24話「メイドと少年の対決。お互いに条件を賭けて―前編―」
七瀬が朝一で二人の部屋にやってくるとそのまま望六達は決闘の会場へと引率された。
会場に向かう途中に何人かの女子達とすれ違ったが、この日は休日だと言うのにも関わらず皆一様に私服ではなく制服を着ている女子が多かった。
しかもその女子達は皆決まって望六の顔を見ては嘲笑うかのように白い歯を見せていた。
きっと彼が決闘で蹂躙される事に期待しているのだろう。
だがそんな女子達の冷たい視線や憎悪を孕んだ威圧感さえ、今の望六にとっては何のプレッシャーにもならない。何故なら今の彼は負ける気がしないからだ。
学園に入学して最初の休日をこんな巻ぞいの決闘で無しにされて、おかげでラノベや漫画を買いに行けずにストレスが溜まったが、それを反動にして先輩との魔法実技の特訓を只管にこなしていったのだ。
だがしかし彼としてもこの決闘は可能であれば負けたくはないのだ。
理由は言わなくとも分かるだろう。どう考えても三年間召使いは厳しいからだ。
しかも最悪の展開は一樹もシルヴィアとの対決に負けてゴールインしてしまうことだ。
もしそうなったら自分はシルヴィアと一樹の執事をやらされる可能も出てくる事に望六は最近気が付いたのだ。本当に何が悲しくて親友の執事をやらないといけないかと。
そんな事は絶対に嫌だし黒歴史を生むこと必須であるのだ。
「なぁ望六。この決闘ってどれぐらいの人が見に来ると思う?」
「さあな。だが一学年の女子達は殆ど見に来ているだろうな。主に俺の敗北姿を見に」
現在、望六と一樹は第一グラウンドの選手用控え室のベンチにて座りながら待機している。
控え室の中はモニターが複数設置されていて画面にはグラウンドが映し出されていたり、近くにはフィッティングルームも併設されているようだ。
そして本来なら直ぐにでも試合が始まる筈だったのだが、どうやら運が良いのか悪いのか分からないが今日望六と一樹の礼装が届くらしいのだ。
前に七瀬が言っていた政府公認の礼装だ。恐らくだが二人の魔力データとかを礼装を使って研究したいが為に色々と時間を掛けていたのだろう。
学園支給の礼装はコスト削減の為に機能は最低限しかないのだが、競技者用と軍属用にはバイタルをリアルタイムで視認できるような機能があるらしい。
と言ってもゲームみたいに視界内で見えるものではなく、別のタブレット端末やパソコンに反映される仕様とのこと。
余談だがこの知識は七瀬が控え室に向かう途中の道のりで望六達に話していた事だ。
それからその七瀬と言えば……、
「チッ、遅過ぎるな。政府は私を怒らせたいのか?」
「そ、そんな事はないと思いますよ……。きっとこの学園が特殊な場所に作られているから、その関係で遅れているのかと……」
望六と一樹の横で苛立ちを顕にしていて、それを落ち着かせるように木本先生が弱腰で話しかけているのだ。
時間的にはもう届いていてもおかしくないらしいのだが、どうやら郵送が遅れているみたいだ。
それに対して望六が「Ama○onの速達を見習って欲しいぜ」と呟いくと同時に木本先生のスマホが突然鳴り出した。
「おい。今は時間外勤務だぞ。電源は切っておけ」
「す、すみません。あ、でも先輩! この着信は本部からです!」
「……なるほど。やっと届いたという訳か」
木本先生が七瀬に言われた通りに電源を落とそうとすると寸前の所で着信相手が分かったようで、心なしか七瀬の苛立ちが少し収まったような気がした望六である。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「これがお前達の礼装だ。直ぐ着て準備しろ。最初は違和感があるだろうが直に慣れるから安心しろ」
あの電話の後、木本先生が大きめなダンボールを抱えて急いで戻ってくると二人にそう言ってきた。学園支給の礼装を着ていた時は特に違和感とかは感じなかったが、専用の礼装とでは勝手が違ってくるのだろうかと望六は首を傾げる。
けれどそれは本当に着ても大丈夫なのだろうか。
これは人体に有害とかではないだろうかと少しばかりの不安が望六の背中を過ぎ去っていく。
「こっちが望六の礼装だ。受け取れ、そしてさっさと着替えろ。向こうはとっくに準備が出来ているからな」
「はいっ!」
七瀬がダンボールから望六の礼装らしき服を取り出すとそのまま渡してきた。
