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1話「少年達の現状と転校生の予感」

 メリッサがイギリスへと帰って数日が経過すると、望六達は今まで通りに学園生活を過ごしていた。だが、その穏やかな雰囲気は今まさに終わりを告げようとしている。


 何故なら望六と一樹は制服に着替え終えて寮を出ようとすると、朝から不機嫌な顔をした七瀬と遭遇してしまったからだ。

 ……いや、これは遭遇とかいう偶然なものではなく、出待ちされていたと言うべきだろう。


「やっと出てきたか。ちょうど良い、そのまま二人は私に付いてこい」


 七瀬は相変わらず黒色のビジネススーツを身に纏いながら両腕を組んで威圧してくる。


「えっ、急にどうしたんですか……?」


 そして表情は先程も言った通り傍から見ても怒っているようで、望六は唐突にも言われた”付いてこい”という発言を不思議に思い言葉を返してしまう。

 

「いいから付いてこい。二度も言わせるな」


 だがこの返しはいけなかったらしく、そのせいで七瀬は更に苛立ちを増幅させて表情は一層険しくなってしまった。


「「……はい」」


 そして偶然にも二人は同じ言葉を呟いていしまったのだ。


 しかも心なしか、やっと蟠りが解け始めたクラスの女子達も自分を避けているように望六は思えてしまう。先程からすれ違う女子達が声を掛けようとしてくるが、隣に居る七瀬を見て即行で顔を逸らしてしまうのだ。


「あの……。なんで俺達の部屋の前で待ち伏せを?」


 望六は事の状況を知る為に七瀬に事情を尋ねると、横では一樹も頷きながら視線を彼女へと向けていた。


「待ち伏せではない。待っていただけだ。それと要件については後で話す」


 二人の疑問に七瀬は静かにそう答えると歩く速度が少しばかり速くなった気がした。

 それから暫く寮内を歩くと望六達は寮長室、そう七瀬の部屋へと到着した。


 寮長室は女子寮の一階にあり女子生徒達の出入りが一番多く、何かあっても直ぐに動けるようになっているみたいだ。恐らく防犯面を考慮して作らているのだろう。


「よし、入れ二人とも。ここが一番安全で話しやすいからな」


 七瀬がカードキーで部屋の施錠を解除すると、二人は言わるがままに寮長室へと入った。

 するとそこには――


「うあっ……。なんだこの形容しがたい部屋の様子は……」


 望六の視界に映ったのは脱ぎっぱなしで放置されているジャージやシャツ、更には下着らしき物まで見えて机の上には空の缶ビールが大量に置かれている光景であった。

 どうやら世界最強の魔術士でも意外と人間らしい一面もあるらしい。


「おいおい姉貴……ちゃんと片付けぐらいしてくれよ……」


 一樹は部屋の惨状を目の当たりにすると頭を抱えながらそんな事を言っていた。


「あまりそっちは見るな。そこは私のプライベート空間だ」


 そして七瀬は少し恥ずかしそうに表情を緩めると、さっきまでの物々しい雰囲気は何処へやらだ。


「えーっとそれで? 俺達はなんで七瀬さんの部屋に?」


 望六は緩やかな雰囲気になった所で再び七瀬に事情を尋ねる。


「ああ、実はな。お前がメリッサと試合をしていた所をスマホで撮影していた馬鹿生徒が居てな。……どうやら、その撮影した動画をネットにアップロードしたらしく非常にまずい状況になっている」


 すると事の要件はメリッサと対決している所を動画撮影された挙句にネットにアップロードされたという事だった。

 だがネットにアップロードされたぐらいで何故そんなにも七瀬は不機嫌な様子なのだろうか。


「つまり、お前が複数の属性を使ったり魔法を使わずして相手の魔法攻撃を無力化したことが全世界にバレたという事だ。……本当に馬鹿な生徒が居たものだ。これではWM学園が後ろ盾と言っても限界があるぞ……まったく」


 七瀬からその言葉を聞いた瞬間に望六の先程までの緩い考えは吹き飛び、一瞬にして臓器や体中が冷たくなっていくを感じた。そうだ、そうなのだ。彼は簡単な事を見落としていた。

 ネット上に公開されたとなると全世界がそれを見られる状態にあると言う事だ。


「姉貴、望六が大変な事になったのは分かったけど。俺にも何かあるのか?」


 一樹は望六の事情を知ると自分にも何か起こったのかと思ったのだろう、恐る恐る七瀬に聞いていた。


「ああ、もちろんだ。その馬鹿生徒はしっかりと一樹とシルヴィアの試合もネットに公開していたからな。男性初のAランク魔術士が魔術留学生に勝ったという前代未聞の出来事をだ。つまり一樹も望六と同じく立場が物凄く危うくなっている」

