22話「先輩は優しいが少年は優しくない」
魔法実技の授業を終えて教室に戻ると、次は座学の方の魔法基礎と普通科の授業が続いて昼食を食べる頃には望六は疲労困憊の状態となっていた。
しかし彼よりも一樹の方がより酷く疲労の色が強かった。
教室移動とかをする度に望六が肩を貸していたぐらいだからだ。
一樹は月奈を守る為にアビリティ魔術を放ったことで魔力切れを起こして、生まれたての小鹿のように足を震えさせて自力歩行が不可能になっているのだ。
まだ基礎の範囲しかやっていないのに、いきなり何回も大技を使った結果である。
とどのつまり自業自得である。
けれどそのおかげで月奈は無傷なのもまた事実だ。それゆえに今日の食堂では珍しい光景が見られたのだ。それは三人がいつも通りに食堂へと行き食事をしていたら、一樹がうまく箸が持てない事に月奈が気がついた事から始まった。
月奈は徐に自分の使った箸で一樹の頼んだ鮭定食の鮭の切身を掴むと、そのまま一樹の口元へと運んだのだ。
そう、これは彼女彼氏にしか許されない禁断の行為『あーん』に間違いない。
もちろん彼女は周りの目を気にしたり湯気がでそうな程に顔を真っ赤にしていたりと表情は忙しそうだった。だけどあれは月奈なりのお礼だったのかも知れない。
だが一樹はそんな事もお構いなしに差し出された鮭の切り身を「ありがてえ!」と言いながら食べたいたのが何とも雰囲気に合っていなかった。
そのまま望六はその光景を見ながらラーメン&炒飯定食を食べていたわけだが、危うくその光景だけでお腹がいっぱいになる所だったのだ。
あと七瀬が言ってたい話だと魔力消費量=スタミナ切れに近い状態らしいので、明日には一樹は復活出来るだろうと言う事だ。
――そんな事もあり午後の授業もこなしていくとやっと放課後となり、自由の時間を手に入れる事が出来のだが……望六にはやらなければいけない事が残っているのだ。
そう、七瀬から言い渡された反省文という名の課題だ。
「はぁ……チクショウ。俺は文章を書くのが苦手だというのに、こんなの今日中に終わるのかよ」
夕日が差し込む教室でただ一人、望六は愚痴を吐きながら机に置かれている用紙にネチネチと校則違反について書いていく。
がしかし正直言うと今の彼にこんな悠長な事をしている暇はない。
何故なら早くも土曜日にはメリッサとの決闘が控えているのだ。
彼は今日の実技授業でこのまま決闘に挑めば瞬殺されるであろう事を深く知った。
だから一刻も早く魔法の練習をしたいと思っているのだ。
だがそれ以前に望六には納得がいかない事がある。それはずばり……、
「つーかなんで、反省文を書かされているのが俺だけなんだよ! 納得いかねーよ!」
共に反省文を書く筈の一樹はどうしたのかと聞かれれば、彼は現状で箸をまともに持つこともできないのでペンを握って文を書く事なんて到底不可能なこと。
だから一樹は反省文が無しとなり先に寮に戻っているのだ。
「あーあ。しっかし良いよなぁ。美女の幼馴染に肩を貸してもらって、部屋まで付き添って貰えるとかなぁ」
望六は自分で言っておいて改めて思うと無性に腹が立ってきた。
なんで一樹だけいつもモテるのか、自分にもそろそろモテ期の一期ぐらい来てくれてもいいじゃないかと行き場のない怒りが込み上げてくる。
「……んな事を今考えてもしょうがないか。さっさと反省文終わらせて魔法の自主トレしないとな」
望六は椅子に深く座って姿勢を正すと、かつてないほどに左脳をフル活動させて反省文を書き進めて一気に終わらせた。
あとはこれを七瀬に提出するだけなので、机の横に掛けていたバッグと壁に立てかけていたデバイスを背負って職員室へと向かった。反省文を提出したらそのまま七瀬にグラウンドの使用許可を貰って自主トレをする予定だからだ。
「失礼しますっ! 一年一組の白戸です! 七瀬先生に用があって来ました」
職員室の中へと入り恒例の呪文のような言葉を言うと、七瀬は椅子に座った状態で望六の方を見てきた。
放課後ということもあるのか職員室には他の教員達はあまりいない様子だ。
……だが珈琲の匂いは変わらず濃い。
「なんだ望六か。反省文はちゃんと書き終えたのか?」
「はい! 終わりました!」
望六は七瀬の元へと近づいて行くと手に持っていた反省文を渡す。
すると七瀬は相変わらず黒色のタイトスカート履いて足を組んでいるので、彼の視線は自然と下の方に向かってしまう。
自分でもこれが愚かな行為だとは分っているのだがスーツ姿の女教師と言う属性がどうにもぐっときてしまうと望六は止まらないのだ。それに七瀬は美脚の持ち主なので尚更である。