……いや正確に言うのならば投げて渡してきたが正しいが。
「にしてもなんだよこの礼装のデザインは。全体的に真っ黒で背中には……何だこれ? 鳥の羽か?」
望六が受け取った礼装は見た感じで的確に表現するなら、それはまさに中二病全開の服であった。漆黒を帯びたロングコートに金色の縦線が入った黒色のズボン。
更にブーツは銀色の金具が付いている物だ。
だがしかし、極めつけはコートの背にマントがついていてそれには何か鳥の羽らしきもので装飾されている。恐らくだがカラスの羽だろう。黒光りしている羽が特徴的だ。
「ちゅ、中二病……衣装かな?」
「黙って着ろ。それと言っておくが礼装の見た目は完全に向こうの技術者の判断だ」
望六は独り言のつもりで呟いたのだが予想外にも七瀬が返してくると何とも言えない気持ちのまま礼装を着ることになった。
この礼装の見た目が技術者の判断なら、その人が中二病を患っているのかも知れない。
ならば、この決闘が終わったら抗議の電話を掛けないといけないと彼は思った。
出来るだけ普通の感じでお願いしますと。
「お、望六も着替え終わったのか」
「まあな。……って!? お前その礼装って!!」
一樹が礼装に着替え終えて話し掛けてくると望六は視界に映った彼の姿を見て驚きを隠せないでいた。何故ならその礼装は――
「おい馬鹿共、無駄口は後にしろ。こちらはとっくに規定時間を二十分ほどオーバーしているのだからな」
「それと最初は望六とメリッサの戦いだ。さっさとグランドに出て勝ってこい。いいな?」
「は、はい……!!」
二人の会話を七瀬が断ち切ると最後に木本先生が望六に向かって「勝ってこい」とさりげなく声の鞭を打ってきた。もちろん彼自身も負けるつもりは毛頭ない。
「頑張れよ望六! 控え室のモニターから応援しているからな!」
「ああ、任せときな。俺の初陣だ。みっともない試合にはさせないぜ」
一樹にそれだけ言うと望六はデバイスを腰に装着して控え室を後にした。
そのままグラウンドへと通ずるゲートを越えると外は絶好の決闘日和というべきだろうか。
燦々と照りつける太陽が眩しく、それでいて観客席から大勢と彼を見てくる女子達。
どうやら望六の予想は当たっていたみたいだ。その観客の大半が一学年の女子達なのだ。
「だがこれだと、まるで気分は動物園のパンダだな」
彼が会場を見渡して呟くと前方からゆっくりと足音が聞こてきた。
「あら、随分と遅い登場ですね。てっきり逃げ出したのかと思いましたよ」
「ああ待たせて済まないな。この礼装の準備に意外と手間取ってしまってな」
その声のする方に望六が視線を向けると、そこには決闘相手のメリッサがメイド服を着て手にはライフル型のデバイスを持って立っていた。メイド服は恐らく礼装であり勝負服なのだろう。
そして同タイミングで観客の方からは何やらブーイングが飛び交い初めてきた。
「なに話してんだよ! ビビってるならさっさと逃げ帰れ白髪野郎!」
「そうよ! たかがAランクを出しただけのまぐれ男風情が!」
「さっさとやられて私達の前で無様な姿を晒しなさい!」
その罵声は嫌でも望六の耳に入り彼が思うのはこの会場には恐らく先輩も見に来てくれているだろうから余り悪口を言わないで欲しいと言う素朴な願いであった。
けれど先輩の為にもこの試合は無様には終わらせられないだろう。
しかもこの試合に勝てば先輩が名前を教えてくれると言う条件を提示してくれたのだ。
こう見えて望六は未だに先輩の名前も知らないのだ。
いつも先輩呼びで通じていた事もあり、支障もなかったから聞くことが無かったのだ。
「何やら外野が騒がしいですね。でも気にしなくて大丈夫ですよ。直ぐに終わらせてあげますから」
「ははっ、そりゃぁどうも。だが俺は直ぐに終わらせる気はないぜ?」
望六の言葉にメリッサは鼻で笑って返すと、次に一歩前に出てこう言ってきた。
「それでは決闘の気品を重んじて改めて自己紹介を。私はメリッサ・ハウェル。ローウェル家に仕えるメイド長でありBランク魔術士候補生です。私が勝利した暁にはブタ野郎を三年間召使いにすること!」
「俺は白戸望六。平凡な学生になる筈だった者でAランク魔術士候補生だ。俺が勝利した暁には……そうだな。いついかなる状況でも俺の言う事を聞いて貰うということだったかな」
外野の声を他所に二人がそんな会話を交わすと望六は自然と武器をいつでも使えるように身構えていた。後は試合開始の合図がくるのを待つのみである。
