カノン先生と闇の魔法使い(2)
私の名前は花咲カノン。
魔法少女としての活動も一段落し、今は後進となる子供達の教育に取り組んでいます。
だけど世界の平和を守る為、まだまだやらなければならない事は残ってるみたい……。
そんなある日、闇の魔法使いさんが私の元を訪ねて来ました。
「こんにちは、カノン先生。大した物ではありませんが、これ…お土産です。」
そう言って彼は今川焼きの包みを私に手渡します。
「どうも……それで、今日は一体何のご用でしょう?」
「いや、特に用は無いのですが……最近カノン先生とお会いして無かったので、たまにはお話でもと……。」
彼は、今この世界で活動が許されている闇の魔法使いさんの中で、最も強い力を持っている方なのですが……。
その割には腰が低く、こうして時々私の元を訪れたりします。
彼の持ってくるお土産はいつも私の好物ばかりで……何故そんな事まで知っているのかは分かりませんけど、これも彼が私の魔法のファンであるからでしょうか?
「不躾なお願いなのは重々承知しているのですが…、実はカノン先生に、私の弟と会って欲しいのです。」
「弟……ですか?」
「ええ、と言っても長年家に引き籠っている不出来な男なのですが…。」
闇の魔法使いの社会にも色々複雑な事情があるようです。
闇の魔法には他人の心に働きかける物もありますし、無闇に詮索するのは御法度ですね……。
「あいつは今、実家にいるのですが、どうにも気難しい所がありましてね……。カノン先生が来ると聞けば、ひょっとしたら会ってみる気になるかもしれませんから……。」
そんな訳で私は彼の弟さんに会いに行く事にしました。
しかしこれが私の今後の人生に大きな影響を与える事になるとは……この時は夢にも思いませんでした。
「マサト、お客さんだよ。」
彼の母親らしき人物が家の奥の方へ呼び掛けます。
「えっ?誰……?」
部屋の片隅でスマホを眺めていた少年が、ゆっくりと立ち上がるとこちらへ歩いて来ました。
「こんにちは、花咲カノンと言います。」
「……。」
無言で軽く会釈する少年。
彼こそが闇の魔法使いの弟であるマサトくんだ。
「今日は私のお話を聞いて欲しいのと……それからこれ、お土産です。」
「どうも……。」
差し出した包みを受け取りながら、彼は少しだけ微笑んでいる様にも見える。
きっと良い子に違いないとその時の私は思ったのだった。
それから私は彼としばらくお喋りをして、交遊を深める事にしました。
いきなり仲良くなるのは無理なので、まずは顔見せからです。
「それではまた今度来ますね。」
私が帰り支度を始めると、咄嗟に闇の魔法使いが挨拶にやって来ます。
「ありがとうございます。あいつが何か失礼な事をしませんでしたか?」
「いいえ、何も。とても礼儀正しくて、少し恥ずかしがり屋さんですね。」
「そうですか……いや、いつも家に引き籠っているので心配していたのですが……お陰様で安心しました。」
そして今日は顔見せだけだと言う事を話し……次の日曜にもまた遊びに来る事を約束したのでした。
こうして、私とマサトくんの交流が始まる事になったのです。