14話「イタリア少女の魔法」
「ん? ああ、望六か。随分と遅かったじゃないか。……これはあれだ、罪を償った証とでも思ってくれ」
「そ、そうなのか……?」
一樹はそう言って右頬を力のない目をしながら摩ると、隣では月奈がいつもの雰囲気を取り戻している様子だった。
あの朝のHR時に望六が感じていた禍々しい雰囲気は見たところ今は収まっているようだ。
「なるほどな。一樹は文字通り体で支払ったというべきか」
望六はそんな事を呟くと一樹の後ろに並び直した。そして隣にはエロティックな礼装を身に纏い笑顔で見つめてくるナタリアが彼としては妙に気になった。
一体何がそうまで彼女を笑顔にさせているのだろうか、望六は気になって聞こうと思ったのだがタイミング悪くそこで木本先生と七瀬が到着してしまった。
「全員揃っているな? よろしい。では今から今日の授業内容を言う。一度しか言わないからよく聞け」
「「「はいっ!」」」
まず七瀬が列の先頭に立つと、いつもの覇気の篭った声で全員の緩んでいた気持ちを引き締め直す。更に続けざまに今日の授業内容の連絡が始まったようだ。
「今日はクラス対抗練習試合の為の特訓だ。故に自分がまだ克服できていない所や、苦手な部分を補うようにしろ。そしていつも通りにペアを作ってやるように。その方が互いに利益になるからな」
七瀬はぼっちには厳しいペアを作れという発言をすると、既に周りでは何人かが互いに視線や顔を見合わせてペアの予約をしているようだ。
「まあ俺はぼっちじゃないから大丈夫だけどな。何故なら俺には頼れる相棒、一樹「訂正。ペアと言ったが今回は二人で一組みとする。前回までの複数人混合のペアは認めない」なんだと……!?」
望六は余裕な顔をしていたと思うが、それは突然の七瀬の言葉によって深い底へと落ちていくように絶望色に染まった。
「おいおい。マジなのか七瀬さん……」
魔法実技の授業の時はいつも一樹と月奈に混ざっていた彼は一体どうすればいいのだろうか。
二人で一組みなら一樹は仲直りしたばかりの月奈を選ぶに決まっていると望六には分かるのだ。
「ねえねえ望六。確認なんだけど二人でペアを作れば良いんだよね?」
望六が今季最大の修羅場を迎えていると隣から元気よくの自分の名を叫ぶナタリアの声が聞こえてた。
「ん? ああ、そうだけど。どうした急に?」
彼女に顔を向けると表情は先程の笑顔のままだった。
そしてナタリアはゆっくりと顔を望六に近づけてくると、耳元で小さくこんな言葉を囁いてきた。
「だったら僕と一緒にペア作ろうよ。望六の事とか色々と教えて欲しいしさ。それに授業で二人きりになれる何て貴重な事だよ。いつもは周りに誰からしら居るからね……」
それは聞き方によっては望六の魔法データが知りたいと言っているようなものだが、ナタリアは以前彼に向かってはっきりとイタリア政府に情報は提供しないと言い切っている。
だからこそ望六はその部分は排除してこう答えた。
「何か後半部分の声色が不穏だった気がするが……。それは実にありがたいぜナタリア! 是非、俺と一緒のペアになってくれ!」
彼は身近な人を疑いたくはない主義だ。本人がそう言ったのら信じるのみだと。
……しかしいきなり耳元で小声で囁かれると、何というか擽ったいので辞めて欲しい所でもあったりする。
「やったぁー!! 望六と一緒のペアだぁ! これで普段出来なかった事を色々と……へへっ」
ナタリアは彼の返事を聞いて喜ぶとそのまま腕に抱きついてきたが、そんなに近づかれると女性特有の良い匂いがしてきて……望六は理性が揺らぎそうになってしまう。
あとまた不穏な言葉というか声色が聞こえた気がしたが、気のせいだろうと望六は無視した。
「静かにしろ。では今から各自のペアで時間ギリギリまで特訓するように。私からは以上だ」
七瀬はそう言って話を終わらせると後ろに下がり、それと同時に次は木本先生が前に出た。
「いいか? どうしてもと言う場合は私達教員を呼べ。アドバイスぐらいはしてやれるからな。一番やってはいけない事はそれを有耶無耶にして終わらせる事だ。分かったな? 以上、全員等間隔に広がり開始せよ」
「「「はいっ!」」」
珍しく木本先生が全員に向かって真面目な事を言うと、やはり例年にないほど自分達は魔法の扱いが駄目だということを望六は否応にも悟ってしまう。
七瀬と木本先生が本気になるほど彼らは未熟なのだ。
