3話「イケメン男子生徒はまさかの男装女子!」
「あの~? このクラスに”イケメン男子”と”白髪の男子”生徒が居ると聞いて来たんですけど、今居ます?」
扉前に姿を現した茶髪で短髪のイケメン男子生徒がそう言うと、望六を含め周りにいたクラスメイト達も時が止まったかのように動かくなった。
だがそれも仕方ない事だろう。何故ならその男子生徒は声が完全に女声だったのだ。
いや……寧ろこれは女声というよりも、完全に女性その者の声だろうと望六は思った。
「えっ! き、君って女性だったの!?」
クラスメイトの女子が困惑した様子で声を荒げる。
「何だよその質問は……。別に男子の制服を着ているからって男とは限らないだろ? それにアタシは一言も自分から男だなんて言った覚えもないしな」
すると男装した女子は面倒くさそうにして答えている様子だった。
そして驚き固まっていたクラスメイト達が再び動き出すと視線は望六達の方へと注がれた。
「な、なぁ望六。あの女子? が言っている白髪の人って望六の事じゃないのか?」
「……よせ何も言うな。反応したらきっと厄介事に巻き込まれるぞ」
一樹が小声で横から何かを耳打ちしてくるが彼は即座に顔を逸らした。
だが月奈とナタリアは変な所で正直者なのか二人は揃ってこんな事を言ってきた。
「なあ、きっとあの言い方だとお前達の事だと思うんだが?」
「そうだよ。態々他クラスから会いに来てくれたんだから、ちゃんと返事しなよ?」
望六は二人の言葉を耳にすると『まったく好き勝手言いやがって、これだから女性陣は困るんだ』と口元を歪ませた。
思えばこの学園に来てから名を呼ばれて良かった出来事が何一つも起きていないのだ。
全部何かしらの面倒事に巻き込まれていると言って断言してもいいだろう。
最初は世界が狙ってくるだのどうのこうのから始まり最近では決闘までする始末だ。
しかも、あの男装している女子は微妙に日本語の発音が独特なのだ。
つまり日本人ではないという予想ができる。
だがボーイッシュ娘という属性は素直に望六の心に刺さった。
「えーっと多分、貴女が探している人達はあそこの窓際で話している人達だと思うよ?」
またしもてクラスメイトの一人が余計な事を言ったような声が聞こえてくる。
「ん~? ……あぁっ!? あの特徴的な白髪と、その隣に居るイケメンな顔立ちの男は間違いない! アタシの知っている一樹と望六だっ!」
そして次の瞬間にはその男装女子の高い声が教室内に木霊していた。
「や、やばい……ッ!」
望六は自身の危機察知センサーが反応して独り言を呟くと、一樹達は首を傾げて不思議そうな表情を見せていた。だがこのままではまたしても厄介事に巻き込まれると彼の勘が訴えかけてきているのだ。
そこで望六は一瞬、とある疑問が浮かんだ。何であの女子は自分と一樹の名前を知っているのだろうかと。……だがその答えは自ずと直ぐに判明した。
何故なら自分達は世界的にニュースとなり名前が公表されているからだと。
望六はそんな事を咄嗟に考えていると、その女子は段々と近づいてきているのか足音が直ぐ近くまで聞こえていた。
――やがてその足音は望六達のすぐ傍で止まると、
「よぉ二人とも久々に会ったな! 元気にしていたか?」
そう言いながら男装女子は望六と一樹を交互に見てきた。
一体久々とはどういう事なのだろうか、望六の記憶が正しければこの女子とは初めて会った筈なのだ。
「えーっと……。すまないが俺と君は何処かで会ったかな?」
一樹は彼の言いたい言葉を先に言うと男装女子は少し表情を曇らせてから口を開いた。
「お、覚えてないのか……? ほらアタシだよ、一樹と望六が修学旅行中に助けてくれた【恋翠嵐】だよ!」
男装女子は自分の胸に手を添えながら二人に視線を向けて言うと、望六は何かを思い出しそうになっていた。
「「恋翠嵐…………あぁぁっ!」」
望六と一樹は少しの間が空くと、つい先程まで忘れていた記憶を思い出したかのように驚愕の表情を互いに見合わせていた。
そう、恋翠嵐とは彼らが中学の時の中国修学旅行中で偶然にもひったくりに遭っているとこに居合わせて助けてあげた女子なのだ。
……にしても何でそんな最近の記憶を忘れていたのだろうかと望六は頭を悩ませる。
しかし見れば見る程にあの時から翠嵐の容姿はあまり変わっていないようだ。
茶色のショートヘアに中性的な顔立ち、そして耳にはピアスが数個付いていると言った具合だ。
「お、思い出してくれたか……?」
翠嵐は心配そうな表情で望六と一樹を見てくると、二人は自信を持った様子で答えた。
「ああ、もちろんだ! まさかこんな所で再会出来るとはな!」
「一樹の言うとりだな。思ってもいない展開だ」
予想だにしない久々の再会に二人はつい笑みが零れてしまう。
すると望六はそれを傍から見ていてた二人の女子達が、自分と一樹に向けて何とも禍々しい雰囲気を放ってきている事に気が付いた。
「ねぇねぇ望六、誰なのその女性は? もしかして望六の女? 僕と会っていない間に浮気したの? ねえねえねえってば」
「おい一樹、これはどういう事だ説明しろ。でなければ切腹しろ。今この場でな」
ナタリアは瞳から光を消して瞳孔を開いたまま彼をじっと見つめて聞いてくると、その近くでは月奈が完全に怒っている様子で両腕を組みながら一樹を問い詰めていた。
