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26話「お嬢様と相棒の対決。結婚と真実を求めて―前編―」

 七瀬のアナウンスで試合終了の合図が出されると望六とメリッサは互いに控え室へと戻った。

 しかしメリッサは去り際に「先程の攻撃で私の魔法を破壊して下さり、ありがとうございます。完全に動揺して制御を失っていたので……。それと後で話があるので時間を空けといて下さいね」と言っていた。


 一体何なんだろうか、正直これ以上の面倒事は御免被りたい所だと望六は思っている。

 そして重い足取りのまま控え室の中へと入ると、七瀬と木本先生が明らかに怒っている表情で彼を見てきた。


 さらに一樹に至ってはその雰囲気に耐えかねたのか控え室の端っこで限界まで存在感を薄くしているようだった。


 流石に決闘終わりでこの状況は滅茶苦茶怖いと言うのが望六の本音だ。

 この張り詰めるような空気感と仁王立ちしている二人の女性教師から睨まれると言う異様な状況。


 七瀬だけでも相当の圧が掛かるというのに木本先生までもがそれに加わってくるとそれはもう”凄く怖い”という言葉しか出ないだろう。だが二人は何に対してそんなにも怒っているのか。


「あの~? 先生方は一体どうしたんですか……?」


 望六は疑問が浮かぶと二人に顔を交互に向けながら尋ねた。

 すると二人はすかさず怒りで歪んでいる口を開く。


「お前は自分が仕出かした事が分かっているのか!!」


 木本先生が最初に彼を怒鳴ってくると、


「……色々と聞きたい事が山ほどあるが次は愚弟の番だ。それが終わったあとに、じっくりと話を聞かせてもらうぞ。いいな」


 次に七瀬さんが低めの声でそう言ってきた。

 恐らく七瀬の言っている話とは望六の先程の魔術についてだろう。 

 確かに無属性が雷属性を使うなんて前代未聞の出来事なのかも知れない。


 だがあれを説明するとなると、どう言えばいいのか望六としてもそこは難問だ。

 急に脳内に少女の声が聞こえてその通りにやったら使えました。と言っても頭のおかしい奴だと認定されかねないだろう。ならばここは慎重に言葉を選んだ方が良い筈だ。


「て、てかさ望六! お前もアビリティ魔術が使えたんだな。なんで黙ってたんだよ~」

「まあな。別に隠しておくつもりはなかったんだが……俺のアビリティには発動条件があってな」


 一樹の質問に望六は頬を掻きながら答える。

 そう、彼のアビリティ魔術は普通のと違って即発動が出来る物ではないのだ。

 

 これは脳内に流れ込んだコードで直感的に望六が知った事なのだが、この【宵闇月影】のアビリティは相手から受けたダメージをデバイスに蓄積して一定の蓄積量になると発動できるのだ。


 ゆえにその威力は絶大で無属性の足枷とも言われる威力が少ないと言う問題点が解消されるのだ。……だが、このアビリティを作ったと思われる淳史はきっと相当なドMだと彼は少なからず思えてしまった。


「ってそんな事よりも次はお前だぞ。しっかりと頑張ってこいよ!」

「おうよ。望六が格好良く魔法を切り裂くのを見てたら、やる気がグングンと上がったぜ! 任せときな!」


 そう自信満々に言っている一樹は全身を純白な礼装に身を包んでいる。

 雪のような真っ白のロングコートに白色のズボン。さらにロングコートの背には黄緑色の稲妻模様がバッチリと刻まれていて、これは望六的に格好良くて羨ましいのだ。


 そして一樹の着ている礼装は見た目こそ男性用だが元は七瀬が着ていた物に酷似している。

 七瀬が現役の頃の礼装はこれに胸元が大胆にも開いていたり、ロングブーツを履いていたりで男性達の多く虜にしていたのだ。


 ちなみにこれは柳葉家に置いてあった魔術士雑誌を望六がたまたま見て知った情報だ。

 

「よし愚弟、時間だ行ってこい。負けは認めんが負けて結婚になった場合は認めてやる」

「お、おう。姉貴のそれは応援しているのか……?」


 七瀬の発言に一樹は微妙な表情を浮かべると横から木本先生が何かを持って話しかけてきた。


「一樹はこれを耳に付けていけ。通信用の小型イヤフォンだ。望六の時は渡すのを忘れたいたがな」

「小型イヤフォン?」


 一樹は首を傾げつつ木本先生からイヤフォンを受け取ると何も疑わずにそれを右耳に装着していた。すると七瀬がイヤフォンについて補足をするかのように短い説明を始めた。


「魔術士とは本来、単独戦は競技者を除いてあまりしないのだ。だが軍属になれば常に仲間との連携を取るためにそうやって通信機を使うのだ。まぁ、学生のうちから慣らしておくだけの事だ」

「なるほどな! じゃ、そろそろ行ってくるぜ!」


 一樹は七瀬の補足説明を聴き終わると数回頷いてから望六達に手を降って決闘の場へと歩いて行った。


 そして望六は一樹達の決闘を見るために、そこらじゅうに置かれているモニターをじっと見ている。本当は観客席で生で見たいのだが流石にそういう訳にはいかないだろう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『あら、一樹さんも専用の礼装をお持ちでしたのね。それなら手加減しなくて良さそうですの』

『手加減なんてしなくて良いぞ。俺は正々堂々と勝負してシルヴィアさんに勝つ! そして真実を聞かせてもらうぞ!』


 モニターから一樹とシルヴィアの声が大きく聞こえてくると、どうやらあのイヤフォンはこのモニターと接続されているようだ。

 

