14話「イギリス代表魔術士候補生と侍女、再び!!」
「おい起きろ望六! やばいぞ!」
「……んだよ。こっちまだ眠いんだが……」
望六は一樹の大きな声で楽しい夢の世界から強制退出させられると、まだちゃんと脳が覚醒していなく思考は疎らに散っていた。
ただうっすら覚えているのは夢の中で誰かと話していたと言う事だけだ。
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃない! あと五分でHRが始まるんだよ!」
望六は呆けた脳で夢の中で話していた相手を考えていると、一樹はベッドから飛び起きてラックから制服一式を取り出し急いで着替えを始めていた。
その間にも望六は夢の中の話し相手を考えるが思い浮かばず。
やがて考えるのを辞めると望六は一樹を眺めることにした。
「よっし、こっから走ればぎりぎり二分前には教室に入れるな! ……っておい望六!」
「なにぃ?」
「なにじゃないぞ! 何でまだ着替えてないんだよ! そんなんじゃ遅刻が確定するぞ!」
一樹が目つきを尖らせて怒っているような表情を彼に向けると、望六は先程までぼやけていた脳内が徐々に活性化されていくのが分かった。
……そして彼は脳を完全に覚醒させる。
「おいおい、やばいじゃないか! 何でもっと早くに起こしてくれないんだよ!」
起き上がると直ぐにラックから制服を引っ張り出して着替えを始める。
「何回も声は掛けたぞ。それと悪いが俺は先に教室に向かうからな! 望六も出来るだけ急いで来いよ!」
「ちょっ待ってくれ! 俺を一人にしないでくれぇぇぇ!!」
一樹は一回も彼の方に振り返らずに部屋から出ていくと、ひとり部屋で取り残された望六は遅刻が確定した瞬間であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
望六は出来る限り急いで身支度を終えると寮から飛び出して教室に向かって全力で走っている最中である。
「もはや遅刻は免れないとしても、出来るだけ急いで行けば弁解の余地があるかもしれない!」
彼は一部の希望を抱いて走り続けると目の前に一組の教室が見えてきた。
しかし教室に近づくにつれて一組からは何やら賑やかな声が聞こえてくる。
「あれ、HRってもう始まってるよな? 何でこんなにも騒がしいんだ?」
疑問に思いながらも教室の引き戸に手を掛けて開けてみると――
「ぐぁはっ!?」
突然物凄いスピードで何か物が飛んでくると、それは望六の顔面に見事なまでにクリーンヒットした。余りに急な出来事と顔面への痛みで彼が混乱していると、前の方から恐ろしい声が聞こえてくる。
「おはよう望六、良く眠れたみたいだな。だが遅刻は感心しない。よって罰として腕立て五十回を放課後に実行するように。それとさっさと席に着け。今から遅めのHRを行う。あーあと、お前に投げた出席簿もついでに持って来い」
「は、はい……」
望六は視線を声のする方へと向けると、そこには七瀬が威圧感を帯びながら教卓の横に立っていた。そう言えば七瀬は一組の担任だったと言う事を思い出しながら、床に落ちている出席簿を拾い上げて木本先生に渡すと彼は自分の席へと向かった。
教室内は望六が入るまで賑やかな声が響いていた筈だが、今はそんな素振り微塵も感じられない。何なら異様な雰囲気に包まれているぐらいだ。
……いや、これは雰囲気だけでなく実際に異常事態なのではないだろうか。
まず木本先生が怯えながら七瀬の顔を見ていること。
次にクラスの女子全員が望六を嫌悪感を込めたかの様な視線で追ってくること。
朝一からこんな訳の分からない状況に遭遇するとは、一層のこと大幅に遅刻していた方がまだ良かったのではと彼は思えてくるほどであった。
「よ、よし全員そ、揃ったな……。ではこれよりHRも始め……たい所だが先にこの方を改めて紹介しておかないといけないだろう……」
