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5話「少女達は少年の味方」

 ナタリアは微笑みを絶やさずに望六を見てくると続けざまに口を開いた。

 

「だけどそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。僕は本国の命令に従う気はないから」


 自らが国の命令により学園に来たと公言したあと直ぐに国の命令には従わないと言う、よく分からない事を言ってきた。当然、望六の頭の中は混乱状態になっている。

 

「ど、どいうことだ? ナタリアは俺達のデータが目当てで、この学園に来たんじゃないのか?」

「違うよ。僕は望六に会いたかったから国を利用してこの学園に来たのさ。確かに国からは望六達のデータを送り続けるという任務を言い渡さているけど、僕にとってそんな事どうでもいいんだ」


 ナタリアは望六の質問にキッパリと違うと言い切ると彼と一樹のデータ情報については興味がなさそうに語っていた。

 その話しぶりから察するにナタリアは本当に望六達のデータについては無関心と見える。


「……仮にそれが本当だとして国はそれを許すのか? 例えば俺なら命令違反とか何とかで国に強制送還させるとかするけどな」


 別に確証や確信がある訳ではないが国の命令に背いた者をいつまでも学園に置いておいても意味はないと言える。それに下手したらナタリアが自ら国の情報を話すリスクだってある筈だ。

 

「うーん、なくはないと思うけど大丈夫じゃないかなぁ。この学園って他の魔法学園と比べて特殊な校則があってね。”他国の干渉を受けない”って言うのがあるんだよ」


 ナタリアは徐に胸ポケットから生徒手帳を取り出すと、校則の書かれたページを開いて望六達に見せてくる。


「あ、ああ。それは俺も知っているが……。ナタリア、お前もしかしてそれを利用する気か?」

「おお! 流石は望六だね。僕の性格をよく知っているぅ! そうさ、この校則を利用させて貰って僕は学園に守ってもらうんだ。そうすれば三年間は自由に過ごせて望六と甘酸っぱい学園生活が送れるしね~ふふっ」 

 

 確かにその校則を利用すれば三年間は安全が保証されるだろう。望六と一樹もその校則のおかげで、他国から狙われていても未だに無傷で居られている訳だからだ。


「しかしその三年後はどうするんだ? 流石に命令に背いた者を放っておくとも思わないが……」

「うーん、じゃぁその時は望六と駆け落ちでもしようかな。僕は海が見えて静かな街が好きだし。二人でそこに住もうよ!」


 望六は真剣に聞いたつもりなのだが返ってきたのは中身のない駆け落ちの計画であった。

 ……しかし何故だろうか、ナタリアからは何処となくそれが本気のような気もしないのだ。


「駆け落ち……。何だか憧れる言葉だな。なぁ一樹よ!」

「女性なら一度は思うことですわ。ねぇ一樹さん!」

「アタシも二人となら……全然いいけどな……へへっ」


 そして彼の対面する席の方では月奈達が一樹に向かって何かを言っているようだ。

 だがそのおかげで自分達のせいで暗くなっていた空気が少しだけ晴れた気がすると望六は思いつつ視線をナタリアに戻すと、


「はぁ……ナタリアよ。俺は冗談を聞いている訳ではないんだが?」


 次は本当に真面目に答えるように口調を強めにして言う。


「ははっ、ごめんごめん。でも三年後も大丈夫だよ。僕の家は魔術デバイスの開発機関でね、イタリア軍の汎用魔術デバイスだって九割ぐらい僕の親の会社が提供しているからね。だからそう簡単には国も手出しは出来ないと思うんだ」


 ナタリアは自分の家が魔術デバイスを開発している機関だと言うと、月奈がそれに反応したのか一瞬だけ表情が強ばったように見えた。


 恐らく連想的に姉さんの亜理紗を思い出してしまったのだろう。

 未だに月奈と亜理紗との間には厚い壁が存在しているようだ。

 ……けれは今はナタリアの件が重要だろう。


「そうだったのか。俺が留学していた時はナタリアと家政婦さんしか会っていなかったからなぁ。まさかデバイスの開発の仕事をしていたとは……」

「あははっ、ごめんね。一応軍と関係しているから望六には会わせられなかったんだ。でも結婚する時の挨拶なら会えるから大丈夫だよ!」


 ナタリアはそう言って笑顔を見せると、本当にどこまでが冗談でどこまでが本気なのか話していて望六にはよく分からなくなってきていた。


 だけど彼が留学していた頃に比べれば、ナタリアは随分と前向きな性格に変わったようだ。

 あの時は内気な感じで何に対しても怯えていたイメージが強いのだ。

 

 そしてそんな謙虚だった性格をもう少しだけ、持ち合わせて欲しい気もすると望六は思っていた。何故ならそんなにグイグイと迫られても反応に困るからだ。

 彼女居ない歴=年齢のアニオタの望六には些かこれは難易度が高い。


「ま、まぁ結婚とかそういうのは一旦置いとくとしてだな。ナタリアが国の命令に背くつもりなのは確かに分かった」

「えっ!? こんな大事な事を一旦置いておくの!?」


 ナタリアは望六の言葉に口を大きく開けて反応すると、どうやらその話は本気だったみたいだ。

 安易に言葉を返していなくて助かったと望六は胸をそっと撫で下ろす。


「な、なぁ。つい流れでここまで話を聞いていたが、一樹と望六は何かに狙われているのか?」


 彼がナタリアの事で安堵していると月奈が小さく手を上げながら聞いてきた。

 咄嗟に望六は一樹と顔を合わすと、互いにこの件に関して話すかどうか悩んだ。


 確かにナタリアとの会話を聞いていれば自然と二人が何かに狙われていると言う事は大体察せるだろう。しかしこの事を話してしまえば月奈も狙われる可能性だって出てくるかも知れない。


