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10話「ラッキースケベと幼馴染」

「い、いま開けるからちょっと待ってくれ!」


 望六は急いで扉を開けて月奈の様子を確認すると――

 そこには風呂桶とタオル数枚を持った月奈が額に汗を流しながら立って居た。


「すまない望六、こんな時間に突然来てしまって……。私の荷物を見れば大体の察しが付くと思うが事は急を要するのだ!」

「……いや、荷物を見ても風呂桶とタオルぐらいしか分からんのだが」


 月奈が焦った様子で言葉を口にしたが彼はその格好を見ても風呂前だとしか予想できなかった。

 時間的には女子寮の大浴場が使える筈なのだが、そもそも月奈は何故そんなにも焦っているのだろうか。


「なぜ分からんのだ! この荷物を見ればシャワーを借りに来たに決まっているだろう! そんな事にも気づけないから、お前は女子に好かれんのだぞ」

「なん……だと……俺が女子に好かれない理由は察しが悪いからだったのか!?」


 彼女から放たれた衝撃的な言葉に望六は頭を抱えながら会心の一撃を食らっていると、月奈はそんな事はどうでもいいと言った表情で彼を睨んできた。


「そ・れ・よ・り・も! シャワーを借りても良いかの返事を聞かせてくれ! これでも私はシルヴィア達とコンビニに寄って帰った後ランニングをして体中が汗まみれなのだ……」


 月奈は自分の服を右手で掴むと襟元の匂いを嗅いで目を細めて嫌そうな顔をしていた。

 だが彼の耳には”体中が汗まみれ”という言葉しか入ってこなくて、更に視線を月奈の胸元へと向けると望六は重大な事に気づいてしまったのだ。


「あ、汗のせいで白地の服が透けて……ぶ、ぶぶ、ブラが見えているだと!?」


 咄嗟に口元を手で覆って声量が漏れないよにすると、それを言わずには要られなかった。

 そして望六はスケベ神に感謝を捧げる。まさか今日こんな日にラッキースケベに会えるとは……しかも目の前の美少女のブラの色は桜色で、こんなにも最高な事があって良いのかと。


「お、おい望六! 何を一人でブツブツと言っているのだ! はやく返事を聞かせてくれ! ……でないと、こんな所を他に見られたら変な誤解を受けてしまうだろ」

「あ、ああ……そうだな。それは別に構わないのだが……なんで大浴場の方を使わないんだ?」


 彼は透けブラが拝めたお礼としてシャワーを使わせてあげる事にすると部屋に月奈を招き入れた。だがいざ冷静に考えてみると普通に女子寮の大浴場を使えば済む話ではないだろうかと望六は思ったのだ。


「それは無理に決まっている。……ああそうか、望六達は知らんのだな。今日は大浴場の点検日で各自室のシャワーを使うことになっているのだ。そして私はランニングを終えて汗を流そうとしたのだが……つい力加減を間違えてしまってな。シャワーを壊してしまったのだ。ははっ!」


 月奈はさり気なく寮の備品を壊した事を話してきたが、恐らくそれに反応すると月奈は『私が怪力女とでも言いたいのか? ああ? 肉袋にするぞ』とか言い始めそうな気がして望六は怖くなった。


