闇の魔法使いと光の教団(2)
私とマサトくんが付き合い始めてから1年と数か月が経ちました。
彼とデートを楽しみながら、そっと彼を眺めます……。
そんな時ふと、私は彼の様子がおかしい事に気付きました。
「あれ?なんだか今日は元気が無いね?」
「うん……実は昨日、兄貴に呼び出されたんだよ。」
どうやらマサトくんは、闇の魔法使いさんと何かあったそうなのです。
「何の用だったの?」私が訊ねますと、彼は答えます……。
「実は相談があってさ……。」
「うんうん!何々!?」
マサトくんから頼られた私は嬉しくなり、身を乗り出してしまいます。
そんな私を宥めた後、彼の口から衝撃的な一言が……。
「俺さ?なんかお見合いしないといけなくなったんだ……。」
「……え?お見合い?」
「うん……。」
……私は、頭が混乱してしまいました。
「マサトくん!どういう事なの!?」
「いや、俺も良く分からないんだけど……。」
どうやら、闇の魔法使いさんの不安が的中したようでした。
「親とその話をしてたら、急に兄貴が凄い剣幕で飛び出して来てさ……、
たぶん自分より先に俺に結婚されたくなくて焦ったんだろうけど。」
そう言ってマサトくんは嘲笑するように笑い声を上げました。
「笑い事じゃないよ!」
私はマサトくんの腕に抱き着いて叫びます。
「もう!なんですぐに言ってくれなかったの?」
「いや、カノンさんに余計な心配させたくなくて……。それに俺も最初は断ったんだよ?」
「じゃあ何で!?引き受けたの!?」
……私には、マサトくんが受けた意味が理解できませんでした。
ただ怖かったんです、だから追及しましたけど……。
「……それがさ?親が凄く乗り気でさ……。」
彼が悲しそうに言ったのを見て、私は頭が真っ白になってしまいました。
その日、マサトくんと別れた後、いつものように闇の魔法使いさんがやって来ます。
しかし彼は普段と比べ、大分イラ立っているようでした。
「カノン先生、最早一刻の猶予もありません、今すぐマサトと結婚してやって下さい。」
「……どういう事ですか?」
「親が、あいつとのお見合いを強引に進めてます……。既に親族の紹介まで終わっており、
今日の午後にも顔合わせが行われるそうです。」
「そんな!」
私は思わず驚きました、まさかそこまで話が進んでいたなんて……。
「ウチの親も必死なんでしょう……。」
闇の魔法使いさんがとても悲しそうに言いました……。彼も相当に心を痛めているようです……。
だけど私はふと思いました、別にこのままでも良いのでは無いかと?
「闇の魔法使いさん…、マサトくんが望んでいるなら私達がどうこう口出しする事ではないんじゃないでしょうか……?」
「……本気で言っているのですか?」
闇の魔法使いさんが、信じられないと言った風に言いました。
「私もマサトくんの事は嫌いではないですが、将来性を考えると私よりも断然、ご両親の選んだ相手と結ばれた方が幸せな筈です……。」
「カノン先生……それは酷な話ですよ……。」
闇の魔法使いさんは肩を落として言いました。
しかし私は希望を捨てずに彼を説得する事に決めました。
私達は夜になってから再び話し合いました。
「俺は別に見合い結婚なんてする気は無いよ……。」
会って早々にマサトくんが言った言葉です。彼はどうやらこの見合い話に乗り気では無い様子でした。
しかし……。
「父さんがさ、カノンさんを連れて来いって……。何でも先生の事を聞きたいって……。」
「え……?」私は彼の言葉に唖然としてしまいました。
まさか私がマサトくんと付き合っている事がバレていたのでしょうか?
「ああ、心配しなくていいよ?俺達の関係はまだ知らないみたいだから。」
マサトくんの言葉に私は少しホッとしました、しかし。
「でもいずれは……。」
闇の魔法使いさんが暗い表情で言いました。
「だからお見合いの話も断れないんだ……。」そう言って彼は俯きます。
「……マサトくんは、本当はどうしたいの?」
私が質問すると……。
「カノン先生!」
闇の魔法使いさんが厳しい口調で諌めます。
「正直言うとさ、断ってもいいけど、そうすると親との関係が拗れるんだ……。」
マサトくんはとても悲しそうに言いました。恐らく彼のご両親はお見合いという物を凄く重要なイベントだと考えてるのでしょう。
つまり彼はこのお見合いを断れば今後、両親が自分に辛く当たって来る事を恐れているのです……。
だから私は思わず言ってしまいました。
「そんなのおかしいよ!」と……。
すると彼は小さく溜息を吐いて言います。
「そうなんだよ……、俺もおかしいと思う……。親がここまで意地を張る意味が分からないよ……。」
「マサトくん、お願いだから私に本当の気持ちを話して?」
私は懇願するように言いました。ですが彼は溜息を吐いて言います……。
「ごめん……、今日は帰ってくれるかな……?今は何も話せないんだ……。」
「……分かったわ。」
そう言って私は彼の家から去りました。
それから数日間は彼と顔を合わせる事すらありませんでした。
きっとご両親と口論しあったりしてるのでしょう。
だけどある時、闇の魔法使いさんが私の所にやって来ました。
「カノン先生……、マサトが遂に折れました。」
「……そうですか。」
私は胸が締め付けられるような気持ちになりました。ついにこの時が来てしまったのですから……。
「それで、いつお見合いする事になったのですか?」
私は震える声で質問します。すると彼は重い口を開きます。
「明日です……。」
その答えを聞いた瞬間、私の中で何かが崩れて行くような音が聞こえました。
「……これで、良かったのかもしれませんね。」
私は自分に言い聞かせるように呟きます。
「カノン先生……?」
闇の魔法使いさんが困惑した声で私に問いかけて来ましたが、私は何も答えませんでした……。