「うむ、ちゃんと書けているようだな。これに懲りたらもう校則を破るような事はするなよ?」
「はいっ! ……あ、それと七瀬さんに頼み事が……」
七瀬は反省文を机の上に置くと再び自分の仕事を再開しそうだったので、望六は矢継ぎ早に話を続ける事にした。
「頼み事だと? なんだ言ってみろ」
「実は……魔法の練習をする為にグラウンドの使用許可を貰いたくて……」
七瀬は表情を一切変えずに淡々と聞き返してくると望六は目的を話す。
そして彼女は顔を逸らしてパソコンを操作し始めるとグラウンド使用状況というページを開いた。
「なるほど自主トレか。実に良い心がけだ。今の時間なら第二グラウンドが空いているから、そこなら許可を出してやる」
「本当ですか! ありがとうございます!」
どうやらグラウンドの空きがあったらしく許可を出してくれた。
それと望六が横目でパソコンの画面を覗き見ると赤いバツマークが出ている箇所のグラウンドがあったのだが、それは使用中を現しているのだろうか。
だとしたらリアルタイムでグラウンドの管理をしているという事になるが流石WM学園といった所だ。技術力が普通の学校の数倍上回っているようだ。
「ああ構わん。お前には決闘が控えているしな。……そう言えば愚弟もだったか」
「ええまぁ。アイツは今、寮部屋でくたばって居ると思いますけどね」
決闘の原因を作った張本人は幼馴染に連れられて寮に戻って今頃ベッド上で横になっている事だろう。本当にあんなんで魔術留学生のシルヴィアに勝てるのだろうか。
望六は別に心配や応援もする気はないのだが勝敗だけは気になった。
「それでは失礼しましたっ!」
「ああ、しっかりと自主トレに励むように」
彼は職員室でやるべき事を成すとその足で使用許可の降りた第二グラウンドへと向かった。
場所は二学年の校舎側らしいので、もしかしたら先輩達が先に使っているかも知れない。
それに先輩達が変に絡んできたら望六としては超怖いのだが、この自主トレの機会を逃したくないのも事実だ。
そして二学年の先輩に怯えいている暇なんぞ今の彼にはない。
一刻も早く魔術戦闘を覚えないといけないからだ。
……でももし仮に絡まれたら一樹を売ってでも助かろうという気概は一応ある。
望六はそんな事を考えながら第二グラウンドへと来た訳だが、意外も意外というべきなのだろうか。二学年の先輩はそんなに居なかった。
ざっと見た感じで四人グループがちらほら居る感じだ。
「うーむ。やはり俺は端っこで細々と自主トレしてた方がいいかもな」
何時ぞやの学園見学の時に彼は先輩達からも疎い目で見られている事実を知ったのだ。
ゆえにこんな所で一人居たら、きっと絡まれること間違いない。
だから存在感を極限にまで下げて細々と行うのだ。
一応保険があると言っても望六だって無下に親友を売りたくはない。
「しかしだなぁ。先輩達が大人の女性に成長していく段階で、あの体操着礼装は如何せんコスプレ感があって……ついつい集中力を欠いてしまうな」
一学年と二学年の差はこんなにも大きかったのかと色々な部分を見て彼は思い知らされている。
きっとこれが三学年になったらコスプレ感じゃなくて完全なるコスプレに見えてしまうのかも知れない。そう思うと望六はこの罪深い第一WM学園に感謝の念を捧げる為に両手を組んで祈った。
「……っといかんいかん。こんな事をしていては決闘に負けてしまうぞ俺!」
少しだけ名残惜しいが彼は頭を振って邪念を取り払うとデバイスを握り締めて改めて自主トレに励む事にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
――それから三十分ほど経過しただろうか、望六は何度も無属性魔法を放ってせいで一樹のように足が小刻みに震えだしていた。
「はぁはぁ……。何か魔力の伝導率が悪い気がするんだよな。あと威力がないからその分を数でカバーしないとだし……どうっすかなぁ」
デバイスを横に置いて地面に座るって考えると魔力の伝導率云々はきっと礼装を着ていないからという結論に直ぐに至ったが、無属性の弱点とも言える威力が無いという事に関しては解決策が見つからないでいた。
「こんな時に美優達と連絡が取れれば色々と聞けたのになぁ。だがまぁ、今更会って話しても許しはくれないだろうな。……あぁぁあ! もう!! 本当に全てが嫌になる!」
一人端っこで大声で文句を言っていると誰かが絡んできそうだと思われるかも知れないが、既にこのグラウンドには彼一人しかいない状況だ。辺りを見渡しても人影は何一つない。