「そ、そうだったのか……。って事は今日は男子寮の大浴場も点検か。まあ俺には関係ないからいいけど」


 そして何事もなかったかのように月奈がシャワーを破壊した話を無視することにした。

 花の十五歳の美少女がシャワーを破壊したとか何処を探しても月奈ぐらいだろう。


「じゃ、じゃあ……シャワー借りるぞ。ぜ、絶対に覗くんじゃないぞ! 覗いたら肉のサンドバッグにするからな! ……そう言えば一樹は居ないのか?」


 月奈はシャワー室に入ろうとすると突然足を止めて振向き様に聞いてきた。

 今頃かよと正直望六は思ったが別に隠す必要もないので話すことにした。


「一樹なら七瀬さんの所に行って一時間ぐらい帰ってきてないな」

「そ、そうなのか。それはちょっと……んっ……」


 月奈はモゴモゴした感じで口を開くと何を言っているのか彼には聞き取れなかったが、恐らく彼女は一樹が居なくて残念だと思っているのだろう。

 何気に月奈が望六達の部屋にくるのは初めての事だからだ。


「ふっ、愛しの幼馴染が居なくて残念そうだな月奈よ」

「なにっ!? べ、別に残念なのではない! ただ覗かれる心配が……も、もういいだろ! 私はシャワー使うんだ! しばらく部屋から出ていろ!」


 月奈は彼の言葉で何かを想像したのか頬を若干赤らめながら言うと、望六をグイグイと押して玄関まで追いやった。


「分かった分かったよ。ほんの冗談のつもりだったんだけどな」


 ここの寮部屋の主は自分なのだが、まあ仕方あるまいと望六は潔く部屋を出て行く事にした。

 女子はトイレの音とか生活音を気にするものだと彼は前に妹達から聞いた事があるのだ。


「ふんっ、暫く外で待っていろ。直ぐに浴びて出てくるから時間は取らせん」

「別にゆっくりで構わんぞ。ちょうど飲み物を買いに行こうと思ってたしな」

「なに、そうなのか? ……だったら、その言葉に甘えてゆっくり浴びさせて貰うとする」


 望六は特に喉が渇いている訳ではないが取り敢えずそういう事にしておいた。

 女子というのはシャワーが好きだと某猫型ロボットの出てくるアニメで習ったからだ。

 

「ああ、ゆっくりじっくりと使ってくれ~」


 彼はそう言って部屋を出て行くと自動販売機を目指して歩き始めた。

 しかし頭の中では月奈が使ったシャワー室を後で使えるという形容しがたい興奮が湧き起っているのだ。


 ゆっくりシャワーを使って良いとは別に気使いでも何でもなくその方がより月奈の――

 いや、辞めておこう。

 自分は親友の幼馴染になんて気持を抱いてしまっているんだと望六は冷静な思考を取り戻す。


「ああ、まったく。変な気分になっていたのは月奈の汗姿を見たせいか? それとも月奈の汗の匂いで……」


 望六は冷たい廊下を歩いていると段々と変な考えが冷めていくのが分かった。

 きっと意図しない禁欲生活を送っていたせいで、月奈の汗姿と透けブラを見た時に”性欲”という概念が暴走していたのかも知れない。

 

 ……だとしたらこれはまずい。早急に同人誌かエロ本を外で購入しなければならないだろう。

 もしくは中学の頃の悪友達に頼んで詰め合わせを郵送してもらうしかと望六は瞬時に思案する。


「だがその前に、自動販売機でいつものビーストエナジー買っとかないとな。ちょうど冷蔵庫の中のストックも切らしてたし」


 色々と考えている内に彼は自動販売機へと着くと、恐らく望六しか購入していないであろういつものエナジードリンクを五本買って両脇に抱えた。


「そう言えばエナジー系って何で値段が高いんだろうな? なにか成分に高価なモノでも入っているのか?」


 彼としては値段に関して色々と言いたい部分があるが、このエナジードリンクのおかげで日々の学園生活を支えられていると言っても過言ではないのだ。

 

 それほどまでに望六はこのスーパーハイパーウルトラレジェンドエナジードリンクに救われているのだ。しかし味の方は人を選ぶタイプだから微妙である。


「さてさて、このままゆっくりと戻れば月奈もちょうどシャワーを終えているだろう。多分」


 両脇に抱えたエナジードリンクを落とさないように慎重に歩いて自室へと向かう。

 ――そして何とか一本も落とさずに自室の直ぐ近くまで戻ってくると、望六の耳には女子の悲鳴と男子の驚愕の声が聞こえてきた。


「きゃぁぁああぁ!? な、なんでお前がここに居るのだ!? いいや、それよりも見たな! 私の裸を見たなッ!」

「み、見てないぞ! 少ししか見てない! ていうか何でシャワー室から出てくるんだよ!?」


 そう、その声は望六の寮部屋から……つまり月奈と一樹の声で間違いないのだ。

 そして部屋から漏れ聞こえてくる言葉から最悪な展開が予想出来る。


「はぁ……やっちまったな。きっと一樹は部屋に戻ってきたタイミングでシャワー上がりの月奈とばったり遭遇したのかも知れん。最初にメッセージアプリで伝えとくべきだったな。すまん一樹、成仏してくれ」


 月奈は多分だが裸を一樹に見られて御乱心のはずだ。

 しかしこのままでは異変を感じ取った女子達が野次馬の如く部屋の周りに集まりだして、男子の部屋に女子が……しかもシャワーまで借りているという事実を知られたら確実にまずい事になる。