木本先生は心なしか嫌そうな表情を全員に見せると最後に大きな溜息を吐いていた。
そして七瀬は両腕を組みながら教卓の前に立つと、
「おはよう諸君。私は本来、魔術実技の担当なのだが今回は訳あって特別にこの一組で担任も兼任する事になった。よろしく頼む」
七瀬は淡々と全員に説明していくとクラスの女子達が何処となく震えているように見えた。
恐らくだが感極まっているのだろう。
望六は比較的、後ろの方の席だから周りの状況が良く分かるのだ。
それにあの最強の魔術士が特別に一組の担任になると言うことは、このクラスにそれ相応の期待が持てる生徒が居るのかも知れないと言う考えになるのが一般的だろう。
だが望六の中では恐らく七瀬は、より近くで自分と一樹を護衛する為に担任となったのだろうと言う考えが依然として有力である。海外の女子達の入学が多かった事から、その辺りも学園側か七瀬本人が危険視したのではないだろうかと。
「これで七瀬先輩がここに居る理由が全員分かったな? よしHRも始め「ちょっと待て木本先生」
な、なんですか……?」
木本先生が再びHRを始めようとすると七瀬が横から割り込んでくる。
「お前も知っていると思うが、そこの窓側に座っている男子二人が無謀にも決闘を挑まれたらしくてな。その詳細を知らせるべく今廊下にちょうど生徒二人を待たせているのだ」
その言葉を聞いて望六は疑問を感じた。
廊下に二人を待たせているという言葉がおかしいからだ。
何故なら彼は遅刻してこの教室にたどり着いたが、その時廊下には人影なんて一切無かった。
これは一体どうなっているんだと望六は思考していると七瀬が教室のドアの方に視線を向けて「入ってこい」と言い放つ。
すると入室を促され教室のドアを開けて入ってきたのは――
「失礼しますの!」
「失礼します」
一樹の婚約者と名高いシルヴィアとその侍女メリッサだ。
そしてシルヴィアが入って来ると同時に前の席では月奈が苛立っているような気がして、ピリピリとした雰囲気を滲ませながら一樹を睨んでいるように望六は見えた。
「来たな二人とも、話は既に聞いている。あとはお前達が具体的な日程と内容を決めて伝えよ」
「はいですの!」
七瀬は教卓の前から少し横に動くと、そこにシルヴィアが入れ替わるように立った。
その突然の出来事にクラスの皆は周りの人と小声で話し合っている様子だが、七瀬はどうやら、事前に二人の決闘の事を知っていたらしい。
だが部屋に訪問しに来た時は何も言ってなかった事から、シルヴィア達が朝一で報告しに行ったと考えるのが妥当だろう。
一応七瀬は一年の魔術実技担当だからだ。
「おほんっ。では僭越ながらこの場を借りて、私は二組のシルヴィア・ローウェル。魔術留学生ですの。今日は正式に私と一樹さん、それに望六さんとメリッサの決闘を執り行う事になりました事を報告しに来ましたの。決闘の日時は今週の土曜日、第一グラウンドで行いますの!」
「だ、そうだ。分かったなそこの馬鹿男子二人組。あとこの戦いを承認したのはこの私だ。両者共に奮闘するように」
シルヴィアが一通り伝え終えると七瀬が鋭い睨みを効かせてきたので、望六と一樹は黙って頷く事しか出来なかった。
けれど望六はまだ碌に魔術の基礎すら学んでいないと言う状態であり、それは一樹も例外ではなくシルヴィアはそんな状態でも彼と決闘を行う気らしい。
「さらに決闘で一樹さんが負けた場合、もちろん私と結婚をして貰いますの。そして――」
「豚や……んんっ。望六さんが私に負けた場合、三年間召使いになって貰います。ちょうど人不足でしたので」
シルヴィアとメリッサは次に二人が負けた時の条件を提示してきたようだが、望六は一樹の結婚云々の話は知っていても自分にもそんな条件があったとは初耳であった。
しかしそれでは今の所、彼らにはデメリットしか存在していない事になる。
