18話「女子は噂と甘いものが好き」
切りの良い所で授業が終わると昼休憩となり、望六達は昼食を食べるべく教室を出て食堂へと向かっていた。
そして食堂に向かう途中に望六は何気なく視線を廊下の壁に向けると、そこには第一WM学園広報ボードと書かれた木製の提示版が壁に設置されている事に気が付く。
「なんだこれ? 昨日まであったか?」
「いやぁ? 覚えてないな」
「私も知らんな」
望六の問いに一樹と月奈は同じ反応を示すと、やはり昨日までこんな物は無かったのだろう。
だが望六はその広報ボードやらに些細な興味が湧くと何か書かれている事に気づき見に行く事にした。
ボードに近づくとそこには”今期生徒実力ランキング”というタイトルが大きく太文字で書かれている紙が堂々と真ん中に貼られていた。
「実力ランキング……? なんだそれ?」
「あれじゃないか? 魔法実技とかの実力じゃないのか?」
「あー、なるほどな」
珍しく一樹が冴えた考えで教えてくれると望六はうんうんと数回頷くが、授業中もそのぐらい冴えていて欲しいものだとは口が裂けても言えなかった。
「って事はこの紙に名前が書かれている人達が学園の実力上位者ってことなんだな」
「恐らくそうだろうな。しかし、やけに海外の人の名前が多いな……」
一緒にボードを見ていた月奈が横から言ってくると、確かにそこに書かれている名前一覧には海外勢が多い印象だ。
一番上から【織田麗華】、【デイヴィス・ジェイミー】、【エレーナ・ウルノヴァ】、【本願寺瑞乃】、【オリヴィア・ガーネット】、【ミリアン・イヴェール】、【ハールス・ヘルヴィ】と書かれているのだ。
と言うより日本人の名前が二人しかいないって本当にここは日本のWM学園なのだろうか。
日本のWM学園としての意地的なのはないのだろうかと望六は思うが、ここで思案を巡らせる。
もしかしたら海外勢のレベルが桁違いに凄いのかも知れないと。特にアメリカは魔法軍事国家で、恐らくこの名前一覧の中にもアメリカの人が居る可能性があるかも知れないと。
しかしこの名前の順番には何か意味があるのだろうか。もし意味があるのならきっと一番上にか書かれている織田麗華とやらが、この学園で一番強いのだろう。
普通は上位順から書かれていく筈だからだ。
「なぁ、そんな事より早く食堂に行こうぜ? 俺はもう腹が減って死にそうなんだがぁ……」
「あ、ああ。そうだな」
「うむ」
一樹が腹を摩りながら空腹のアピールをしてくると望六と月奈は返事をして再び食堂を目指して歩き始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「うーむ、見たところ結構空いている感じだな」
「女子の昼食ってあれだけで足りるのか……。凄い低燃費で良いなぁ。あと昼からケーキとは流石だぜ」
食堂に着くや否や望六は直ぐに席を確保するべく周りを見るが、意外にも席は空いていてどこでも座れるといった感じであった。
一樹は近くの女子の昼食をチラッと横目で見ると、変な所を羨ましがっていたが望六もその意見には同意だった。やはり女子には別腹がどうのこうのと言うのが見ていてまざまざと分かる。
そして案の定と言うべきか三人が食堂に着くと先程まで女子達による優雅な昼食会だったのが、急にぎこちない雰囲気の昼食会へと変わった。
それも全て一樹のせいだろう。このイケメンフェイスが全ての女子を虜にするのだ。
当の本人は相変わらず「腹減ったなぁ。何食べようかなぁ」とかしか言っていなくて気づいていない様子だが。最早いっそ気づいて何とかして欲しいまであると望六は一樹を睨みながら思う。
一方で女子達は皆一樹の方へと視線を向けていて、彼の隣に立っている月奈は右手で握り拳を作ると小刻みに震えているようだ。恐らく月奈には一樹に向けられている視線の意味が理解出来ていて苛立ちを覚えているのだろう。