 という事なら先程の戦いの時もメリッサの声だけが、このモニターから聞こえていたのだろうか、だとしたら何と言う盛大な独り言だろうか。

 望六がそんな事を思っていると、


「両者……試合開始ッ!」


 真横から七瀬の張りのある声が聞こえるとモニターに映っている一樹とシルヴィアは早くも互いに近距離戦へと持ち込もうとしていた。


 よく見ればシルヴィアの礼装は青色のドレスに銀色の甲冑が付いているタイプである。

 それはまるで西洋の騎士を彷彿とさせるようなスタイルで魔術デバイスはレイピア型だ。


『ははっ! 一樹さんの持っているデバイスは私の【Noble Rose(レイピア)】と同じ世代ですのね!』

『そ、そうなのか? ってことはシルヴィアさんのデバイスはγ世代?』

『ご名答ですの。しかし世代が一緒だとしても実力は違いますの!』


 シルヴィアと一樹は距離を縮めると魔法は使わないで剣同士で鍔競り合いを行っているようだ。

 と言うよりシルヴィアのデバイスがγ世代だと分かると望六は羨望の眼差しでそれを見ていた。


 実は彼のデバイスはβ世代なのだ。

 だが淳史の世代のデバイスならばそれが普通なのかも知れない。


『クソッ! 確かに剣と魔法の扱いが格段に上手い……それも素人の俺でも分かるぐらいに。やっぱり西洋と東洋の剣術だと違いが多すぎて隙すらも分からないぜ……!』

『あらあら、私の攻撃に耐えているだけなら負けてしまいますのよ? まだ魔法を掛け合わせた技だって残っていますの。例えばこれとか!』


 シルヴィアは一樹から少し距離を取るように後ろに下がるとレイピアの先を地面に突き刺した。

 そしてその瞬間に一樹の足元にはツタのような植物が生え、そのまま彼の足に絡みつていく。


『うわっ!? なんだこれ!』

『それが私の魔法ですの。所謂【植物属性】ですのよ』


 植物属性……そんな魔法まであるのかと望六は驚異の眼を見張った。

 魔法を見た限りでは月奈と同じで特質属性かと想像していたが、実際は全然違う物だと分かると彼は一層モニターへと顔が釘付けとなった。


「ほう。あのシルヴィアという生徒は植物属性を扱うのか。中々に希少なタイプだな」

「私も始めて見ましたね……」


 背後から七瀬と木本先生の声が聞こえてきた。

 あの二人の言い方からするに、やはりシルヴィアの魔法は希少の部類のようだ。


『植物魔法!? そんな魔法まであるのかよ……。だがしかし俺の両手はまだ動く、ならば俺も魔法を発動させて貰うぜ! 術式展開【Lightning() strike(降ろし)】!!」


 一樹はツタに絡まれたながらも詠唱を行うと片手剣の刃先をシルヴィアに向けた。

 刹那、空気中の魔力物質が雷へと変換すると雷はそのまま彼女へと向かっていく。


『対象物指定の魔法攻撃ですのね! 自分が動けないのなら魔法で的確に攻撃……素晴らしい機転ですの一樹さん! ですが、それが通用するのは初心者だけですの』


 シルヴィアがレイピアを振ると放たれていた雷は直撃する間近で大型の植物の出現により阻止されてしまった。それは大量の茨が何層にも重なったように太くなった塊で、雷が直撃した箇所は黒く焦げて煙を上げている。


『ああマジかよ! その魔法凄く練習したのにっ!』


 一樹はそう悔しそうに言うと、さっきまでの余裕そうな表情は消えて焦りの表情となっている。


『あははっ! 流石は一樹さん! 私の茨に傷を付けるとは流石としか言いようがないですの! さあ、次は私のターンですの。この連撃にどこまで耐えられるのか楽しみですの』


 そしてシルヴィアはレイピアを構えて舌なめずりをすると、ゆっくりと一樹に近づいてく。


『や、やばいな……っ』


 一樹が漏らしたその言葉は現状の全てが詰まっていた。

 ツタに絡まれた一樹は一切の身動きが封じられて、更にそのツタは一樹の口元まで伸びて覆い隠した。これでは声が出せないので詠唱は不可能だ。


 やはり魔術の英才教育を受けている者とは天と地の差が歴然と分かる。

 全身をツタで覆われた一樹はその後一方的にシルヴィアの斬撃を身に食らい始めた。


 ……それをモニター越しで見ていた望六は思う。

 一樹には悪いが自分達の今後の課題は”無詠唱”で魔法を”発動”する事だと。

 シルヴィア達のレベルになると、その次元での戦いになるからだ。


 それから五分ほど一樹はシルヴィアの突きと斬るの攻撃を受けきると魔法の効果が切れたのかツタは自然と消滅した。

 

 だが解放された一樹は満身創痍の状態だ。

 いくら礼装を装備していても魔法や攻撃を食らえば尋常じゃない痛みが全身を駆けるからだ。

 望六も光弾を身に受けたから一樹の痛みが手に取るように分かる。


『……さて、一樹さんを甚振るのもあまり気が乗らないので、この辺りで終わらせて貰いますの。アビリティ魔術【Rose(バラの)Hug(抱擁) type3】」


 シルヴィアは自身の勝利を確信するかのような台詞を言うと、これ以上の攻撃は止めてアビリティ魔術を発動した。恐らくだがこのアビリティで決着を付けるつもりなのだろう。


『ははっ……。この時を待っていたぜ。このツタが無くなる時をなぁ! アビリティ魔術【冥雷(サンダー・)(ブロー・)一斬(オリジン) 二式】!!』


 一樹は左右に体を揺らしながらおぼつかない足取りだが、両手で片手剣を握り締めると同じくアビリティ魔術を発動した。

 望六はその光景を目にすると自然と「一樹、決めろよ」と力強く呟くのであった。

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