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30話「少年の勝利を祝ってくれるのは、まさかのクラスの女子達!!―前編―」

 検査を終えたあと望六は体を労わる為に、その日は特に何もせずに寮の自室でゆっくりと過ごそうと決めていた。そして彼が自室のベッドの上でスマホを触りながらゴロゴロしていると、一樹と月奈が一緒に部屋に戻ってきて唐突にもこう言ってきたのだ。


「明日は望六の勝利祝いを食堂でするぞ!!」

「うむ、だから明日は空けておくように。……しかし普段から私の胸ばかりを見ているお前があそこまで強いとは思わなかったぞ」


 望六はその言葉を聞くとスマホをベッドの端に置いて起き上がると、姿勢を正してから二人へと視線を向けた。


 一樹は決闘を終えたばかりだと言うのに、もういつも通りの動きと爽やかな笑顔を望六に見せてくる。本当に彼の体力と回復力は人間離れしているように見えて仕方がない。

 さっきまで望六と一緒に傷だらけの体で息も絶え絶えになっていたと言うのに。


 さらに月奈はちょっとモジモジした雰囲気で彼を褒めてきた。

 きっと明日は雪でも降るのだろう。

 彼女には悪いが望六は心の片隅で少しそう思ってしまったのだ。


「なるほどな……。別にそれは構わないが、だったら他に招待したい人が居るんだが良いか?」

「ほう、お前には私達以外の親友が居たのだな。無論連れてきても良いぞ。何せこの祝いの会を企画したのはクラスの女子達だからな」


 望六は月奈の放った祝いの会の企画者に表情筋が固まったのを感じた。

 一体それは何がどうしてそうなったのか、なぜ自分を嫌っている筈の女子達が祝いの会を企画したのかと言う不信感。


 ……そんなのは誰に聞かずとも分かる。十中八九何か意味深な部分があるに違いない。

 きっと祝いと称して何かしてくる気ではないだろうかと。


 寧ろそれなら容易に望六は想像できた。恐らくだが祝いの会に、のこのこと出席したら女子達から「うわっ本当に来たこの男」とか「うける。本気で祝って貰えると思ったんだ」とか言われて心が粉々に砕け散るという展開が。


「あ、あの……。やっぱりその祝いの会はやめ「心配しなくても大丈夫だぞ! クラスの女子達が企画したのは本当だが、皆は何か望六に伝えたいらしいんだ!」そ、そう……」


 どうやら一樹は彼の表情を見て悟ったらしくそんな言葉を言ってきた。

 だがしかし女子達が何か伝えたいと言うのは、それ即ち望六が今考えていた事だと同じ事ではないだろうか。


「おい望六。今更辞めるとか巫山戯た事は言うなよ。男が一度言った言葉は最後まで責任を持て。そしてもし明日ドタキャンしたら覚悟しておけよ? 一応迎えには来るがな」

「大丈夫だぜ月奈! 俺が逃げられないように見張っとくからな!」


 望六の表情は月奈にも見破られていたようで、二人して彼の逃げ道を確実に塞いできている。

 これは逃げようにも逃げられないだろう。


「わ、分かったよ……。ちゃんと出るよ……はぁ」


 彼の口から深い溜息が出て行くと、思えばこの学園に入学してから望六は一度も落ち着く時間が無い気がしてしょうがない。彼としては本当にこれ以上の問題事は増やしたくないのだ。


 そして一樹と月奈がそれだけ伝えると、その日は夜は特段何か起こる事はなかった。

 強いて言うなら夕食を食べに食堂に行こうとすると、クラスの女子達が今までにない視線を多数望六に向けていた事ぐらいだろう。


 だがその視線は別に嫌悪感とかを孕んでいる訳ではなく、どこか興味を抱いてるような不思議な視線だったのだ。


 あと食堂に着くと何故かシルヴィアとメリッサがタイミングを見計らったかのように現れて、一緒に夕食を食べた事ぐらいだ。

 