「はぁ……。なんで昼食を食うだけでこんな緊張しないといけないんだよ」
「緊張? なんのことだよ望六?」
「一樹は黙ってさっさと食べろ。あと視線を一切動かすな」
三人は女子達から好奇な視線を背に浴びながら食券を購入すると、即行で食堂のおばちゃんに食券を渡して料理を受けとり、そのまま近くのテーブル席へと腰を落ち着かせた。
月奈は先程から妙な所で嫉妬心が出ているのか一樹に対して随分と辛辣のようだ。
それも望六から見ればそれはいつもの光景だから特に問題はないが。
「……なあ。一応聞いときたいんだがこの異様な視線の数々って一樹だけじゃないよな?」
望六が味噌汁を一口飲んでから尋ねると月奈はお茶を飲む手を止めて口を開いた。
「ほう、馬鹿な望六でも気づいていたか。多分だがこの視線半分は望六に対してのヘイトだろう。クラスでもあれだけ嫌われている訳だからな」
月奈は次から次へと人の心を抉るような言葉を投げかけてくると、望六は認めなくはないが合点がいってしまうのが悔しかった。
この禍々しい怒りを孕んだ視線はきっと彼のあらぬ噂が広まった結果なのだろう。
そしてその噂とは恐らくシルヴィアを泣かしたという部分の問題だろう。
あれだけクラスメイトに見られていたら証人は多い上に望六の弁解する余地はない。
やはり女子の噂好きは侮ってはいけないようだ。たった一日で他クラスまで影響が及ぶとは。
これではますます学園に彼の居場所がなくなってしまうだろう。
「んむっ? なんのはなひだ?」
一心不乱にほっかほかの白米を掻き込んでいた一樹がキョトンとした表情を望六達に向けると、
「「何でもないから、まずは口の中の物を飲み込んでからにしろ」」
望六と月奈の言葉は一致した。そして一樹は言われ通りに口に入っている白米を飲み込んだようだが、多分一回も咀嚼はしていないだろう。いくら腹が減っていたとしても、ちゃんと噛んで食べて欲しいものだと望六は呆れた感情が湧いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
視線を浴びながらの昼食を終えると三人は午後の授業、国語や数学やらの授業をこなしていき、やっと全部の授業が終わると学生にとって至福の時間が到来した。そう、放課の自由時間だ。
望六は即行で寮に戻ってスマホゲームでもしようと考えていたのだが、お腹の調子がどうも午後の授業に入ってから良くなかったので先にトイレだけ済ませてから寮に戻る事にした。
そして長きに渡る腹痛との死闘の結果彼は無事に勝利を収めると望六はそのまま寮へと戻ったが、そこでタイミングよく自分の寮部屋の扉が開いたのだ。
いつからこの寮の部屋は自動扉になったのだろうかと彼は考えていると、開いた扉から出てきたのは一樹と月奈であった。
「おいおい一樹。いくら俺が死闘を繰り広げて居なかったとはいえ、幼馴染を部屋に連れ込むのは……どうかと思うぞ?」
「い、いや! これは違うぞ!! ……てか死闘ってなんだよ」
「別にやましい事などしていない。一樹には魔法の事について相談していただけだからな」
望六の言葉に一樹は凄い動揺していたが隣に居る月奈が冷静なのを見るに、どうやら本当に相談しに来ていただけのようだ。
しかし魔法基礎の序盤で躓いている一樹に相談とは余程の事なのだろうか。
「相談ねぇ。……それで今から二人は仲良くデートかい?」
「おい望六。あんまり茶化すと木刀でお前の肋二三本貰っていくぞ?」
月奈は視線を鋭くして望六を睨んでくると、とても十五の少女から出てくる言葉ではないようなものが聞こえてきた。
けれど彼はこんな所で大事な肋を失いたくないので即効で謝る事を選択した。
