16話「能力の発動条件とは」
何らかの理由があるのかは分からないが、あのチート級の能力が使えなくなっている事を望六自身が自覚するとその日の魔法実技の授業は終わりを迎えた。
「これにて今日の魔法実技は終了とする。各自は放課後も自主トレに励むように」
再び全員が列の型へと戻ると七瀬が先頭に出て最後の言葉を言い放つ。
「「「「はいっ!」」」」
周りの皆は元気よく返事をしているが今の望六は到底そんな気分ではなかった。
「……ん? 望六どうしたの?」
挨拶を終えて皆が制服に着替えようと更衣室や教室に向かう中、ナタリアが彼の雰囲気が先程と違う事に気がついたのか心配そうな声を掛けきた。
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
だが彼はナタリアの顔を見ずに言葉だけを残して教室の方へと歩き出した。
彼女に自分の能力を話した所で一樹みたいに反応に困らせてしまうだけだと思ったからだ。
「おう望六! 急いで着替えないと教室に女子達が戻って来てしまうぞ!」
「あ、ああそうだな。分かっている」
二人が教室へと戻ると急いで礼装を脱いで制服に着替えている最中だが、望六の頭の中にはずっと”何故能力が使えなくなった”のかと言う部分を必死に考えてあらゆる可能性を巡っていた。
「なあ、あのナタリアが着ていた礼装って童貞を殺す服に匹敵する破壊力だと思うんだけど……。望六はどう思う? ちなみに童貞を殺す服ってやつは前にネットでたまたま偶然見かけた知っただけだからな! 決して月奈が着たらとか考えている訳では……!!」
望六が真剣な悩み事で頭を使っていると横から一樹のおちゃらけた質問が聞こえてきた。
だが、そんな下らない質問に彼は一々思考能力を使いたくはないので適当に言って済ます事にした。
「ナタリアの礼装は火属性ゆえに熱が篭るから、その解決策として通気性を良くした結果があの見た目になったんじゃないか?」
一樹にナタリアの礼装デザインについて合理的な事を主観的に言うと、彼はそんな返しが来るとは思わなかったのか目を丸くして口が空いていた。
「じゃ、俺は用事があるからこれで」
望六は制服に着替え終えてそのまま教室を出ると、とある場所を目指した。
今の時間は小休憩となっているので廊下に出ても何の問題もない筈だ。
――それから彼が目指した場所とは、ずばりここだ。
ここでならきっと能力消失について何かしらの情報が手に入ると望六は思ったのだ。
「失礼します。一組の白戸望六です。宮園先生に用事があり参りました」
職員室の扉を三回ノックしてから組と名前を告げる。
「よし、入れ」
すると中から直ぐに七瀬の声が返ってきた。
言われた通りに彼は扉を開けて中へと入ると、真っ直ぐに七瀬の席へと向かう。
「珍しいではないか。望六から私に要件があるとはな」
七瀬は足音で気づいたのか望六が近づくと椅子を回転させて顔を合わせてきた。
「ええ、まぁ。実は色々とありまして……」
しかし彼は能力の件をこの職員室で話すは流石にまずいと思い言葉に詰まってしまう。
いつどこで自分を狙っている輩が居るかも分からない状況だからだ。
用心するに越したことはないだろう。
「……なんだ。ここでは話せない事なのか?」
望六が周りの職員達に視線を向けて言葉を濁していると七瀬は表情を曇らせてからそう言ってきた。どうやら彼女も何かを考えているようだが、まだその答えには行きつていないようだ。
ならば、この人の名を使えばきっと伝わる筈だと望六は再び口を開く。
「はい。この話をするには七瀬さんと亜理紗さんが揃っている事が重要なんです」
「……ッ! なるほど分かった。直ぐに亜理紗にこちらの校舎に来るように言う。少し待っていろ」
その言葉の意味を七瀬は瞬時に理解したらしく、服のポケットからスマホを取り出すと電話を掛け始めいていた。
そしてなぜ七瀬と亜理紗の二人が必要なのかと言うと、それは彼の能力を検査していたからだ。
ならば谷中先生はどうして居ないかと言うと望六が単純に今回はこの二人で何とかなると思ったからだ。それにもし仮に能力を知って谷中先生が狙われるようになったりしたら危ないからと言う部分もあるのだ。
「よし、亜理紗とは話が付いたぞ。直ぐに談話室へと向かうそうだ」
