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31話「少年の勝利を祝ってくれるのは、まさかのクラスの女子達!!―後編―」

 朝起きると望六は一樹と月奈に拉致される形で食堂へと向かわされると、そこには大勢の女子達が彼の方を見ながら微動だにしていなかった。そして望六はその女子達の威圧と視線により、胃がきりきりと痛み出すのを感じていた。


「なぁ望六。あれを見てみろよ」

「なんだよ……?」


 一樹はとある方向に指をさしてそれを見るように言うと、望六はなるべく女子達に視線を合わせないようにその方向に視線を向けた。

 すると彼は自身の目を疑わずにはいられなかった。何故ならそこには――


「な、なんだよ!? これは!!」


 望六が見たのは木製のボードに【私達を守ってくれてありがとう&勝利おめでとう!】と可愛らしい文字で書かれている物だったからだ。

 しかも文字の周りには熊や猫の絵が描かれていて女子力が高そうだ。


「こ、これは一体どういう事……だ?」

「うーん、俺に聞くより直接本人達に聞いてみた方がいいぞ~」


 望六は急な出来事に焦りながら横に居る一樹に聞くが彼はニマニマした表情を浮かべながら”直接本人達”という言葉を強く言っていた。

 

 つまり周りにいるクラスメイトの女子達に直接聞けと一樹は言っているのだ。

 本当に悪魔か何かの生まれ変わりなのではないだろうか。


 だが月奈の方に聞いても同じ答えが返ってくると今の望六には分かる。

 何せここに連れてきたのは、この”二人”なのだから。

 彼は心の中で意を決すると怯えながらも視線を女子達に向けた。


「あ、あの……。これは一体どういう事「望六くん! 本当にごめんなさい!!」……ほえ?」


 望六は近くに居た女子にこの状況を尋ねると、その女子は勢い良く声を発しながらお辞儀を何度も繰り返していた。そのお辞儀の勢いたるや腰を痛めそうなほどのものだ。


「だ、大丈夫だから! そんなに謝らなくても大丈夫だから!!」

「ごめんないごめんないごめんない!!!」

「や、やめろっ! それ以上は腰が馬鹿になるぞ!」


 望六は女子に向かって謝らなくて良いと何度も伝えるのだが、一向にお辞儀と謝罪を止めないのでつい大声で言ってしまうと女子はピタリと動きを止めた。


「……だ、だけど私達は望六くんを差別するような視線や態度を何度も……」

「本当に大丈夫だから! 俺意外とメンタルは強い方だから!!」


 女子は視線を下に向けながら弱々しい声で言うと、彼は咄嗟にフォローするように嘘を伝えながら親指を立ててグッドポーズしながら平気を装う事にした。


 本当は全然豆腐メンタルだなんて、とてもじゃないが言える雰囲気ではないだろう。

 というより何で自分の祝いの会で気を使っているのだろうかと、望六は少しばかり冷静になってしまった。


「あ、あの望六くん! 本当に今回はごめんなさい!! ほら皆も謝るよっ!」


 今度は横からカチューシャを身に着けた女子が謝りながらお辞儀をしてくると周りの女子達にもそう言っていた。そして周りに居た女子達は、


「「「「「望六くんを差別するような態度……本当にごめんさい!! そして試合の時に観客席に飛んできた魔法から私達を守ってくれてありがとうございます……!」」」」」


 深々と謝罪をお辞儀を見せつけてくると望六は漸くこの祝いの会の意味を理解する事ができた。

 だからこそあの木製ボードには守ってくれてありがとう言う言葉が書いてあったのかと。


「という訳だ。だから俺は心配すんなって言っただろ?」

「そんな事言ってたか? 俺の記憶にはないがな。……だが無理やりにでも連れてきてくれて、ありがとうな二人とも」


 一樹がタイミングを見計らって話し掛けてくると望六は素直に月奈と一樹に感謝していた。

 きっと二人が無理やりにでも引っ張らないと、この場に来る事はなかっただろうから。


 だが今の望六は来てよかったと思えている。

 こうしてクラスメイト達の蟠りが少しだけ解けた気がするからだ。

 

