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11話「朝の訪問者少女達」

 望六達の寮部屋が混沌な空間と化してから一時間ほど経過すると、やっと平穏が戻ってきた。


「まったく……明日も普通に朝が早いと言うのに面倒事は勘弁してくれよ」


 望六は愚痴を吐きつつ月奈と一樹が散らかした部屋の後片付けをしている。

 それと肝心の二人だが、胸を見られて恥ずかしさの余り動けなくなった月奈は彼を親の仇のように睨みながら自室へと戻って行った。もちろんバスタオルを巻いただけの格好でだ。


 それから一樹は膨ら脛を月奈の傘攻撃でダメージを負ったらしく、今は保険室へと向かっている最中だろう。右足を引きずりながら去っていく後ろ姿は何とも言えない感じだった。


「よし、こんなもんだろ。あとは明日やればいいや。今日は寝る前に他にもやる事があるからな」


 取り敢えず目に付く部分を片付け終えると、望六は椅子に腰を落ち着かせて一息つく。

 すると頭に浮かんできたのはナタリアの事であった。

 

 そう、ナタリアは彼と一線を越えようと物凄い力で自分の部屋へ引きずり込もうとしていたのだが、望六がそれ以上やると木本先生に言って寮部屋変えてもらうぞと言って事なきを得たのだ。


 だけどあの深淵のように光が一切ない瞳は本当に何処を見ているのか分からなくて不安になり、若干トラウマ気味なった望六である。


「うーむ、これ以上は考えるの辞めておこう。夢に出てきそうだ。んな事よりも今は明日の魔法実技の為に、デバイスに属性付きのテンプレ魔法をいくつかダウンロードしとかないとな!」


 パソコンをカタカタと操作しながら生徒専用の学園サイトにログインすると、彼は適当に属性の付いたテンプレート魔法をダウンロードし始めた。


 だがこれにはちゃんと理由があるのだ。何故なら望六は全ての属性が使えるというチート級の能力を持っている事を、決闘の時に脳内の少女の声が教えてくれたからだ。

 実際、それのおかげであの決闘は勝てた上に雷属性も使えた訳だ。


「どうせ全属性が使えるのならここは”オールエレメント魔術士”を目指してみるのも良いかも知れないな。……だが気をつけないと俺を狙っている奴らにただ餌をばら撒くだけになってしまうから、そのへんが難しい所だな」


 しかし逆に言ってしまえばその力を自在に使えるようになれたら彼は無敵の存在となり、今みたいに学園に守ってもらうだけではなく、自分の身は自分で守れるようになると言う事だ。


「まぁだけど今はまだ手探状態だな。取り敢えず目標の()()()魔法が出来るようしないと話にならないし、クラス対抗練習試合も控えているしなぁ」


 そう呟きながら魔法のダウンロード時間を見ていると、その完了予測時間が明日の朝になっているのを望六は知ってしまった。

 やはりテンプレと言えど膨大な情報を移すにはそれなりの時間が掛かるようだ。


「うーん、よし! シャワー浴びて寝るか。今は焦っても何も出来ないしな」


 そう思い立つと彼は寝巻きとタオルを携えてシャワー室へと向かった。

 もちろん月奈が使った後だからと言ってやましい気持ちは何一つない。

 何故ならそれ以上に望六は大切なものを見てしまったからだ。






「ん~、やはりシャワーを浴びると気持ちがリフレッシュされるな。さて、ダウンロードの進み具合はどうなっているかな。……うーんやっぱり、そんなには変わらないか」


 望六がシャワーから上がってビーストエナジーを飲みながらパソコンの画面へと視線を向けると、そこには相変わらずのダウンロード時間が表示されているだけだった。


 彼はそのまま机に缶を置いて椅子に座ると特にやることは残っていないのだが、折角暇なので一樹が保険室から戻って来るまで待つことにした。

 

 ――それから暫くすると足を庇いながら一樹が部屋へと戻ってきた。

 だが彼の表情を見るにそんなに大怪我と言った感じではなさそうだ。


「おう、どうだったその足の怪我は?」

「んーただの打撲だって。明日には痛みが引くように谷中先生に回復魔法を掛けて貰ったぜ」


 一樹はベッドに腰を下ろしてから望六の何気ない質問を返してきた。

 だけどあの谷中先生が回復魔法を使ってくれたのなら安心だろう。彼も一度してもらったが、あれは効果覿面で翌日には支障がないほどに体が回復していたのを身を持って知っている。


