8話「美少女達とそれぞれの出会い」
「えっとね……僕と望六との出会いは、知っての通り望六が短期留学の時に僕の家にホームステイした時に出会ったんだ」
ナタリアは皆から急かされるように出会いを語るように言われると、ゆっくりと望六との出会いを語り始めた。
「そうだな。まぁ俺としては、あの時のナタリアと今のナタリアでは随分と印象も見た目も違って最初は気づかなかったけどな」
そして同時に彼の頭の中にも、その時の思い出が鮮明に蘇ってくる。
あの時は初めての海外渡航で色々と緊張していたが、ホームステイ先がナタリアの家で本当に良かったと今なら言える。
「望六の為に化粧とか髪質とか色々と頑張ったんだよ! 本当はそういうとこ気づいて欲しかったんだけどね!」
ナタリアは急に彼の方に顔を向けて大声で言ってくる。
「えっ? あぁっ、何かすみません……」
望六は何故か謝らないといけない気がして謝罪の言葉を口にした。
これはあれだろう、女子特有の些細な変化に気づいて欲しいという願望だろう。
アニメやラノベを見ていれば分かるが、いざ実際に気がつくかどうかはまた別の話だと彼は痛感した。
「もぅ! ……んんっ。それで望六が最初に言ってた通り、数年前の僕は内気な性格で何に対してもオドオドした感じで周りからは浮いていたんだ。あ、その時の写真見る? まだスマホに保存してあった筈だよ」
「あっ! はいはい! 俺見たい!」
「はいはい! アタシも!」
当時のナタリアの写真がスマホに保存されているらしく、それが気になる一樹と翠嵐は手を上げながら主張している。
そして望六も……さり気なく手を上げてアピールをしている。彼だって見たいのだ。
あの時からどれぐらいの変化を遂げたのかという実際のビフォーアフターが。
「えーっと……あ、あったあった。これが当時の僕だよ」
そう言うとナタリアは持っていたスマホの画面を全員に向けた。
「う、うそぉ!? これが本当に数年前のナタリアなの!?」
「これは……凄い変化ですの……」
「一体何があってナタリアはそこまで変わったのだ……」
スマホの画面に写し出された写真を見て翠嵐、シルヴィア、月奈、は絶句している様子だった。望六も気になったので横からそっと画面を覗くと、やはり画面に写っていたのは彼がステイ中に出会った当時のナタリアの姿であった。
「おぉ……だよなぁ。本当に月奈の言うとり、ここ数年で一体なにがナタリアをここまで変えたと言うんだろうな?」
「ふふっ、ひ・み・つ・だよっ!」
ナタリアは片目を閉じて舌先を少しだけ出すと小悪魔っぽく言ってくる。
「そ、そうか……。それは残念だ」
きっとその仕草を数年前のナタリア本人が見たら驚くだろうと望六は思った。
なんせ出会った当初はまごまごとしていて常に小声で、耳を澄ませないと聞き取れないぐらいだったのだ。
「女性が変わる時、それは大切な人を見つけた時ですの」
シルヴィアが静かにティーカップを持ちながら言うと、ナタリアの肩がビクッと反応していたことを望六は見逃さなかった。
しかしナタリアは自分で『駆け落ち』やらの単語を使っていたのに今更そこだけ隠してどうするのだろうかと望六は何とも言えない気持ちであった。
「そ、それで続きは! ホームステイは分かったから、何でナタリアが望六と仲が良いのか具体的な内容を教えなさいよ!」
翠嵐が彼女に向けて話の続きを催促するとナタリアは慌てた様子で口を開いた。
「ま、まってよ! えーっとね、それで望六がステイ中にピザが食べたいって言い出してね。その時ちょうど材料を切らしてて山菜を取りに家の裏山に行ったんだ。それで僕は崖ギリギリの場所から身を乗り出して山菜を取っていたら、望六が急に大声を後ろから出してきてね。そのまま驚いた拍子に体制を崩して崖底に落ちていったのさ。……でも落ちる寸前で望六が僕を守る為に崖から飛び降りて、力強く抱きしめながら守ってくれたおかげで無傷だったんだ。けれど……その代わりに望六の右腕に深い傷が出来ちゃってね……」
ナタリアは彼と過ごした日々を淡々と語っていくと望六の記憶もその語りと同時に蘇り情景が思い呼び起こされていく。だが後半に差し掛かるにつれてナタリアの声は小さくなっていた。
「まだ気にしているのか? あれは俺が自らやった事でナタリアが気に病む必要はない。心配するな」
