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25話「メイドと少年の対決。お互いに条件を賭けて―後編―」

「うわッ!! なんだよこれ!?」


 メリッサから投げ渡された鏡を使って瞳を確認すると何故か望六の()()()のような輝きと色味を持っていたのだ。


 当然彼の衝撃は凄まじい。先程まで脳内で少女の声が聞こえていたと思ったら体中の痛みは消えていき魔力がみなぎってくる上に、しまいには瞳の色までおかしくなったからだ。


「ちょっ……ええぇ。ど、どうなってんの?」

「はぁ? 私に聞かれても困りますよ」


 それもそうかと望六は頬をポツリと掻く。

 そして余りの出来後に彼は理性が追いついてきていない事が分かると、

 

「とと、取り敢えず! 一旦深呼吸をして落ち着くことに……っ!?」


 その瞬間望六の右頬を光の弾が掠めていった。


「……チッ。外しましたか」

「お、お前! 不意打ちはずるいだろ!」

「何を言いますか、今は決闘中ですよ? 話し合いをしている訳ではないのです」


 確かにそれはメリッサの言う通りだろう。

 望六は弾が掠めてヒリヒリとする頬を空いている手で抑えながら納得した。


「……さて、そろそろ時間ですね」

「時間だと?」


 望六が頬を摩っているとメリッサが唐突にもそう言い出して、ライフルを構え直し銃口を彼へと向けてきた。ご丁寧に引き金に指も掛かっている状態だ。


 そしてそのタイミングで望六は自身の体に再び異変を感じた。

 自身の視界内に膨大な数字の羅列したイメージコードが流れ込んできたのだ。


「……ッ」


 その膨大な量のコードが視界を通じて体に直接インプットされていく感覚を覚えると彼は何となくだが、この不可解な瞳についての知識を得ることが出来た。


「お嬢様と一樹様の決闘の時間を確保する為にも、ブタ野郎との戦いはここで終わらせて貰います。術式展開【Heaven's(閃光の) Vanish(乱弾)!!」

「ははっ、流石はメイドだ。よく主の事を考えているんだな。……だが今の俺はさっきの俺とは一味違うぞ?」


 先程彼に大きな痛みを与えてきた光属性の魔法弾攻撃をメリッサが再び引き金を引いて放ってくると、今の望六にはもうその攻撃は通用しないと確たる自信があった。


 ……いや、正確には無力化できると言ったほうが正しいのかも知れない。

 何故なら今の彼には放たれた光弾の()()()()()()()()が鮮明に見えるからだ。


「まるで俺の視界はゲームでチートを使っているように全てが見通せるな」

 

 望六のこの発言は今の状況を彼なりに分かりやすく言ったつもりなのだろう。

 だが言い得て妙だ。まさに彼の視界は今やウォールハックしたかのように見えている。

 そして放たれた初弾が直ぐ目の前に迫ってきたが今はもう何も感じない。

 

