閑話「在りし日のイタリア留学―中編―」
あのあと望六はアルベルタとカヴァロッティの後ろをキャリーを引きながら付いて行くとイタリアの高級車マセラティに乗ることが出来た。
……だが望六はその高級車を見て違和感にも似た何かを感じ取っていたが余り気にする事なく、イタリアの午後の街をオープンカーに乗りながら満喫していた。
車内での会話もアルベルタが日本語が堪能な事もあり、そこそこ望六は話せて交流が深まった気がした。
それと日本と違ってイタリアの建造物は彩りと言うかデザインが変わっていて、どれもこれもが望六にとって新鮮な光景で見ていて飽きなかった。
そらから三人を乗せた車は段々と街を離れて行き、やがて人通りも少なくなって完全に人影らし物が消えた所で停車した。
しかし望六は突然の風変わりした光景に口が大きく空いたまま塞がらないでいた。
何故なら彼が車に揺られて連れてこられた場所とは……、
「な、何なんだこの森の奥は!? しかもこれはログハウスか? にしては結構大きいようだが……」
そう、望六が今いる場所は名前も分からない森の奥で雰囲気はキャンプ場のような感じだ。
……だけどこれだけはしっかりと分かる。完全にマセラティでくるような場所ではないと。
「ここはカヴァロッティ家が所有する別荘の一部ですよ。ささ、時間的にはもう直ぐで夕食の時間となりますので急いで部屋へと案内しましょう」
望六が目の間の大きなログハウスを見て呆然としていると、車のエンジンを切って降りてきたアルベルタがそんな事を言っていた。
どうやらこのログハウスは別荘との事らしいが……やはり望六がここに来るまでに感じ取っていた違和感は当たったようだ。
というより普通に高級車で迎えに来られたら最初から分かるかも知れないが。
「も、もしかしてカヴァロッティさんって凄いお金持ちだったりすのか?」
アルベルタと同じくして車から降りてきた彼女に望六は萎縮しながら尋ねる。
「……そ、そんなことないよ。だけど普通の人達と比べたら多い方かも……」
相変わらず何処か暗い雰囲気を纏わせながらも自身が金持ちだと言う事を少しだけ認めていた。
だが柳葉家に住んでいる望六には直感的にだが分かるのだ。
別荘を持っていると言う事はそこそこではなく、普通に金持ちだと言う事を。
柳葉家にも無論だが別荘はあるのだ。しかしあるというだけで望六は実際に見た事はない。
「ちょっと二人とも、そんな所で立ち話していないで早く家に入りますよ」
アルベルタがログハウスの扉の鍵を外して中に入っていくと望六達も急いで後を追った。
そして望六が中へと入って辺りを見渡すと、そこはやはりログハウス特有なのか全てが木で作られていて何処となく落ち着く雰囲気を感じられた。
「す、凄いなぁ……。これが別荘という物なのか」
内装をざっと見た感じ空間的にも広くて家具が全てインディアン系で統一されていて、望六としては初めて異文化交流的なものをしたのかも知れないと妙にテンションが上がったいた。
しかしここはイタリアの筈なのだが、このインディアン系の家具はこの別荘の持ち主の趣味なのだろうか。
「えーっと、私は夕食の準備に取り掛かりますので部屋の案内はナタリア頼みますよ?」
「は、はいっ……任せて……!」
アルベルタから部屋の案内を頼まれると、カヴァロッティの声には覇気は感じられないもののやる気は充分にありそうだった。
そして望六は彼女に案内されるがままに部屋へと向かう。
だが案内と言ってもやはり互いに口数は少なく、どうしても気まずい雰囲気は出てしまうようだ。
望六は何とかこの雰囲気を脱しようと色々と思案を巡らすが、いまいちピンとくるアイディアが浮かばない。
「えっと……あの、部屋に着いたよ? 望六くん……」
「ん? あ、本当だ。いつの間に……って部屋広いな!? なんだこれ! 本当に俺一人で使って良いのか!?」
「も、もちろんっ……だよ!」
彼が色々と考えていた間に部屋の前へと到着していて、望六はその部屋を見て目が点になった気がした。しかしそれも無理はない。
普段彼が過ごしている部屋と比べてここは数倍広いのだ。
「まじかよ……。これは短期留学に放り込まれたのは当たりだったかもなぁ」
望六が思わず悪友達に感謝しそうになる程にこれは意外とありだったのだ。
だけど流石は海外だ。まさに土地が広いだけの事はある。
