表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/128

27話「お嬢様と相棒の対決。結婚と真実を求めて―後編―」

『ほう、一樹さんもアビリティ発動ですか? しかし、私の方が練度も訓練量も何倍も先を行ってますの!』

『クソッ! なんだよ次は無数の茨の群れかよ!?』


 シルヴィアと一樹のアビリティ魔術の発動はほぼ同時であったように見えたが、やはり彼女の方が詠唱が早かったようだ。


 そして一樹は自身のアビリティ魔術を不発に終わらせると地面から生えてきた無数の茨に体を縛り上げられて拘束されてしまった。

 

「これはまずいな。このままでは一樹は負けるぞ」

「ま、まじっすか……」


 一緒にモニターの映像を見ている七瀬が横で呟くと、望六の脳裏に一樹とシルヴィアの結婚シーンの情景が浮かび上がってきてしまった。


 このまま一樹が負けてしまえばイギリスで海の見える良い感じの場所で式を挙げてしまう事になるだろうと。そうなると一樹は恐らくもう日本には帰ってこれないだろう。

 そのままイギリスで永遠に暮らす事になるだろう。


「うぉぉぉ!! 一樹負けるなぁ! 勝てぇ!! お前に敗北の二文字はないッ!」


 望六はモニターに向かって叫び散らかす。

 特に彼に対して思いれがある訳ではないが、そうなると月奈が悲しむので彼なりの気遣いだ。


「お、おい、一体どうしたんだ望六?」

「ふっ……分からんのか? これが友情と言うやつだ。木本よ」


 木本先生が望六の反応に引いている様子だが七瀬が良い感じに勘違いを起こしてくれたようで、それに任せておこうと彼は余計な事を言わないようにした。


 そう、これは友情という肩書きの応援なのだ。

 決して一樹とシルヴィアが共にイギリスで優雅に暮らす姿を見たい訳ではないのだ。


『か、体が動かねえ……! しかも力が抜けていく感覚すらある……』

『私の茨は丈夫でしょう? そして力が抜けていくのはこの茨達の刺が一樹さんに食い込んで魔力を吸い取っているからですの』


 シルヴィアの説明を聞くと道理でさっきから一樹が一向に魔法を使わないわけだと望六は理解出来た。しかし茨に拘束された一樹はこれからどうするつもりなのだろうか。


 早く拘束を解かないと魔力を全部吸い取られて事実上の敗北が決定。もしくは今の無防備の状態で、またシルヴィアの攻撃や魔法を食らったら大ダメージで終わってしまうだろう。

 どちらにせよ何とか状況を変えないと本当に負けてしまう所だ。


『ああ、それとその茨達は一樹さんの魔力を全て吸い終わると綺麗なバラが咲きますの。タイムリミットはバラが咲くまで……果たして一樹さんはいつまで耐えられるのでしょうね」

『な、なるほどな! 随分と洒落た魔法じゃないかッ! ……あ”ぁ”ぁ”っ”!?」


 一樹はシルヴィアからタイムリミットがあることを告げられると、まだ余裕が残っているのか減らず口を叩くがその直後に茨は更に一樹の体を締め上げていった。


「一樹に絡み付いている茨からバラが咲いたら終わりか……」


 植物属性使いは意外と残忍で厄介な魔法を保持しているようだと望六は思いながら呟く。

 

 だが流石は騎士道精神を重んじるお嬢様と言うべきだろうか。動けない一樹を見て更なる追い打ちを仕掛けることはなく、ただ微笑みながらバラが咲くのを待っているようだ。


『さあさあ、一樹さんはまだ耐えられますの? もうすでにつぼみ達は膨らみ始めていますの。つまり開花の時が近いですの! ああ、これが咲けば私と一樹さんは結婚……ふふっ』

『ははっ、そうか……。ならばもう迷っている暇はなさそうだな』


 シルヴィアからタイムリミットが近いことを宣告されると一樹は不敵に笑みを浮かべていた。

 この不敵な笑みが意味するもの……それは確かに望六にも理解できた。


 どうやら最後の最後で一樹は芯の部分で覚悟を決めたらしい。

 恐らくだが一樹の次の行動で、この試合は決着がつくだろうと望六は直感だが分かった。


『俺は絶対にこの戦いは負けない! そしてシルヴィアさんに勝利して俺は真実を確かめる! 行くぞ、これが俺の最後の全魔力だ! アビリティ魔術【冥雷極一斬二式】!!』


 一樹は縛られながらもアビリティ魔術を発動すると片手剣の周りに雷が宿り、茨が焼けて地理となると右手だけは動くようになった。


『どういう事ですの!? 何でそんな魔力がまだ残って……。いや違うわシルヴィア。今は茨から吸い取る魔力を底上げしなければ……!!』


 シルヴィアも突然の出来事に驚きはしていたが直ぐにレイピアを使って茨に何かをしているようだった。しかし一樹はその時、本の数秒だけシルヴィアの行動を上回り既にアビリティ魔術を放っていた。


『そ、そんな……!? い、いやぁぁぁあ!!』


 一樹の放ったアビリティがシルヴィアに向かって飛んでいくと、彼女からは悲痛な叫び声がモニターを伝って大音量で聞こえてくる。

 そして――


「試合終了! 両者共に危険魔力消耗領域に達したと判断して引き分けとする!」


 望六の横で七瀬がアナウンスを開始すると、シルヴィアに一樹のアビリティ魔術が当たる寸前で試合が終了となり結果は聞いての通りだ。


 それに驚くことにアナウンスと共に一樹が放ったアビリティ魔術はシルヴィアに当たる直前で消滅したのだ。いやそれだけではない。シルヴィアの植物魔法も自然と消滅してしまったのだ。