 強いて言うならこの光弾は遅すぎると言うぐらいであった。

 本当に自分はさっきこれにやられたのかと、疑問に思うほどにスローモーションとなって望六の視界には映っているのだ。


「うーむ、迫ってくるのをただ見て待っているのは怠いな。よし、次は俺のターンで行かせてもらうか!」


 望六はそのまま片手剣を持ちながら迫ってくる光弾に向かって走り出す。

 こんな強気に出られるのも全てはイメージコードを通じて入ってきた瞳についての何となくの知識のおかげである。


「なっ、ブタ野郎は正気ですか!? 先程はそれを食らって倒れていたと言うのに!!」


 彼が光弾に自ら迫っていくのに余程驚いたのかメリッサは目を丸くして望六を見てきている。  

 がしかし何の問題もない。今なら彼なら海だって二つに割れそうな気分なのだ。

 そして望六は光弾を直ぐ近くに捉えると、


「はぁぁあっ!!」


 片手剣を光弾の中心にある魔力因子に向かって切り込む。

 刹那、切り込まれた光弾は片手剣とぶつかると少量の火花を散らして消滅した。

 ……そして再びメリッサの方から驚きの声が聞こてきた。


「う、嘘で……す。そんなのありまえせん……。な、なんで魔術士が放った魔法を無傷で、しかも爆発させることもなく無力化できるんですか!?」


 しかしそれだけではなかった。観客席からも同様の声が聞こえてくる。


「ねえ、今の見た……?」

「あ、ありえないわよ……。だって今まで魔法攻撃に対して魔法を使わないで消滅させた魔術士なんて居ないのよ……」

「ってこは……やっぱりあれは幻覚や幻じゃなくてリアル……?」


そんな女子達の唖然とした言葉の数々が望六の耳に入ってくると、


「あれ……もしかして俺ってば変な事しちゃったか? 普通に光弾の中心にあった魔力因子を切っただけなんだけど……」


 彼は観客席から流れ聞こえてくる困惑の声に自分自身も困惑してしまった。

 だが後はこの決闘に勝つ為にこのまま畳み掛けるのみであり、そんな気持ちを直ぐに払拭すると望六はそのまま迫り来る光弾を次々と切って消滅させるとメリッサの元へと駆けた。


「ほらよメリッサちゃん! 鏡ありがとうな。おかげで色々と分かったぜ」


 全ての光弾を消滅させると望六は貸してもらった鏡をメリッサに向かって投げて返した。


「……メリッサちゃんだと? Shut up(黙れ) you wanker(クソ野郎)。あまり調子に乗ると再起不能にしますよ? というか今からしますが」

「えっ?」


 メリッサは鏡を受け取るとその威圧的な言葉と同時に鏡を握り潰して粉々にしていた。

 その突然の風変わりに望六は呆気に取られている。

 もしかてだが虎の尾でも踏んでしまったのだろうかと。


「この世界で……私の事を”ちゃん付”で呼んでいいのは、お嬢様だけだッ!」


 そう力強く言ってくるメリッサはどうやら完全に怒っているみたいだ。

 そのまま彼女は鋭い眼差しで望六を捉えてくると、


「私を本気にさせた事を後悔させてあげますよ。このBollocks野郎。今からアビリティ魔術を使いブタ野郎を半殺しにしますから。そして私のアビリティ魔術は巨大な光の球体を出現させてそこから無数の光弾を射出します。先程の小さい光弾とは規格が違いますよ」


 魔術士の切り札とも言える魔法、通称アビリティ魔術使うと言ってきた。

 しかもご丁寧に魔法の詳細まで教えてくれた。よほど自信があるのだろう。


「ま、マジかよ。メリッサさんてアビリティ魔術も扱えるのか……」

「くたばれブタ野郎ッ!! アビリティ魔術【Call(呼び覚ます) Ishtar(太陽)】!!」

 

 メリッサは銃を空へと向けるとそこに光の微粒子が集まりだし極大の光の玉が出来上がる。

 しかし望六は先程からメリッサはメイドが絶対に言ってはいけなさそうな罵詈雑言を放っているが、あれは大丈夫なのだろうかと戦いとは関係のないことが過ぎってしまった。


「……って呑気に人の事を考えている場合ではないな。まずは、次の攻撃をどうするかだ」

「後悔しろッ! 私をちゃん付で呼んだことをなっ!!」


 メリッサが怒が篭ったような声で叫びながら言うと極大の光の玉からは止めどなく光弾が放出され始めた。その数はざっとみた感じで百はあるだろう。


「……ぎりぎり問題ない範囲かな。まだ限界が分からないから確信はないが」


 望六は片手剣を握り締めると向かってくる無数の光弾を次々と切り落として消滅させていく。

 しかしそれでも空に浮かんでいる光の玉は次々と彼に向かって飛んでくる。

 そしてメリッサが怒りを顕にしながら連続で引き金を引いていると、


「あっ!? し、しまった……っ!!」


 という戸惑いのような声が聞こえてきた。


「一体どうしたんだ?」


 望六は光弾を切りながらメリッサへと意識を向けると、彼女は光の玉から放たれた次の弾を見て額を汗で滲ませていた。


「観客席の皆さん! 直ぐに逃げてください!! このままでは私の光弾が着弾してしまいます!」

「なんだと……!?」


 メリッサは焦る口ぶりで観客席に居る人達に大声で伝えるが、ここはグラウンドの真ん中だ。

 その声は当然、途中でかき消されてしまう。

 望六は放たれた弾に視線を向けると確かに予測弾道は観客席の方に向かっていた。


「チッ、このままではやばいな……」

 