「あら、月奈さんは知りませんでしたの? 一樹さんと望六さんって世界初の男性Aランクという事で世界中がその身を狙ってますのよ」


 望六と一樹が打ち明けるべきか悩みに悩んでいると、シルヴィアが息を吐くように二人についての事を月奈に話していた。


「なにっ! そ、そうなのか!?」


 すると彼らが狙われていると言う事実を知った月奈は、一樹をじっと見つめて動かなくなってしまった。


「中国でも望六達の事はニュースになっていたぞ? それにアタシが日本に行く時にも政府の奴らが会いに来て、それとなく言っていたし。まぁ無視したけど」


 やはり中国でも政府の動きは同じようだ。

 望六は改めて再認識させられている、世界が自分と一樹を狙っていると言う事を。

 

 だがここまで話してしまえば、もう隠しておく必要もないだろう。

 寧ろ現状を話しておいた方がいいかも知れない。


 もし仮に学園外の時に狙われたとしてもそれで説明がつくからだ。

 それに正体不明の敵に襲われて恐怖するより、幾分事情を知っていた方がまだ心構えが出来て対応できると望六は思ったのだ。


 それに彼はどうにも、ここに居る海外女子達が裏切るとは思えないのだ。

 しかしこれは完全に望六の思い込みゆえに確たる根拠はない。


「よし、今からこの場に居る全員に俺と一樹の置かれている状況を話そうと思う。だがこれを聞いたらお前達も口封じで狙われる可能性がある。それでも大丈夫か?」


 望六は静かにそう告げると皆の視線は一斉に彼へと向けられて、


「何を今更言ってますの? 一樹さんを狙う者は私にとっても敵ですの。だから問題ないですの」

「僕も本国を裏切る訳だし、イタリア政府から狙われるちゃうな~。でもこれで望六と状況が一緒になるなら寧ろ良いっ!」

「アタシも問題ない! 世界が狙ってこようと何をしてこうよと二人は守ってみせる!」


 海外女子達は自信を持って答えると望六と一樹は対するように力強く頷いた。

 あとは月奈の返事を待つだけだ。


「わ、私も問題ないっ! というか何故それを直ぐに言わなかったんだ! 私だけ除け者扱いされるのは嫌だ……ぞ」


 月奈は怒っているのか悲しいのか二種類の感情を見せながら答えると、望六と一樹は彼女に向かって直ぐに謝った。


「「黙っていて本当にすまん」」


 だけど仕方なかったのだ。

 下手に巻き込む訳にもいかず、七瀬からも色々と言われて喋る事は禁止されていたのだ。

 だが……ここまで話が進んでしまってはもう隠す必要もない。


「ふんっ、今回は許す。だけど次からは何かあったら直ぐに言うのだぞ! ”報連相”が大事だからな。分かったな?」

「「はいっ! 分かりました!」」


 二人は報連相を条件に今回は許して貰えたようだ。そして望六と一樹は残りの昼休憩を使って現状を話すと、皆はそれを聞いて何か周りに不穏な動きがあったら教えてくれると言っていた。

 

 これは実に望六からしては有難い事だった。流石に自分達だけでは警戒範囲が広すぎて不利だったからだ。しかし今日からは月奈達も参戦してくれる訳だ。


 ……だがこの事を話した以上、話した者として責任が発生するだろう。

 彼女達が危険な事に巻き込まれたら、それは全て望六と一樹の全責任となり必ず守りきらなければならないという責務だ。


 ――それから午後の授業開始のチャイムが鳴ると次は放課後に話すことになり解散となった。

 シルヴィアと翠嵐は自分達の教室へと戻っていき、望六達も自分達の教室へと戻る。


「にしても何というか、今まで誰にも言えなかった事が言えて少し身軽になった感じがするな」

「ああ、本当にな。だけどそのせいで俺達みたいに狙われる側にならなければいいが……」


 望六と一樹は教室へと戻ると先生が来るまで先程の話について振り返っていた。

 一樹の言う通り今まで誰にも言えなかった事が言えて少し楽になった感はある。

 だけどそれでも……不安は残るものだ。


「まだそんな事を言っているのか望六は。心配するな、私はお前みたいに心は弱くないからな」

「そ、そうですか……」


 月奈は妙に表情を誇らしげして見せてくると、それと同時に教室に七瀬が入ってきた。


「全員無駄話は止めろ。今から午後の授業を開始する」


 そう言って教卓の前へと足を進めると七瀬は次に全員に向かってこんな事を言ってきた。


「お前達も知っていると思うが五月に一年魔導対決が控えている。だが今年の一年は揃いも揃って例年希に見る落ちぶれぷっりだ。当然このままでは魔導対決で良い結果は残せないだろう。その為、職員達で話し合い”クラス対抗練習試合”が組まれる事になった」

「クラス対抗練習試合? なんだそれ?」


 望六は七瀬が言っていた事に独り言のように返すと、彼女は後ろの電子黒板を操作して黒板にクラス対抗練習試合と書かれた字幕を表示させて解説を始めるのだった。

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