32話「そして別れは突然に」
祝いの会は途中から尋問の会へと趣旨が変わると、その後は望六は女性陣に言い訳を述べるのに時間を費やした。
だがそれでもクラスの女子達との蟠りが少し解けたのは大きな収穫と言えよう。
それにエレーナやメリッサ達も一組の人達と仲良くなっていたようだ。
……だが望六には一つ気になる事がある。それは何時ぞやの魔法実技の授業で月奈に魔法を向けて放ったであろう女子達が居なかった事だ。
やはり蟠りが解けたと言っても、まだまだ問題は残っているのだろう。
そして色々とあったが、今は寮の自室へと戻って望六と一樹は共にゆっくりとしている。
時刻は既に夕食も終わって十九時半を過ぎた頃で、明日は月曜日という憂鬱な一週間の始まりだ。やっと決闘という面倒事が終わったとしても普通に授業は続いていくのは、何たる無情な事だろうかと望六は考えずには要られなかった。
だが取り敢えず明日も頑張る為にビーストエナジーと言われている、所謂エナジードリンクを買ってこようと望六は思い立つ。
「ちょっと飲み物買いに階段横の自動販売機に行くけど何かいるか?」
彼はベッドから立ち上がって財布をポケットに入れながら一樹に訊ねると、
「あぁ~そうだなぁ、四ツ矢サイダーを頼むっ!」
「りょうかい~」
一樹は椅子に座りながら視線だけ向けて答えると、望六は自室から出て自動販売機が設置されている階段横へと向かった。
「ん~流石にこの時間だと、皆自室でゆっくり過ごしている時間帯だな」
そんな独り言を呟きながら彼は歩いていると、ふと背後に多数の視線を向けられている気配を感じ取った。望六はその気配に従うように振り返ると、そこには薄着の格好をしたクラスの女子達が多数彼を見ていたのだ。
「えっ……? ど、どうしたんだ?」
当然望六の口からそんな言葉しかでなかったが、それと同時に視線のやり場に凄く困った。
何故ならその女子達の多くの格好は薄着のシャツや短パン。
さらには本当に下を履いているのかどうかも分からない、大きいサイズの服を着て下を隠してる服装の女子までいるからだ。
「あ、いや何でもないよっ! たまたま廊下を歩いていたら、望六くんが居たから見てただけだよ!」
「「「「そうそうっ!!」」」」
最初に彼と目があった女子がそう言うと後からそれを肯定する声が聞こえてきた。
しかしその声は何故か皆一様に上擦った声をしていて望六は凄く気になった。
それと最初に目があった女子は服装がノースリーブだった事もあり、彼としては凄く嬉しかった。やはり腋フェチを自称している者としては、あの服装を着ている女子には一番最初に視線を向けてしまうのだろう。
「そ、そうか……。廊下は冷えるから風邪引かないよにな~」
「「「「「は~いっ!!」」」」」
望六はそう言ってその場を後にすると自動販売機まで走ってたどり着き、ビーストエナジーと四ツ矢サイダーを購入した。
……だが彼の頭の中は先程の女子達の服装や仕草が色濃く刻まれていて仕方がない。
「あぁー、にしても生まれて初めて妹達以外の女性の薄着姿を見た気がするなぁ。これも女子寮に居るからこその特権かも知れん。まぁこんな事を妹達に言ったら顔だけ出して土に埋められそうだけど」
望六は両手に飲み物を抱えて自室へと戻ろうとすると、その後は特に何も起きなかった。
「ほれ~。ご所望の四ツ矢サイダーを買ってきたぞ~」
「おお! サンキューな!」
自室へと戻ってくると望六は一樹に買ってきた物を渡して、自分のビーストエナジーは冷蔵庫へとしまった。明日の朝にでも飲もうと思っているのだ。
それに今飲んだら目が冴えてしまって寝れなさそうと言う理由もあるのだ。
「あっ、そうだそうだ。実は飲み物を買いに行く途中でな――」
望六はサイダーを飲んでいる一樹に廊下で起こった出来事を話し始めると、その日はあっという間に消灯時間となり二人は翌日の授業に備えて寝ることにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして月曜日の朝を迎えると、いつもと変わらずに望六達は食堂で朝食を済ませていた。
だがこれは些細な出来事なのだが、いつものメンバーにシルヴィアとメリッサが加わったと言う事が新たな進展だろうか。
そのおかげで一樹の隣の席は取り合いになっているようだった。
