1話「少年少女達はゴールデンウィークを終えて学園へ」
「急げ急げ!! 早くしないと学園行きの列車が行ってしまうぞ!」
望六が息を荒げて駅構内を駆けながら全員に声を掛ける。
「はぁはぁ……。なんで誰ひとりとしてアラームをセットしていなかったんだぁ!」
その隣では一樹が愚痴を漏らすようにして額に汗を滲ませながら口を開けていた。
そう、今現在望六達は学園に戻る為に某駅へと来ているのだが一樹の言う通りに誰ひとりとして目覚ましを掛けていなく、学園の門限に間に合わせるようにして必死に駅構内を走っているのだ。
仮にこのまま電車を逃せば確実に門限の昼までには着くことが出来ずに寮長の七瀬から反省文か、もしくは一ヶ月の外出禁止の罰が下されること間違いないのである。
そして望六達は今回もしっかりと変装をしている事から、駅で張り込みをしているマスコミ達の警戒網を容易に突破する事が出来た。
けれどマスコミ達は彼らと同様にWM学園に戻ろうとしている生徒達を見つけては、本人の許可を取らずに無断で撮影して質問責めにしている光景が度々起こっていたのだ。
しかもネクタイカラーを見るに彼女らは二、三年の先輩方であって、対応に慣れているのか軽くあしらって気にも止めていない様子であった。
恐らくマスコミからすれば学園に通う生徒達は既に現役魔術士同様の扱いであって未成年という概念は存在しなく、向こうは単純に魔術士の粗を探しては問題視して世間に魔術士は危険人種であることを広めたいのであろうと望六はその時思った。
だが今はそんな事に意識を傾けている場合ではなく全員が必死で電車に間に合うように走っていて、望六は駅員と目が会う度に深く頭を下げて謝罪の意を示していた。
「わ、私はてっきり一樹さんが……起こしてくれるものだと思っていましたの!」
シルヴィアは走る事に慣れていないのか典型的な女の子走りの格好で息苦しそうに声を出す。
「はぁはぁ……右に同じくっ!」
「私も……同じ意見だ」
彼女に同調するかのように後から翠嵐と月奈が息を乱しつつ同じ言葉を呟いていた。
「なっ!? お、お前ら俺を頼りにし過ぎだろ!」
それに対して一樹は驚愕の表情を見せながら声を荒げると口を一の字にして何処か不満そうであった。
「僕は望六が起こしてくれるかなぁっと思ったけどね……」
「いやいや、待てナタリアよ。あの家は七瀬さんが所有しているのだ。ゆえに俺達はお客様であり、一樹が俺達を起こしてくれると考えるのが妥当だろう」
望六は即座にナタリアが小さくつぶやいた独り言に反応して否定すると、自分なりの持論を展開してこう考えていたと言う事を伝えた。
「んなっ!? 俺はてっきり望六がアラームをセットしているものだと思っていたんだぞ! なんせ昨日は俺の制止を振り切ってコンビニに行ったと思ったら、表情がキョンシーみたいに青白くなって戻ってきたんだからな!」
するとその話を一樹は横でしっかりと聞いていたらしく彼を睨むようにして目を細めて顔を合わせると、昨日望六が木本と遭遇して帰ってきた後のことを話していた。
「ん……? おいおい待ってくれ。その話の何処に俺がアラームをセットする事と繋がるんだ?」
望六は彼の言葉を聞いて一つの疑問が生まれると、依然として電車を逃さない為に走りながらも空いている右手で自らの頭を抱えた。
「まだ話は終わっていないぞ。問題はそのあとだ! 望六が青白い顔で戻ってきたと思ったら、明日は確実に遅刻しないように学園に戻るぞって壊れたDVDのように永遠と繰り返して言っていたじゃないか!」
話しがまだ続いている事を強めの口調で一樹は言い放つと矢継ぎ早に昨日の夜の出来事の一部始終を言いながら、身振り手振りを使って自分が如何に怒っているのかというのを体で表現しているようであった。
「……はて? 俺はそんなこと言ったのか?」
望六は首を傾げながら昨日の出来事を思い起こすが、それは断片的であって木本と遭遇して別れたあとの記憶は曖昧であった。だが一樹の話を聞いてそれならば自分が目覚ましを掛けていてもおかしくはないと少なからず認める気持ちも彼にはあった。
