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28話「どうやら童貞の少年にも春が来たらしい」

 突然だが望六は今物凄く困っている。

 それは何故かと言うと、いつもは顔を合わせる度にブタ野郎と罵ってくるメリッサが今では顔を赤らめて何処か照れているような雰囲気を出しているからだ。


 しかも天変地異の前触れなのか連絡先を聞いてくるぐらいだ。


「い、一応聞いておくが、それは何の意味で……?」

「そんなの決まっているでしょう。連絡を取る為にですよ」


 メリッサは彼の質問にはっきりと言い切ると、それは確かにと思う望六であった。だが普通に連絡を取る為に聞くのなら何故そんなにも潤んだ瞳で見てくるのだろうか。


 ……いや、これは絶対的に事務的な連絡要素以外にも他の可能性が存在しているだろう。

 望六はその他の可能が気なって仕方がない。


「あ、あのー。差し支えなければ、なぜ急に連絡先を知りたいのか教えてくれないか? 一応防犯目的で」


 望六は直球的になぜ知りたいのかという事を聞くのではなく、そこに防犯という単語を加えることで相手はこの質問に答えないと不審がられるという気持ちを芽生えさせる事にした。

 これでメリッサは訳を離さないと彼から連絡先を聞くことは必然的に不可能になるのだが、


「……ッ。だ、誰にも言わないで下さいよ? 私だって恥ずかしいのですから……」


 メリッサは横目でシルヴィアの様子を伺うと望六に小声で話しかけてくる。


「あ、ああ無論だ。プライバシーは守るさ」


 彼もつられて二人を見るがどうやら話し込んでいるらしく、一樹達が望六達の会話に気づく可能性は低いだろう。


 そしてメリッサはやはり照れているようで若干声が上擦っているように聞こえた。

 ……それから意を決したように彼女は望六の耳元に瑞々しい唇を近づけてくると、


「貴方の事が……す、好きになってしまいましたからっ!」


 短くも的確にここまでの雰囲気と連絡先を聞く意味が凝縮された答えを話してきた。

 望六は生まれて初めて妹達以外の女性から照れた表情で好きと言われ、彼までも顔が赤くなりそうだった。だがこれは紛れもない現実。


 彼は難聴系男子ではないが、ここはメリッサの可愛い声でもう一度好きという言葉が聞きたいところであった。そして彼はある事を思いついくと、


「ごめん。もう一回言ってくれるか? 聞こえなかった」


 絶対に聞こていない訳がない距離なのだが敢えて言ってみる事にしたのだ。


「……馬鹿じゃないんですか、このブタ野郎」


 メリッサは急にクールな表情で望六にそう言ってくるといつも通りの罵声が復活した。

 どうやらデレタイムは終を迎えたみたいだ。


「おう、望六どうしたんだ?」

「あら? メリッサはちゃんと望六さんと話せましたの?」


 そう言いながら一樹達は望六達の元へと戻ってきた。

 どうやら話し合いが終わったらしく、何処となく二人からは爽やかな雰囲気が伝わってくる。


「あ、いや何でもないぞ。それよりちゃんとプロポーズの真相は解けたのか?」

「私も問題ありません。しっかりと話せました」


 望六は一樹に一番重要な事を早々に聞く。

 それが今回の決闘という凄く面倒な事になった原因だからだ。


「ああ、もちろん全部分かったぞ! というか、あの日の出来事を全部思い出したぜ!」

「本当か! それは良かったな」


 一樹はシルヴィアと話している時にホームステイ中の出来事を全て思い出したらしい。

 そして記憶が戻った一樹の口から語られたのは……、


「俺がシルヴィアの家のホームパーティでダンスをする事になって相手役をシルヴィアに頼もうとした時に、跪いて手の甲にキスしたのをプロポーズと勘違いしていたらしい!」

「……はぁ!?」


 何ともこの決闘はシルヴィアの勘違いから始まった出来事らしい。

 だけど望六はこんな事を聞いた事があった。イギリスというか向こうの方ではプロポーズする際に膝をついて手の甲にキスをするという粋な手段があると。


「だけどホームステイ先が女性の所なら手の甲にキスは常識だぞ! って出発間際の空港で俺に言ったのは望六なんだけどな」

「……はて? 俺そんな事言ったけ?」


 急に真面目な声で彼にそう言ってくる一樹は何処となく目つきが鋭い気がした。

 だがそんな事は一言も言った覚えがないのだがと望六は思い悩む。


「まぁまぁ、いいじゃないですの。全てはこれで収まったのですから!」


 事の発端のシルヴィアが望六達の会話に割って入ってくる。

 しかし確かにこの決闘で誰も損はしていないので良しとすべきなのかも知れない。


「それでメリッサはちゃんと望六さんに思いを伝えられましたの? まったく、決闘を終えて控え室に戻って来たと思ったら直ぐに望六さんの事を「あぁぁあ!! お嬢様辞めて下さい!」あら、何故かしら?」