朝から二人の女子は一人の男を射止める為に必死のようで、随分と賑やかな会話が繰り広げられていたぐらいだ。
……だがその中、望六はメリッサと共に落ち着いた朝食を過ごしていたのだ。
やはり彼女は食事のマナーも良くて隣で食べている彼が変に緊張していたのは内緒だ。
そしてそんな賑やかな朝食を済ませた後は普通に授業が始まって望六は眠気との戦いをしていた。だが二時間目の授業が終わると七瀬が彼の元へと近づいてこんな事を耳打ちしていったのだ。
「この前の検査結果が出た。付いてこい」
その声は周りには聞こえない程度の声量で望六は徐に席から立ち上がると、一樹と月奈に「呼び出し食らったから言ってくるわ」っと告げて七瀬の後を追った。
すると彼は何時もの談話室へと連れてこられて、どうやらここで結果を教えてくれるみたいだ。
七瀬が先に入っていくと当然望六も後に続いて入っていく。
「おっと、やっと来たね。まったく遅いよぉ~! 休憩時間終わっちゃうよ!」
談話室に入ってそうそうに望六の視界には白衣の痴女と保健室の癒し谷中先生が映った。
「ああ、遅れてすまない。……では早速だが結果を教えてくれ」
「は、はい……! まず私が担当のレントゲンの結果ですが、特に異常は確認できませんでした」
望六は谷中先生の異常はないという言葉を聞くと、どこか安堵したような気持ちになった。
だがあれだけの事が出来るのに異常がないとは到底思えないという気持ちも同時に芽生えた。
あれ以来、彼の頭に少女の声が聞こえることはなく。能力も無属性だけで平凡のままだ。
「異常がないだと? ……そうか。次は亜理紗、お前の方はどうだった?」
「私の方も異常はなかったよ~。ただ……」
七瀬は視線を亜理紗に向けて尋ねると、彼女の答えも同じものだったが後半の言葉には変な間があった。
「ただ……? なんだ言ってみろ」
「うーん。これは憶測だから言えないかな。間違った事を言ってもしょうがないからね」
亜理紗は珍しくホワホワした声ではなく真面目そうな声色で言うと、七瀬は険しい表情を浮かべていた。だが望六は三人の先生方の言葉を聞いて分かった事がある。
それは結局何一つ異常は無かったというただ一つの事実であった。
「つまり望六の魔法については何一つ分からないという事か……くそッ」
「まぁまぁ、七瀬ちゃんが怒った所で何も変わらないんだから落ち着いてよぉ~」
七瀬は彼の魔法について何も結果が出ない事に苛立っている様子で、それを横から亜理紗がホワホワした声で宥めていた。
「チッ、そんな事は分かっている! ……おい望六、何か異変や違和感を感じたら直ぐに知らせろ。分かったな?」
「は、はい……」
急に七瀬は睨みを効かせながら彼に向けて言ってきた。
七瀬は七瀬で彼の身を案じてくれているのかも知れない。
だけど脳内に囁いてきた少女の事を言っても信じては貰えないだろうと望六は思う。
――そして、その日はそんな事があって一日が終わった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから次の日の朝を迎えると望六達は学園専用の電車が走っている駅のホームにて集まっていた。だが、これには深い理由があるのだ。
実は今日でメリッサとはお別れなのだ。
昨日の夕食の時にシルヴィアが話していた事だが、メリッサは本来イギリスの魔法学園にて在籍していて日本のWM学園にはシルヴィアの付き添いという形で特別に数日程の滞在が許されていたらしいのだ。
「別に見送りだなんて、しなくても良かったんですけどね……」
「そういう訳にはいかないだろ! 俺達は同じ食堂の飯を食べた仲じゃないか!」
メリッサが空港行きの電車を待ちながら言うと望六の隣からは一樹が熱い言葉で返していた。
こういう時、彼みたいに思いがそのまま言葉に出せるのは一種の強みだろう。
望六がそう思っていると月奈が一歩前へと出て、
「イギリスに帰っても私の事を忘れては駄目だぞっ! 私達はズッ友だ!」
「もちろんです月奈さん。私達はズッ友です……!」
二人は熱い握手を交わしていた。
……だがいつの間に月奈とメリッサはズッ友と言えるほど仲が良くなっていたのだろうか、女子同士のコミニュケーション能力は侮れない。
「さあ望六さん、最後は貴方番ですよ。格好良い言葉を期待していますの」