海外あるあるの部屋の広さに圧巻というのを、彼は今まざざまと思い知らされている。
「と、取り敢えず荷物は適当に置いて……いいよ。それから……えっとえっと……」
カヴァロッティと共に部屋に入ると、望六は言われた通りにキャリーバッグと背負っていたバッグを適当に置いたが彼女は何やらおどおどし始めたていた。
恐らく次の行動をどうしたら良いのか分からないのだろう。
「……あっそうだ。カヴァロッティさん! 俺達まだしっかりと自己紹介してなかったよな! だから今から自己紹介タイムと行こうぜ!」
そこで望六は唐突な閃が頭の中を駆けて行くと全世界共通の”自己紹介”をしよう言い始めた。
だが確かに二人は空港で出会ってからも色々とあって結局、自己紹介はアルベルタだけとなっていた。寧ろこれは良いタイミングなのかも知れない。
「えっ!? そ、そんな急に……」
「駄目だったら駄目で大丈夫だぞ? 無理にさせる気はないから安心してくれ」
出会ってまだ数時間だが望六はカヴァロッティの性格を少なからず把握してきていて、彼女の煮え切らない言葉を聞いてこれは駄目な方かと思い断りやすくしたのだが……。
「ううん大丈夫……だよっ! 自己紹介しよ!」
意外にも彼女は真っ直ぐと彼を見ながら返事をする。
「本当か!? よっしゃ、では俺から改めて自己紹介を!」
望六はその表情と声色を見てカヴァロッティは勇気出してくれたのだと少なからず分かった。
そして望六が軽い咳払いをしたあと、
「俺は日本のとある中学で平凡な学生活を送っている白戸望六で、親友にクソがつくほどのイケメン野郎と武力を愛する女友達が居るぞ! 無論だが彼女はいないっ!」
その場でくるっと回って手を上げながら格好良くポーズを決めた。この仕草は彼女の緊張感を緩める為に行った事だが、なかなかどうして変な気恥ずかしさが彼を襲っている。
「おぉ……! ぼ、僕もとある中学にて平凡な学生活を送っているナタリア・カヴァロッティですっ! お友達はいないけど、家政婦のアルベルタとは友達以上親友未満です!」
そう言ってカヴァロッティは彼と同じくその場で回って何かのポーズを決めると顔を真っ赤にしていた。望六はその光景を見て意外と彼女はノリが良い人なのかも知れないと思いつつ、友達が居ないと言う部分は触れない方がいいのかと悩んだ。
だが今はそれよりもこの台詞を言うのが何よりも大事だと彼は思い、
「じゃぁ二週間ほどの短い期間だけどよろしくな! ナタリア!」
そう言って右手を彼女の前へと差し出した。
「うんっ! よろしくね……望六!」
ナタリアは差し出しされた手を躊躇することなく握ってくると、彼女の顔には笑みが見えた気がした。しかし望六が急に彼女の事を名前呼びでしかも呼び捨てにしたのには理由がるのだ。
それは海外の人の名前が先に来ると言う知識を使って名前呼びにし、更に呼び捨てにすることで親密度を上げるという手段だからだ。
しかしこれにはデメリットもあり、いきなり名前で呼んだ挙句呼び捨てにして失礼な奴だと思われたらアウト言う危険な行為なのだ。
普通ならちゃんと相手に許可を得てからの方がいいのだが、妙にテンションが上がっていた望六はそれを無視したのだ。けれど存外彼女の方もそれは良かったのか彼の事を呼び捨てで呼んでくれた。即ち名前呼びと呼び捨てが許可された瞬間でもある。
「えっとその……夕食の時間になったら呼びに来るから……それまでこの部屋で待っててねっ!」
ナタリアが照れくさそうに手を離してから言う。
「お、おう!」
望六はつい勢いで握手をしてしまったが、女子の手を握るという行為自体は何気に大胆だったかも知れないと顔が熱くなる。
それからナタリアが部屋から小走りで出て行くと、望六は木製の椅子に腰を掛けて暫し休息を取ることにした。ここまで長時間のフライトに加えて突然山奥という謎の状況を整理する為にも一旦休むと言う行動は大事なのだ。
――だがしかし、イタリアに着いてから彼の体は変に疲れていたらしくうたた寝をしてしまった。だけどナタリアが事前に言っていたように夕食の時間となるとしっかりと呼びに来てくれて、望六は何とか本場のイタリア料理が楽しめるようだ。
「起こして貰って本当にすまないな。どうやらイタリアの空気は意外と俺に合うみたいだ」