「す、すいませんしったぁ!」
「うむ。よろしい」
「意外と望六と月奈って仲良いよな!」
この一連の流れを見て一樹は何を勘違いしているのだろうかと望六は思うと同時に、不要な言葉はなるべく避けてくれると助かると彼は視線に怒りを込めて一樹に向けた。
でないと望六は月奈に殴られることが分っているのだ。
しかし、時すでに遅しなのかも知れない。既に彼女は望六を殴る準備を始めているのだ。
「な、何を言ってるんだ一樹! わ、わわ、私がこんな変態男と仲が良いわけないだろっ!」
月奈は何を想像したのか慌てながら否定すると恐ろしく早い速度で望六の鳩尾を的確に拳で射抜いてきた。
「ぐべらっ!?」
見事に鳩尾を抉られた彼は全身に迸る悪寒と圧倒的な痛み。
それらは全て月奈が居合の稽古で鍛え抜いた的確な一撃なのだろうと、どうでもいい事を考えながら望六は寮の廊下をのたうち回った。
「はぁはぁ……。それで二人は結局何しに行くんだ?」
痛みから漸く解放されると改めて望六は二人に質問を投げかける。
「えーっとだな。月奈って特質属性じゃないか? だから学園のサイトに特質属性があるのかなって言う質問を姉貴にしに行こうかと」
「私一人で七瀬さんの前に立つのは怖いからな。一樹に付いてきて貰おうと思ったのだ」
そう言えば月奈は特質属性だった事を言わてから望六は思い出した。
特質属性は系統的にもオリジナルの魔法で構成されるから色々と難易度は高い。
そう考えると彼としてもその辺りは気になるところだった。
「あ、そうだ! ついでから望六も行こうぜ!」
「えっ、普通に嫌ですけど」
急に一樹は何を言い出すと思えば望六までも誘い出してきた。
この男はよほど底抜けのお人好しか能天気な性格をしているよだ。
折角、仲良く幼馴染同士で二人きりだと言うのにそこに自分が加わるのは無粋だと望六は分っているのだ。
そして彼が間髪入れずに断ると一樹はしょんぼりとした表情をしていたが横からは何か禍々しい雰囲気が漂ってくるのを望六は感じ取っていた。
恐る恐るオーラのする方へと彼が意識を向けると、そこでは月奈が「何を偉そうに一樹の誘いを即行で断っているんだ? ああ?」っといた意味を込めているであろう顔つきで彼を見ていた。
「……やっぱ行きまっす……」
「おお本当か! 助かるぜ!」
一樹はしょんぼり顔から晴れやかな顔に変わると望六は心の片隅で「お前のせいで俺は助かっていないがな」と呟かずには要られなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なるほど。特質属性の魔法が学園のサイトでダウンロード出来るかどうかの質問か」
「「「はい」」」
三人は一学年の職員室へと向かうと一年の魔法実技担当の七瀬に月奈が疑問に思っている質問を聞いている最中である。
この職員室にはコーヒの匂いや紙の匂いが入り乱れて充満しているが、教員とはやたらコーヒーを飲みたがるのは一体何なんだろかと望六にとってそれは些細な疑問でもあった。
ただ単純にカフェインでも摂取したいのだろうか。
「……なくはないが、特質属性はやはり特殊だからな。それ以外の属性についても明日の実技授業で話そうと思っていたが……取り敢えず月奈の心配は大丈夫とだけ言っておく。しかし特質属性は本人のオリジナル魔法だ。ゆくゆくは自分で魔法を作らなければならないだろう。覚えておけ」
「は、はい……」
七瀬から取り敢えず大丈夫だろうと言う言葉を貰うと望六と一樹は安心したように顔を見合わせた。これで月奈が魔法実技で浮く事はなくなったからだ。
初っ端の魔法実技の授業で魔法が使えませんとは流石に笑えないだろう。
しかし魔法とは自作も可能なのだと望六はまた新しい知識を一つ学んだ。