「激怒している月奈ほど怖い者はないが……致し方なしだ。この騒ぎを早々に止めなければ、やっと回復した女子達の信頼がまたマイナスに傾いてしまうからな」


 望六は覚悟を決めると自分の部屋へと向かって走って行く。

 さながら心境は戦場で敵陣地に突入する軍人のようだ。


「ふーっ! ふーっ! ぶっ殺してやるっ! 私の裸を見た罪は自らの命で償って貰うからな! 逃げるな一樹ーーッ!」

「や、やめてくれ! というか一旦冷静になってくれーー!」


 望六が部屋の扉を開けて中へと足を踏み入れると中ではそんな悲鳴のような会話が繰り広げられていて、更には家具や物が散乱としていてこの部屋は混沌のような状態に近い空間であった。


「一体どうやったらここまで散らかるんだよ。七瀬さんの部屋じゃないんだから……」


 散らかった衣類や家具を横に目に彼は部屋の奥へと進んでいくとそこには――


「やっと追い詰めたぞ一樹!」

「ひいっ! お、落ち着いてくれ!」


 月奈がバスタオル一枚を体に巻いて一樹を壁に追い詰めている光景だった。

 これだけ見ればまだ余裕そうに見えるが実際は違う。


 彼女の手には望六がコンビニで買ったビニール傘が握られているのだ。

 そして傘の先端を一樹の顔に向けて今にも突き刺しそうなほどの怒りの雰囲気が感じ取れるのだ。


「お、おい二人とも何やってんだよ! 外まで声が丸聞こえだぞ!」


 望六は一樹達に向けて声を掛けると二人は同時に彼の方に顔を向けてやっとその存在に気づいたようだった。というより部屋に入って声を掛けるまで気づかないぐらいには二人とも冷静さを欠いているようだ。


「邪魔をするな望六! これは私と一樹の問題だっ!」


 月奈がじりじりと傘の先端を顔に近づけていく。


「違うだろ! あれは本当にたまたまで偶然なんだよ! 他意はないんだ!」


 すると一樹は涙目で必死に否定の言葉を繰り返していた。

 そこで望六は初めてここまで親友の一樹が追い詰められているのを見たような気がした。


「と、取り敢えず二人とも落ち着こうぜ? 月奈もちゃんと服に着替えないと、それはそれで弁解の余地はないぞ……」

「チッ仕方ないな。言い訳の時間は私が服を着てからにしてやる」


 月奈は彼の言葉を聞くと少し落ち着きを取り戻したのか、舌打ちをしながらも一樹から傘を退けてそのまま振り返るが――


「……ん? どうした望六、なぜ私を見て顔を赤くさせている?」

「あっぁつ……お、おお、おおお!」


 彼は今信じられないほどのラッキースケベを体験して、初めて言葉にならないという意味を身を持って知り得た瞬間であった。

 そしてその肝心なラッキースケベの内容とは……


「お、おい月奈! 振り返った拍子にバスタオルがずり落ちてるぞ!」

「はあ? 何を言っているんだ。そんな訳が……ない……だ……。あ”ぁ”ぁ

”ぁ”ぁ”ぁ”っ”!?」

 

 一樹が言った通り月奈のバスタオルがずり落ちて、望六の視界には神々しくも綺麗な”桃色”をした”生乳”がはっきりと写っているのだ。

 彼は初めて妹達以外の”生乳”を見たと同時にこれは一生記憶から消さないと心に誓う。


「ふっ……我が生涯に一片の悔いなしっ!」


 望六は美少女のおっぱいが見れた事にガッツポーズを決め込む。


「ば、ばかぁぁぁ! 見るなぁぁあ!」


 月奈はバスタオルを急いで掴んで体に寄せてその場にしゃがみ込んでしまう。

 しかも相当恥ずかしいのか、そのまま体を小刻みに震えさせているようだ。


「な、なあ一樹。今更何だが、これって俺悪くないよな?」


 一周回って冷静に考えると男の部屋にバスタオル一枚の女子がしゃがみ込んで体を震えさせているこの状態は、第三者から見たら完全に犯罪の現場みたいに見られて終わりだと望六は思ったのだ。


