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19話「学園の女子達は色んな意味で強い」

「お、起きろ望六! 今日も今日とて遅刻寸前だ!」

「おう、だけど今回はちっとばかし違うぜ。俺を見てみろ一樹!」


 いつも通りに一樹の焦りの第一声で朝を迎えると、慌てて身支度をしている彼とは対照的に望六には些細な余裕があった。

 

 その理由は昨日、寝る時に制服のズボンを事前に履いておき尚且つネクタイの形を保ったままロッカーにしまっておいたのだ。

 こうして出来る限り無駄な行動を省くことで余裕の持った朝を迎えられるわけだ。


 だがこんな事しなくとも普通に起きられたら何の問題もないのだが。

 無理なものは無理だと望六は学園数日目の朝で早くもそれを悟ってしまったのだ。


「なっ!? 事前にズボンを履いて寝るとか…………流石は望六だなッ! 今日の夜、俺も参考にしてみるぜ!」

「おう! 是非やってみくてれ!」


 こんな騒がしい光景を傍から見たら二人は朝からテンションが高い部類だと思われるかも知れないが全然そんな事はない。

 寧ろ遅刻ぎりぎりでこんな事を話している場合でもないだろう。


「えーっと、まぁこんなもんだろ。注意されたら……その時直せば問題ない!」


 一樹はそんな事を言いながら姿見で服装を確認しながら仕上げにネクタイを引っ張って全体を整えると、机に置いてあった自分のデバイスを専用のケースに仕舞って準備完了のようだ。


 だがそれを見ながら少々待って欲しいと言う気持ちが望六にはあった。

 何故か彼のデバイスは朝になっても魔法のダウンロードが終わっていないのだ。


「望六は事前に支度をしていたにも関わらず何でそこだけ遅いんだよっ!」

「お、おかしいなぁ……。昨日寝る前に確認したら朝には終わる予定だったんだけど……」


 一樹は遅刻の焦りからなのか先程から彼を見ながら妙にソワソワしている様子だ。

 というより彼ですら魔法のダウンロードにこれだけ時間が掛かっていると言うのに、一樹はちゃんとダウンロード出来たのだろうかと望六は疑問を抱く。


 がしかし、じわじわと焦りを募らせ始めると望六はそんな疑問すらどうでも良くなってパソコンのモニターへと視線を向けると残りのダウンロード予測時間があと二分と表示されていた。


「すまん一樹! あと二分だけ待ってくれ!」


 モニターに視線を釘付け状態にしながら望六は背後に立っている一樹に伝える。


「あと二分だな! よし、分かった!」


 先に教室に向かってくれても構わないこの状況下で、敢えて待つという選択をするとは一樹は本当に親友思いの良い男だと望六は頭の片隅で思う。


「よし終わったぞ! こっからは校則を破ってでも廊下を駆け抜けるぞ!」

「おう! 遅刻に比べればマシだぜ! なんて言ったって遅刻すると木本先生と姉貴に怒られるからな!」


 望六はパソコンとデバイスを繋いであるケーブルを外すと急いで専用のケースに仕舞いバッグを抱えて一樹と共に寮を飛び出し、そのまま一年の校舎を目指して全力を出して向かった。

 例えるなら、この時の二人はきっと流星にも見えるほど早かったであろう。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから全力を出してつつ息を荒げながら二人は一組へとたどり着くと教室の扉に手を掛けて勢いよく開けて中に入る。


「よっし! 遅刻回避だ――っ!」

「やったぜ望六!」


 望六と一樹は同時に教室へと入ると遅刻回避の達成を味わうが如くハイタッチを交わした。

 だがしかし……直ぐに二人は異様な雰囲気を感じ取る。


「遅刻回避か? それはそれは随分と、お前達の考えはお気楽のようだな」

「貴様らは時間というものすら理解できないのか? あれをよく見てみろ馬鹿二人組が」


 教室に入るなり二人に向けられる同情の視線、そして相変わらず望六だけに向けられる禍々しい視線。さらには木本先生と七瀬が教卓の横から人を何人か殺めていそうな瞳を二人に向けてくると、望六は木本先生に言われた通り時計を確認した。


「あっ……遅刻回避できてねーや……。お、オワタ」

「あれだけ頑張って走って来たというのに……」


 二人はその場で絶望感に苛まれると膝から崩れ落ち、木本先生と七瀬が目の前に近づいてくると止めの一撃を放ってきた。


「ふむ、遅刻だけでなく廊下も走って規則違反を犯すとはな。お前達馬鹿二人組は、あとで反省文二枚をキッチリの文字数で書いて提出するように」

「分かったらさっさと席に着け。HRを始めるぞ」

「「はーい……」


 一樹が不意に漏らしてしまったせいで望六達が流星の如く廊下を走って来た事が簡単に発覚すると、罰として反省文を書けと七瀬に言われてしまい何とも言えない一日が開幕したようだ。