 シルヴィアは彼女に顔を向けてニヤニヤした表情で喋り始めると、途中でメリッサが大きな声を出して何やら大事な部分が声でかき消されてしまった。


「まだそこまで言っていないんですよ……。だからその先は私がちゃんと話します」

「そう、なら良いですの。イギリス人は常に恋は本気でするものですから。……だから一樹さん? 覚悟していて下さいね。今は結婚できないとしても、私は貴方と永遠に一緒の時を過ごしたいと思っていますから」


 今からメリッサが自ら大事な話をしようとすると、その隣からはシルヴィアが獲物を捕らえるかのような眼差しを一樹に送りながら大胆発言をしていた。


 そう、シルヴィアは責任云々関係なく単純に一樹のことが好きらしいと、この瞬間望六は悟ると同時にこれは大変な事になりそうだと思った。

 特に月奈に限ってはライバル登場と言った感じだろうと。


 そして望六の横で一樹はシルヴィアの発言を聞いて苦笑いを浮かべているが、このあとの展開を考えるにきっと彼は月奈に事情が発覚して殴られること間違いないだろう。

 いや、もっと酷い可能だって考えられるかも知れないと望六は何処か清々しい気分であった。


「んんっ! よく聞きなさいブタ野郎。……正直、私は男という生物を下に見ている節がありました。何故なら思考的にも魔法にしても大雑把で気品がないからです。私は幼い頃にそういうのを沢山見てきました。……しかし、その固定概念は今日の決闘で吹き飛びました。そう、私は”黒き王子”様に出会えたからです!」

「く、黒き王子様……?」


 何かメルヘンチックな言葉がメリッサから聞こて来た気がするが勘違いだと望六は思いたい。

 と言うよりイギリスでも男は冷遇されているらしい。こればかりは世界共通なのだろうか。


「はい、黒き王子様です。分かっていると思いますが貴方の事ですよ望六さん。私が怒りに身を任せて発動した魔法を、あわや観客席にも被害が出そうになったにも関わらず、次々と物怖じせずに切り裂いて無力化していく姿……。あれこそ私の王子様に間違いありません!」


 望六は彼女から話を聞くと何となくだが理解出来てしまった。

 これは恐らく彼が魔法を無力化していく姿に、更には観客席に居た人達を守った所を見て惚れたと言うわけだろう。

 

 だけどその黒き王子様呼びは辞めくれと正直に望六は恥ずかしかった。

 横で一樹が笑いを堪えているぐらいにその呼び方は彼に響くのだ。

 

「と言うことですのよ望六さん。だからメリッサとは仲良くしてあげて下さいね。……あと私の事はさん付で呼ばなくて結構ですの。一樹さんの親友なら私の親友でもありますから!」


 メリッサとの話を一段落終えてシルヴィアが望六に視線を向けて言ってくると、なんと名前を呼び捨てにしても良いと言うではないか。

 身分的にもシルヴィアはお嬢様の筈だが本当に良いのだろうか。


「ちなみに私もさん付けでなくて結構です。普通にメリッサと呼んで下さい。じゃないと怒ります」

「わ、分かったよ……メリッサ」


 彼女が横から食い気味で言ってくると望六はそれに押し切られる形で了承するしか無かった。

 どうやら彼はこれからメリッサを”さん”付けで呼んだら怒られるみたいだ。


「では、改めましてこれからもよろしくお願いしますね。一樹さん、望六さん」

「私からも、よろしくお願い致します」


 二人はそう言って望六達に綺麗なお辞儀を見せてきた。

 本当にお辞儀や仕草は徹底されているのか、彼女らの動きは見ていて飽きない望六であった。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そして望六達はシルヴィア達との話を終えると走って談話室へと向かっている最中であった。 

 本当なら着替えて直ぐに向かう筈だったのだがシルヴィア達との話し合いが楽しくて長引いてしまったのだ。ゆえに談話室に着いたら七瀬に滅茶苦茶怒られること必須であろう。


 それとこれは完全に余談なのだがメリッサが決闘の最後に時間を空けといて下さいと言っていたが、あれはどうやら望六に連絡先と思いを伝える為だったらしい。


 そして大事なことだが望六はメリッサに好きと言われているが、当然の如く付き合う段階には至っていない。お互いにまだ何も知らないからだ。


 だから今日から友達関係から始める事にしたのだ。

 無論だがちゃんと連絡先は交換したから抜かりはない。

 

「お、おい望六! 談話室ここだぞ!」

「おう、分かっている!」


 そんな事を考えながら望六が廊下を走っていると一樹の言うとり談話室の前へと到着した。

 廊下を走る行為は校則違反だが見つからなければ罪ではないと、某アニメで言っていた気がするので問題はないと望六は思っている。


「あ、開けるぞ!」

「ああ、頼む……!」


 一樹が談話室のドアノブに手を掛けると望六は生唾を飲み込んでそれを見守っている。

 願わくば七瀬が怒っていませんようにと。

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