望六が集中して自主トレを行っている最中に先輩達は帰ってしまったようだ。
だが、そのおかげで今は伸び伸びとできている訳だが。
しかしやっていることは魔法を只管に放つだけの練習で特段変わったことはない。
「さて……あともう二十分ぐらいやったら俺も寮に戻るかな」
横に置いていたデバイスを持って立ち上がりズボンに付いた砂を払うように手で叩いていると、背後から聴き覚えのある透き通るような透明感のある声で話しかけられた。
「あの? 何かお困り事ですか?」
「えっ……?」
振り返ると彼の目の前には何時かの学園見学の時に親切にもパンフレットを拾ってくれた海外女子の先輩が心配そうな表情を見せながら立っていたのだ。
「あ、すみません! いきなり話しかけちゃいまして。実は先程からそこのベンチに座りながら見ていたんですよ。そうしたら何やら困っている様子でしたので……」
「そ、そうなんですか……」
……嘘だと言って欲しい。これがいま望六の思ってる率直な気持ちだ。
先程までの愚痴をしかも大声で言っていたやつを全てまるっと全部聞かれていたと言う羞恥心。
しかもよりによってこんな人当たりが良さそうな先輩にだ。
だがこんな彼を心配してくれるとは心の器が大きい先輩である。
自慢ではないが望六は二学年、三学年、の先輩方にも嫌われるという自負があったのだ。
だけど心配してくれた事は事実なので取り敢えず真実をありのまま話すことに彼は決めた。
「その、実は――」
望六は先輩に全ての事情を話し始める。
すると先輩は何を思ったのか急に自信が満ち溢れたような表情で、
「なるほど、魔法に関してお困りなのですね! でしたらここは先輩として後輩にレクチャーをしてあげましょう!」
と言って自分の豊満な胸に手を添えて任せて下さいと言った感じを主張していた。
だがそれは望六としても願ってもいない提案であった。
先輩から教えて貰えるのならきっと、一人で黙々と練習するよりかは遥かに効率が良いからだ。
「ぜ、是非! お願いします先輩!」
「もちろんです! ではまず、どこが苦手とか分からないとかありますか?」
最初に先輩から尋ねられた事は苦手な分野であったが正直言ってしまうと無属性特有の威力が無いという部分が全てに当てはまるのだが、ここは先輩が直々に教えてくれると言っている事から基本を忠実に全て聞く事が正解な気がすると望六は力強くこう言い放った。
「えーっと、全部です!」
「……ぜ、全部ですか?」
「はい、そうです!」
何やら先輩は望六の発言に驚いている様子だが彼はまだ一学年で実技が始まったばかりの超初心者である。だから一から教えて貰った方のが逆に身につくと可能性が高いのだ。
それに望六は来週の決闘で絶対に負ける事は許されないのだ。
何故なら負けたら三年間召使いにされてしまうのだから。
それだけは何としても回避せねばならないだろう。
だが先輩は彼の目の前で未だに困惑して困っている様子だが言ったからには『しっかりと最後まで練習に付き合って貰いますよ先輩』と彼は心の中で囁いた。
「じゃ、じゃあ! 取り敢えず魔術士の基本的な立ち回り方を教えますね?」
「はい! お願いしまっす!」
――その後はグラウンドの使用時間ぎりぎりまで先輩から立ち回り方を教えて貰うと、望六は寮の自室へと戻って自習用の席に座りながら今日の内容をノートに書き留めていた。
ちなみに魔法の練習は消耗が激しいからという理由で後日となっている。
それと練習後に望六は先輩と少し話をしたのだが、どうにも先輩は例の決闘の事を知っているらしい。と言うよりかは全学年が知っているとのことだ。
何でもあのシルヴィアとメリッサが大々的に宣伝を行っていたらしい。
本当に迷惑なことこの上ないが、そこまでして自分と一樹を晒者にしたいのだろうかと望六は思った。
だがしかし彼とてただで終わる気はない。
期限一杯まで自主トレをして、それなりに戦えるぐらいには強くなってみせる予定なのだ。
だから先輩にはそれまで一緒に頑張ってもらう事を約束して貰った。
無論だが明日もしっかりと練習に付き合ってもらう予定である。
そこで望六は一樹も誘えればいいのだけど……と思っていたのだが既に一樹は飯も食わずに爆睡しているようだ。きっと魔力の消耗が激しくて本能的に体を休めているのだろう。
そして一樹の寝ている所を横目で伺うと急に疲労感が押し寄せてきて望六も今日は寝る事にしたのだった。
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