「そ、そんな!?」


 一樹も事情を知らされると一瞬にして顔色が青ざめたものへと変わっていくのが見ていて分かった。恐らく望六と同じ事を考えて恐怖したのだろう。


「そ、それでその生徒がアップロードした動画はどうなったんですか……?」

「その事については心配するな。ちゃんと削除した。……だがこの件に気づいたのは今日の朝方だったからな。投稿されて半日以上は経過ていた事を考えるに、不特定大多数に見られたと思っていいだろう」


 七瀬から動画の件を聞くと投稿されてから半日以上という返しをされてしまい、望六の恐怖心は増していく。だが何故その生徒は試合後に直ぐ動画をアップロードしないで、こんな数日が経過した頃に投稿したのだろうか。彼は恐怖心に駆られながらも不思議に思う。


「だから二人は今後、無闇に接してくる他の奴らには気をつけろ。特に海外勢とはな」

「「は、はい……」」


 自分達を寮長室に呼び出したのはこの話をする為だとこの瞬間、望六は理解すると朝一で気分が地の底に落とされように低くなってしまった。


 そして七瀬が二人に教室へと行くように指示すると望六と一樹は重たい足取りで向かう事にした。彼女は職員室で事後処理が残っているらしく遅れるらしいとのこと。


「はぁ……。なんで俺達は何時もこんな面倒事に巻き込まれるんだろうな」

「そうだな。魔力適性の一件から何も良い事が起こらないぜ」


 望六が不意に漏らした言葉に一樹が両手を広げながらやれやれっと言った仕草をすると、二人は教室へとたどり着いた。

 

 どうにも七瀬から話を聞いた後だからか望六は変に同学年の海外女子達を警戒してしまう。

 だが動画をアップロードした生徒は二学年の女子生徒で日本人らしく、その生徒は謹慎処分を言い渡されたとの事だ。


「さてと……それでも俺達の日常は続いていくからな。今日はもうこれ以上何事も起きなければいいんだが」

 

 教室に入るや否やそんな事を望六が呟いた。


「おい辞めろよ。フラグにしか聞こえない言葉を使うなよ」


 一樹は焦ったような感じの声で背後から声を掛けてくる。

 そしてクラスメイトとの蟠りが解けてきた彼は女子達から不快な視線を向けられることは少なくなり、今では普通に挨拶すらされるようになった。


「おはよう! 一樹くん望六くん!」

「おはようございますっ! 二人とも!」


 最近はもっぱらこんな感じに朝の挨拶をされている訳だ。今まで女子達にこんなにも声を掛けられた事のない望六にとって、これは大きな進歩と言えるだろう。


「「おはよう~」」


 そして少年二人は挨拶をそれとなく返すとそのまま自分達の席へと向い、バッグを肩から下ろして机の横に引っ掛けると腰を椅子に落とした。朝のHRが始まるまであと数十分と言った所だ。


「遅いぞお前達。何をそんなにのんびりとしていたのだ?」


 月奈は望六と一樹を交互に見ながら言ってくると、どうやら遅れて教室に来た事を不審がっているようだ。確かにここ最近の二人は遅刻する回数も減ってきているから無理もないだろう。

 しかしこの事に関してはどう返事をするべきだろうか……と望六は悩む。

 

 馬鹿正直に自分達の試合がネットに投稿されて、その上全世界に見られて七瀬から身の危険が迫っていると告げられたと言うべきか。

 ……いやいや流石にそれは直球過ぎて駄目だろうと彼は考えを打ち消す。


「う、うーんまぁ……。疲れのせいで中々起きれなくてさ! 望六がな! あははっ」


 何か喋らないと疑われると思ったのか急に一樹が口を開くと、いとも簡単に全てを望六に擦り付けてきた。これが親友に対する行いなのだろうか。

 そして月奈は望六の方に視線を向けると鼻で笑ってから、


「望六のせいか、なら仕方がないな。今日からはもっと早めに寝るのだぞ。私みたいに二十二時就寝を心がけるように!」


 月奈が大きな胸を張りながら言う。


「それは早くないか? 婆ちゃんかよ」


 するとその話を聞いて望六は思った事を口走ってしまった。

 当然彼女はその言葉を聞き逃してくれる訳もなく、


「ああ? 何か言ったかセクハラ白髪」


 望六の胸ぐらを掴んで揺さぶりながら眼力で人が殺れそうな程の威圧感を掛けてきた。

 しかしタイミング良くチャイムが校内に鳴り響くと教室に木本先生が入ってきて、月奈からこれ以上の制裁は受けずに済んだようだ。


「よーし全員着席しているな。今日のHRの時間は転校生を紹介する。皆、挨拶はしっかりとするように」

「「「はいっ!」」」 


 木本先生は教卓の前に立つと全員に向かって転校生という言葉を放ってきた。

 まさかこの時期に転校生が来るとは誰も想像していなかったようで、望六を含めて教室内はザワつき始めていた。


「よし、入ってこい」

「はい! 失礼しますっ!」


 そう言って転校生らしき女子の声が聞こえて教室の扉が開かれると――――

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