「うむ、その感謝素直に受け取っておこう。そして私も観客席で試合を見ていたが魔法が観客席側に飛んできた時は肝を冷やしたものだ。これは私もお前に礼を言わねばならないだろう。ありがとうな」


 月奈が珍しく素直な事を言うと、いよいよ地球は明日にでも崩壊が始まるのではなかいと望六は一瞬考えてしまった。

 

 いつもなら暴力を駆使して肉体言語を使ってくるというのに本当に昨日からどうしたのだろうか、望六は謎が深まるばかりであった。

 しかし今の彼にはこの言葉を言わないといけない使命感が体の底から湧き起ってくる。


「お礼はおっぱいでも構わんぞ?」

「ふっ……。ああ、良いとも。だが私の胸は硬いがな」

 

 月奈はそう言って()()()を作ると、彼を見ながらニヤリと笑みを零してきた。刹那、望六は思った。

 もう既にそれはおっぱいじゃない。それは拳という凶器だと。


「さぁ存分に味わってくれ。私の胸という拳をなッ!!」

「クソッ! それは無理があるだろう月奈ぁぁあ!!」


 彼は月奈から繰り出された恐ろしく早い拳を自身の鳩尾辺りで受け止めると一瞬だけ吐き気がこみ上げてきたが何とか気合で耐え抜けると、近くの机に手を乗せて倒れないよう体を支えた。


「ほぅ、望六さんは胸の大きい方が好みなのですね」


 すると背後から冷たい声色でそんな事を唐突にも言われた。

 そして望六は恐る恐る後ろを振り返ると……、


「め、メリッサ……」


 そこには以前、彼をブタ野郎呼ばわりしていた時の雰囲気を醸し出しているメリッサがシルヴィアと共に立っていたのだ。

 

 しかも何故か今日の彼女の服装はメイド服で、よりによってこのタイミングで現れるとはと望六は思わずはいられなかった。


「こらメリッサ、今日は望六さんが主役ですの。無駄な争いは控えて下さいまし」

「あっ……す、すみませんお嬢様」


 メリッサは目を鋭くさせてジト目で彼を睨んでくるとシルヴィアが横から注意をしていた。

 それは望六からすると実に有難かった。

 これであの懐かしき”ブタ野郎”呼びを聞かずに済むからだ。


「おっ、シルヴィアちゃんと来てくれたのか! ありがとうな!」

「一樹さん! いえいえ、招待されれば応じるのがイギリスマナーですの!」


 一樹がシルヴィア達の存在に気がづくと声を掛けて、シルヴィアはハキハキとした様子で返事をしていた。しかし一樹の隣には月奈が立っていて『ここは私の場所だ』と言わんばかりの雰囲気を醸し出している。


 そしてそれに気が付いたのかシルヴィアは月奈と睨み合い始めて、一樹は二人の様子を交互に見てキョトンとしているようだ。一体なぜその状況でそんな表情ができるのだろうか、望六はそのうちに一樹が他の女子に刺されないか心配でならない。


「あ、あのー。ここって望六君を祝う会で合ってますか?」


 彼が一樹の心配をしていると突如として透き通るような声が聞こえてきた。

 そう、先輩の声だ。望六を勝利に導いてくれた尊敬すべき恩人である。


「先輩! 合ってますよ!!」

「あっ、望六君。よかったぁ……人が予想以上に多くて間違えたかと思いましたよ」


 彼は手を振って存在感をアピールすると、どうやら先輩は気づいたらしく真っ直ぐ望六の方へ歩み寄ってきた。


「来ていただいて本当に嬉しいですっ! ありがとうございます!」

「もちろんですよ! 何せ私の弟子が自慢出来るのですから!」


 先輩がそう言って決め顔を見せてくると、先輩もそういう表情をするのだと望六は始めて知った。特訓をしている時の先輩は常に冷静なイメージが強かったからだ。


 ……しかしなんだろうか、先輩が現れてから周りの雰囲気ががらっと変わった気がする望六である。なんなら周りの女子達とメリッサが凄く睨んでいるような気がしてならないのだ。

