闇の魔法使いと光の教団
私の名前は花咲カノン。
魔法少女としての活動も一段落し、今は後進となる子供達の教育に取り組んでいます。
だけど世界の平和を守る為、まだまだやらなければならない事は残ってるみたい……。
私とマサトくんが付き合い始めてから、およそ半年ほどが過ぎました。
あれから大分仲良くなれた私達は、休日にショッピングへ出掛けるなど、ごく普通の恋人らしい行為に勤しんでいます。
ですが最近……何か奇妙な視線を感じるのです。
私の気のせいではないはず。
恐らくその視線の正体は……。
「おい!兄貴、またそんな所に隠れてんのかよ。」
「や、闇の魔法使いさん……。」
建物の影に隠れ、ひょっこりと顔だけ覗かせている男性。
その人こそマサトくんの兄弟である闇の魔法使いさんに間違いありません。
彼は幼い頃からいつも弟のマサトくんを蔭から見守っており……私も少し気になっていたのです。
「……ねぇ、カノンさん……。」
「ん?どうしたの?」
するとマサトくんは何か私に耳打ちをして来ます……その内容は……。
「あいつ、最近ずっと俺達の後をつけてるよな?」
「うん、私も気付いてるよ。」
そう、マサトくんの言う通り……彼はここ最近ずっと私達の後ろを付け回しているのです。
そんな会話をしていると……闇の魔法使いさんが気まずそうに私達に声を掛けてきました。
「やあやあ!奇遇ですねお二人とも。」
「兄貴……ずっと俺達の後をつけてるだろ?」
「まさか!気のせいじゃないか?」
「ふーん……そうか。」
私は彼のこの態度が怪しくて堪りませんでした。
どうみても何かを誤魔化している様にしか見えません。
ですが私は少しだけ彼に興味がありましたので、そっとしておく事にしました。
それからも彼は私達の動向を探り、その様子を時折物陰から観察していたのです。
しかしある日の事……。
その日は休日で、私はマサトくんとのデートの待ち合わせ場所に向かっていました。
「ちょっと遅くなっちゃった……。マサトくん大丈夫かな?」
恐らく彼はもう待ちくたびれているに違いありません。
そんな時、私は信じられない光景を見ました!
「おい!どういう事だよ!?」
なんと闇の魔法使いさんが、マサトくんと言い争っていたのです。
「あちゃー……こりゃ見つかっちゃったか……。」
「最近兄貴の様子が変だと思ったんだよ!このストーカー野郎!」
なんと闇の魔法使いさんは、マサトくんをストーキングしていた様です。
ですがマサトくんはそれに気付き、彼を問い詰めていました。
すると闇の魔法使いさんが反論します。
「兄ちゃんが弟を心配するのは当然の事じゃないか?」
「心配?兄貴は俺の事を信用してないだけだろ!」
私は急いでマサトくんと闇の魔法使いさんが喧嘩している場所へ向かいます……。
そして彼を説得したのです。
「あのー……マサトくんを心配する気持ちは分かりますが……弟離れ出来ないと格好悪いですよ。」
「うう……。」
こうしてマサトくんに嫉妬する闇の魔法使いさんは、私達に説得され身を引く事になったのです。
それからと言うもの、彼のストーカー行為はぱったりと止みました。
ですがその代わりに魔法使いさんは、私達がデートをする度にその内容を詳しく私に聞いて来るようになったのでした。
そして私はマサトくんには聞かせない様にと、彼の質問にこっそり答えてあげるのでした。
「最初に出会った頃に比べて、彼は随分と明るくなったと思いますよ?」
「……そうですか、それなら良かったです。」
マサトくんのストーカーを辞めた彼は、今では普通のお兄ちゃんをしていました。
私は魔法使いさんが弟離れ出来る様にと、影ながら応援し続けているのです。
「それもこれも、カノンさんのおかげですよ……。」
闇の魔法使いさんはそう言うと、私に向かって深々とお辞儀をします。
私はそんな彼に微笑みながらこう言いました。
「でも……どうせなら私なんかより、もっと同世代の女の子とお付き合いされた方が良いかもしれませんね。」
すると彼は少し困った顔をしました。
「それは……カノンさん、それは困ります。」
「?どうしてですか?」
「え、いや……それは……。」
そんなつもりは無かったのでしょうが、彼は思わず口ごもってしまいます。
そして魔法使いさんは少し考えて私にこう言いました。
「実は俺の親は、とある新興宗教団体に入信しているのです……。」
「えっ!?」
私は彼の告白に驚きました。
まさかそんな事になっていたなんて……。
「その団体は『光の教団』と呼ばれ、俺達の様な一般の人に対してはあまり良い噂を聞かないのですよ……。」
闇の魔法使いさん曰く、その宗教団体の教祖は神を崇めており、権力を誇示し人々を教義で支配しているのだとか……。
そんな光の教団に入信してしまった彼の親は……今ではすっかり洗脳されて生活しているらしいのです。
「……だから俺はカノンさんと弟がお付き合いしていると知られたら不味いのです。」
「でも……マサトくんならきっと、その様な事で貴方を迫害する事は無いと思いますよ?」
すると彼は首を横に振ります。
「いや、これは俺自身の問題なのです……。」
「そうですか……。」
そんな話を聞いてしまった私は、少し考えてからこう提案しました。
「……私が教団の事を調べて上げましょうか?」
すると彼は驚いた顔で私に言います。
「いえ、連中の狙いは分かっているのです。入信した信者の子供同士を結婚させ、その家庭を丸ごと、教団の一員に取り込んでしまおうと画策しているのですよ。」
「つまりは……政略結婚って事ですか?」
「そうですね、だから俺は弟がそんな馬鹿な宗教にハマらないように、日頃から目を光らせていたのです。」
「お願いですカノン先生!そうなる前に、どうか我が家の後継ぎを産んで下さい。」
そう言って彼は深々と頭を下げました。
でも……そんな闇の魔法使いさんの話を聞いて、
私はちょっとその教団に興味が湧いてしまったのです……。
そうして私はその宗教団体について、独自に調べてみる事にしたのでした。