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12話「おっぱいの感触とハニートラップ」

「おい一樹! 早くしないと月奈に遅いって言われて怒られるぞ!」

「そ、そうだな! えっと……スマホと財布だけあれば大丈夫そうだな」


 支度を済ませると二人は急いで部屋を出るべく思いっきりドアを開けて廊下に飛び出した。

 ――がしかし不思議な事に。


「んあっ……」


 短くも色っぽいその声が聞こえると共に望六の視界は真っ暗になり、顔全体がマシュマロの様な何か()()()()()に包まれたのだ。


 刹那、彼の脳内は光の速さでこの状況はまずい事態だと言う結論を導き出す。

 望六が柔らかな何かに包まれる時に聞こえた、あの微かな声は間違いなく()()の声だったのだ。


 しかも頬と嗅覚で感じるこのスーツ特有の布生地と柑橘系の匂いは七瀬が普段着ているスーツに違いない。これでも少しの間は一緒に過ごしていたから望六は詳しいのだ。……と言う事は考えるまでもなく彼は今、七瀬の”おっぱいの谷間”に顔を埋めている状態だろう。


「の、望六……お前急に姉貴の胸に飛び込んだりしてどうしたんだよ!?」


 彼の背後から一樹が怯えた声で何かを言っているようだが、今の望六には何を言っても聞こえてはいない。なんせ巨乳と言う天然のクッションに顔を挟まているのだから。

 そして彼は分かっているのだ。この状況で唯で済む事はまずないと。

 

 最悪腕一本残して残りは消し炭されるかも知れない……だが最後に七瀬のおっぱいに包まれて終われるなら悔いはない。

 望六は最後の力を振り絞って親指を上げて背後に居る一樹に見せた。


 ――――幸運を、死にゆくものよりグッドサインを。


 彼は心中でそう呟くと最後に七瀬のおっぱいを堪能するべく、必死にスーハースーハーっと谷間で深い深呼吸を繰り返し始めた。

 

 望六だって唯で死ぬつもりは毛頭ない。

 ……だがそこに紛れもない死が確定しているのなら後は好きにやるだけである。


「チッ、いい加減離れないか馬鹿者」


 しかしその行為は七瀬にとって不快だったのか言いながら望六の首根っこを右手で掴むと、胸から引き剥がして壁に向けて放り投げた。


「ぐはっ!?」


 望六は勢いよく投げ飛ばされると背中からコンクリート性の壁に衝突して口から鈍い音が出て行った。


 だがその瞬間、彼はあの体制から軽々と自分を片手で持ち上げて放り投げる事が出来るとは流石は最強の魔術士だけの事はあると、まるでステータスを全て筋力に振ったようなタイプだと思えてしまった。


「ぐっぅ……」

 

 望六はそのまま背中を壁に擦らせながら落ちていくと廊下に腰を落とした。


「お、おい! 大丈夫かよ望六!」


 一樹は彼の心配をしてくれたらしく一目散に駆け寄って来た。


「す、すまない一樹。どうやら俺はここまでのようだ……」


 望六は彼に体を支えられながら最後の言葉を呟くと、


「望六――ぅ!!」


 一樹は目から少量の涙を流しながら顔を上げながら叫んでいた。

 それは廊下に響き渡るぐらいに大きな声量である。


「おい愚弟共、茶番はいいからさっさと部屋に戻れ。話がある」

「「あっ、はい」」


 七瀬が氷のように冷たい声を言い放つと二人は直ぐに立ちがって部屋へと戻ることを余儀なくされた。だが七瀬は寝不足から少しは回復したのだろうか。

 見れば入学式の時とよりかは今の方が顔色は良いと思われる。


「すまんな。姉貴が投げ飛ばしたりして」

「気にすんな。だけどお前の姉貴は相変わらず手加減というのを知らないらしいな」

「あははっ……」


 部屋へと戻ると一樹が小声で耳打ちしてきたので、望六が肩を竦めながら返すと彼は苦笑いを浮かべて目を逸らした。


 だけど流石にドアを開けたら目の前に七瀬が居る状態なんて想像出来ないだろう。

 それに望六が投げ飛ばれた理由は冥土の土産におっぱいを堪能しようとして行った行為がいけなかっただけで、非があるとすればそれは彼だけであろう。


「それで? 姉貴は一体俺達に何の話があるんだ?」


 部屋に七瀬が入って来ると一樹が改めて事の用件を訊ねていた。


「ああそれはだな。これからお前達が学園で過ごしていく為の注意事項だ」


 学園で過ごしていく為の注意事項。それを聞いた瞬間に望六は直ぐに直感で悟った。

 女性が多いWM学園でさらに望六達が過ごすのは女子寮だから、その為の注意点と言った所だろうと。


 しかしそんな事は今更言われなくとも常識的に考えて行動すればいいだけの話で、望六はそれよりも早く月奈と合流したいという方に焦りを滲ませているのだ。


 でないと遅れた場合、罰だとか言われて鉄拳制裁を食らう羽目になるからだ。

 彼は幾度となく月奈から受けてきた拳を体で覚えていて無駄に敏感なのだ。


「注意事項? それって他の女子達に迷惑が掛からないようにする為にか?」

「いや違うな。ここでの注意事項と言うのは、お前達の身の安全についてだ」


 眉を顰めながら一樹が七瀬に尋ねると、それは望六が思っていた事とは数段違った内容の話だった。一体その身の安全とはどう言う意味を言っているのか、望六は両腕を組みながら考えていると七瀬が再び口を開く。