 あの弾がこのまま速度を変えなければ観客席に着弾するまで一分ぐらいだろう。

 ならば自分が全力で走れば間に合うか、無力化できるか、彼の中で瞬時に思案が広がる。


「……いや、違うぜ俺。間に合わせて無力化するんだよ。一樹が月奈を守った時みたいにな!!」


 望六の中であの時の光景が鮮明に蘇ってくると自分が成すべき事は既に分かりきっていた。


「俺に任せとけメリッサさん。何とか無力化してみせる! だから魔力制御はしっかりと頼むぜ!」

「ちょ、ちょっと! 無属性の貴方が本当にあの数の魔法を無力化できるんですか!? 数は二十もあるんですよ!!」


 望六は観客席側に視線を定めるとメリッサの言葉に頷いてから全力で走り始めた。

 確かに観客席に向かって飛んでいる光弾の数は二十個だ。

 だけどそんなのは関係ない。やるしかないと彼自身がそう決めたのだ。


 ――そのまま全力を出して走ると何とか光弾と並行することに成功した。

 だがここで問題がある。

 光弾は望六の上を飛んでいるのだ。これはジャンプしても流石に届かないだろう。


「くそがっ!! あとちょっとだと言うのに!」 


 望六は直ぐにどうするべきか方法を考える。

 斬撃の魔法なら届く可能性があるかと……いや駄目だろう。

 

 あれでは正確に魔力因子を切る事はできない。

 望六自身が直接切り込みに行かないといけないのだ。

 

「チクショウ。こんな事なら先輩との特訓の時にもっと魔法練度をあげとくべきだったな!」


 そして望六が観客席に近づくと迫り来る光弾に対して異変を感じ取ったのか女子達が騒ぎ始めていた。


「ねえ! あの光の塊こっちに向かってきてない!?」

「えー違うでしょ。あの白髪男を追ってるんじゃないの?」

「ち、違うよ! あれ絶対にこっちに向かってきてるよ! だって白髪を追ってるなら並行して進むなんて絶対にありえないよ!」


 そのざわめきは一部から始まり周りに恐怖が広がるのに時間が掛かる事はなかった。

 観客席に座っている女子達は光弾が確かに自分達に向かって飛んできている事に気が付くとパニック状態だ。


「高さが……高さがもう少しあれば!!」


 目で光弾を追いながら走り続け考えていると望六には一つの案が突然と思い浮かんだ。

 そう、観客席側の壁を蹴り上がってジャンプすればぎりぎり届くのではないかと。


 これはゲームでよくある壁走りを参考にした考えだ。

 実際にやれるかどうかは分からないが、今の彼に出来るのはそれぐらいしかないだろう。


「やるしかないな、俺の()()()()()()をッ!」


 光弾を追い越して全力で観客席側に走ると望六は斜めに壁に向かって入りながら思いっきり側面を蹴り上がって宙に浮いた。

 そして彼は直ぐに光弾に視線を合わせると中心の因子を的確に視認して片手剣を振るう。


「そこだぁぁぁああ!!」


 望六は連続で向かってくる光弾を次々と観客席の前で消滅させていく。

 消滅させた際に発生する微量の火花が少し顔に当たって痛いが気にする程ではなかった。


「嘘でしょ……? あの光の塊を一人で全部消滅させる気なの……?」

「あんなの人が出来る芸当じゃないよ!?」

「だけどそのおかげで、私達は助かってる……の?」


 背後からそんな女子達の戸惑っている声が聞こてくると望六は最後の光弾を切り伏せた。


「これで終わりだな!」

  

 全てを切り終えると彼はそのままグラウンドの地面へと着地した。

 あの光弾が同じ速度で尚且つ連続で来てくれなければ、こうは上手くいかなかっただろう。

 しかし望六のその安堵がフラグとなったのか背後で女子の一人がこう叫んだ。


「ちょっとアレを見て!! さっきのより大きい光の塊が!!」

 

