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9話「イタリア美少女の部屋は少年の隣」

「いやぁ、しかし今日は随分と話し込んでしまったな」

「そうだな。やっぱり遠く離れていた友人達に会えると話が弾むな!」

 

 食堂で夕食を済ませたあと望六と一樹は寮の自室へと戻りながら話している。

 月奈やナタリア達はコンビニで色々と買うと言っていた事から食堂で解散となったのだ。


 だけど望六としては数年ぶりに再会した友人が血が大好きな”ヴァンパイアフィリア”になっていた事に、まるで後頭部を殴られたかのような衝撃を受けた。

 しかしその原因を作ったのは他でもない自分だからこそ何とも言えない彼である。


「それにちゃんと翠嵐のクラスも聞けて皆とのメッセージグループも作れたし、これで何かあっても大丈夫だな!」


 一樹の言う通りに望六達はメッセージアプリで互いに連絡先を交換したり、翠嵐からは所属クラスを教えてもらったのだ。ずばり翠嵐が在籍しているクラスは三組なのだ。


「とまあ、話している内に自室へと到着した訳だが……。うーむ、なんだろうな。何か大事な事を忘れているいような?」


 二人は話しながら部屋へと戻ってくると一樹が急に部屋の扉を前にして考える素振りを見せ始めた。


「はあ? なんだそれ」


 それにつられて望六も少し考えてみると、授業終わりに七瀬が一樹に姉弟としての話がどうのこうの言っていた気がするのを思い出した。


「ん、待てよ? お前確か七瀬さんに夕食を食べ終わったら寮長室に来いって言われてなかったか?」


 彼の言葉に一樹は体を固まらせて少しの間を空けると、

 

「あぁっーー! それだそれ! やべえ、めっちゃ忘れてた! い、今から急いで行くから部屋の鍵締めないでくれよ! んじゃ、またあとでな!」


 大きい声で叫びながら焦りの様子を見せたあと寮長室へと目指して廊下を駆けていく。


「あ、ああ。それは別に構わんが……」


 だが、これで一樹は一つ校則違反を犯した事になる。

 せいぜい他の先生に見つからないことを祈っといてやろうと望六は一樹の後ろ姿を見て呟く。


「さーて俺は消灯時間までゆっくりするとしよう。溜まっているアニメが山のようにあるからな」

 

 望六は一樹を見送ったあと自室へと入ると靴を乱暴に脱ぎ捨てそのままベッドへと向かった。


 学園に入学してから息をつく暇もない程に彼は多忙な毎日を送っていたから、アニメが溜まりに溜まっているのだ。

 だから某有料アプリでアニメを見つつ望六はベッドでだらける事を今決めたのだ。


 この至福の時は何人たりとも邪魔は出来ないだろう。

 そして唯でさえ金欠なのに月額五百円払っているのだから、元は絶対に取らないといけないと望六は固く誓っている。決してこれは貧乏性というものではない。


「んーと、まずは最新作のホラーアニメを見るとするかな。主人公の幼馴染が昼と夜とで性別が逆転する話題の新作で気になってたんだ」


 彼はスマホ持ちながらベッドに転がるとイヤフォンを耳に挿して準備を整え、いざ画面をタップしてアニメを再生させた。


 ――それからアニメを二本見終わり時間を確認するとスマホには二十時と表示されていた。

 この時間になるとそろそろシャワーを浴びてスッキリしたくなる時間だ。


「てか、一樹のやつ中々帰ってこないな。そんなに大事な話だったのか? それとも七瀬さんは等々一樹と一線を……? ま、まま、まぁ馬鹿な考えは辞めておこう。明日から目が合わせれなくなってしまうからな……ははっ……はぁ」


