2話「転校生はイタリア少女だが、何処か様子がおかしい」
木本先生の言葉で転校生の女子が教室へと入ってくると、望六は自分の目を疑わずには居られなかった。
何故ならその転校生は七瀬が一番警戒しろと言っていた”海外の人”だったからだ。
……しかもそれだけでない。
この転校生は彼が今まで見てきた事のないタイプの雰囲気を漂わせているのだ。
髪はアメジスト色のポニーテールをしていて、瞳はゴールドイエローというべきだろうか強気な意思が感じ取れる。
「う、うそっ。何あの綺麗な肌に色艶のある髪は……!」
望六の近くの席で女子がそんな事を呟くとほどに転校生の容姿は絶世の美女なのだ。
彼だってこの転校生が海外の人でなければ是非声を掛けたい所だが、実際はチキンな性格ゆえに微妙な所だ。
「よし、そのまま自己紹介を頼むぞ」
「はいっ」
転校生の女子が教卓の前に来ると木本先生は自己紹介をするように促す。
そして転校生は一呼吸置いてから全員に視線を向けると、
「初めまして日本の皆さん。僕はイタリアから来ました魔術留学生の【Natalia Cavallotti】です。よろしくお願いしますね!」
望六は転校生の自己紹介を聞いたその瞬間、心の奥底で何かがざわめくのを感じた。
そう、この転校生……いやナタリアが”ボクっ娘”だったという事に歓喜しているのだ。
だがそれだけではない。彼は見逃さなかったのだ。
ナタリアがあの希少価値の”ギザ歯”の持ち主であることを。
「ああ、俺は生まれて初めてボクっ娘とギザ歯の属性を持った女子に出会えた……。感無量だぜ」
アニメとかでボクっ娘やギザ歯のキャラは何度か見てきたが、まさか今日この日に現実でそれに出会うことが出来ようとは……本当にこの学園は個性豊な者が集まるのだと改めて思い知らされた望六である。
「あの~先生? 少し質問があるのですが大丈夫ですか?」
「なんだ? 言ってみろ」
ナタリアは自己紹介を終えると木本先生になにやら質問をしているようだった。
一体どうしたのだろうか、お腹でも痛いのだろうかと望六は考える。
かくいう彼自身も大勢の人が見ている中で立たされて何かやるのは苦手だから良く分かるのだ。
「実はこのクラスに白戸望六さんが居ると聞いているのですが……」
「ああ、アイツならそこの席に座っているぞ」
そう言って木本先生が目線を向けてくると何故かクラスの皆も一斉に望六の方を見てきた。
急に全方位から視線を向けられると彼は額に変な汗が滲み出てくるのを感じた。
そしてナタリアも望六の方をじっと見ながら何度か頷く仕草を見せると、
「ああぁっ……間違いない! その特徴的な白髪にいつも眠そうな表情をしているのは確かに僕の知っている望六だぁ!」
満面の笑みをしながら大声で言うと彼の席へと一目散に走り寄ってきた。
だが望六は突然の出来事に呆然としてしまい、ナタリアに視線を向けたまま動けないでいた。
「望六ぅぅ! 僕だよナタリアだよ!」
「えっちょ……ええっ!?」
ナタリアは望六の席へと来るといきなり彼の右手を両手で掴んで、そのまま自分の頬へと近づけて頬ずりを始めていた。
望六は右手からは柔らかなマシュマロのような肌の感触が鮮明に伝わってくると同時に、周りからは好奇な目を向けられいる事を察知した。
「ああ、この匂いにこの質感……どれも懐かしいよ。”あの頃”から何一つ変わらない僕の望六だぁ……」
ナタリアはうっとりとした表情を浮かべながら言ってくると彼の頭の中は真っ白になった。
当然だろう、初めて会った女子にこんな濃密な事をされたのは始めてなのだから。
それに話を聞いているとナタリアは望六の事を知っているような口振りだ。
……しかし自分の知り合いにこんな美少女はいない筈だ。
居たら確実に覚えていると断言してもいいと望六は強気であった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はナタリアさんとは初めて会った筈だぞ!」
望六は掴まれていた右手を振りほどくと矢継ぎ早に言葉を投げた。
「えっ覚えてないの? 酷いなぁ……僕は望六があの時言ったもっと自分を曝け出しって言葉を胸に、こんなにも努力したのに……。でも大丈夫きっとこれを見たら思い出す筈だよ!」
