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19話「親友への秘密」

 それから一樹達が授業開始間際に慌てた様子で戻ってくると何とか間に合ったようで、七瀬や木本先生に怒られずに済んだようだ。そして午後の授業もあっという間に過ぎていくと今日の放課後から望六と一樹が軸となり、クラス対抗練習試合に向けた特訓が開始されるのだ。


 これは一組のクラスの女子達が授業終わりに二人に頼み込んで来たからこうなったのだ。

 いや……実際には木本先生達もそれを推奨していた事から、頼まれなくともどの道特訓は今日から始まっていただろう。


 そして望六達は今現在礼装を纏った状態で第一グラウンドの一角にて無詠唱の獲得を目的に、魔法を何度も発動しては放つという行為を繰り返している。

 一見これは傍から見たら単純な事を繰り返しているように見えるがそうではない。


 魔力消費は一個一個は少なくとも確実にそれは自身の魔力を消費しているのは間違いないのだ。

 ゆえに加減を間違えて発動すると手足に痺れが生じて最悪の場合は過呼吸で保健室に搬送だ。

 だからそれらの危険な事や何か異常がないかとかを望六と一樹は一組の女子達を見ながら特訓に励んでいるのだ。


「俺も別に無詠唱が使える訳ではないが、自分が得意だと思った魔法を主として何度も発動して特訓すればそれなりに戦えようになる筈だ!」


 望六は汎用礼装を纏ったクラスメイト達に声を掛けてアドバイスを送ると、それはエレーナと共に特訓した事をそのまま流用しただけの事だった。しかし実際それのおかげである程度メリッサの時は戦えたのも事実だ。もし仮にその特訓がなければ秒殺の可能性だって少なからずあった筈だ。

 

「了解したよ望六くん!」

「アドバイスありがとうねっ!」

「これで私も強くなれる……」


 そしてそのアドバイスを聞いた女子達は魔力消費の影響で披露の色が伺える顔を彼に向けて何とか返事をしていた。

 皆一様に肩で息をしていたり額に汗を滲ませている事から本気で特訓に励んでいるのだろう。


「俺の場合は……その……居合の稽古をしていただけだから、あまり参考にはならないと思う……ははっ」


 一樹が望六の隣で頭を掻きながらそう言うと彼はもしかしたら天才肌なのかも知れない。

 彼の場合は月奈と居合の稽古でその身に痣が色濃く残るまで受けて、それだけであの魔術留学生のシルヴィアに勝ったのだから。


「……さて、俺たちも無詠唱の獲得を目指して頑張るか」


 取り敢えずクラスメイト達に指示を出して自分達も特訓に移ろうと望六が呟く。


「そうだな。じゃないと姉貴を失望させちまう」


 一樹はどうやら七瀬に失望される事を気にしているらしい。

 やはり実の姉にあれだけ言われると弟しても気にする部分なのだろうか。


「望六~、僕も一緒に特訓させてよ! これでもイタリアの留学生だからきっと力になれると思うよ!」

「……すまないが私も混ぜて欲しい。まだ自分の思い描く魔法のイメージが湧かんのだ」


 皆から少し離れた場所へと望六達が歩き出すと横から二人の女子に声を掛けられた。

 望六は何の気なしに振り返ると、そこには言わずもがなナタリアと月奈が礼装を纏った状態で立っていた。


「お、おう。それは構わないが……改めてナタリアの礼装を間近で見るとR18規制掛からないか心配な絵面(えづら)だな」

「なっ!? それってどういう意味かな! 僕が痴女とでも言いたいのかい!」


 望六がそう言うのも無理はない。彼女の礼装は横乳がはっきりと見えてしまうタイプなのだ。

 だから少しでも無理な動きをしようものなら……という事だ。


 だが実際にはまだナタリアのアレが見えたという事象は望六の目の前で起こった事はないのだ。

 不思議な事にこの礼装はギリギリのラインで見えないように工夫されて作られているのかも知れない。


「まあまあ二人とも。そんな事よりも早く特訓しちゃおうぜ? 時間は限られているんだしさ」


 望六とナタリアが話しているとその背後からそっと一樹が声を掛けてきた。

 確かにグラウンドの使用時間は決まっているのだ。

 それも一学年は全員が同じ状況ゆえに何処のクラスも逸早く特訓がしたいからだ。


「そ、そうだったな。では俺達もいざ特訓開始だっ!」

「「「おうッ!」」」


 望六が目的を改めて定め直すと一樹達は彼の声に合わせて活気ある返事をした。

 そして望六達一向は少し離れた場所で尚且つ一組の全員が見えるとこに場を移すとデバイスを構えて魔法の特訓を開始した。


 一樹は雷属性を何度も発動して辺りに轟音を響かせたり、ナタリアはやはり望六が思っていた通りある程度の無詠唱が出来る事から魔法の練度を上げる練習をしている。


 月奈は特質属性のテンプレ魔法を使って練習しているが、どうにもまだイメージが湧かないのか本腰では無さそうだ。

 そして望六は無属性の斬撃魔法を只管に放っているが、その心中は穏やかではなかった。


 これは”例の能力”が使えない事から無属性という本来自分に備わっている既存の魔法を使って無詠唱を獲得しなければならない、と言う焦りが彼の中で少しずつ溢れて来ているのだ。


 こう言ってはなんだが望六は自分が他と違って実は特別なんじゃないかと少し思っていた節があったのだ。しかしそれは能力が使えなくなったと同時に慢心だと知り、自身の無属性だけで勝利を取りに行く……そういう考えに思考を切り替えるのに望六は時間を要した。

 