 そんな変な考えを払拭するかのように頭を左右に思いっきり降って溜息を吐くと、急に部屋の扉からノック音が響き渡った。


 その時望六は一樹が帰ってきたのかとも思ったが、鍵を開けとくように言っていたからノックする事はまずないと直ぐに判断出来た。


「うーむ、となると一体誰なのだろうか?」


 そして扉を叩く音はやがて軽いノック音から重たいノック音へと変わっていき、早く開けた方が良いと思い彼はベッドから起き上がると扉へと向かった。


「はいはい、今で出ますよ~っと」


 軽口を呟きながら扉のノブに手を掛けて開けると、


「やぁ望六……来ちゃった。てへっ! てか居るならもっと早くて出てよ! 僕は危うく()()を使って扉をぶち壊すとこだったよ」


 そこには満面の笑みで破壊宣言をしながらレジ袋を携えたナタリアの姿があった。

 その姿からコンビニ帰りという事だけは分かる。

 だが望六の頭の中にはなぜ彼女が自分の寮部屋を知っているのかと言う疑問が過ぎっていく。


「あ、ああすまない……。それよりどうしたんだ急に? 見たところコンビニ帰りというのは分かるが……」


 彼は当然の如くナタリアにここを訪ねて来た理由を聞く。

 出来ればこの会話でどうやって自分の部屋を知ったのかという答えも分かったら得だと望六は思っているのだ。


「そんなの簡単な理由だよ~。僕の部屋の隣が望六の部屋だからだよ、やったね! これでいついかなる時もずっと近くに居られるよ……。ああっ……木本先生に感謝しなきゃ」


 ナタリアはそう言って目から一切の光を排除して視線を合わせてくると、望六は体の内から形容しがたい悪寒が襲ってきた。

 

 さらに彼女の言ってる事が本当なら部屋割りをしたのは木本先生……つまり彼の予想ではナタリア自身が近くの部屋を所望したのだろうと。


「そそ、そうなのか……それはぁ良かったなぁ……あはは」

 

 望六は取り敢えず愛想笑いをすることを選んだが、木本先生は本当に彼が海外から身を狙われている事を知っているだろうか。


 仮に知っていたとしても何で自分の血を狙ってくるようなヴァンパイア美少女を隣の部屋にしたのだろうかと言う文句が望六の中ではふつふつと湧いてくる。

 

「うん、だから何かあったら直ぐに来るから。……あと、二人で例のシーンを見る約束忘れないでよ? ……ふふっ」


 ナタリアは静かな声色で彼のSAN値をガリガリと削っていく。


「だ、だだ大丈夫だ。しっかりと覚えているから……」


 望六は震える手でグッドポーズを見せてその場を乗り切る事にした。


「そう、なら良いんだよ。じゃ僕は自分の部屋に戻るからまたねっ」


 笑みを浮かべたまま彼女は隣の部屋へと行くと視線を彼に向けたまま器用に扉を開けて中へと入って行く。


「ああ、またな……」

 

 望六はその様子を見て本当にナタリアは隣の部屋だという事実を知り、何とも言えない気持ちになった。


「ま、まぁ……隣の部屋だからと言って、そんなにビビる必要はないかもしれない。別に盗聴や盗撮をされる訳でもないしな」


 彼は呟きながらも心の隅で願いつつ扉を締めると部屋に戻って椅子に腰を下ろした。


「うーむ、時間的にそろそろシャワーの準備でもするか。さっさと浴びて体をリフレッシュしたい気分だぜ!」


 部屋の壁に取り付けられている時計に視線を向けて時刻を確認すると、タンスから寝巻き用の衣類とタオルを取り出してシャワー室へと足を進めたのだが。


「お、おい! 一樹いないか! ……いや、この非常事態だ。この際望六でも構わん! 誰かここを開けてくれ!」 


 その声と共にまたもや部屋には扉のノックが響き渡っていた。

 しかも声の主は最早、言わずと知れた月奈だ。


 なぜ今日はこんなにも部屋に客人が来るのだろうと望六は不思議に思ったが、今は月奈の為に扉を開ける方が先決だった。どうやら声色からして焦っているように見えたのだ。


「い、いま開けるから少し待ってくれ!」


 そのまま持っていた寝巻きとタオルをベッドに放って扉へと向かうと、彼は急いで扉を開けて月奈の様子を確認するが――――

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