15話「脳内の少女は動かない」
一樹達がナタリアの放った火属性の魔法に興味を惹かれたのか望六達の方に向かって走ってくると、
「今のはナタリアが試しに見せてくれた魔法だぞー! ちなみに今この辺は少し暑いから気をつけろよー!」
望六はそう言って注意を促した。
事実この辺りはナタリアの魔法の影響なのか少々温度が高いのだ。
しかもナタリアの額からは汗らしき雫が頬を伝って数滴落ちているようだ。
「おぉ!? 本当だ! ここだけやけに温度が高いな!」
「な、ナタリアよ! 今の魔法は一体何なのだ! 良ければ私に教えてはくれないか!?」
二人が彼らの直ぐ近くに到着すると、一樹は温度の高さに驚いていて月奈は魔法の方に興味津々のようだ。しかし二人は走って自分達の方に来たけど、魔法の特訓は大丈夫なのだろうかと望六は純粋に心配をした。
「えっ!? お、教えると言ってもこれは火属性の基礎魔法だけど……?」
ナタリアは月奈の言葉に困った反応を見せている。
確かに他属性の魔法を教えてあげても、自分の適正属性でなかったらそれは無意味な事なのだ。
そもそも月奈は特質属性という希少な属性ゆえにどの系統にも当てはまらず、自分で魔法を一から構築するしか手段はないのだ。
それは言ってしまえば魔法を作れなければ、他の生徒から遅れを取る事に繋がってしまうのだ。
これは七瀬が魔法基礎の授業で言っていたが、魔法というのは使えば使うほど強くなり成長を遂げる物らしい。だからこそいつまでもテンプレ魔法だけでは、いずれ縮まらない実力差が生まれてしまうとの事だ。
「あ、いや……すまない、言葉足らずのようだったな。私の言う教えて欲しいとは魔法の事ではなく、ナタリアの使う火属性の事だ。私は魔法を一から作らないといけないのだが、どうにもイメージが定まらなくてな。そこでナタリアの火属性を見て参考になるかもと思ったのだ」
月奈は困惑しているナタリアに冷静に話し始めると、どうやら自身の特質属性をどういう風にするべきか参考の為に教えて欲しいと言う事だったらしい。
「ああ、なるほどね。だったら全然良いよ! 僕の魔法を見て少しでも参考にしていってよ! 友達の為なら僕は幾らでも魔法を発動させるからねっ」
するとナタリアは納得したような表情で頷いてから自分の大きな胸を叩いて任せといてと言った感じの雰囲気を月奈に向けていた。
「おお! それはありがたい! では早速ですまないが頼むっ!」
「もちろんさ! あ、でも火傷には注意してね! 僕が魔法を沢山使うと、どんどん周りに熱が篭っていくからね」
二人はそう言って仲良さそうに話していると、ナタリアが望六に向かって「ちょっと魔法を月奈に見せてくるねっ!」と言って先程一樹達が居た場所へと二人で”手を繋ぎながら”向かって行った。
「……ん、えっ? ちょ、ちょっとぉ!? 俺達の特訓はどうなるんだよ!」
彼は遅れて二人に声を掛けるが、時すでに遅し状態で二人の姿は遠くに見えた。
とどのつまり、いつの間にか望六は月奈にペアを寝取られいたという訳だ。
「ははっ、どんまいだな望六!」
横から一樹が笑いながら話し掛けてくる。
「どんまいじゃねえんだよ! これじゃあ、俺もお前も特訓が出来ないんだぞ!」
一体彼の何処にそんな余裕があると言うのだろうか。このままでは二人は特訓不足の影響で練習試合に敗北して、七瀬達から鬼のようなペナルティを課せられるのは間違いないと言うのにだ。
「問題ないだろ。だって月奈とナタリアが一緒に特訓しているんだったら、望六も俺とすれば良いだけだろ?」
一樹は軽い口調で言う。
「いやまぁ、確かにそれもありだが……。お前はそれで良いのかよ?」
だがその考えは望六の頭の隅にもちろんあった。
だがそれでは折角ペアを作ったという意味が無い気がして言わなかったのだ。
「ああ、全くもって問題ない! 俺は月奈の邪魔をしたくないからな。それに俺は望六が何時ぞやの対決で見せた”魔法を切る”という荒技をもう一回この目で見てみたいからな。もしかしたら俺でも出来るようになるかも知れないし!」
一樹は彼が決闘で使ったあの技をまた見たいと言う。
「そうですか……。だがまあ、その練習はしたいと思っていたから丁度いいな」
望六もあの決闘以来魔法を切ると言う荒技は行っていない。
というよりそれを使う程に危機的場面に遭遇してないと言うべきだろう。
……それにこう言っては何だが、あまり安売りしたくない部分も望六としてはあるのだ。
どこで他国の政府の息の掛かった生徒が見ているかも分からない状況だからだ。