「お前達も入学式で見ていると思うが今年は海外からの入学生が異常に多い。その理由はお前達なら分っているよな? それと今一度言っておくが、お前達は世界から狙われる身だ。だから今年入学してきた海外勢には細心の注意を払え、きっと国の命令か何かでお前達の情報……もしくは()()()()()()()()だろうからな」


 望六は七瀬から改めて”世界から狙われている身”だと聞かされると再び形容しがたい恐怖感が全身を包んでいくのが何となくだが分かった。


 そして彼の隣では一樹が気抜けたような顔から強張った顔つきになっていた。

 一樹も再認識したのだろう。自身が狙われている身だということに。 


 だが確かに言われて振り返って見ると、あの式の会場には圧倒的に海外の女子達が多かった印象だ。……これはあまり望六自身考えたくはないが、まさかその女子達全員が自分達の身を狙っていると言う事なのだろうかと思えてしまった。


「それから、もう一つ気をつけるべき事がある。それは海外勢だけではなく、普通の女子達にも気をつけろと言う事だ。もしかしたら裏でお前達の情報を何処かの組織に提供しているかも知れないからな」

「……なあ。さっきから聞いていれば姉貴の言っている事はおかしくないか? 姉貴が俺達をここに入学させたのは安全だからって理由じゃないのかよ?」


 先程まで真剣な表情で話を聞いていた一樹だが七瀬の話を聞いていく内に色々と我慢できなくなったのか聞き返している。だが一樹の言っている事は望六も分からなくはなかった。


 この学園が後ろ盾になってくれるからこそ、七瀬は自分達を第一WM学園に入学させたのではないのだろうかと。けれど望六は家元の判断で強制的に入学が決定した節があるから一樹みたいに強くは出れないのだ。


「落ち着け愚弟。私はあくまでも気をつけるべき、だと言った筈だ。それに全部を全部疑えとは言っていない。あくまでも向こうから近づいてくる奴らに注意すればいい。所謂ハニートラップって奴だな」

「な、なるほど……」


 七瀬はより具体的な部分を話すと一樹は納得したのか頷いている様子だ。

 だけど望六には気になる事がある。

 それは何故かハニートラップという言葉の時だけ七瀬が横目で見てきた事だ。

 

 どうやら七瀬の中で彼が一番ハニートラップに引っかかると思われているらしい。

 だが心配しないで欲しいと望六は思う。

 今この状況下で近づいてくる女子が居たら普通に怪しい事ぐらい誰にでも分かるからだ。

 

「まあ話しとく事はこれぐらいだが……。特に一樹は私の弟だという事を自覚して行動しろ」

「えっ? なんでだ?」


 七瀬が彼に視線を合わせて言うと一樹は目を丸くして反応していたので恐らく言葉の意味を理解していなのだろう。普通ならあの説明の流れで大体は分かると思うのだが、ここは説明してあげようと望六は口を開く。


「いいか一樹? 俺とお前は確かに同じAランクだが、そこには歴然とした差があるんだ。それはお前が日本最強の魔術士の弟という()()()()()()が付いているからだ」

「ほう、望六は先程の愚行に比べて理解力はあるみたいだな。それで? 分かったか愚弟?」


 彼が一樹にできるだけ分かりやすく説明すると七瀬が少し口角を上げて再び胸の件を蒸し返してきた。これは意外と根に持っているのかも知れない。

 もしくは悪戯心で態とやっているのか。どちらにせよ、望六は生きた心地がしない。


「つまり俺は姉貴が凄い魔術士だから望六よりも狙われる確率が高いという事か……。何か凄いとばっちな気もするが理解はできたぜ!」


 望六が説明した甲斐があって一樹はなんとか内容を理解してくれたようだ。


「そうか、理解したならよろしい。話は以上だ。他に何か私に用がある時は職員室か寮長室に来い」


 七瀬は最後にそれだけ二人に言うと振り返ってヒール特有の音を鳴らしながら部屋から出て行った。

 まるで七瀬は嵐の様に突然来て去っていくような人だと望六は思っていると、こんな所で棒立ちしている場合じゃない事に気が付く。


「お、おい一樹! 急いで月奈のとこに行かないとやべえぞ!」

「あぁっ!? し、しまった……。完全に忘れてた!」


 望六達は再び部屋を出る為にドアノブに手を掛けると、今度は何も起きないよにと願うばかりであった。


 そして二人はドアを開けて廊下に出ると偶然タイミングが合ったのか隣の部屋からも誰かが出てきたようで、つい視線をそちらに向けると……望六は時間が止まったかのようにその場で体が動かなくなった。


 いや、これは彼だけではなく()()()()()()も同様のようだ。何故ならその隣の部屋から出てきた人物とは、二人が急いで会わないといけなかった()()本人だったのだから。

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