だとしたら流石にそれはまずいだろう。
ここは男らしく自分達も条件を突き出さねばと望六が席から立ち上がると、一樹も同じ事を思ったのか意図せず同じタイミングで席を立ったようだ。
「その決闘……もちろん俺が勝ったら何かメリットはあるんだよな?」
「もちろんありますの。私は騎士道精神を重んじる者ですので、条件もフェアで戦いますの」
望六がメリッサに条件を突き出そうとすると先に一樹がシルヴィアと話してしまい彼は空気のようになってしまった。
だが流石はイギリスの女性だ。騎士道精神でフェアな戦いを心がけているらしい。
しかし今はそんな事よりも勢い良く席を立ち上がってしまった望六は物凄く恥ずかしい思いをしている。きっと傍から見たら今の彼は物凄く浮いていること間違いだろう。
「だったら俺が勝ったらそのプロポーズした時の詳細を教えくれ」
「ええ、良いでしょう。でも余り期待しない方がいいですの。どうせこの私には勝てないのですから」
シルヴィアが胸に手を添えながら一樹に言葉を返すと、その仕草からは絶対に負けないと言う自信が満ち溢れているようだった。
そして一樹が勝利した時の条件は空白の記憶についてらしい。即ちプロポーズの詳しい詳細を教えて貰うと言う事だ。
これで二人の決闘条件は出揃ったようで一樹は再び席へと座ると、シルヴィアは立ち位置をメリッサと交代した。
「それで? 貴方も席を立ったのなら私に何か条件があるのですよね? 望六さん」
……ここで望六はある事に気づく。
つい条件を突きつけたいが為に席を立ってしまったが、具体的な事は一切考えていなかったと。
だが今更大人しく席を座り直すという、みっともない真似は出来ないだろう。
そのまま彼は焦りからか呼吸が少しづつ乱れてくると、唐突に閃のようなものが脳裏を通り過ぎて行った。
……そうだ、これにしておくのが無難だろうと。
「おう! もちろんだ! お、俺が勝ったら……いついかなる場合でも俺の言う事を聞き従う……ってのはどうだ?」
「ええ、構いませんよ」
彼はその場で咄嗟に思い浮かんだ事を条件にしてみたが思いのほかメリッサの方は軽く返事をしてきた。まるでシルヴィアと同様に負ける事がありえないかのように。
「話は纏まったようだな。ではシルヴィア達も自分達のクラスへと戻れ。そろそろHRが終わる。それに今日はお前達一年にとって忙しい日になるからな」
「はい! 失礼しましたですの!」
「失礼しました」
七瀬に言われてシルヴィアとメリッサが気品のある一礼を見せると教室から退出していく。
望六はそれを何気なく見送ると席へと腰を下ろした。
「すまない木本先生。随分と時間を割いてしまったな」
「い、いえ大丈夫です。……それじゃあ、HRの時間がもう残ってないから取り敢えず今からの行動だけ伝えとくぞ! 全員いまから体育館へと移動して、そこで身体検査と魔術デバイスと礼装の授与を行う」
木本先生はすっかりと流れのペースを七瀬に取られていたようだが、このやり取りを見ているだけでこの二人が本当に先輩と後輩の間からと言う事が分かるようだ。
だが望六はそれよりも身体検査という言葉に興味を惹かれてしょうがない。
なんせ身体検査と言う事は薄着になるからだ。そしてこの学園の大半は女性な訳だ。
つまり、合同で身体検査=薄着の女子達をしっかりと見られると言う訳だ。
「ああ……。なんて素晴らしいんだWM学園」
ここに来た当初はしょうもない事しか起きなかったが、これなら少しは寛容になれる気がすると望六は数回頷いた。
「おらっ! ぼさっとしてないでさっさと体育館に向かえ! 遅れた者はその後の授業を空気椅子で過ごして貰うからな!」
木本先生が緩んでいた雰囲気を一喝すると、クラスの全員は急いで教室から出て体育館へと向かうのであった。
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