リビングへと向かう途中で望六は寝ていた事を疲労とかではくイタリアの心地よい雰囲気にして言う。
「仕方ない……よ。日本からここまでは長い旅で……時差もあるかね。夕食は食べれそう……?」
だがその例えはナタリアには通じず至って真面目な返しをされた。
だけど確かに時差と言うのは少なからず彼の体に影響しているかも知れない。
イタリアと日本の時差は七時間ぐらいで、更に今は絶賛サマータイム期間だ。
色々と慣れない環境下ではあるが何とか気合で凌ぐのみだと望六は思っている。
「ああ、問題もないな! 俺はイタリア料理が楽しみでここまで来たと言っても過言ではないぞ」
「そ、そうなの? でも……良かった。アルベルタが作る料理は美味しくて量がいつも……おかしいから」
ちょうどリビングへと二人が到着するとナタリアが何やら不穏な事を言っていたが望六は余り気に留める事は無かった。
それよりも部屋いっぱいに広がるニンニクやオリーブオイルの匂いの方が気になってしょうがないのだ。
これはイタリア料理あるあるなのだろうか? その匂いが望六の鼻腔を突き抜けていくと若干寝起きだと言うのに彼の胃は覚醒したかのように急激に空腹感を与えてきた。
「あら、良いタイミングで来ましたね。ちょうど盛り付けが終わって完成した所ですよ。私としても今回の料理はPerfettoです!」
そう言ってアルベルタは大皿に乗ったパスタや生ハムを使った料理を次と机の上に乗せていくと、望六はここで漸く先程のナタリアの言っていた事が理解出来た。
確かに彼は目の前で次々と料理が置かれてく光景を傍観していると、これは量がおかしいと思わざる得なかった。
「あ、アルベルタさん? もしかしてこれ全部が今日の夕食ですか……?」
「そうですよ? 当たり前じゃないですか。ナタリアも望六さんも育ち盛りなので今回は特に多めに作りましたよ! さぁ、席に座って頂きましょう」
望六はそれを聞いて後悔にも似た感情を抱いていた。
しかしアルベルタが笑顔を見せながら自分のこと考えて作ってくれたと言う事は紛れもない事実で、彼の中では既に完食という二文字しかなかった。
何故ならそれが料理を作ってくれた相手への礼儀だからだ。残すや持ち帰りなんぞ言語道断なのだ。そして望六とナタリアは席へと座ると目の前には大量の豪華なイタリア料理達が二人を威圧するが如く置かれている。
「さあ、頂きますよ! デザートはティラミスもありますらね!」
「「……は、はい。頂きます」」
アルベルタのその言葉は二人への止めの一撃にも似た効果があったが、望六はあまり甘いものが得意ではない。しかし……これも作って貰った礼儀として乗り切るしかないのだ。
そうして望六は意を決すると……いや、胃を決するとフォークを右手に持って念願のイタリア料理へと手を伸ばした――
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「くっ……。この俺がまさか食べ物に圧倒されようとは……流石は異国の地だけの事はあるな」
アルベルタ作の大盛りイタリア料理を全て完食すると、望六は部屋に戻って椅子に背をあずけながら自分の腹を摩っていた。
そしてナタリアやアルベルタは今もリビングでテレビを見ていると思われる。
望六はテレビを見ても全てイタリア語で何を言っているか分からないので、早々に部屋に戻ってきたと言う訳だ。
「ああ、しかしこれが毎日出される量となると俺は何キロ太って日本に帰る事になるのやら……。流石に食べた分は手伝いという名の労働をした方が良いよな」
彼は食べた分は皿洗いや掃除をして働いて返すと共に、多少なりとも運動でカロリーを消費していこうと考えたのだ。いくらステイさせて貰っているとは言え、何もしないのは気が引けるのだ。
「よっしゃ! そうと決まればこの腹が落ち着いたら早速行動だな!」
椅子から立ち上がってそんな事を部屋真ん中で高らかに言うと、突然部屋の扉がノックされると共にナタリアのか細い声が聞こえてきた。
「の、望六くん! シャワーの準備出来たから……さ、先に入って良いよってアルベルタが!」
どうやら彼女はアルベルタに伝言を頼まれたらしい。
だが望六としては本当に先には入っていいのだろうかと疑問がある。
あくまでも自分は客人で本来なら家主が先に入るのではないだろうかと。