「ギリギリでしたね……。まったく、全力でアビリティを放つとはこれだから一年は恐ろしい」


 木本先生はモニター横のレバーを掴みながら言うと、もしかしてそのレバーには一樹とシルヴィアの魔法が消滅した事に何か関係があるのだろうかと望六は見ていて思った。


 だが今の望六にはそんな事よりも一樹はシルヴィアから魔力を吸い取られていたというのに何でアビリティが発動出来たかの方が疑問にでならない。


「でもおかしくないですか? 一樹はシルヴィアさんの魔法で魔力を失っていた筈なのに何で……」

「その答えは簡単だ。お前達にはまだ教えていないが、魔法とは感情によって進化するのだ。よく競技で選手らが恋人の為や家族の為にと言って戦う時があるだろう? 魔法というのは思いの力では強くなったりするのだ。つまり一樹の場合は絶対に曲げられな気持ちがあったのだろう」


 思いの力で魔法は強くなる。という事は一樹があの時見せた表情は思いの力とやらが定まった時だったのだろうかと望六は推測した。


 しかし仮にそうだとしても望六には更なる疑問が生まれる。

 感情によって魔法が強くなったりするのならその感情の範囲はどこまであるのか、喜怒哀楽というもの全てに当てはまるのかと。


「……そんな事より愚弟がそろそろ戻ってくるな」


 彼の考え事は七瀬のその言葉で遮られると意識を現実世界へと向けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「ひ、引き分けで終わってしまった……。これじゃぁ俺は真実を聞くことができない……ああ、お仕舞いだ……」

「だが逆に言えば負けてもないんだから、結婚はないから大丈夫だろ」


 ボロ雑巾の様な姿で控え室に戻ってきた一樹は即行でベンチに座ると両手で頭を抱えて項垂れていた。望六からすると引き分けは良い所どりだと思っていたのだが、一樹としてはきちんと勝って真実を確かめたかったらしい。


「おい馬鹿共。特に望六は今から大事な話し合いがある。直ぐに礼装から制服に着替えて談話室に来い」

「「はいっ!」」


 七瀬は二人にそう言うと木本先生と一緒に控え室を出て行った。

 望六達は急いでロッカーから制服を取り出して着替えを始めると、そう言えば望六は試合で雷属性を使った事を説明しないといけなかった事を思い出した。


 だが一体なんて言って説明するべきか、これでは一樹ではないが本当にお仕舞いな気がする。

 望六はそんな事を思いつつ素早く着替えると体中が傷だらけであった。


「はぁ……。あちこち傷だらけで痛いな」

「本当にな。試合が終わって脳内のアドレナリンが止まったから、より過敏になってやがる」


 着替えを終えた二人は控え室を後にすると言われた通りに談話室へと向かう為に歩みを進めていた。すると突然、背後から凄く聴き覚えるのある声が聞こえてきた。


「あの、一樹さん! 先程の決闘では度を越した魔法で一樹さんを甚振ってしまい申し訳ございませんですの! 私は魔術士候補生として恥ずべき、私欲の感情で魔法を使ってしまいましたの……」


 望六と一樹が振り返ると目の前には所々が破れて肌が露出している礼装を着たシルヴィアとメリッサが綺麗なお辞儀をしていた。

 そして突然のシルヴィアの謝罪の言葉に二人の少年は唖然としている。


 何故ならあのプライドの高そうなシルヴィアが頭を下げているのだ。

 ここは早急に何かを言ったほうがいいのだろうと望六は肘で一樹を小突くと、


「あ、あぁ! 別に気にしてないよ! 俺もシルヴィアさんにアビリティ魔術を放ってしまったしな……」


 慌ててシルヴィアをフォローしていたのでやはりイケメンは言動もイケメンだ。


「いえ、それでは駄目ですの! このままでは私の気が済みませんの! 私自身、あの決闘は負けだと思っていますの……。試合が途中で終わらなければ、一樹さんのアビリティで私は負けていましたから……」


 シルヴィアはそう言うと顔を俯かせてしまっていた。

 やはりプライドが高いというのはこういう時に不便なのかも知れない。

 恐らくだが彼女は引き分けという曖昧なものは嫌で、一樹に自分の負けを確たる物にして欲しいのだろう。


「……じゃぁシルヴィアさんが負けだと言うのなら、俺にプロポーズの真実を教えてくれないか?」

「も、もちろんですの! 私は負けた身ですから約束は果たしますの!」


 その提案は一樹にしては随分と賢い物だと言わざる得ない。

 一樹が勝利した時の条件を飲むことでシルヴィアは自身は敗北を認めることになり、一樹は事の真実が分かる。なんと合理的な事だろうか、隣で話を聞いている望六は自然と頷いていた。


 取り敢えずこれでお互いに納得のいく最高の結果となるだろう。

 つまりこの決闘は何一つ無駄ではなかったという事だ。

 

 ……だけどなんだろうか、先程から望六は物凄くメリッサから睨まれているような気がしてならなかった。


「あの望六さん? 突然で申し訳ないのですが、スマホのアドレスと番号を教えて頂けませんか?」

「……えっ何で?」


 彼は唐突にも頬を赤く染めたメリッサにスマホ連絡先を聞かれた。

 しかも本人は冷静さを装っているようだが何処となく目は泳いでいるし、なによりその照れくさそうな表情は一体何を意味しているのだろうか。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

宜しければ評価とブックマーク登録お願い致します。

活動の励みとなり更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