 しかし流石はお嬢様とメイドだ。食べる物が全然庶民ぽっくなかった。

 二人は肉厚なA5ランクステーキをレアで食べていたからだ。

 おかげで望六達は周りからは変に注目を浴びていたが、きっと浮いている訳ではないだろう。


 あと恋人同士にしか許されない禁断の行為『あーん』をシルヴィアが何の躊躇もなく一樹にやっていて、月奈から阿修羅のような怒りのオーラが滲み出ていて凄く怖かったのを望六は覚えている。


 そしてこれが一番驚いたのだが一樹は何を思ったのか、望六の勝利を祝した会にシルヴィアとメリッサを招待したのだ。

 しかも二人は一樹から事情を聞くと二つ返事で承諾していたのがまた謎であった。


 本当に大丈夫なのだろうか、特にメリッサは。

 一応、形式上は彼の勝利を祝う会になっているはずだ。

 

 望六はそんな微妙な気持ちのまま夕食を過ごすと、やがて各自の自室へと戻る事になった。

 あと自室へと戻っている最中に一樹が唐突にも言っていた事だが、望六のデバイスに雷属性の魔法を勝手に入れたのは彼らしい。


 なんでも朝寝ぼけている時にUSBを間違えて望六のデバイスに挿していたとの事だ。

 一体どう寝ぼけていたら間違えられるのやら。

 流石は能天気キャラの一樹の所業といったところだろう。


「さてさて、飯風呂も済ませたし後は寝るだけだな」

「そうだな。……てかお前は時間が経つにつれてどんどん体調が回復しているようだな。どういう原理? 本当に人間か?」


 望六と一樹が自室へと戻ってから色々としていると消灯時間が迫ってきて、今はベッドに寝転がりながら他愛のない会話をしている。消灯時間まではあと数分と言った所だ。

 

「人間に決まってるだろ。何を言ってるんだ望六は」

「……すまない。疲れのせいで適当に話していたかも知れん……」

「あー。まぁ今日は何気にハードな一日だったから仕方ないな。明日は祝いがあるし、もう寝ようぜ?」


 一樹はそう言いながら触っていたスマホを横に置くと寝る体勢へと入った。

 やはり人間とは疲れていると返事や行動が適当になってくるようだ。

 つまり望六の体力の限界が来たということ。


「ああ、そうだな。言う通り寝る事にするわ。おやすみ」

「良い夢を~。おやすみ~」


 一樹の軽い返事を聞きつつ望六は目を閉じると意識を夢の世界へと向けた。

 思い返せば今日一日で脳内に変な数字と英語の羅列が大量に入り込んできて、気分はまるで改造人間のようだったと彼は思った。


 しかし疲労が今までにないぐらい溜まっていたこともあり、望六が眠りに落ちるのにはそう時間は掛からなかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい起きろ望六! 朝だぞ!」

「……もう朝かよ。さっきまで夢の中で激辛麻婆豆腐を食っていたんだけどな」


 一樹の大きな声で起こされると望六は体を起こしてスマホで時刻を確認した。

 どうやら今の時間は朝の七時のようだ。

 祝いの会は昼食時にやるらしいので、しばらくは暇だろう。


「なんだそれ? いやでも、何か急に麻婆豆腐が食べたくなってきな……。ってそうじゃなくて! 望六が早く起こしてくれって昨日頼んだんじゃないのかよ?」

「……あっ。そうだった」


 実は昨日の夜の内に一樹に早く起こしてくれと望六は頼んでいたのだ。

 その理由は至って簡単。祝いの会に先輩を呼びたいからだ。


 何故なら先輩は魔法特訓に毎日付き合ってくれて、そのおかげで勝てたと言っても過言ではないからだ。それに試合に勝ったら先輩から名前を教えて貰う約束もまだ生きているのだ。