ナタリアは望六の手が離れた事で少し悲しげな表情を見せると、そのまま自分のポケットに手を入れてメガネらしき物を取り出した。
「どういう事だ……?」
「これで思い出してくれないと僕は望六を……ふふっ」
何やら不穏な事を言いながらナタリアは手に持っているメガネを自分に掛けた。
するとその雰囲気や容姿に彼は何処となく見覚えがある事に望六は気が付いた。
「あぁっ!? き、キミはもしかして……!」
そしてその何処となくの感覚に思考を巡らせると望六は一つの思い出にたどり着いた。
それは三年前……そう、彼がイタリアに体験留学していた時にホームステイ先で仲良くなったナタリアという少女が居た事を。
だがその頃のナタリアとは容姿や言動が異なっていて初見では気づけないだろう。
何故なら望六が三年前に初めて会った時は髪はボサボサで長く、丸メガネを掛けていて所謂文系少女のような容姿の上に声は消え入りそうなほどに弱々しかったのだ。
「その反応だと思い出してくれたようだね。ああ、良かったぁ」
ナタリアは彼の反応を察して胸を撫で下ろしているようだった。
「随分と見た目や言葉遣いが変わってて直ぐに気付けなかったぜ……。すまない」
望六は初見でナタリアに気付けなかった事を謝る。
「あ、いや謝らなくても大丈夫だよ! ……でも一つだけお願い事を聞いて欲しいかなぁ」
すると代わりにお願い事とやらを聞くことになった。無論、今の彼に拒否権なんぞない。
なんせホームステイで仲良くなった女友達のナタリアの存在に直ぐに気付けなかった木偶の坊なのだから。
「お、お願い事?」
「そうそうっ! あのね……実は僕、望六の”血”が欲しいんだ! だから少しだけ首筋を噛ませて欲しいかなぁって」
ナタリアはスカートを掴んでもじもじとした仕草を見せると、次に屈託のない笑顔でそう言ってきた。それに対して望六は『どうしよう、今すぐにでもこの場から逃げたい』そう考える事しか出来なかった。
「な、何を言っているんだ……?」
「あははっ、安心してよ。ちょっと痛いだけで動かなかったら直ぐに終わるからさ」
どうやら彼女は人の話を聞かないタイプのようである。
この手の声色を出している人は冗談で言うような次元のものではない。
確実に本気で言っている人の特徴的な声色だと望六は瞬時に分かった。
「あぁ望六ぅ、僕の中に望六の血を入れてこの疼きを止めてくれよぉ」
ナタリアは口の端からよだれを垂らしながら距離を縮めてくる。
「ちょちょっ!? ま、まて辞めろ! せ、先生助けて!」
だが望六は咄嗟に木本先生に助けを求めていた。
「そこまでにしておけナタリア、もうHRが終わる。しかし話を聞いてるとお前達は知り合いみたいだな。ではナタリアの席は望六の隣にしておくか。放課後になったら学園について色々と教えてもらうように」
「えっ本当ですか! 先生ありがとうぅ~!」
「ま、マジっすか……」
木本先生には望六の思いが伝わったのか伝わらなかったのか、いや多分だが伝わってはいるけど面倒事を押し付けてきた感じだろう。
というより先程から女子達の視線が異様に望六に向けられているのだが、一体なんだと言うのだろうか。さらにナタリアに至っては満面の笑みで隣の席に座って彼をずっと見ている状態だ。
その笑みと瞳に映るのは再会の歓喜なのかはたまた狂気なのか。
「ということで、これからよろしくね望六! ……あと血の件は二人きりになったら……ね?」
「ああ、よろしくな……。だが痛いは嫌だから辞めてくれ頼む」
隣からナタリアが人差し指を唇に添えて言ってくると望六は苦い笑みを作って返した。
まさか三年ぶりの再会がこんな形になろうとは一体誰が想像しただろうかと。
それより七瀬の言っていた海外勢には気をつけろという括りの中にナタリアは入るのだろうか、正直ホームステイでお世話になっているから変に警戒したくないと望六は思っている。
「以上でHRを終わる。あとは各自で一時間目の授業に備えるように」
「「「「「はいっ」」」」」
木本先生はそう言って教室を出て行くと暫く小休憩の時間となった。
するとさっそく前の席の一樹と月奈が振り返って、