「いや……分からん。だけど一番の不思議なのはなぜ月奈が俺達の部屋のシャワー室から出てきたって事だよ」


 だが一樹はそれよりも月奈がシャワー室から出てきた事に深く疑問を覚えているようで表情が険しい。


「あぁ、それなら色々と事情があってな。実は――」


 一樹に月奈がシャワーを使っていた理由を話そうとすると唐突に部屋の扉が開く音がして、今一番この場に居合わせてはいけない人物の声が聞こえてきた。


「あれ、開いてる? んー、勝手に上がらせて貰うよ望六。さっき悲鳴のような声が聞こえたんだけど大丈夫だった?」


 その声は正しく彼の部屋の隣に住んでいるナタリアの声で間違いなかったのだ。

 そしてこのままでは確実にやばい事が起こることも望六には予想が出来ていた。


 だけど……。

 だけど……今の彼に逃げ場なんてなかった。

 何故ならこの部屋に隠れられる場所なんてない上に月奈が余計な事を言ったらそれで終わりだ。


「ねぇーってば返事してよ望六ぅ。……あっ、そこに居るんだね」


 ナタリアは彼の名を呼びつつ探している様子だが、望六は怖気ついて後退りすると月奈の持っていた傘を踏んで物音を立ててしまった。


「お、終わった。俺の人生……一片の悔い有り……っ」

 

 その物音で確信したように足音を真っ直ぐへと望六の方へと向かってくる。

 さらに隣では何故か一樹も青ざめた表情で壁に向かって震えている。


「やーっと見つけたよ。って何これ」

「あぁっ……そのこれには……」


 ナタリアの姿が彼の視界に映ると、やはり当然というべきかナタリアの視線はしゃがんで震えている月奈に釘付け状態であった。


「一体どういう状況なのかな? 何で月奈が裸に近い状態で望六の部屋に居るのかな? ……ねえ、何でかな? 教えてよ望六。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえってば」


 彼女のその言葉には誤魔化しが一切通用するものではなく、ただ単純に答えだけを待っているような、そんな低くて怖い声色だった。

 

 恐らく変に言い訳すれば望六はここで喰われるだろう。

 そんな気がするほどに今のナタリアからは禍々しい雰囲気が感じ取れるのだ。


「す、すいません……。月奈のバスタオルが肌蹴落ちて……その、何と言いましょうか生乳をバッチリと見てしまいまして……」


 彼にはこの後の展開が手に取るように予想が出来るゆえに、もはや諦めて一から全部事情をナタリアに話すことにした。

 どうせ殺られるのなら、こっちのほうがまだ幾分かすっきりして逝けると考えたのだ。


「へえ……そうなんだ。じゃあさっきの悲鳴は月奈のもので、望六が胸を見てしまったからこんな状況になったんだ。……そんなのずるいよ。ずるいずるいずるい! 僕も望六に胸を見てもらいたいよ! 何ならそのまま揉みしだいで欲しいぐらいなのにっ!」


 しかし彼女はそれを聞いて怒るのではなく……いや、正確に言えば怒っているのだが、その”怒りの部分”が違っているように見えなくもない。


「へっ!? ま、まて意味が分からんのだが……?」

「そのまんまの意味だよ! 僕も望六に全てを見て貰いたいんだ! だからさ……僕の部屋に来てよ。いや……無理やりにでも来てもらうよ……ふふっ」


 ナタリアは不敵な笑みを浮かべながら近づいてくると望六の服を掴んで引っ張りだした。

 しかも何気に力が凄く強くて油断すると一気に持って行かれそうになる程だ。


「ま、待ってくれ! 落ち着くんだナタリア!」

「僕は凄く落ち着いているよ。だから早く僕の部屋に行って二人で愛を育もうよ」


 彼女は言葉の方では落ち着いているが体の方は全然落ち着いてない様子だ。

 その証拠に彼を引っ張る力はどんどん増している。

 一体その華奢な体のどこにそんな力があると言うのだろうか。


「た、助けてくれ一樹! このままでは俺が喰われてしまうぞ!」


 身の安全を守る為に望六は一樹に助けを求める。


「俺は……幼馴染の裸を見てしまった……ああ、なんて罪深いことを……」


 だが彼は既に懺悔を始めていて駄目そうである。 

 先程まで平然としていたのに急に壁の方を向いて震えだしていたのはそれのせいかも知れない。


「くッ……! お、俺は一歩もこの場から動かんぞ!」


 彼の寮部屋はもはや混乱を極めていたが、もう形振り構わずこの場から動かないことを望六は選んだ。それが唯一自分の身が守れる事と信じ、こんな状況で一樹と月奈を放っておく訳にはいかないという親友としての気遣いだった。

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