようになって良かったぜ! 本当にありがとうな!」

「なに、気にする必要はない。全てはクラス対抗練習試合で負けない為の事だからな」


 礼装から制服に着替え終えると望六と一樹は一年校舎のとある廊下の端っこにて話していた。

 なぜ望六達がこんな所で話しているのかと言うと、このあとは月奈とナタリアと共に学園の売店へと行く事になっている為に待っているのだ。


 ここ数日は毎日特訓に明け暮れていた事から、売店で何かお菓子でも買ってストレスを発散しようとなったのだ。

 まあ望六は甘いものが余り得意ではないのでエナジードリンクだけ買おうと思っている。

 ……と、二人が話しているとそこへ月奈とナタリアが姿を現した。


「はぁはぁ……。すまない、少し遅れてしまったか?」

「月奈早すぎるよ……。と言うより距離が遠い……よぉ……はぁはぁ」


 二人は望六達の目の前で手を膝に付けながら息を荒げた様子で言葉を出すと、どうやら見るからに礼装から制服に着替えて全力でここまで走ってきたらしい。


「いや大丈夫だぞ? てか、女子更衣室からここまで走ってきたのか?」


 一樹は月奈の様子を見て女子更衣室から走ってきた事を予想したのか尋ねる。


「ああ、まあな。これでも足腰には自身があるから心配するな」


 月奈は額に滲ませた汗を見せながら強気な様子で返事をしていた。

 だが彼女のその言葉は望六の中ではこう翻訳されていた。


「ふっ、流石は武人の月奈だな。やはりゴリラ並みの体……ぐあぁつ!?」


 望六がその言葉を発した瞬間に恐ろしく早い手刀が横腹を直撃していくと、内蔵が揺らされたような衝撃を受けて壁にもたれ掛かった。


「の、望六ぅ!! 大丈夫かい!?」


 すると横ではナタリアが両手で自身の口元を覆って驚いた声を上げていた。


「気にするなナタリア。これは自業自得というやつで日常茶飯事だ」


 月奈が颯爽と手を出して望六に駆け寄りそうなナタリアを止めると、これは最早定番の事だと言って納得させようとしていた。


「そ、そうなのかい? なんかカエルが潰れたような声だったけど……」


 しかしナタリアから何とも言えない言葉を望六は受けると背中は壁に沿って落ちていき、冷たい廊下の床へと腰を落とした。

 ……だけどそんな事はお構いなしに月奈はこう言ってきのだ。


「ふんっ。そんな事よりも早く売店へ向かうぞ」

「あ、ちょ、ちょっと!?」

「望六~、先に売店向かってるから痛みが収まったら来いよ~」


 月奈はナタリアと一樹の手首を掴んで歩き出すと望六は冷える廊下の端で一人置いていかれた。

 未だに彼の体は月奈から受けた手刀のダメージにより動けず、一体彼女は何処ぞの暗殺拳の使い手だと望六は考えずには要られなかった……。

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