「「どういう事だ? 説明してくれ」」
と口を揃えて尋ねてきた。
だが寧ろ自分が聞きたいぐらいだとは口が裂けても望六は言えないだろう。
「あー、そうだな。ナタリアは三年前のホームステイ先の家で知り合った俺の友達だよ」
望六は二人に対してナタリアのことを紹介する。
「初めまして二人とも! あ、もしかしてそっちのイケメン男子が噂の一樹さんで、その隣が武力を愛する月奈さんかな? 望六が家に来た時に二人の話を色々と聞かせてもらったよ~。あと呼び捨てで大丈夫だからね!」
彼女は三年前の記憶を思い出したかのように喋っている様子だった。
しかしナタリアのその言い方には少々難があるようだ。
自業自得とは言え、このままでは主に望六の命が危うくなってしまう。
「おい望六、私は初めてだよ。初対面の女性から武力を愛する何ていう紹介をされたのはな」
急に周りの空気が重くなると月奈から冷たく怒りを孕んだような声が聞こえてくる。
「そ、そうか。それは良かったな……ははっ」
だが今の望六にとってその時の記憶は曖昧ではっきりとは覚えていないのだ。
「良い訳がないだろう、この馬鹿者! お前は三年前に私をどんな風に紹介したのだ! それとナタリアさんとやら、私の名は水崎月奈だ。雑な自己紹介で申し訳ないが私は今から望六の臓物を引きずり出さないといけなくなってしまってな!」
月奈は望六の返しで怒りが頂点に達したのか、形相を般若のように変えるとそんな事を言い放つ。
「えっとあっと初めまして! それに……ええ!? 望六の臓物を!? ……それは凄く良いねっ! あとで僕にも分けてね!」
しかもナタリアも何故か乗り気でそれに反応しているようだ。
けれど武力を愛するという言い方は三年前の自分としては中々にセンスがあると自画自賛する程の余裕は望六にあった。
……だからそのセンスに免じて許して欲しいと、そんなに両手を鳴らしながら近づいてこないでと、本当にすみません許してと切に彼は願う。
「まぁまぁ落ち着けよ月奈。……えーっと俺は自分の事をイケメンだと思っていないけど、知っている通り宮薗一樹だよ。よろしくなナタリア」
「うん、よろしくね一樹!」
ナタリアが笑顔で一樹に返事をすると望六は見逃さなかった。
クラスの女子達が一斉に一樹を睨んでいた事に。
だが望六がそれに気を取られている隙に月奈は思いっきりビンタを食らわせてきた。
迸るような鮮烈な痛みが頬に染みる。例えるなら木刀で突かれたような痛みだろう。
「くっそぉ、月奈のやつ本気で叩きやがって。……はぁ。あ、そうだそうだ。アルベルタさんは元気にしているか?」
望六は殴られた頬を抑えながら在りし日の留学の時の光景が脳内に浮かび上がると、色々とお世話になった人のことを思い出した。
彼はこれでも留学の時は色々とやらかしてしまい、アルベルタには本当に頭が上がらないのだ。
「うん、もちろんだよ! 前までは腰を痛めて休んでいたけど、僕が日本に向かう時には泣きながら見送りをしてくれたぐらいだよっ!」
そう言ってアルベルタの事を話してくれると確かにあの時の気弱なナタリアが一人で留学するとなると、泣きそうになるのは少なからず望六には分かる気がした。
恐らくアルベルタは独り立ちをする雛鳥を見ているような気持ちだったのだろう。
……だが望六が思い出に浸っているのも束の間。
唐突にもクラスの女子達が叫び出して望六達の意識はそっちに向いたのだ。
「うそーーっ! 誰なの!? あの一樹君と同じイケメン度を誇る男子は!」
「えっなになに? どれ?」
「嘘まじ!? 本当にイケメンだっ!」
その声に釣られて次々と教室から顔を出す女子達。
当然それには望六も気になり廊下へと視線を向けた。
「一樹と同じイケメン度ってなんだよ。……しかし気になるな、そんなイケメンが居たなら入学当初に話題になっていも可笑しくないと思うのだが」
「おいおい……俺はそんなに言われるほどイケメンじゃないぞ?」
二人はそんな会話を交わしながら視線を廊下の方へと向けていると、教室の扉前に一人の男子が姿を現すのだった。
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