17話「魔術についての基礎知識」
体育館では色々と起こりはしたが、何とかぎりぎりで望六達が一組の教室へと戻る事が出来ると直ぐに次の授業が始まりを告げた。
WM学園に通う者なら誰でも知っている筈の基礎中の基礎。そう、魔術についての授業だ。
「全員着席しているな。ではこれより魔術の、基礎、デバイス、礼装、これらについての座学を始める。しっかりと聞くように。一度しか説明しないからな」
全員が体育館から戻ってきて席に座って待機していると木本先生が教壇に立ち、これから二時間目の授業が開始された。
いよいよ魔術士っぽい事の始まりだと望六は心を弾ませていた。
そして彼は柳葉に住んでいた事からある程度の知識は知っていても、どれもこれもが中途半端なのだ。だからこれを機にちゃんと魔術の基礎を頭に叩き込まないといけないと思っている。
「まず最初に魔術デバイスについて教える。これはお前達も知っているであろう魔術を行使する為の武器だ。しかしそれ以外にもデバイスには役割があり、それは自身の魔術回路を保護する目的もあるんだ」
木本先生は最初に魔術デバイスについて説明し出すと望六は柳葉に居たら絶対に聞けなかったであろう知識が次から次へと頭に入ってきた。
つまり話を纏めると魔術デバイスとは魔法を発動するはもちろんの事、魔術回路と言う魔術士の体内にある魔力の源を保護する役目もあるらしい。
何でもデバイス無しで魔法を使うと魔術回路に傷が入り最悪二度と魔法が使えなくなる場合もあるとの事。
「……おっと。どうしたんだ?」
そしてその説明を聞いている最中に前の方の席では、月奈が急に顔を下に向けて全身を小刻みに震えさせている事に望六は気が付いた。
「なんだ具合でも悪いのか? もしかして女の子の日か?」
だが隣の席の一樹は新しい用語や知識をノートに書き留めるのに必死で気付いていなさそうだった。
「あーあと、肝心の魔法についてだが……お前達の手元にある魔術デバイスを見てもらうと分かると思うがUSBを挿す箇所が付いているだろ? あとはそこにUSBメモリやケーブルを繋いで自身の属性とランクに合った魔法をネットからダウンロードすれば使えるという簡単設計だ」
木本先生が腰から自身の魔術デバイスであろう、懐かしのリボルバー型の銃を取り出すと実物を見せながら説明してくれた。だが最初に見た時とデバイスの色が若干違うようだ。
望六が最初に見た時は黒色のリボルバーだったが今は金色に輝く銃となっている。
だけどあれは純金ではなくメッキ塗装と言われる奴だと雰囲気的に分かった。
そして周りでは女子達が体育館で支給された自身のデバイスをくまなく見て挿し口を探しているようだ。
それを見て望六も挿し口を探したいのだが生憎デバイスは今寮のロッカーにて保管中だ。
事前に持ってこいと言われていなかったので、これは自分の落ち度ではないと望六は思うしかなかった。
それから説明を終えると木本先生は再びデバイスを腰に戻して今度は七瀬が口を開いた。
「それと今日の放課後に学園のサイトから一二個魔法をダウンロードしておくように。明日は魔術実技が入っているからな」
とは言われても望六は自分が使える無属性で尚且つAランク魔法があるのだろうかと疑問が浮かぶ。……だがここで彼は思い出す。
この学園には自分の他にも同じ境遇の人が居ると七瀬が言っていた事を。
あれは望六が学園入学を目前にして自身がAランクだとしても無属性と言う足枷を背負って不安になっていた時に「案ずるな望六。学園にはお前と同じでAランク無属性の奴がちゃんと居る。そして奴は己を鍛え今や学園のトップに近い存在へと成長した。要は属性がなくても魔力の使いようだ」と言って元気づけてくれた事を。やはり現役教師で最強の魔術士の言葉は重みが違う。
「それからデバイスには世代とかがあるんだが……。これはまぁ教科書を見て貰った方が早いから省略するぞ。ちなみに書いていあるページは十ページ目だ」
木本先生はそれだけ言うと七瀬と立ち位置を入れ替わるように教壇の前からずれた。
「んんっ、次に礼装についての説明を行う。しっかりと聞け。でなければお前達が死ぬ事になるからな」
七瀬が教壇の前に立つと、その声にはいつにも増して威圧感が孕んでいそうだった。
通常の時もで七瀬は威圧的だと言うのにこれだと蛇に睨まれた蛙の状態だ。
先程までデバイスや礼装を弄っていた女子達も、今ではすっかりと手を膝の上に乗せて静かにしている。そして七瀬は教科書を見ながら説明を始めると、
「いいか? 礼装とは言ってしまえば防具みたいな物だ。魔術士同士の対決ではどうしても肉体的ダメージが大きいからな。それを緩和する為に開発されたのだ。礼装は自身の魔力を流し込む事で格段に防御力を上げる事ができ、着るだけで魔力伝導率を上げたり、通常の火器では傷一つ負わせられないと言う優れ物だ」
礼装にはそんな優れた能力が備わっているのかと望六は話しを聞いて感心していた。
彼はてっきり競技者が目立ちたいが為に着ているだけの服かと思っていたのだ。
「うーむ、美優達も訓練中は練習用の礼装しか着てなかったしなぁ」
妹達の格好を思い出しなが呟くが、考えてみれば軍属の魔術士達も礼装を着ている筈だ。
見た目はやはり迷彩柄が多いのは仕方のない事かも知れないが。
「それと競技者を目指すなら礼装のデザインは大事だぞ。派手だと観客が喜ぶからな」