 しかし当日に誘うというのは些か悪い気もするが、生憎望六は先輩の電話番号を知らないからどうしようもないのだ。ゆえにその辺は許して欲しい所だったりする。


「取り敢えず起こしてくれてサンキューな。俺は今から第二グラウンドに行ってくるわ」

「えっ何でだ? もう特訓しなくても良いんじゃないのか?」

「まあ、色々とあってな」


 望六は休日だというのに制服に着替えると急ぎ足で寮から飛び出して、いつもの特訓に使っていたグラウンドへと向かった。

 彼の考えが正しければきっと先輩はグラウンドに居ると思ったのだ。






「おっと、先輩やっぱり居ましたね!」


 望六がグラウンドへと着くと端の方で魔法の練習をしている先輩を見つけて声を掛けた。 

 やはり彼の勘は正しかったようで先輩はいつもここで魔法の練習をしているようだ。


「おや望六君じゃないですか。どうしました? もう試合は終わってここに来る理由はないと思いますが?」


 先輩はガントレット型の魔術デバイスを外すと顔を望六に向けてきた。

 見れば額には汗が少し滲んでいる事から、結構前から練習していたことが想像できる。


「何を言ってるんですか先輩! 俺は先輩のおかげで試合に勝てたんですよ! だからちゃんとお礼を言いたいんです。本当にありがとうございましたっ!」


 彼はまず常識的に考えて特訓のお礼を言う事にした。

 いきなり祝いの会に誘うというのは順序的におかしくなりそうだからだ。

 そのまま望六はお礼を言いながら深々とお辞儀をすると先輩は困ったような声で、


「お、お礼なんて大丈夫ですよ! 特訓だって私から言い出した事ですからっ! それにあの戦いを見て私は驚きましたよ。まさか望六君が無属性の他に雷属性が使えるだなんて」


 先輩はお礼を言われるのが恥ずかしいのか手を小さく左右に振りながら照れている仕草をすると、直ぐに話を逸らすように話題を切り替えてきた。


「あ、あれはその……自分でも何で使えたのか、よく分からないんですよね~。ははっ」


 しかし彼は七瀬から口止めをされていることから、その事に関しては何も言えない。

 せっかく色々としてもらったのに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「……あっそうだ先輩! 昼頃に食堂で俺の勝利をクラスメイト達が祝ってくれるんですけど、良ければ来てくれませんか?」

「おお、それは良いですね。もちろん参加させて頂きます。私の弟子をここぞとばかりに自慢できるわけですからね!」


 先輩は望六の誘いに微笑みながら答えてくれると少しだけ不安が積もった。

 今更だがその祝いの会が本当に祝いの会なら良いのだけれどと。

 彼の脳内で昨日考えていた最悪の妄想が高速で過ぎっていくのだ。


「さて、じゃぁ私は今からシャワーを浴びて色々と準備をしないといけませんね。では昼頃に食堂に向かうので皆さんによろしく伝えておいて下さい」

「分かりました! ではまた後で」


 先輩はタオルで額の汗を拭ってバッグにデバイスやタオルを片付けると、そのまま二学年の寮へと戻っていった。そして先輩の姿が見えなくなってから望六は思い出した。


「そう言えば、先輩の名を聞くの忘れてた……」


 だけど先輩は祝いの会に来てくれると言っていたので、その時にまた聞けるだろう。

 そう思いながら彼も自分の寮へと戻ると時刻はあっという間に昼頃となり、望六は一樹と月奈に両脇を固められて食堂へと連行されていた。


 さながらそれはロズウェル事件のエイリアンが黒服二人に連行されるような場面である。

 望六としても別に逃げる気はないのだが、如何せん不安を払拭できないでいるも事実だ。


「ああ、心なしか胃が痛くなってきた気が……」


 腹部を摩りながら歩いていると彼は食堂へと到着して視線をとある一角に向けると、そこには大勢の女子達が居て――――

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