 そんな雰囲気を感じ取ると望六は意識を周囲へと向けた。するとその答えは直ぐに分かった。


「あっそうか! まだ皆に先輩を紹介していなかったな!」

「へっ……? 私は皆さんによろしくと前もって望六君に伝えた筈なのですが……」


 そう言えば先輩はそんな事も言っていたような気がしないでもない望六であった。

 だけど彼は女子達が怖かったので、よろしく伝えるなんぞ出来る訳もないのだ。


「ごめん先輩! 自己紹介お願いしますっ!」

「はぁ……。仕方ないですね」


 望六は両手を合わせて謝罪の仕草を取ると、先輩は呆れた表情を浮かべていたが自己紹介をしてくれるようだ。


「では、一年の皆さん初めまして。私は【Елена(エレーナ)Урнова(ウルノヴァ)】ロシアの魔術留学生で二学年です。よろしくお願いしますね」


 先輩は綺麗な声で名前と国籍を言うと望六はその時始めて先輩の事を知る事が出来た。

 しかし彼としては先輩の名前を知るのにかなりの時間を掛けたというのに、何で一樹達はあっさりと教えて貰っているのかと少々解せない気持ちもあった。


 ――そしてその後エレーナはシルヴィアやメリッサ達の他にも一組の女子達とも仲良くなったようで、望六は学園に入学して以来始めてこんなにも楽しい気分に浸れていた。


 さらに食堂の一角を使わせて貰っているのにも関わらず、ちょっとした料理やジュースも食堂のおばちゃん達から提供してもらっているのだ。本当に感謝に尽きる。


「おいシルヴィア! 一樹に近づき過ぎだぞ離れろ!」

「あら、イギリスではこれが普通ですのよ? 月奈さんはだいぶ奥手ですの」

「な、なにを……っ!!」


 そんな会話が不意に聞こてくると、どうやら一樹の方でも仲良くやっているようだ。

 しかし月奈にはライバル登場っと言った感じだろう。

 これは一体どちらを応援すべきかと望六は思い悩む。


「はいはーい! ちょっとごめんねー!!」


 望六がそんな事を思って棒立ちしていると女子達の波をかき分けて、黒橡色のショートヘアをした女子が首から一眼レフカメラをぶら下げて彼の前へと現れた。

 そしてその女子は甲高い声で唐突にも、 


「突然でごめんね!! キミが魔法攻撃を魔法を使わずに消滅させたという、影で物凄く噂になっている話題の一年かい!?」


 望六にそんな質問を投げかけてきた。

 しかし彼には身に覚えが……と思ったが、恐らくメリッサとの決闘の時に使った能力の事だろう。だけど噂とはなんだろうか、望六的にはそっちのほうが気になっていた。


「魔法を無力化したことは事実ですけど……。影の噂ってなんですか?」


 彼は噂の方を聞こうとすると、その女子はいきなり望六の手を両手で掴んで目を輝かせながらこんな事を言ってきた。


「おお! やはりキミが噂の白戸望六君! 別名【魔法を無力化する黒き候補生】だね!!」

「……はぁ?」


 望六は女子から言われた別名とやらに耳を疑わずにはいられなかった。

 何故かは知らないが彼の知らない所で勝手に二つ名が付けられていからだ。

 

 しかもセンスが微妙な感じだ。黒き候補生ってなんだろうか。もっと他に良いのがあっただろうにと彼は思うが、今はそんな事を言っている場合ではない。


「ちょ、ちょとまって下さいよ! まず貴女は一体誰なんですか!?」


 望六は握られている両手を振りほどきながら女子に尋ねる。

 するとその女子は慌てたように懐から一枚のカードを取り出すと、それを彼の前に差し出してきた。

 

「すみませんね! ネタが落ちているとつい我を見失いがちで! 私は二学年の【筑波(つくば)(はる)】です! 所属は工学科でWM学園の広報隊をやっています!」

「は、はぁ……。広報隊とは一体?」


 望六はカードを受け取って確認すると確かに名前と二年工学科と書かれていた。

 所謂このカードは名刺みたいなものだろう。


「いい質問ですねぇ! 広報隊とは学園内で起こった出来事を記事にして学園の提示版載せたり、新聞にして発行したりして情報を発信している委員会みたいなものです!」

「な、なるほど……」


 望六は春の説明に頷きながら返事をする。

 つまりは学園の情報屋といった認識で問題ないだろう。

 