 望六はその声につられて顔を正面に向けると、そこには先程の比ではないぐらいに大きい塊が眩い閃光を放ちながら飛んできていた。


「おいおい……。メリッサさん、ちゃんと魔力制御が出来ていないのか?」


 だがそんな事を言う前に目の前の光弾を何とかしないといけないだろう。

 まさに一難去ってまた一難とはこのことである。

 

「ああ、だがどうしたものか……」


 流石にあの大き差となると通常の攻撃では効果がないだろう。

 恐らく魔力を片手剣に込めないと切れないぐらいには厄介だ。

 

 しかし彼は無属性だ。魔力を込めた所でどのくらい効果があがるのか未知数。

 一体どうしたらいいのかと手に汗を滲ませていると、


「……ん? なんだこの魔力は?」


 望六はデバイスにピリピリと彈けるような違和感を感じ取った。

 そのまま右手に持っているデバイスを確認すると、そこには入れた覚えのない魔法がダウンロードされている事に気が付いたのだ。しかもその魔法の属性は雷だ。


「なんで雷属性がダウンロードされているんだ? 入れた覚えはないのだが……」


 だけどもし雷属性が使えたのなら、きっとあの巨大な魔力弾を両断することができるだろう。

 そんな夢物語が彼の脳裏を横切っていくと、


『キミなら使えるよ。というよりキミの本来の力がそれさ。()()()()()()使()()こなす、その虹色に輝く()()()()()。予測弾道と魔力因子の視認はオマケ程度の能力だしね」


 唐突に脳内で再び少女の声が囁かれ、望六の瞳についての情報をしっかりと教えてくれた。

 だがなぜ最初にそれを教えてくれなかったのかと言う疑問が彼の中に残ったが、今は藁にも縋る思いだった。


「それは本当か? だとしたら俺はチート級の能力を持っているという事になるのだが……」

『そうだとも。それにキミだって薄々気づいているだろう? ()()()()にAランク適性が出せるわけがないと。……じゃ、あとは頑張ってね~』

「えっちょっと! あの他にも!!」


 脳内に囁いてきた少女はそう言って消えていった。

 望六は他にも色々と聞きたかったのだが、取り敢えずその言葉を信じるしか手はない。

 彼は静かに片手剣を天に掲げると半信半疑で初めて属性付きの魔法を詠唱する。


「術式展開!【Burst(彈ける) thunder(雷鳴)】!!」

 

 その声と共に片手剣には雷光を帯びるようにバチバチと音を立てながら輝きを放っている。


「お、おぉ……。これが雷属性の魔法か」


 望六は正直……いや心底疑っていたのだが、いざやってみると意外と出来てしまった事に驚きを隠せない。だが出来たのなら後はあの巨大な光弾を屠るのみだ。

 

 天に掲げた片手剣をそのまま真っ直ぐ振り下ろすと剣に帯びていた雷光が放出されて巨大な光弾に向かって勢い良く衝突し――――辺りに爆発音を轟かせる。


「た、助かったの……?」

「凄い……雷属性で光属性の魔法を消滅させちゃったよ!!」

「でもあの男って……無属性だった気がするわよ……?」


 背後から聞こえる女子達の声でも分かるように何とか巨大な光弾は消滅させることに成功した。

 そして望六は最後に事の原因でもある極大の光の球体を消滅させる為に片手剣を下に構えた。


「行くぞ! アビリティ魔術【超越(オーバー・)反撃(カウンター)零式】!!」


 そう、このアビリティ魔術こそがこの魔術デバイス【宵闇月影】の切り札だ。

 試合開始時に脳内に浮かんでいた意味不明な羅列の意味は、これを使用出来るように体に上書きする為のコードだったのだと今の彼なら理解出来た。恐らく頭痛はその時の副作用だろう。


「はあぁぁああああ!!」


 そのまま片手剣を下から切り上げるようにアビリティ魔術を放つと無属性の特大斬撃魔法が、極大の光の球体に当たりそれを粉砕させた。

 そしてそのタイミングで――


『両者試合終了! メリッサの危険行為により勝者を望六とする!』


 七瀬のアナウンスがグラウンドに響き渡った。

 しかしその結果に驚く者はこの会場に誰も居なかった。

 本人のメリッサでさえ、静かに結果を受け入れるようにその場に佇んでいるのだ。

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