未だにあの事を引きずっているのなら望六にはこれしか声を掛ける事は出来ないだろう。
だけどナタリアが傷を負わなくて本当に良かったと彼は今でも思っている。
流石にステイさせて貰っているのに、娘さんを傷つけちゃいましたとは洒落にならないからだ。
「で、でも……僕はその……”傷”のおかげで真の自分に気づけて感謝してるんだよ! あははっ!」
ナタリアは申し訳なさそうに何かを言うのかと思ったら、その予想は遥かに超えて満面の笑みで怖い事を言い出した。
「「「「えっ?」」」」
その何とも言えない雰囲気に、この場に居る全員は同じ顔をして唖然としている。
「そ、そこは普通……守ってくれたから好きになった。とかじゃないの?」
だがそんな雰囲気の中でも翠嵐は戸惑いながらナタリアに声を掛けていた。
「もちろんそれもあるよ。あんな高い所からしかも、こんな僕を庇いながら守ってくれたんだからね。だけど一番は……望六の腕から流れていた血だよ!」
そうはっきりと言うとナタリアは望六の右腕を掴んで皆に傷跡を見せつけた。
確かに彼の右腕にはあの時の怪我が原因で跡が残っている。
「僕はその赤く煌く血を見て何処か胸の奥が苦しくなったんだ。……そして僕は本能の赴くまま望六の血を舐めて気づいたのさ。この世にはこんなにも綺麗な色をした血があって、尚且つ血は凄く甘いという事実にっ! ……まぁその後は消毒と称して望六の血をずっと舐めてたけどね。あはっ」
ナタリアは望六でも知らなかった事を次々と語ると、そのまま傷跡を恍惚とした表情で見ながら頬擦りしてきた。
こんなにも見た目は美少女なのに頭のネジは数本外れているらしい。
「つまりナタリアは望六の血が好きで、そんなにも仲が良いのか?」
月奈が冷や汗らしきものを額から流しながら尋ねる。
「んー、答えはもっと複雑かな。ずっと殻に閉じこもってた僕を解放してくれた望六こそが、僕にとっての恩人だからね」
ナタリアは彼の右腕を自身の両手でがっしりと掴んだまま答えた。
だが隣でそんなにもはっきりと恩人だとか言われると、あまり褒められる事に慣れていない望六はなんだがむず痒い気分であった。
「色々と初めての情報が多かった気がするが……ありがとうな。ナタリア」
望六は素直に色々と話してくれたナタリアに感謝して頭を撫でてあげるが、
「えへへっ。”望六”と”結婚する”のが僕の夢さっ!」
笑顔のままどでかい爆弾発言を放ってくれた。
やはり隠す気なんて毛頭ないのだろうと望六は改めて認識するが、
「「「結婚!?」」」
その爆弾発言に女子達は目を丸くして口を大きく開けたまま固まってしまった。
なぜナタリアは一言一言でインパクトが凄まじい言葉が残せるのだろうか。
あれは狙って言っている……訳ではなさそうだ。
望六から見るにナタリアは純粋な瞳をしているから分かるのだ。
「まぁ僕と望六との出会いはこんな感じだったよ。というか僕も話したんだから、月奈達も一樹の出会いを教えてよ!」
ナタリアは一通り彼との出会いを語り終えると、次に月奈やシルヴィアや翠嵐がどうやって一樹と出会ったのか気になるという話へと変わった。
「そ、そうだな。俺もそれは地味に気になる」
望六も月奈と一樹の出会いはそこまで深く聞いた事がないからちょっと気になるのだ。
「俺と月奈の出会い何て……なぁ?」
「んんっ……まぁ話して減るものではないし、別に良いだろう」
一樹が月奈に顔を向けて微妙な反応を見せるが意外にも彼女の方は乗り気であった。
というより何処となく話したそうに身をうずうずさせているのは望六の見間違いだろうか。
「まず一樹と出会ったのは私が幼稚園の頃だな。ある日突然、一樹が幼稚園に転入してきて一人ぼっちだった一樹に私が話しかけたのがきっかけだ。そして一樹のお姉さん……七瀬さんが忙しいという事で私とよく遊んでいたのだ。それはもう公園で泥遊びや山を駆けたりとな」
「つ、月奈って意外とワンパクだったんだね……」
月奈の話を聞いてナタリアがそう言うと恐らくこの場にいる全員が同じ事を思っただろう。
だがこれで分かった事は月奈と一樹の出会いは同じ幼稚園と言う事らしい。
「それで? 月奈さんはいつから一樹さんの事が好きになりましたの?」
先程まで静かにティーカップを持ちながら紅茶を飲んでいたシルヴィアが鋭い言葉のナイフを向けると、月奈は分かり易い反応を取って一樹を一瞬横目で捉えていた。