 二人は木本先生に言われた通りに席へと向かい腰を落とすと月奈が早速呆れ顔で一樹に小言を言っているようだった。というより月奈も少しは起こしに来てくれてもいいんじゃないかと望六は憂鬱に満ちた視線で訴え掛ける。

 

 さらに望六はこうも思ったのだ。一樹と月奈は仮にも幼馴染同士なのだから、よくあるアニメとかラノベのように互の部屋を行き来したたり、朝は一樹に跨って「お、起こしに来たぞ!」っと照れた表情をしながら言ってくれてもいいのになと。

 

 ……しかし頑固一徹の月奈では中々に難易度の高いことかも知れない。

 そしてもはや恒例行事のように望六に向けられているヘイトのような視線は、もう何日も教室や廊下や食堂や寮で女子達とすれ違うたびに向けられてきたので変に体が慣れてしまったようだ。


 もう少し極めれば快感にすら変換出来るのではないかと彼は考えるが、そこまで変態になりたくはないとなんとか思い止まる。


「今日のHRは昨日伝えていた通りに一時間目の魔法実技についての連絡事項だ。実技は初めての事だから失敗や怪我も負うだろう。しかし恐れるな。魔術士を目指す以上、常に苦難は付きまとうからな」


 望六が自分でも朝から馬鹿な事を考えているなぁっと自覚していると木本先生が何やら熱い感じで全員に語りかけてくれていたようだ。


 意外と木本先生は生徒思いの良い先生なのかも知れない。

 すると次に横に立っていた七瀬が咳払いをしてから口を開く。


「んんっ。あとは私が説明しよう。女子はここで速やかに礼装に着替えろ。文句は言うな。今年の一年は人数が多すぎて更衣室が満員だからな。男子は……廊下や適当なとこでいいだろう。以上だ」


 七瀬が業務的説明を手早く話すと望六は表情筋が固まった気がした。

 だがそれは彼だけではなかった。周りを見れば女子達も口を開けて呆然としているようなのだ。


 だがそれも無理は無いだろう。

 恐らく教室で着替えるという行為は小学校のプール授業以来だからだ。

 

 しかもこのクラスに居るのは花の十五の乙女である。加えて言うなら思春期真っ只中でもある。

 流石にこれは誰か一人ぐらい反発するのではと望六は周囲に視線を張っていると、


「ちょっと待ってください! それはいくら何でも……!」


 そう思った矢先に前の方の席で一人の女子が七瀬を見ながら席から立ち上がった。

 

「それはつまり……。私達の着替えを宮薗先生に見て頂けるという事なのでしょうか!?」

「「「「おお……!!」」」」


 立ち上がった女子が興奮気味な声で言うと、その言葉に同調するかのように他の女子達も頬を赤く染めて反応していた。しかも小声でこんな言葉の数々が聞こえてくる。


「だ、大丈夫かな……。私今日、地味な下着なんだけど!」

「大丈夫よ! 私なんて下着忘れちゃったから!」

「ああ……! 七瀬様に私の体の全てを見てもらいたい!」

 

 ……この学園はもう駄目かもしれない。ここまで来ると個性派学園というよりも、ただの変態学園なのではないだろうかと望六は朝一特有の冷静な思考で思う。


「馬鹿なこと言ってないでHRは終わるぞ。さっさと男子は教室から出て礼装に着替えろ!」

「十分後には第一グラウンドで待機しているように。それと言っておくが私はノーマルだ」


 木本先生と七瀬が教室から出て行くと望六と一樹は至る方向から女子達の視線を向けられた。

 早く出て行けよとでも言っているのだろう。

 

 だがしかし、一樹と比べると望六に向けられている視線の量と質が圧倒的に違うのだ。

 一樹なんて殆どが好意的な視線で残りの不快な視線は全て彼へと注がれているのだ。


「はやく着替えに行こうぜ望六!」

「そ、そうだな……」


 一樹に言われるがままに席を立つと望六は教室の外へと出て着替える場所を探しに向かった。  

 だが時間は既に七分程しか残されていない。


 朝一で遅刻して怒られていると言うのに、そこに更にプラスして授業でも遅刻したらいよいよ反省文だけでは済まされないだろう。

 恐らくだが物理的にな罰を与えられるに違いないと望六は考える。


 七瀬の拳による肉体破壊か木本先生によるヒールを履いた足による蹴りのご褒美か……一体どちらなのだろうかと望六は現実逃避近い妄想を既に始めていた。


「にしても着替えられそうな場所なんて本当にあるのか?」


 一樹が礼装とデバイスを両脇に抱え歩きながら言うと望六はそれに全くもって同意を示し大きく頷いて返した。


 確かにこの学園に着替られそうな場所なんてあるのだろうか。

 ここは女子が大半を占める学園で適当な場所で着替えを行って万が一、裸を見られたらそれこそ学園生活……いや男として終わりだろう。

 

 そう望六が思っていると隣から急に一樹が何かに気づいたように声を上げた。


「ああ、そうだ! ここしか着替えられる場所はないッ!!」


 一樹が力強く言い切ると望六はその声に釣られて顔を向けた。するとそこは――――


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