「か、格好良い言葉って……」
シルヴィアが彼の背中を軽く叩いて笑みを見せてくると、望六は緊張しながらもメリッサへと近づいた。
「望六さん……」
「お、おう。……こういう時に何て言ったら良いのか分からないんだけどな……ははっ」
緊張のせいなのか彼は中々メリッサと顔を合わせれないでいた。
だけどメリッサは真っ直ぐ自分を見ているような気がすると望六は感じ取っていた。
……それから彼女は静かにこう彼に伝えてきた。
「私はイギリスに帰ろうとも望六さんに抱いた気持ちは絶対に変わりませんよ。だから今度また日本に来た時は、貴方を本気で落としにいきますからねっ!! ……覚悟しておいて下さい」
その言葉が望六の耳に入ってくると自然と彼の顔はメリッサと視線を合わせていた。
刹那、望六の中では格好良いとは程遠い別れの言葉が浮かび上がってきた。
――――これが不器用な彼が最後にメリッサへと送る別れの言葉。
「ああ、覚悟しておくよ。それと俺はまだメリッサに勝利した時の条件を言っていなかったを思い出した。……だから今ここで言うぞ」
「は、はいっ……」
望六がメリッサに勝った時の条件は【いついかなる状況でも俺の言う事を聞く】というものだった筈だ。……だからこそ、これが現状一番良いと彼は思っている。
「ちょっ! 今そこで言うのかよ!?」
「おい! 時と場所を弁えろ! どうせお前の事だから変態的な願いだろ!」
「しっ!! 静かにですの。お二人とも」
望六の発言を聞いた一樹と月奈は普段の彼をイメージして騒いでいる様子だが、シルヴィアは何かを悟ったらしく二人を抑えていた。
それに対して彼は『ありがとう』とシルヴィアに心の中で感謝を伝える。
「……では言うぞ。メリッサはイギリスに帰って何か悩み事や、相談事があったら気兼ねなく俺に連絡すること。い、以上だっ!!」
「……ええっ?」
望六は思った事を言っただけなのだが顔中が熱くなっていくのがはっきりと分かる。
しかもメリッサの反応は何とも微妙そうだ。
……だけど少しの間が空くと彼女は微笑みながら口を開いた。
「……ふふっ。大丈夫ですよ望六さん。私はイギリスに帰ってもちゃんと電話しますよ。何故なら私は意外と寂しがり屋ですからね。……あ、そろそろ別れの時みたいです」
メリッサが視線を線路側に向けると空港行きの電車が駅のホームへと到着した。
「それでは皆さん、お嬢様をよろしくお願いしますね。ではさようならです」
望六達の前で一礼をするとメリッサは電車へと乗り込んだ。
「お母様によろしくですのっ!」
「イギリスの学園でも頑張ってな!」
「風邪には気をつけるだぞ~!」
三人は思い思いの言葉をメリッサに言っていた。
例え短い期間であっても彼女は望六達にとって大事な親友なのだ。
それは何処に行っても変わることは無いだろう。
望六もメリッサに手を振って何か気の利いた言葉を伝えようとすると、
「……ッ! 望六さん!」
メリッサは電車に荷物を置いて急に飛び出して来た。
そのまま彼女は駆け寄って抱きついてくると、望六は頬に柔らかくて瑞々しい何かが触れた気がした。
「なっ!?」
――そしてメリッサは直ぐに離れるとそのまま電車へと戻っていき、彼が唖然としている間に電車は空港に向けて出発してしまった。
「あっ!? め、メリッサ……!」
望六は我に返るとすぐさま声を出したが当然聞こえる訳もなく電車は走り去っていった。
だけど彼の耳にはしっかりと残っている。
メリッサが離れる時に耳元で「次は……唇同士で出来る事を期待していますよ」という言葉を囁くように言っていたことを。
どうやら春が到来したのかも知れないが出会いと別れは突然なものらしく、望六の中で嬉しいや戸惑いという複雑な感情が入り乱れて悶えていると、横からは三人がニヤニヤとした表情で自分を見ていた。
「キスされたよなぁ~?」
「あれは純然たる……き、きき、キッスだったな!」
「ええ、紛れもなくキスッをされていましたの!」
この三人はちゃんと見ているとこは見ているらしい。だが望六は妙に興奮していた三人からの質問責めを軽くいなして学園へと戻ると、今までに感じた事のないぐらい心の芯が温まった気がしのだった。
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