 それも偏に甘い汁を最初に吸ってしまったが故に忘れられないのだ。

 ……あの瞳の能力の事が。


「いいかい? 無詠唱の基本は詠唱という行為を脳内でイメージする事が肝心だよ。あくまでも言葉にして発動すると言うのは自転車の補助輪みたいな役割だからね」


 ナタリアは望六の勢いに身を任せた特訓が気になったのかアドバイスをしてくれる。


「なるほど、詠唱は自転車の補助輪と同じ役割か……」

 

 それは彼にとって実に分かり易い回答だった。

 しかしあくまでも分かり易いというだけで、実際に出来るかどうかは別の問題だ。


 ――それらから暫くして一組がグラウンド使用時間を迎えると全員が礼装とデバイスを片付けるべく更衣室へと向かった。しかし今回の練習で無詠唱を獲得したクラスメイト達は誰一人いなかった。無論だがそれは望六達も同じだ。


 ……更に望六には気がかりな事があった。

 それは月奈を標的にしているであろう女子達が特訓に来なかった事だ。流石に自由時間が減らされるとなれば特訓ぐらいは真面目にするだろうと思っていたのだが……どうやら望六の勘は外れたようだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 


 あれから学生服に着替えると望六達は自分達の寮部屋へと戻り、各自でイメージトレーニングに励むことになった。だけど夕食の時間になったらいつものメンバーで食べに行くことは最早言わなくとも確定事項らしい。望六達が寮に戻る時にナタリアと月奈がそう言ってきたのだ。


「うーむ……。詠唱を脳内で行うって具体的にどうやれば良いんだろうな」


 自室の椅子に座りながら一樹が詠唱のやり方について尋ねる。


「さあなぁ。こればかりは幾ら考えても答えが出ないな。多分考えるより体で覚えろ何だろうけど」


 望六はベッドの上で転がりなが気だるい雰囲気を漂わせて返した。こんな調子で本当に練習試合までに間に合うのだろうかと言う一抹の不安が望六の中にはあったが、最悪間に合わなければ当日の対戦相手が同じレベルの者だと良いなと願うばかりだった。


「てか今の時間は二組がグラウンドを使ってるんだっけか?」


 望六が窓の方に力のない視線を向けながら聞く。


「ああ、そうだぜ。……あ、そう言えばグループトークにこんなのが来てたぞ!」


 一樹は何を思い出したのか自分のスマホを取り出して画面を彼に見せてきた。グループトークなら望六も入っているからスマホを開いて確認すれば良いだけなのだが、特訓の影響もあってか体が重く気力も湧かない。


「んー? なになに?」


 重い体を動かして視線を一樹のスマホへと向けるとそこには……、


『この私が実力不足とは舐めていますの!』

『まったくだな。これでも私達は魔術留学生だぞ!』

『まあまあ。先生方がそう言っているんだから、日本のレベルは僕達が思っている以上に高いのかも知れないよ?』


 上から順に、シルヴィア、翠嵐、ナタリアと言った感じに実力不足と言われた事に関して文句を言っている光景が広がっていた。しかしシルヴィアレベルの者が居ても実力不足と言う事はナタリアが言っているように本当にこの第一WM学園はレベルが高いのかも知れない。


「留学生でも実力が足りないとか……どんだけだよ。もしかしてこの第一WM学園って個性豊かな者しか集まらないから年代によてばらつきがあるのか?」


 望六は横になっていた体を起こしてベッドに座り直すと、心なしかこの学園のレベルに対して少し恐怖感を覚えていた。


「かも知れないな。……と言うより話は変わるんだが何で望六って雷属性が使えたんだ?」


 だがしかし、一樹がスマホの電源を切って机の上に乗せると物凄い角度から話題を変えてきた。

 それは望六がなぜ他の属性が使えたかと言う禁断の質問だ。


「ぐっ……」


 思わず望六の口からは何かを潰したような鈍い音が出て行く。

 一体どうしてあの話からこの話になるのだろうかと言う疑問が望六の中で蠢くと、一樹に対してどう話すべきか頭を悩ませた。無論だが正直に一から能力の説明をする何て論外だ。


「ぎゃ、逆に一樹はなんで俺が雷属性を扱えたと思う……?」


 取り敢えず彼は質問を質問で返す事にした。

 余りこのての手法は良くないが、一樹がどう思っているのか確かめる必要があるのだ。


「んー。俺の場合は何時ぞやの決闘を終えて談話で話していた内容から察するに、望六だからこそ出来たんじゃないかなーって」


 怖気づきなが望六が彼の返事を待っていると、返ってきたのは一樹らしいと言えばそれまでなのだが中身のないただの憶測だった。


「……はあ?」


 これは流石に彼もだらしなく口が空いて塞がらない。


「いやだって望六って普通の人じゃ思いつかないような、と言うよりしないような事を平然とするし、そういう規格外な事が出来ても俺的には全然不思議とは思わないんだよなぁ」


 一樹の中で彼はどうやら変人扱いのようだが、それを聞いて望六は頬を緩ませると少しだけ笑が零れた。望六は変に気構えていたせいで肩が張っていたがそれも杞憂で終わると力は抜けていき、能力の事について真実を話す事は出来ないが……親友としてこれだけは言うべきだと思った。


「そ、そうなのか。何というかお前らしい言葉だな。でも一つだけ言えるとしたら……()()()()()()()()よ。それは約束する」

「……そうか、なら待つとするぜ。その時をな」


 その言葉を聞いて一樹は静かに目を閉じて返事をすると頷いていた。

 だけど一樹の中で既に答えが憶測だとしても出ていたのなら何故今更聞いてきたのだろうか。

 単純に気になっただけなのか……それともまた別に意図があったのか。

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