「うーむ、俺も回復魔法使えるのかな……?」


 小声でそんな事を呟くと一樹は首を傾げて望六の方を見てきた。


「どうした? 何か言ったか?」

「あ、いや気にするな。明日の昼食を何にしようか悩んでいただけだからな」

「ははっ、そうか。だったら俺は和食をオススメするけどな。望六って洋食ばっかり食べているイメージだからさ」


 望六は咄嗟に昼食の事を言って誤魔化すと、一樹は納得したように笑いながら明日の昼食に和食をオススメしてきた。しかしたまには和食もありかと彼は思う。


 ……そして望六は心中で一樹に謝った。

 この全属性の魔法が使える能力の事を話せない事にだ。


 それを下手に話してしまったら、きっと一樹まで更なる面倒事に巻き込んでしまうかも知れないと彼は予想したのだ。

 唯でさえこんな状況でも手一杯だ。だからなるべく不安要素は少ない方がいいと。


「なるほど和食か。確かにこの学園に来てから食べていないな。柳葉家に居た頃は和食が多かったから、その反動で洋食ばかり食べてしまっているのかもな」


 望六はそう言って適当に誤魔化した話を合わせると、その後は他愛のない雑談を数分程して一樹はシャワーを浴びに行った。

 それから彼がシャワーを終えて寝る準備を整えると今日は早めに就寝することになった。


「明日は朝から魔法実技の授業が入っているから早めに寝て体を慣らしとかないとな」


 ベッドに潜り込んで目を閉じてから望六が声を掛ける。


「俺は取り敢えず魔法を”無詠唱発動”出来るように明日は頑張るぜ!」


 どうやら一樹の方も目標は同じようだ。

 やはりそれぐらい出来ないと試合に勝つことが難しいというのが現状だろう。


 シルヴィアだってたまに「無詠唱は出来て当然ですの」とか言っているぐらいだ。

 それに恐らく魔術留学で来ている、ナタリアや翠嵐も無詠唱は出来る筈だ。

 でなければ魔術留学という狭き門は突破できないと望六は思っている。


「んじゃ望六、おやすみ~」

「ああ、良い夢見ろよー」


 二人のその言葉を最後に部屋は静寂へと包まれた。

 今日は色んなイベントが一気に起こって望六は精神的に疲れていた事もあり、熟睡に落ちるまでそう時間は掛からなかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――それから数時間経過すると部屋にアラーム音が響き渡り朝を迎えた事を告げてきた。

 望六と一樹はその音で目を覚まして身支度を手早く済ませていると、珍しくこの朝の早い時間帯にインターホンが鳴った。つまり訪問者の登場という事だ。


「一体何だ? すまないが一樹、代わりに出てくれるか? 今俺は歯磨き中でちょっと難しい」


 望六は洗面所から離れる事が出来ないので、代わりに一樹に出て貰う事にした。

 だが今までこんな朝早くに、しかもこの部屋に訪問者が現れる事なんて一度もなかったのだが……。


 そんな事を彼は思いつつ歯を磨いていると一樹が扉の施錠を外して訪問者と対面したのか、何やら親しげな会話が漏れ聞こえてきた。

 するとその会話の声から訪問者達が何者かは直ぐに分かった。


「何でこの寮部屋を知っているんだ……。一人ならまだ分かる、だって隣の部屋に住んでいるしな。だがもう一人の方は……」


 歯磨きを終えて顔を洗って呟くと部屋に数人の足音が入って来るのを確認した。

 それから制服に着替えようと洗面所から出ると、


「あっ! 望六おはよう! ……って、まだ制服に着替えてないの? 遅刻しちゃうよ?」

「お、おう。おはようナタリア。今から着替えるとこだから大丈夫だ問題ない」


 その訪問者の一人であるナタリアと遭遇して出会い頭に望六は寝巻きの格好をじーっと見られた。別に彼の寝巻きなんぞ珍しい物を着ている訳ではないのに、何をそんなに見てくる必要があるのだろうか。


「へぇー。やっぱり女子寮に住んでるって本当だったんだな! にしても部屋の中は……少し散らかってるんだな。流石は男子の部屋って感じだ」


 そして望六は奥から聞こてくる声に意識を向けると、最後の訪問者は部屋を見渡しながら朝からテンションが高そうな翠嵐である。


「いやそれは昨日色々とあって……。いや、やっぱ何でもないぜ……」


 翠嵐は昨日望六が片付けるのを面倒いとして放置した場所を見て言っていたが、一樹がその散らかった原因を話そうとすると一瞬の間が空いて言葉を取り消していた。

 

 恐らくその原因を話すときっと更なる面倒事に発展すると一樹は瞬時に判断したのだろう。

 これは実に良い成長と言える。

 中学時代の一樹なら馬鹿正直に何でも話していただろうと望六は確信を持って分かるのだ。

 

「んじゃ、そろそろ着替えて教室の方に向かうとするか。今日は実技多めの授業になっているし、遅刻すると七瀬さんに小言を言われてしまうからな」


 制服に着替えようと望六は今着ている服に手を掛ける。


「ああ、そうだな。じゃあ二人は先に外で待っていてくれ。準備して直ぐに出るから」

「「はーい」」


 一樹に言われて二人が玄関へと向かっていくと、望六は急いで制服に着替え始めて隣では彼がバッグの中に筆記具や教科書を入れていた。


 だが一樹のその光景を望六が目にすると、何でその準備を昨日の内にやっておかないんだと思いはしたが敢えて言わない事にした。何せ昨日は……本当に色々とあったからだ。


「よっしゃ準備完了だぜ!」


 一樹は準備が整うとバッグを肩に掛けて言ってきて、それと同時に望六は自分のパソコンに視線を向けてデバイスに魔法がダウンロードされたか確認すると、無事に全部のダウンロードが終わっていると表示されてデバイスからケーブルを取り外した。


「俺の方も準備できたぞ。外でアイツらが待っているから急がないとな」


 デバイスを専用のケースに収めて背負うと二人は忘れ物がないか部屋を見渡してから玄関へと向かい、靴を履いてナタリア達と共に教室へと向かうのだった。

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