「おいおい……ちょっと待ってくれ。浮気も何も、まず俺はナタリアとは付き合っていないぞ!」
「切腹!? そ、それはいくら何でも行き過ぎた行為なのでは……。それに翠嵐とはただの”友達”だよ」
望六と一樹は威圧感の凄まじい女子達に弁解を述べると、二人は微妙な顔をしながらも何とかその場は抑えてくれるのか落ち着きを取り戻そうとしている様子だ。
そしてタイミング悪く一時間目の開始を合図するチャイムが学園に鳴り響くと、
「うわッもう時間かよ、もっと二人と話したかったのになぁ。……もぅ! 直ぐに気づいてくれない二人のせいだからなっ! それとまた昼休憩に来るから一緒に食堂行こうな! あ、あとその女子二人も紹介してくれよ~」
翠嵐はチャイムの音を聞いて慌て出すと一方的にその言葉を望六達に放っていき、本人は急いで自分のクラスへと戻る為に走って教室を出て行った。
この慌てぶりも相変わらず変わらないようだと望六は見ていて思う。
「なぁ望六。翠嵐の慌てぶりは相変わらずだな」
「そうだな。実に懐かしい感じだ」
どうやら一樹も彼と同じ事を思っていたらしく二人は小声で話すと、望六は一時間目の授業で使うノートと教科書を準備した。
……だがその小声は意味がなかったのか、望六の隣からはナタリアが再び黒いオーラを纏った雰囲気でしっかりと彼を見てきていた。
「昼休憩に入ったら、じっくり詳しくあの女について教えてね。……じゃないと僕は望六に噛み付いて吸っちゃうからね」
「わ、分かったよ。だからそんな良い笑顔をしながら八重歯を見せてこないでくれ……」
望六は自分が知っているナタリアはこんなにも狂気じみていなかった気がするのだが、一体何が影響して彼女はこんなにも変わってしまったのだろうかと彼は重い溜息が出て行く。
けれどはっきりと分かっている事もあった。
それはやはり厄介事に巻き込まれたと言う事だろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「よし、全員揃っているな。今から授業を始めるぞ」
「「「「「はいっ!」」」」」
暫くすると教室に七瀬が入ってきて一組は普通科の授業が始まった。
そして何とか午前の授業をこなしていくと昼休憩となり、約束通り翠嵐が教室に押しかけてくると何時ものメンバーにナタリアと彼女を加えて望六達は食堂へと向かっていた。
「はぁ……。確かに美少女達に囲まれるのは俺の夢一つではあったが……これは些かどうなのだろうか」
現在望六の周りには黒髪が美しい大和撫子の月奈と、お嬢様としての気品を持っているシルヴィアと、やけに微笑みながらギザ歯をチラつかせてくるナタリアと、満面の笑みで望六と一樹の腕を左右の腕でがっしりとしがみついて歩いている翠嵐により構成されている。
「な、なぁ。これだと歩きにくいし人の目もあるからやめないか……?」
一樹は周りの苛立っている女子達の雰囲気を悟ったのか離して貰うように頼むが、
「そんなもん気にするなよ~。アタシとあんた達の仲じゃないか!」
翠嵐はそれを容易く断り無駄に終わったようである。
時として純粋とは怖いものだ。望六はそれをまざまざと今思い知っている最中だ。
そして何よりも今彼が恐ろしいと感じているのは月奈達が先程から黙っている事だ。
表情を見れば三人は不機嫌そうな雰囲気を醸し出していると言うのに一言も喋ってこないのだ。
「あぁ、この様子だと確実にこれは終わったな……。俺には分かるんだ」
望六はこの後の事を想像すると虚しい言葉が自然と口から漏れていった。
そしてそんな現実から逃避するように妄想の世界へと意識を飛ばしていると、いつの間にか食堂のテーブル席に座っていた。
しかも無意識のまま料理も頼んでいたらしく彼の目の前にはカレーが置かれている。
「あ、あれ? 俺ってカレー何か頼んだっけ……」
「何を言っているんだ望六? 今日はカレー日和だぜ! とか訳の分からない事を言って食券を買っていたじゃないか」
「そ、そうなの……か」
一樹から無意識の時の状態を聞くと自分はそんな変な事を言っていたのかと望六は少し恥ずかしくなった。現実逃避もあまりオススメできる逃げ道ではなさそうだ。
「それじゃあ、食べながら改めて自己紹介でもする? アタシは冷めた料理ほど苦手な物はないと先に言っておくよ」
「ならそれしか方法がないではないか……」
翠嵐の発言に月奈は溜息混じりで言葉を返すと望六達は頂きますをしてから料理を食べ始め、改めて自己紹介が始まった。
一体何度目の自己紹介になるのだろうか、望六の口からそんな無粋な言葉が出そうになったが何とかカレーを押し込んで無理やり止めた。
「じゃあ順番的にナタリアからだな」
一樹は味噌汁を啜りながら言う。
「ぼ、僕かい!? いきなりだと緊張するね……ははっ」
パスタを食べようとてしいた手を止めてナタリアは苦笑いを浮かべていた。
彼女はHRの時にも簡単な自己紹介をしていた筈だが、確かにこの美人揃いの前では緊張していても仕方ないだろう。だが、それなりに共に過ごせばシルヴィアも月奈も意外と抜けている部分があって、気張る必要もなくなると望六はお冷を飲みながら思った。
「じゃ、じゃあ改めて自己紹介するね。僕は――」
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