「なぁっ!? す、好き……そ、それは……」
すると月奈の顔は見る見るうちに真っ赤に染め上がっていき、
「すすす、好きではなぁぁい! まったく、どこをどう見て言ってるのだ! 本当にまったく!」
と全員に向けて言い放ちそのまま両腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「そうなのか? 俺は月奈が好きだぞ。ずっと幼馴染で友達でいたいぜ!」
しかし天然の一樹はそのまま間に受けているようだ。
所謂ツンデレ属性と天然属性は混ぜるな危険という奴なのだろう。
そして月奈は一樹にずっと友達でいたいと言われて落ち込んでいる様子だ。
「あらあら、月奈さんと一樹さんはずっとお友達関係が良いのですね……ふふっ」
シルヴィアが妙に勝ち誇った顔をして月奈を煽っているが、今の彼女には恐らく何を言っても聞こていないだろう。既に月奈は口を開けたまま何処か遠くを見ている状態なのだ。
「なるほど……やっぱり幼馴染関係は色々と大変そうだね。じゃあ、次はシルヴィアの教えてよ」
ナタリアは月奈に生暖かい視線を向けて言うと次にシルヴィアへと話題を振っていた。
「もちろんですの! 私と一樹さんの出会いはそれはもうロマンチックに「いや、俺とシルヴィアの出会いは普通に望六と一緒で短期留学だぞ」……もぅ。一樹さんたら、いけずですの!」
勢い良くシルヴィアは胸に手を添えながら語り始めたが、一樹が途中で的確にツッコミを入れると何故か方言が飛び出してきた。
周りの海外美少女達は皆日本語が流暢だが、シルヴィアだけは異色を放っているような気がして望六にはならい。
「ちょっと一樹! 話の途中で入ったら駄目だよっ!」
「そうだぞ! さぁシルヴィア、続きを話してくれ!」
ナタリアと翠嵐に同時に怒られると一樹は望六の方を見てきた。
多分だが『俺が悪いのか……?』といった意味を込めて見てきているのだろう。
だが望六は声を掛けると次は自分が怒らそうだからと黙っておく事にした。
これは決して友を見捨てた訳ではなく、戦略的回避と言う奴だと彼は心中で語った。
「えっあっはい……。それで短期留学で屋敷に来た一樹さんは最初こそ色々と戸惑っていましたが、一日過ごすと直ぐに慣れていきましたの。そして私はイギリスではそれなりに名のある魔術家系ですの。だから当然のように男性というのを下に見ていましたの。ですが……その価値が壊れるような出来事がある日のホームパーティの時に起こったんですの」
この場に居る望六と月奈はシルヴィアが何故一樹に惚れたのかと言う理由は既に知っているのだが、翠嵐とナタリアは初見なのでワクワクした様子で彼女の話を聞いているようだ。
「その出来事とは……私とダンスを踊ってくれる相手を探している時でしたの。その時の私は男性を下に見てしまうのが普通でしたので、当然他の人達は私を避けていきますの。ですがローウェル家主催のパーティで私が踊らなければ恥になってしまいますの。私は困り果ててパーティを抜け出そうと考えていました……。しかしそんな時、一樹さんは颯爽と現れて私の前で片膝を付いてこう言いましたの。『俺と一緒に踊ってくれませんか? お嬢様』と」
シルヴィアの話を聞いてナタリア達がそわそわしている中、望六は後半の片膝を付いての部分で前に一樹に言われた事を思い出していた。
確かあれは留学出発の日に自分が適当に言った事を一樹が間に受けて実践したというやつだったと。という事は彼のアドバイスがなければシルヴィアが一樹に対して好意を抱くことも無かった可能性があるのだ。
「その言葉を聞いた瞬間私の視界に映る一樹さんの姿は、お姫様の窮地を助けに来た騎士にしか見えませんでしたの。そしてそこで気づきましたの。魔術が劣っているというだけで男性を下に見ていた私の方が全てに置いて劣っていると。……そしてあの時、私の価値観を変えて下さった一樹さんには今でも感謝していますの。おかげで視野が広くなりましたから」
シルヴィアは一樹への思いを余すことなく話すと望六の全身はまるで砂糖漬けにされたかのよに甘くなってるような気がした。それほどまでにシルヴィアの語りは甘い物であったのだ。
「おぉ! それは確かにロマチックかもしれないねっ!」
どうやらナタリアはシルヴィアの話に満足している様子だ。