七瀬は手元の教科書から視線を外すと意外な豆知識を全員に教えてきた。
きっとそれは自身の体験談なのだろう。
だけどこれで望六の中にあった競技者の礼装がやけに露出が多かったり、派手だったりとかの謎が解けた気がした。
というより七瀬も胸元や太ももが露出しまくりの礼装を現役時代に着ていた事を望六は知っているのだ。
幼い頃に美優達と共に七瀬が大会で戦っている動画を何度も優佳に見せられたからだ。
主に戦い方がどうのこうのと解説しながら見せられていたが、恐らく本音は弟子の成長が嬉しかったのだろう。
「あと当然知っていると思うが、この学園を卒業したらお前達は軍属か競技者への道を進まなければならない。もちろん普通の大学に行く事も出来るがそれはイレギュラーだけだ」
七瀬が話を終えて木本先生と場所を入れ替わると次に木本先生が少々強めの口調で全員に視線を向けながら言い放った。
確かに望六達はいずれ、その何れかの道を歩まねばならないだろう。
しかし望六はイレギュラーを狙って華やかな大学生活を送りたいと密かに思っていたりする。
そして競技者とはその名の通り公式のルールに則って戦う魔術士達の事を言う。
今やオリンピックに並ぶほど人気の【DWW】その大会に出場して優勝する事が競技魔術士達の目標であり夢らしいのだ。
軍属魔術士もその名の通りに軍に所属する魔術士のことを言う。
こっちは競技者と違って採用率も高く基本的に魔術士の人数=国の軍事力となる為、多くの者が軍属となるのだ。
「よし、これで魔術の基礎は大方話したからな。残りは実技の時に七瀬先輩から聞いてくれ。……しっかし微妙に時間が余ったなぁ」
木本先生は教室の壁際に設置されている時計を見て呟くと確かに二時間目の終わりまであと数分残っていた。
「そうだな……。では残りの数分を使ってさっき私が言った【武器の世代】についての項目を黙読するように」
「ちなみにこの項目はテストに出るからな。しっかりと頭に叩き込んでおけよ」
さらっと七瀬がテストに出る部分を教えてくれるが望六はそれを聞いて一気に脱力した。
魔法実技のテストなら分っていたが、まさかのペーパーテストまであるのは誤算だったのだ。
という事は普通科の授業に加えて魔法関連の授業も入ってきて、これはもしかしなくても普通の高校よりハードなのではないだろうか。そんな事を望六が一人で考え込んでいると既に周りでは教科書を広げて黙読しているようだった。
その光景を見て望六は遅れをとってはいけないと急いで教科書を捲り始める。
テストに出るなら最低限、知識は入れとかねばならないのだ。
何だかんだ文句を言っても、こればかりは仕方ない事。割り切る心が肝心であった。
「えーっと。十ページ目の武器の世代について……あぁ、これの事か」
望六は周りに聞かれない程度に独り言を呟くと目的のページを開き黙読を行っていく。
『武器の世代について。現在この世に存在するデバイスの世代は全部で三種類である。最初に開発されたのは【α世代】であり、能力は魔術士達がリスクなく魔法を行使する為』
これはきっと最初の説明であった魔術回路とやらを守る為の事を言っているのだろう。
そして次が【β世代】だ。
これの能力はα世代を改良して能力向上、更に魔導国連が定めた”禁止魔法”を使えないように規制という名の安全機能がデバイスに導入されたとの事。
「ほう、なるほどな。禁止魔法なるものが存在するのか」
ここで望六は初めて禁止魔法なるものが存在する事を知り、一体禁止される程の魔法とはどんな物なのやらと純粋に気になった。
これもネットで検索したらダウンロード出来るのだろうかと。
そのまま彼は教科書の下方に視線を向けていくと、
「んー……あ、やっぱり無理か」
そこには赤文字で『禁止魔法のダウンロードは違法です』と書かれているのを発見した。
「まぁ仕方ないな。魔術士にとってルールは絶対だ」
少々残念だが気を取り直して望六は再び黙読を続けた。
最後に書かれていたのは【γ世代】
どうやらこの世代が一番最新らしい。
γ世代の主な能力は特質属性のような希な魔法を行使しやすいように改良、そしてデバイスに自己修復機能を追加とのこと。
デバイスの修復に関しては完全に破損してないければ自動で直るらしい。
これだけ聞くとγ世代の技術力は桁違いに凄いと思うが、やはりデメリットも存在するみたいで使用者にはデバイスの演算処理能力の関係上で、体に負荷が掛かる事が報告されているらしい。
果たしてそれは武器として大丈夫なのだろうかと思うと同時に、望六は自分が持っているデバイスが何世代なのか凄く気になった。
それから彼がちょうど黙読を終えて目を休ませようとしていた頃、タイミング良く授業の終わりを知らせる至福の鐘が校内に鳴り響いた。
「以上、授業終了。次の時間は国語だからな。教科書出しとけよー」
「魔術基礎の予習復習もちゃんとしておけ。分かったな?」
「「「「「は、はい……」」」」」
先生方は手に持っていた教科書を閉じると全員にそれだけ言って教室を出て行った。
その後は一樹が「魔術基礎意味分かんない!」とぼやき始めたので空いた時間で望六が知っている範囲を教えたり、月奈が受け取ったデバイスが何気にレアなγ世代だったと言う事を知ったりして時間は過ぎていくのだった。
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