「忘れてるのかよ!? まったく、望六は本当にまったく……」
一樹は口を大きく開けて反応を示すが直ぐに顔を下に向けると段々と声が小さくなっていた。
「あー……確かにそんなことも言っていたような気がするかなぁ……あははっ」
ナタリアが困ったように苦い笑みを浮かべながら一樹に助け舟を出していた。
「うーむ、思い出せんが何かすまないな」
相変わらず望六の頭にはその時の記憶がまったく無くて謝る事しか出来なかった。
「……っとそれよりも今は目の前の電車に乗り込む事が先決だ。誰ひとりとしてこの駅に置いていく訳にはいかないからなっ!」
数分ほど構内を走っていると漸く目の前にお目当ての第一WM学園行きの電車が視界に映り、望六は誰も遅刻させないと自らに言い聞かせるようにして声を出すと魔法を使いたくてしょうがなかった。
何故なら魔法を使えば衝撃派を生み出して大幅に加速が行えるからだ。だがこんな所で魔法を使うと違反を犯してしまうことになり、調整を間違えれば最悪回路に傷が入って二度と使えなくなる危険性があって現実的ではなかった。
「よし、これならギリギリ間に合うな。全員急いで乗り込むんだッ!」
電車を目の前にして望六が走る速度を緩めると大きく手を振りながら全員に声を掛ける。
その理由としては学園行き電車に向かって彼らが走っているのをマスコミ達に見つかり、連中は大型のカメラを担ぎながら必死の形相で近づいて来ているからだ。
――そして一樹から順に次々と全員が電車に乗り込んで行くと最後にシルヴィアが肩で息をしながら乗車して、それを確認してから望六も乗り込んだ。最悪間に合わなった場合はマスコミに捕まる前に自らの身を呈してシルヴィアを守る気で望六はいたのだ。
「ふぅ……。毎回の事だが電車に乗ることすら一苦労だな」
望六が乗車して手すりを掴むと同時にドアが閉まると電車はゆっくりと進み出す。
「こればっかりは仕方ないさ。これが俺達を見る世間の目ということだろうし」
隣からは一樹が肩を竦めて何処か呆れた様子で小言を挟んできた。
「つ、疲れましたの……。なんであの人達は駅員の制止を振り切ってまで近づいてきますの……。本当にJapanese Mass mediaは怖いですの……」
そして無事に乗車する事の出来たシルヴィアは自身の髪色と同じような顔色をしていて、椅子に座るや否や日本のマスコミに恐怖を抱いているようであった。
「確かにあれは怖かったな……。中国でもあほれどの”大众媒介”は居なかったよ……」
彼女の言葉に便乗するようにして翠嵐も椅子に座りながらマスコミの事について呟いていた。
「まあこれが日本の魔術士事情だ。色々と察してくれ」
そんな彼女らを見て望六は軽い口調でそう言うと手すりから手を離して近くの椅子に腰を落ち着かせた。
「はぁ……私は学園に着くまで休ませて貰いますの」
シルヴィアは呼吸を整え終えたのか大きく溜息を吐くとバッグから薔薇の模様の入ったタオルを取り出して目元を覆い隠すようにして乗せていた。
「ああ、そうした方が良い。……っと俺も普通に寝不足だし少し寝るかな」
恐らくタオルはアイマスクの変わりなのだろうと望六は見ていて思ったが、自身も寝不足だということを実感していて学園に着くまでの僅かな時間でも仮眠を取りたかった。
「あっ、だったら学園に着いたら僕が起こしてあげるよ!」
今にも睡魔が全身を覆いそうな勢いで望六は意識が朦朧としてくると、ごく自然の流れでナタリアが彼の隣の席に座り出して小さく手を合わせると一つの案を出していた。
「本当か? なら悪いが頼めるか?」
「うん、任せといて!」
彼女が自信満々の様子で自身の胸を叩いて笑顔でそう言うと、望六は後のことは全てナタリアに任せることにして昨日の夜の出来事を思い起こしながら瞼を閉じるのであった。
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