『両者……試合開始っ!』
グラウンドに取り付けられているスピーカーから七瀬の声が聞こてきた。
望六はその合図と共に剣を引き抜くと先手必勝を取るために、現状自分の中で一番素早く詠唱発動が出来るようになった魔法攻撃をメリッサに向けて放つ事にした。
「怪我すんなよ! 術式展開【Ether bolt】…………か”あ”っ”!?」
――だが詠唱を唱え終えると同時に望六の体に異変が起こった。
それは彼の脳内に突如として膨大な数字と英語の羅列した何かが浮かんできたのだ。
しかし異変はそれだけではなかった。更にそれが脳内で騒々しく構築されていくと体は異物を取り除くかのように凄まじい不快感を望六に与えてきたのだ。
「くそっ!! ……ま、まず……い!」
彼は強烈な不快感に襲われても尚、自身が詠唱した魔法をメリッサに向け放出する。
刃先から放たれた球体状の魔法攻撃は真っ直ぐメリッサへと向かうと――
「こんな低俗な魔法如きで私にダメージを負わせられると? はっ、良いでしょう。本当の魔法がどういった物か見せてあげます! 喰らいなさい!」
そう言ってメリッサは持っているライフルを構えて引き金を引く。
すると銃口から光の塊が勢い射出されて望六の【Ether bolt】を射抜いて消滅させた。
どうやら見るにメリッサの属性は光属性のようだ。
「はぁはぁ……マジかよ。やっぱりメリッサさんは無詠唱で魔法が使えるみたいだな……。これは存外に厄介だ」
彼の脳内に浮かんでた謎の羅列が形を成して収まってくると体の不快感は徐々に収まってきたが、頭だけは寝すぎた翌日のように激痛を伴っている。
望六は一体自分の体に何が起こったのか理解出来ないが、それでもメリッサと何とか戦える事に安堵した。最悪の場合あのまま頭痛の影響で試合が続行不可になる事が、彼にとって危惧すべき事だったからだ。
せっかく応援してくれている親友の一樹や月奈、それに先生方。
さらには特訓に付き合ってくれた先輩。
色んな人が見ている中で無様に地に足を付ける訳にはいかないのだ。
「はぁ……。色々背負うと言うのは大変だな。だけど今はあの無詠唱が鬼門だ」
そして無詠唱と詠唱ではやはり魔法を発動するのに微量の差が出てくる。
ゆえにその差で圧倒されてしまうと一方的な試合になってしまうのだ。
「何を一人で喋っているんですか? それとも、これにすら気づかいない木偶の坊ですか?」
「なんのことだ?」
メリッサの含みのある言葉を望六が耳にすると上空からは光の塊が勢いよく降ってきていて彼の右肩に直撃した。
「ぐあぁぁッ!?」
その衝撃は礼装を纏っていても相当な物で肩の骨が粉々に砕かれたような感覚を受けた。
「はぁ……。やっぱりブタ野郎如きでは私の相手にはなりませんね。さっさと降参してくれればこれ以上の攻撃は辞めますけど、どうします?」
「はっ! ……そんな事、言うわけないだろ!」
メリッサは銃口を向けながら言ってくると望六の答えはこれしかなかった。
絶対に無様には終わらせない。
そこに圧倒的な実力差があるとしても諦める訳にはいかないと。
「そうですか残念ですね。では、せめてもの慈悲として一瞬で気を失うほどの痛みを与えてあげましょう。術式展開【Heaven's Vanish】」
それは慈悲と言えるものなのだろうか些か疑問だが、あのメリッサが術式を展開させたという事は先程よりも数段上の魔法が飛んでくる事は間違いないだろう。
「ああ……どうしよう先輩。俺はこういう時の打開策何も教わってねえ!」
刹那、メリッサは銃口から無数の眩い光線を放つとそれらは全て望六の元へと向かってきた。
その圧倒な魔法の数を目の前に彼は受け止めれても二三個ほどだと直感的に理解する。
「チッ、数が多すぎて避ける事も不可能か。ならば魔法で相殺させるのみだっ! 術式展開【Impuls Break】!!」
最初の光線が迫ってくると望六は次の魔法を発動して何とか相殺を試みる事にした。
この魔法は剣に魔力を帯びさせて斬撃を繰り出す初歩的な物だ。
言ってしまえば実技の授業で月奈が使っていた【Slashing flash】の劣化版で無属性と言う事だ。
「おらぁぁあああ!!」
彼は左右に上下に至る方向に剣を降っては斬撃を繰り出す。
……がしかし属性付きの方が遥かに魔力は強大で望六の魔法は光線に当たると弾かれるか消されてしまう。やはり相手は手だれの魔術士候補生。まさに焼け石に水状態にしかならなかった。