だけど練習対抗試合があるのなら話は別だろう。
きっとその試合ではこの力を借りねばならない時が来るだろうと、望六は少なからず予測しているのだ。……やむを得ないが少しは慣れておく為に練習が必要だと言うことも。
「よし、じゃあ俺が合図したら魔法を思いっきり放ってくれ」
「おう任せとけ! とびっきり痺れる魔法をお見舞いしてやるぜッ!」
望六と一樹はそのまま一定の距離を取るとデバイスを鞘から引き抜いて共に構えた。
あとは合図を出せば一樹が魔法を放ってくれるのだが、弾丸系の魔法しか今の所切った事がない事からそれ以外の魔法を使われると望六としては正直厄介な所でもあった。
……いや、厄介だからこそ特訓になるのかも知れないが。
「いかんいかん、危うくこの授業の本質を忘れるとこだったな。これでは七瀬さんと木本先生に怒られてしまうぞ」
望六は顔を左右に振って気持ちを切り替えると続けざまに一樹に合図を送る。
「おーい一樹! こっちは準備完了だ! いつでも魔法を放ってくれて構わんぞー!」
「了解したー! じゃあ、遠慮なく発動させて貰うからなー!」
一樹は彼の合図を聞くとデバイスを天に掲げて術式を展開し始めた。
だが例えどんな魔法が飛んできたとしても望六には、あの何でも見通せてしまうチート級の瞳があるから問題はないだろう。
「術式展開【Lightning strike】!」
一樹はそう叫ぶとデバイスを思いっきり振り下ろした。
――刹那、望六の頭上では何かバチバチと弾けるような音が聞こえ出す。
「なるほどな……。一樹にしては中々に考えているじゃないか」
まさか一樹が対象物を指定する魔法を使ってくるとは……これは望六の予想以上だった。
仮に弾丸系の攻撃だったなら予測弾道が視認出来ていたと思われるが、果たしてそれ以外の魔法だとどうやって見えるのか……彼は少しばかり好奇心にも似た感情を抱いている。
「……ッ。そろそろ空中に溜まった魔力微粒が雷に性質変化して落ちてきそうだな」
頭上から聞こえる弾けるような音を確認しようと顔を空へと向けると、そこで望六は本当に自分の瞳は機能しているのか途端に不安が襲ってきた。
というより前の決闘の時と違って彼の視界内は鮮明に動いているように見えないのだ。
「本当に大丈夫なのか? いつも通りの視界で変わっている気すらしないぞ」
そのまま見上げながら呟くと徐々に空が光だし、やがて轟音を纏わせながら雷が直下で落ちてくるのが確認出来た。
「くそ、やばいなッ! このままだと普通に攻撃を食らってしまう!」
望六は直ぐに避ける体制を整えると雷が直撃する前に横に大きく逸れた。
そして避けたと同時に彼の立っていた場所には眩い光と共に雷が落ち、グラウンドに黒煙を撒き散らしていた。
「はぁはぁ……危なかったな……。あのまま立っていたら俺は黒焦げだったと言う事か……」
彼は避けた拍子でそのまま地面に座り込んでしまう。
「お、おい! 大丈夫かよ望六!!」
一樹が事態を察したのか急いで駆けてきた。
「あ、ああ大丈夫だ。一応な」
「本当か? ……なら良いけど。どうして魔法を切らなかったんだ? そうすれば無力化出来ていた筈だろ?」
一樹は望六が魔法を切らずに避けた事を不思議に思っているようだ。
……だがその言葉にどう返したらいいのか彼には分からない。
正直に魔力弾道や魔力因子が見えなかった……と言うべきなのだろうか。
しかしそれを一樹に言った所で上手く伝わるとは到底思えない。
「それが俺にも分からないんだよ。決闘の時は視界がいつもと違って鮮明に見えて何もかも見通せたのに……。さっきのはその感覚がまるで無かったんだ」
それでも望六は混乱している頭で何とか言葉を繋ぎ合わせて言うと、やはり一樹には難しかったのか首を傾げて眉間にしわが寄っていた。
だがこんな説明ぐらいしか今の彼には出来ないのだ。
こればかりは経験してみないと伝えづらい部分があると望六が一番理解しているからだ。
「うーん。よく分かんないけど、つまりメリッサと戦っていた時と”何か感覚が”違うって事だよな?」
「ああ、多分な。だけど一体何が違うと言うのだろうか……。緊張感か? 意志の問題か? いいや、そんな感情的な物ではない気が……」
望六は一樹の言葉を聞いて何があの時と違うのかを考えると、メリッサと決闘の時に話した会話を思い出した。その会話の内容がどうにも彼の中で印象強く残っていたらしい。
「あれは確か戦っている時に俺の”瞳”がどうのこうのと言っていたが……ま、まさか!?」