そして彼は幼い頃に柳葉家には代々継承されてきた魔法があると言う事を淳史から聞いた事を思い出す。
もしかてその魔法も柳葉家が一から作った魔法なのだろうかと。
実物は見た事ないが恐らく美優が受け継ぐ時に見られるかも知れない。
そう考えると望六は少しワクワクしたような気分を身に感じた。
「ふむ、だが感心したぞ三人とも。ちゃんと分からない事や心配事を教師に頼るという姿勢はな。そのまま問題点を放っておいても解決はしない。それに私の元に来る生徒達は皆プライベートな質問しかしてこなくて困っていた所だ」
七瀬が溜息混じりで語るとそれはこの学園の大多数が七瀬のファンが占めているのだからとは口が裂けても望六は言えなかった。
「……それで話は以上か? なら三人とも直ぐに寮に戻って明日の支度を済ませるように」
「「「はい!」」」
職員室から退出すると三人は寮へと戻り、それから数時間が経過すると時刻は既に二十二時を過ぎたぐらいだ。
無論だが望六達は既に女子達から視線を浴びながらの夕食を済ませている。
そして早々にシャワーを浴びて気分をリセットすると、望六と一樹は共に自習用の机に置かれているパソコンと睨めっこ状態だ。
「えーっと、学生カードのIDとPWを入れればサイトに入れるんだよな?」
望六は学生カードを左手に持ちながらキーボードを叩いて情報を入力していくと一学年用魔法テンプレートダウンロードサイトと言うページを開く事に成功した。
そのままマウスを下にスクロールしていくと、Cランク無属性用、Bランク火属性用、とちゃんとランクと属性が書かれている項目があった。
「なんか色々とあって分からないなぁ……。あーだめだ。眠いから俺は明日起きたら即行でダウンロードする! おやすみ望六!」
「そんなんで大丈夫か? はぁ……おやすみ」
サイトを見ていると後ろの方では一樹が睡魔の限界を迎えたようで、パソコンを起動したままベッドへと潜り込んで数秒で寝息を立てているようだ。
望六は気を取り直すと自分の魔法を探すべく再びサイトと睨めっこを始めた。
だが本当にあるのだろうか、Aランク無属性という訳の分からない概念的存在が。
只管にサイトをスクロールしていくとやっとAランクの項目欄に到着したのだが……結果はやはり、
「チクショウがぁぁ! 何がAランク無属性だよ! そんなもんやっぱり無いじゃないかぁ!」
何処にも彼のランクと属性が合う魔法がなかった。
本当にこの学園には自分と同じ境遇の人がいるのだろうか、だとしたらその人はどうやって魔法を得たのと言うのだろうか。
幾ら考えても魔法基礎を覚えたばかりの望六が答えに到達出来る訳もなく。
「まぁいいや。適当にCランク無属性をダウンロードしとこ」
ランクと言うのは一旦無視して問題ないだろうと。属性も合っているし、もうこれでいいやと。
使えなかったらそれまでの話だ。
そう、自分は魔法が使えない見せかけだけのAランク魔術士という汚名背負うだけさと望六は楽観的に考える事にしたのだ。
それから彼は自分のデバイスをケーブルでパソコンと接続するとダウンロードボタンをクリックして寝る事を選んだ。
やけにダウンロード時間が長いのと望六も一樹みたいに睡魔が襲ってきたのだ。
「まあ、流石に明日の朝にはダウンロードが終わっているだろう」
そう信じながらベッドに横になるとしばらくして消灯時間となり部屋の電気が消された。
しかしパソコンは別電源らしく起動したままである。
きっと遅くまで自習が出来るようにという学園の配慮なのだろう。
「まったく。この学園は変なことに気を使うんだな」
小声でそう呟くと望六は目を閉じて数分で夢の世界へと堕ちていくのだった。
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