「……その話を聞いた後にアタシが話すのって何だかプレッシャーが凄いんだけど」
翠嵐はこのあと話すと言う事に精神的な圧を感じているようで溜息を吐いている。
しかし望六は頑張れ翠嵐っと力強い視線を送って静かに応援していた。
「そんな緊張しなくても大丈夫だよ! ほら、話してどうぞ!」
「う、うん……。一樹と望六との出会いはさっきも話したけど、アタシが出店で買い食いをしていたらひったくりに合った時なんだ。その時二人は何処からともなく現れて、ひったくり犯を追いかけていきアタシのバッグを取り返してくれたんだ! それだけでも充分アタシの目には格好良く映ったんだけど、問題はそれだけじゃ終わらなかったんだ……」
ナタリアに促されて翠嵐は重々しく口を開いて二人との出会いを語り始める。
そして望六は今でも鮮明に覚えている。翠嵐のバッグを取り返したあと死ぬ思いをしたことを。
「実はそのひったくり犯はマフィア関係者だったんだ。アタシはそんな事も知らずに二人にお礼と言って麻婆豆腐を振舞ったり、オススメの観光スポットを一緒に巡ったりしていたんだ。……だけど日が暮れてくると同時に誰かに後を付けられているような気がしたんだ」
「えっ……。急に怖い話になるの?」
翠嵐の話は最初こそ明るい感じであったが後半につれて暗くなっていくと、ナタリアが望六に寄り添って小さく呟いていた。しかし翠嵐には声が届いていないようで話は続いていく。
「そこでアタシは思い切って振り返って確認すると、そこには昼間のひったくり犯とその仲間達が背後に居たんだ。アタシ達は咄嗟に走って逃げると近くの廃工場でやり過ごす事にしたんだ。……もちろん奴らも廃工場に入ってきてアタシ達を探していた。アタシはいつか見つかるという恐怖と死ぬという絶望に板挟みされて、全身を震えさせていると二人がずっと大丈夫だ何とかなるって言い続けてくれたんだ」
「ほほう、流石は一樹だな。どんな状況下でも諦めない心を持っている」
月奈は翠嵐の話を聞いて頷いていると何故か一樹だけ褒めていた。
そこには望六も居るはずなのだがおかしい、どうやら彼の存在は消されているようだ。
「本当に二人には感謝しているよ。そのおかげでアタシは正気を保っていられたんだ。だけど奴らの一人がアタシ達の方に近づいてくると、アタシが怖がって物音を立ててしまったんだ。夜の無人の廃工場はよく音が響くから……そのせいで一気に見つかってあっという間に囲まれて逃げ場を失ったんだ。アタシはもう駄目だ……ここで殺されて臓器売買されるんだ。そう思って諦めていたら、タイミングよく警察車両のサイレンが聞こえて近づいてきたんだよ! マフィア達はその音を聞いて直ぐに蜘蛛の子を散らすように逃げていくと、アタシ達は警察に保護されて難を逃れたという訳だ!」
翠嵐が区切りのいい所まで話すと喉が渇いたのかスポーツドリンクを飲んで一息ついていた。
本当にあの時の出来事を思い出すだけで、かなりの恐怖が望六の全身を襲って来る。
「そ、それは無事で何よりでしたけど……。そんなタイミング良く警察が現れるものでしょうか?」
シルヴィアが当然のように気になる事を質問する。
「それはアタシも思ったけど、多分パトロール中に気づいてくれたんじゃないかなぁって思ってるよ」
だが翠嵐は運が良かった程度に思っているらしいが真実は少し違う。
実は望六が中学の頃に仲が良かった悪友達に天才的な頭脳を持っている”友人”が居たのだ。
だからその時、逃げている最中にスマホで『助けて!』というメッセージを送って色々と手配してもらっていたのだ。
だがその礼として彼はアニメショップで二万円分のグッズを悪友に奢る羽目になった訳だが。
「だから、そんな危険な状況下でもずっとアタシを不安がらせないように声を掛け続けて守ってくれた二人が私は大好きなんだ! そのおかげで私は今も生きているしね!」
翠嵐はそう言って最後に笑顔を少年二人に向けてくると、不覚にもその純粋な笑みに望六は心が跳ねるような衝撃を受けてしまった。
――そして彼女の話が終わると同時に時刻は夕食の時間となっていて、望六達は夕食を食べながらゆったりと時間を過ごすと自分達の寮部屋へと戻ることになった。
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