七瀬はスマホを耳から離して通話を切るとポケットに仕舞ってから望六の方を向いた。
「ありがとうございます。……これで何とかなって欲しいものだ」
彼は直ぐに行動に移してくれた七瀬に感謝すると共に、この二人の力で能力消失について何らかの解決策が見いだせれば良いと願った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから望六と七瀬は職員室を出て談話室へと向かった。
しばらく互いに無言のまま歩くと、やがて談話室の前へと到着して扉の施錠を解除しようと七瀬がカードキーを機械に翳そうとしたのだが。
「……チッ、警戒しろ望六。既にこの中に誰か居るぞ」
そう言う彼女の表情は一気に鋭いものへと変わっていった。
もしかしたら職員室での話が聞かれていて、自分を狙っている奴らが先回りしているのかも知れないと……望六の脳裏に焦りが過る。
「私が中を確認してくるから、お前はここで待っていろ」
その場で動かず待機しているように七瀬が真剣な声色で言う。
「わ、分かりました……」
そして彼の返事を聞いて彼女がドアノブに手を掛けて一気に扉を開くとレッグホルスターから小型のナイフ型デバイスを取り出して部屋へと乗り込んだ。
「その場に武器を捨て手を上げろッ! おかしな行動を取ればす……ぐ……なんだと?」
中からは七瀬の困惑した声色が聞こてくる。望六は心配になって開いた扉から顔を覗かせると……そこにはいつも通り白衣の下に水着を着ている亜理紗が足を組みながら長椅子に腰を落ち着かせていた。
「おい亜理紗これはどういう事だ? 何故お前が私達よりも先にこの談話室に居る?」
七瀬が呆れた様子で亜理紗に声を掛けると、手に持っていた小型のナイフをホルスターへと戻していた。
「え~? だって望六くんの能力の事について進展があるんしょ? だったら私としてもそれは文字通り居ても立ってもいられないんだよ! だからちょっと……ね? にゃははっ!!」
それに対し亜理紗は含みを込めた事を言うと、いつものホワホワした感じで誤魔化しているようだった。だけど七瀬が言っている通り先程連絡した筈なのに、別の校舎からそんな超高速でこの談話室に来るとは……一体どんな魔法を使ったらそんな事が出来ると言うのだろうか。
「はぁ……。まあ、お前を常識の枠で収めておく方が無理と言うものか……」
七瀬はその場で頭を抱えながら重いたい溜息を吐く。
「そうだよ七瀬ちゃん! 一体私と何年の付き合いだと思っているのさ~。このこの~!」
亜理紗は急に長椅子から立ち上がり彼女へと近づいてニマニマとした表情で煽っていた。
「チッ調子に乗るなよ。この白衣ビッチが」
すると七瀬は恐ろしく低い声でそう言い放った。
まるでその声だけで人を気絶させれそうな、それ程までに威圧感を孕んでいる声だった。
無論だが望六はその声を耳にした瞬間に全身が強張る感覚に陥っていた。
……しかしそんな中、亜理紗は長年七瀬と共に過ごしているからかそんな怖い声を聞いても微動だにしていなかった。それどころか亜理紗は……
「ひ、ひどいっ!! 私は別にビッチじゃないよ! むしろ七瀬ちゃんと一樹くん一筋だよ!」
涙目になりながら七瀬に向かって訴え掛けていたのだ。
だけどあの涙は恐らく演技だろう。現に今は七瀬の体に艶かしく纏わり付いているのだ。
「ええい、うるさい! 直ぐに離れろ暑苦しい! それとお前如きに一樹はやらん!」
七瀬にもそれが演技だと分かっているらしく、纏わり付いている亜理紗を強引に引き剥がすとそのまま長椅子へと無理やり座らせていた。
「んもう! 七瀬ちゃんの照れ屋さん!」
「はぁ……。もういいだろこんな茶番は。それより本題の件だ」
七瀬は亜理紗のホワホワした性格に再び頭を抱えていると、その表情は一気に疲労が溜まったように見えた。しかし彼女はこれ以上、亜理紗にペースを乱されないように直ぐに話を本題へと繋げているようだった。
「おっとそうだね。私とした事がつい弾けてしまったよ。では望六くん、私達に君の能力について話してくれないかな?」
「……一体どんな理由があってこのタイミングで私達に話そうと思ったのかは分からないが、全て隠さず話し欲しい。私達を信じてくれ望六」