――それからペア同士で等間隔に広がると青空の下で望六達は練習試合に向けての特訓を開始した。すると望六から離れて前の方では一樹と月奈がデバイスを片手に何かを話しているようだ。
更に視線をラウンドの奥の方へと向けると、そこでは別のクラスが実技の授業を行っているようだった。やはり何処のクラスでも状況は同じらしい。
「にしても日本の学園って随分とマニアックな汎用礼装を使っているんだね。こんなのイタリアだったら即問題事になっちゃうよ」
ナタリアは辺りを見渡してから言うと、またもや礼装について何か関心があるようだ。
これも親がデバイス関係で働いている影響なのだろうか。
「まあ確かにな。だけどこの汎用礼装は古き日本の体操着というのを模して作られているんだ。言わばレア物の服なんだぞ」
取り敢えず望六は思った事を言ってしまったが多分間違えてはいない筈だ。
何なら彼だってこの学園に来て初めて汎用礼装を見たときはナタリアと同じ事を思ったぐらいだ。しかし段々と見慣れてきてしまって……今や普通の光景となってしまい望六は悲しいのだ。
「そうなの!? だったら、これは別件でデータを本国に送らないといけないかも……」
彼はナタリアが着ている独特なデザインの礼装が気になり尋ねる。
「おいおい。……というかナタリアの礼装はやっぱり親が作ってくれたのか?」
彼女はその言葉を待っていたかのように誇らしげな顔で口を開いた。
「そうだよ! あ、でもこれは僕の趣味じゃないからね! 実はこれを作る時に僕も一応デザイン案を出したんだけど全部無視されちゃってね……。気づいた時には既にこの露出度多めの礼装が出来ていたのさ。もちろん最初は抵抗感が凄かったんだけど、それも段々と慣れてきて今や快感にっ……!」
「快感に繋がってしまったのか……!?」
ナタリアが快感とか言う言葉を使うと妙に納得してまう部分があるのは何故だろうかと望六は不思議な感覚を覚えた。しかし彼女は彼と会ってない内にどんどんと新しい扉を開いて――
「まあ冗談なんだけどね、てへっ。本当は何も思わなくなっただけだよ。それにこの礼装は競技者が着るのをイメージして作ったんだ」
ナタリアは舌を少し出して片目を閉じ小悪魔っぽく誤魔化す。
「冗談かよ! 少しだけ信じてしまった俺が恥ずかしいわ! ……まあ競技者は派手差が売りみたいな所があるからそれなら納得だな」
すると望六にはそれが深く心に刺さり普通に可愛い思えてしまった。
本当に美少女がその仕草を行うと効果は絶大だと彼の記憶メモリーに保存された瞬間である。
とまあこんな他愛もない雑談を交えながら望六とナタリアは特訓を始めた。
まず最初に彼女がどんな魔法が使えるのかを確認する為に実演をして貰う事になった。
「それじゃあ僕の事を知って貰う為に得意な魔法の一つを見せてあげるよ! あと、詠唱中は僕に近づくと火傷するかも知れないから気をつけてね~」
「えっ、火傷!?」
その言葉を聞いて咄嗟に望六は声を掛けるが、ナタリアは笑みを見せてギザ歯をチラつかせると彼から少し距離を空けてから詠唱を始めた。
「僕に力を貸してくれ【Distruttore】。そして集まれ火の魔力達!」
ナタリアは背負っていた魔術デバイスを片手で持ち上げると、そのデバイスは”スレッジハンマー”型をしていて見た目は随分と重そうだ。
だがしかしナタリアはそれを軽々と持つと確かに周りには微かに熱風のようなものを望六は感じ取っていた。
「ナタリアは火属性の使い手だったのか……?」
そう彼が呟いた瞬間、彼女のスレッジハンマーの先端に火が灯りだした。
「これが僕の魔法さ。術式展開【Fire Wave】!」
そしてナタリアがスレッジハンマーを思いっきりぶん回すと、先端に灯っていた火が前方に波状となって放出されたが途中で消滅してしまった。
恐らく安全を考慮して魔力を少しだけ込めたのだろう。
「おおぉ! す、凄いじゃないかナタリア!」
望六はその魔法につい関心を覚えて声を掛ける。
「えへへっ。どんなもんだい!」
ナタリアはデバイスを地面に突き刺さしてピースサインを向けてきた。
それはまるで無邪気な子供ような笑顔と共に。
「お、おーい! 望六ー! ナタリアー! 今の魔法って一体何だぁ!?」
すると突然その声は望六達の前の方から聞こえてきた。
二人は反射的に顔を前方の方へと向けると、そこには一樹と月奈が興味津々と言った顔をしてこっちに近づいて来るのが確認できた。
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