「そして今日は魔法を切って無力化した前代未聞の候補生と、魔術留学生に勝った男性初のAランク魔術士候補生に取材をしに来ました! という訳でよろしくね~。二人とも!」

「えっ、俺もかよ!?」


 一樹の驚いたような声が聞こえてくると春は有無を言わさずにその場でインタビューを開始するかのように、ボイスレーコーダを二人の顔の前へと近づけてきた。


「では、簡単に好きな女性の()()()()()()をお願いします!」

「「はぁ!?」」


 春は一体二人に何のインタビューをする気のだろうか、こういうのは普通試合後の感想とかそういうのじゃないだろうか。特にフェチに至っては絶対に関係ないだろうと望六は思う。


「さあ早く! じゃないと勝手に捏造しますよ!!」


 捏造とか言い出したが、これでも学園公認の情報屋なのだろうか。

 だが早く答えないと本当に捏造されそうな雰囲気ではある。

 

 ならば、ここは望六が一番手で答えるしかないだろう。

 一樹はこういう質問は苦手だと言う事は彼は知っているのだ。


「えーっと好きなタイプは一途な人でフェチは腋です」


 望六は先輩やメリッサ達、更にはクラス女子達が見守る中で堂々と答えた。

 勝手に捏造されるよりかは真実を自ら言ったほうが、まだ幾分か良いと思えたのだ。

 

 そして彼の発言に周りの女子達は何とも言えない表情を浮かべていたり、自分の腋を何故か確認する素振りを見せる女子達が数人居た。


「おぉ……フェチが腋ってキミ意外と変態だね! じゃぁ次は一樹君!」

「お、俺は元気で活発な人かな。それとフェチは……うなじです……」


 一樹は恥ずかしいのか後半の声が凄く小さかった。だが春にはしっかりと聞こていたみたいで、


「なるほど。一樹君はうなじフェチで明るいタイプが好きなんだね! ……よしよし、良い記事が書けそうだ! じゃ、取材受けてくれてありがとうね~!」


 そう言って春は最後にカメラで二人を撮影すると手を振りながらどこかへ走り去っていった。

 と言うより取材を受け入れた気持ちは一切ないのだが、寧ろ強引に受けさせられたのだがと望六は形容しがたい気持ちを抱いた。


「なぁ望六。何か周りから凄い視線の数々を向けられているんだが……?」

「奇遇だな一樹よ。俺も今、それをちょうど思っていた所だ」


 春は大きな爆弾を残していくと望六と一樹は、周りに居る女子達から好機な眼差しや恥じらいの篭った視線、さらには怒っているのか額に青筋を張りながら睨みつけてる視線。


 色々と混ざり合った視線を一心に身に浴びていると、望六の祝いの会はもはや公開処刑の場と変わり果てていた。

 

 しかも望六達はこの場から逃げることも出来なさそうである。

 女子達が既に二人を取り囲むかのように円形に広がっているのだ。

 一体いつの間に打ち合わせでもしたのかと聞きたくなるぐらい俊敏で周到だ。


「さて一樹? 元気で活発な女子とは誰のことだ?」

「そうですの! それにうなじフェチとはどういう事ですの!」

「い、いやそれは……その……」


 一樹は早速、月奈達から質問責めに合っているようだった。

 そして望六の方にも二人の女子が近づいて来て、


「望六君、一途な人って誰かな? 先輩に教えてくれませんかぁ?」

「あと腋フェチについても詳しく聞きたいとこですね……ふふっ」


 エレーナとメリッサは顔に影を落としながら聞いてくる。


「あの、えと……その……」


 変な汗が頬を伝って落ちていく感覚を覚えると望六は今から二人に言い訳を述べて、この状況を何とかしないといけないようだ。

 だかこれでは最早、望六の祝いの会というよりかは尋問の会であった。

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