「わ、分かった! ちょ、ちょっと待っててくれ!」
しかし望六は疲労や腹が満たされた事により早くシャワーを浴びて寝たいという気持ちが少なからずあるもの事実だ。だが本当にそれは常識的に良いのだろうかと……。
彼はバッグから洗面具一式を取り出しながら思う。
「な、なあナタリア。本当に俺が先にシャワーを使っても良いのか?」
望六が洗面具を抱えて部屋から出てナタリアへと尋ねる。
「大丈夫……だよっ! 寧ろ先に使って貰わないと困るってアルベルタが……」
どうにも気になる言葉が彼女口から出てきたようだ。
一体先に使ってくれないと困るとはどういう事なのだろうか。
「えっ? それってどういう意味で?」
その言葉の意味を彼は確かめようとする。
「あっ!? こ、これは言っちゃいけなかったんだ……ご、ごめんなさい……!」
ナタリアはハッとした様子で口元を手で隠して何度も頭を下げて謝り始めた。
「ちょっえっ! そんなに謝るほどの事なの!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
だがそれでは益々望六とてしは真意が気になってしまう所だったが、取り敢えず一旦考えるのは辞めてシャワーへと向かう事を選んだ。このままでは彼女の腰が壊れそうな上に、やっと信頼関係が成り立ちそうな所で追求というのは避けた方が良いからだ。
「ご、ごめん。深くは聞かないから取り敢えずシャワーまで案内頼むよ……ははっ」
もはや彼は意図して苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「う、うん……任せて」
だがなんとか彼女は謝るのを辞めるとシャワー室まで案内してくれた。
そしてやはりと言うべきなのだろう、シャワー室も大きくて普通に落ち着かない感じだ。
しかし何処となく良い匂いがするのはボディーソープやシャンプーなどの影響なのだろうか。
望六がそんな事を思っていると唐突にも体に電流が走るが如くとある事に気が付いた。
それはこのシャワー室はあの二人も使っていると言う事だ。
即ちこの脱衣所には二人の下着や服が残されている可能性が無きにしも非ずという事だ。
「お、落ち着け俺よ。ここは異国の地イタリアだ。もしそんな事をしてバレたら普通に逮捕案件だぞ! ……しかしこれは気になってしまった以上確かめたい!」
そう口走った彼は既に腰に布一枚を巻いて脱衣を物色し始めていた。
と言っても漁るという愚息な事はしていない。流石にそれは確定的な犯罪となってしまうのだ。
だから望六はあくまでも視界に映った場所だけを見て、あるかないか判断しているのだ。
「……おっとぉ!? この黒色の布はもしかしてパンツという物ではないだろうか!」
あらゆる方向に顔を向けて探していると、ついに彼はカゴの中で大量のタオルの下敷きになっている黒色の布端を見つけたのだ。そして望六はその布を取り出して確認すべきか悩む。
「ここは童貞としていや、好奇心に任せて確認するべきか? それとも何事も無かったかのようにやり過ごすか……。ふっ、どれもこれも違うなぁ! 俺は目の前に餌が落ちているのを黙って見ているような間抜けじゃねえ! 故に答えはたった一つだぁぁあ!」
望六はそう叫び声をあげながらタオルの下から黒色の布を引っ張り出すと、それは確かに下着であった。しかも白色の刺繍で髑髏の絵柄が入っていて中々にファンキーな物だ。
「ふむ。これはアルベルタさんかナタリアか……どちらにせよ下着という事には変わりない! はっはは! これも留学としての思い出だな」
彼は下着を両手で持つと左右や上下に引っ張り伸ばして見て、次に匂い……という上級者の道へと進もうとしていたが――
「大丈夫ですか望六さん! 今の叫び声は……いっ……たい……」
「……きゃ、きゃぁぁぁあ!」
突然にも脱衣所の扉が開かれるとそこにはアルベルタとナタリアが立っていて、その視界には恐らくしっかりと望六が下着を顔に近づけようとしている場面が映っている事だろう。
その証拠にアルベルタは言葉を失い、ナタリアは叫び声を上げているのだから。
「……お、おわた」
彼はその言葉を最後にその日の記憶はそこで途絶えた。
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