その瞬間、彼は決定的にあの時と違う部分がある事に気がついた。
そして直ぐにそれを確認しよとしたのだが、生憎望六は女子力が高くないので手鏡なんぞは常備していない。
「なあ一樹! 俺の瞳を真っ直ぐ見てくれ! 早くっ!」
そこで隣に居る一樹に確認して貰おうと頼み込む。
「な、なんだよ急に? 俺にそっちの趣味はないぞ」
けれど一樹は何を勘違いしたのか引いた表情を浮かべて後退りしていた。
「いいから! 俺の瞳に何か変わった所がないか確認してくれ!」
だが望六は確実に確認して貰う為に、一樹の両方を掴んで逃げれないようにして顔を近づける。
「わ、分かったから! そんな顔を押し付けてくるなよ! まったく……急にどうしたんだよ?」
彼が顔を近づけていくとそれに比例するかのように一樹は顔を横に逸らそうとしていが、本当に何を勘違いしているのだろうか。いいから早く確認して教えて欲しいと望六は焦っている。
「ど、どうだ……?」
「んー、別に何ともなってないぞ? 目に埃でも入ったのか?」
ようやく一樹が諦めて望六の瞳に視線を合わせてくれると、やはり彼の思っていた通り瞳に変化が無かったようだ。だけど決闘の時にメリッサから借りた手鏡にはしっかりと彼の瞳は虹色のような輝きと色味に変化して写っていたのだ。
「そうか……分かった。別にこれと言った深い意味はないから気にするな」
「だったら本当に何だったんだよ? 俺は時々、望六の考えている事が分からんぞ……」
一樹の困惑した声色を横で聞きながしていると、望六は再びあの時と違う部分を思い出した。
それはずばり脳内に話し掛けて来た”少女”のような声の存在だ。
あの時の少女は色々と重要な事を言っていたのかも知れないが、望六の記憶が曖昧なのだ。
恐らく決闘の時に力を使いすぎて、寝て体を休めている時に記憶が飛んだ可能性がある。
だがしかし、脳内の少女が声を掛けてきたと言う事は当然逆もまた然りの筈だ。
「ふっ……ならば俺からコンタクトを取って、あの状態について色々と聞いてやるぜ! はっはは!」
「うわっ怖。とうとう望六の頭が逝ってしまったのか? やっぱり俺の魔法が当たっていたんじゃ……」
一樹は横で青ざめた表情をして見てきているが、そんな事は今の望六にとって些細な問題ですらならない。それから一呼吸おいて彼は心を落ち着かせると脳内の少女に語り掛け始めた。
『頼む……! 何時ぞやの少女よ! 俺にあの力をもう一度貸してくれ!』
そう力強く望六は頼み込む。
イメージするなら片膝を付いて両手を組み、まるで神に祈るかのようにだ。
……しかし幾ら待っても返ってくるのは静寂のみであった。
『くっ……。な、何故だ! 何故なんの反応もないんだ……』
だがそれでも彼は諦めない。一方的な頼み事は断られる確率が高いことぐらい誰にでも分かる。
ならば、ここは取引を持ちかける他ないだろう。
『勿論ただで貸してくれとは言わない! そうだな……お菓子をあげよう! それも好きなお菓子をいっぱいにだ! だから頼む!』
お菓子を大量にあげるという取引を持ち掛ける事にした。
相手は少女の声……つまりはお菓子が好きな年頃だと望六は考えたのだ。
具体的どうやってあげるかと言われるとそこまでは考えていないが、取り敢えず何かしらの返事が来るのを待っているのだ。
――が、しかし。
『こ、これでも駄目なのか……』
幾ら待てど彼の頭に少女の声が聞こえる事はなかった。まるで最初から居なかったかのように。
「はぁ……。こじゃぁイマジナリーフレンドと話してる気分だ」
「えっ、望六には架空のお友達が居るのか? だ、大丈夫か……?」
そう望六が独り言を漏らすと一樹は聞き逃さなかったらしく心配そうな顔をしている。
だけど今は一々そこにツッコミを入れているほど彼に余裕はなかった。
もう望六に残された手は何一つなく、完全にあの時の能力は一過性の物だったと言わざる得ない状態だ。 これでは練習試合だけでなく一年魔導対決という本番ですら、望六は虫けらのように簡単に倒されてしまうだろう。
「まずいな……、これは非常にまずい。早急に何とかしないと……」
望六はチート級の能力を失って再び無属性だけと言う縛りが蘇ってくると、心に焦りが募りに募っていくばかりであった。
最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
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