「ふんっ、ただの悪足掻きですね。所詮は男性が女性に勝てるわけもないのですよ」
「そうかもな……だが! 俺にはこの手しかないんでなぁ! 最後まで足掻かせてもらうぞ!」
望六は次の斬撃を放とうと構えるが、その瞬間左右から光線が加速して彼の両脇腹を直撃していった。
「な”あ”っ”!?」
痛みで意識が飛かけると続けざまに二つの光線が正面から向かってきて顔と腹に直撃していくと、そのまま望六は思いっきり後ろの方へと飛ばされて観客席側の壁に衝突した。
「ぁぁ……っ」
言葉にならない程の痛みが全身を駆け巡ると彼は心臓を鷲掴みされたかのように苦しくなった。
その苦しさは段々と強くなっていき……やがて望六は目を閉じて意識を手放そうとすると、頭の中で誰か知らない少女の声が聞こえてきた。
『キミはこのまま負けても良いのかい?』
「……良くないに……決まってんだろ……」
混沌とする意識の中で望六は相手の顔も分からないまま言葉を捻り出す。
『じゃあ、何故キミは立ち上がらない?」
「体中が痛くて苦しくて立ち上がることすら……できないんだよ……」
既に彼の体はメリッサから放たれた光属性の魔法攻撃により満身創痍。
下手したら骨の二三本は既に持っていかれている可能性すらある。
『ならばキミはここで負けてしまうのだね。ああ、可哀想に。キミを勝利を信じている先輩や親友達はさぞ残念がるだろうね』
「……ああ、そうだ。俺が負けると先輩に汚名を背負わせる事になってしまう。……それに一樹や月奈にも俺は無様には負けないと大見得を切ったのにな……」
素性も見た目も分からない。ただ幼い少女ような声のその言葉は望六の心に深く突き刺さった。
自分はこんな所で負けてしまうのか……情けない余りにも情けなさすぎると。
『ふっ、ならば今一度問おう。キミは本当にここで負けて良いのかい?』
「俺は……こんな所で負けたくはない……っ!」
今の望六の中には色々な感情が迷い交わっているがその中でも曲げられない意思がある。
一つは先輩が自分を特訓して鍛えてくれた恩をここで勝利して返したいと言うこと。
二つめはただの自己満足かも知れないが、ここで勝利を決めて皆に自分と言う存在を認めさせてやりたいと言う事であった。
『そうか、ならキミ本来の力を少しだけ開放させてあげよう。私とてキミが負けるのは色々と不都合なのでね』
「不都合? なんだよそれ。と言うかお前は一体……?」
『じゃ頑張ってね。私のマスター』
不可解な意識の中で少女の囁きはそこで途絶えると心臓がより一層掴まれる感覚が増していく。
その影響で望六は心臓の痛みと呼吸のしずらさに思わず目を見開くと――
「ッ……体中の痛みが引いていく……だと? いや、それだけじゃない。体中から魔力が湧いてくるような感覚すらある……。一体これは何なんだ?」
彼は倒れていた体を起こして立ち上がり視線を前に向けると、そこには直ぐ近くにまでメリッサが迫っていた。
「ほう。あの攻撃をモロに受けて立ち上がるとは流石のブタ野郎は頑丈ですね」
「それは褒めているか貶しているのか分からんが……まあなっと言っておこう」
しかし不自然な事にメリッサはそんな些細なやり取りの後、目を細めて望六の顔を見てきた。
まるでその表情はおかしな物を見るような感じだ。
「ブタ野郎その瞳は一体なんですか? まさか、この期に及んでイメージアップでも図ろうとしているんですか?」
「はぁ? 何の事だよ? 俺はたった今起き上がった所だぞ」
メリッサが急に瞳がどうのこうの言ってくると、はっきり言って望六は何を言っているのか一つも理解できなかった。
こんな土壇場でイメージアップしても意味はなく、そもそも瞳が一体何だと言うのだろうかと。
「それ本当に言っているんですか? なら、ご自分で確認してみては?」
そう言ってメリッサはポケットから携帯用の鏡を取り出すと、それを望六に向かって投げてきた。
「その台詞は俺が言いたいんだが……。まぁいいか」
投げられた鏡を左手で受け止めると彼は言われた通りに自分の瞳を確認する。
すると鏡に映った望六の瞳は――――
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。
宜しければ評価とブックマーク登録お願い致します。
活動の励みとなり更新が維持出来ます。