二人が視線を合わせて言ってくると彼が二人から感じ取れる雰囲気は至って真面目な物だと分かった。望六は七瀬と亜理紗を信じて能力の事を話す決意を固めると長椅子へと近づいて対面側に座る。
「はい、俺は二人を信じます。実は俺の能力は――」
彼は七瀬にお願いされた通りに全て隠さず余すことなく事実だけを話し始めた。
話している最中に二人は時折驚いた表情を見せたりして話を真剣に聞いてくれると、亜理紗は白衣のポケットからメモ帳を取り出して何かを書き始めていた。
……それから望六が能力を使えなくなった、と言う所で話は終を迎えた。
「うーむ、なるほどねぇ。実に興味深い能力だね。だけど私の知りうる限りではそんな常識外れの能力を持った魔術士は聞いた事も見た事もないね」
「私も亜理紗と同じだ。そんな魔法聞いた事もない。しかしあの時確かに望六は無属性でありながら雷属性の魔法を使ったという事実がある。即ちそれが何よりも決定的な証拠となる……か」
二人が難しい顔をしながら話し合っていると、望六は不思議と妙に心が軽くなった気がしていた。
ずっと心の中にあったモヤモヤが消えたような。そんな感覚に近いものを感じているのだ。
これは今まで隠していた事を話した事で得られた開放感なのだろうか。
「ど、どうですかね……? 七瀬さんと亜理紗さんに話したら能力を消失した事について何か詳しい事が聞けるかと思ったんですけど……」
二人が話し合っている間に恐る恐る声を掛けると、彼女らは会話を止めて顔を彼の方へと向けてきた。
「……すまない。望六がその能力が突如として使えなくなった理由は私達には分からない。だがこれだけは言える。一度本人に宿った力はそう簡単には消えないという事を」
七瀬は両腕を組みながら自信気に言うと望六はその言葉に妙な納得感が生まれてしまった。
流石は【DWW】初代優勝者。
これが実力だけで魔術社会を生き抜いてきた人の言葉の重みなのだろうと。
「ん~。余りこういう抽象的な言い方は好きじゃないんだけど、考えられる可能性としては能力を発動する為の”魔力が単純に不足”しているからか、他に何かしらの”発動条件”があると言った感じだろうね。例えばその”虹色の瞳”になっていないといけないとかね。……まあ、一番手っ取り早いのは脳内の少女? に聞いてみる事だけどねぇ」
一方で亜理紗はボールペンで頭を掻きながら言ってくる。
こちらも流石は天才魔装具エンジニアの人だと言った所だろう。
冷静に技術者として考えられる可能性をいくつか提示してくれたのだ。
「なるほど。俺自身の魔力不足と何かしらの発動条件があると言うのは盲点でした……」
「だけどそれはあくまでも可能性の一つだから、あまり本気にしないでね」
亜理紗からは先程の巫山戯ていた雰囲気は一切なくなっていて表情は既に技術者としての風格へと変貌している様子であった。
やはり漫画やアニメではお馴染みだが、普段ホワホワしている人が真面目になると頼りになる現象は実在するようだ。
「そ、そうですか……。分かりました」
望六が言葉を返すと時を見計らったかの様して小休憩の終りを告げるチャイムが鳴り響いた。
つまり次の授業が始まる事を意味しているのだ。
「うわっ!? ……ま、マジかよ! ちょ、七瀬さん!!」
彼は慌てて長椅子から立ち上があると授業の遅刻を懸念して七瀬へと声を掛けた。
「慌てるな望六。ちゃんと遅れた理由は後で私から話しておく。だがなるべく急いで教室へと戻るように」
その言葉の意味は要するに、このままでは正当な理由なく授業に遅刻してしまうという事になるだろう。
七瀬が前もって言ってくれるのら彼は安心して教室へと戻れたのだが、どうやら今の感じでは彼女は後で報告する気らしいのだ。
「ぐぬぬっ! 畜生ぉぉぉ! 間に合ってくれぇええ!」
望六は叫びながら談話室から飛び出すと、そのままの勢いで廊下を走り始める。
この際校則がなんだ、今のは自分は誰にも止められない弾丸と化している事だろうと意味不明な言葉が彼の脳内で湧いた。
「また能力について進展があったら教えてね~。望六く~ん」
すると背後からは亜理紗のそんな軽い声が聞こえた気がした。
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