お腹の双子は異父兄弟?(2)
カノンはその日、自分の部屋でスマホの画面とにらめっこをしていました。
先日の出生前診断の結果を彼くんに報告すべきかどうか、彼女はずっと悩んでいたのです。
(やっぱりあんな結果なんて教えない方が……)
そう思っていた瞬間です。その画面が光ったかと思うと、着信音が流れました。
私はあわてて通話ボタンを押し、スマホを耳へやります。
「もしもし?」
すると私の耳に聞き慣れた声が聞こえてきました。
『もしもし……カノン、聞こえてる?』
その声はいつもの優しい彼の声でした。
『なんだか元気がないね?もうすぐ予定日だし、気分が落ち込んでるのかな?』
「ううんっ、そんな事ないよ!元気だよー♪』
私は無理して大きな声を出しました。
『ふふっ、それなら良いんだけど……」
電話の向こうで彼は優しく微笑んでいました。
そんな彼の声を聞くと、なんだか緊張してるのがバカバカしくなって来ました。
「それでどうしたの?何か用事?」
私は話題を変えます。すると彼は言いました。
『最近なかなかコッチから電話できてなかったからね……カノンの声が聞きたいなって思って……』
彼の言葉に私はつい笑顔になりました。
「もぉ~♪」
そして心の声を漏らしてしまいます。
「……本当は私も寂しかったんだから……」
『ん?ごめん、最後の方がよく聞こえなかったけど?』
彼は聞き返してきます。私は慌てて取り繕いました。
「ううんっ!なんでもないのっ!」
電話の向こうでクスクスと彼が笑います。
「なによ、私の気も知らないで!」
そう言ってむくれる私に、彼は言いました。
『ごめんごめん。僕は幸せだなって、そう思ってさ…。』
その言葉に私の胸はキュンとなり、彼の事をより強く意識してしまいます。
そして同時に赤ちゃんの事を思い出しました。
(私、どうしたら良いんだろう…?)
「ねぇ、もしもの話なんだけど。仮に私が他の男の人と…そういう浮わついた関係になったとしたら、彼くんはどうする……?」
私はついそんな事を聞いてしまいます。
『どうしたの?急に……』
彼は突然の質問に驚いている様でした。
「いいから!答えてよ……」
『んー、そうだな……相手の男性次第だろうけど。万が一そういう事があったとしても、僕がカノンを愛する気持ちはきっと変わらないよ。』
彼の意外なほどまっすぐな言葉に、私の胸は熱くなります。
「……ありがと。」
『それで?どうしてそんな事聞いたの?』
私は自分の気持ちを話そうと思いましたが、ためらってしまいます。
(やっぱり言わない方が……)
そんな私に彼は言いました。
『僕には言えない事?』
その言葉に私は胸が締め付けられる様な気持ちになります。
「ごめんね……」
そして思わず謝ってしまいました。そんな私に彼は優しく言います。
『カノン……僕はね、元々君に黙っていなくなろうと思っていたんだ。』
「えっ!?」
突然の告白に私は驚きました。
『君との関係が深まって行くのが怖かったんだ。今だってそうさ、お腹の子の為に立派な父親になれるかどうか、怖くて仕方ない……』
彼が何を言っているのか私にはよくわかりませんでした。ただ何かとても大きな出来事があったという事だけはわかります。
『でも君に子供が出来たと知って、僕は思ったんだ。例え一緒にいれなくても、君のお腹の子の為に、未来を諦めないってね……。』
それを聞いて私の目からは自然と涙が溢れてきました。
「ごめんっ!ごめんねっ!」
私はただひたすら謝り続けました。
『カノン……?』
「私、あなたになんて言えばいいのかわからなくて……」
私は自分の気持ちを告白しました。赤ちゃんの事を伝えようか伝えまいかで悩んでいて、そんな自分が情けなくて泣いていると……。
『大丈夫だよ』
彼は穏やかな口調で言いました。
『その事に悩むのは母親として当然だよ?今はただ黙って出産の日を迎えるまで頑張ろう?』
その言葉に私の涙はさらに溢れます。彼の優しさが嬉しくて、そして申し訳なくて……。
『カノン、そんなに泣かないで?僕はね、君が思ってる様な立派な人間じゃないよ』
「そんな事ないっ!彼くんは私の尊敬する人なの!」
カノンは必死になって訴えました。
私はなんて愚かな女なのだろう、彼を試したりなんかして……。
『ありがとう。僕もカノンの様な素晴らしい人に想われて、幸せ者だよ』
彼はそう言いました。その言葉に彼女は涙が止まりませんでした。
私は貴方にそんな優しい言葉をかけて貰う資格なんてないのに。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
私はボロボロと涙を流しながら、ただひたすらに謝りました。そして……。
「違うのっ、この子は貴方の子じゃないかもしれないの……!」
私はついに真実を口にしてしまいました。
『え……?』
彼は戸惑っていました。私が何を言っているのか理解できていない様でした。
「信じて貰えないかもしれないけど、私のお腹の中に居るのは貴方の子じゃないかもって……病院の検査で……。」
その言葉を聞いた瞬間、スマホの向こうで彼が息を飲む音が聞こえました。そして……。
『うん、薄々そうじゃないかと思っていたんだ……。』
その声は驚くほど落ち着いていました。
『カノン……、君は魔法少女なんだろう?』
「えっ……!」
私は思わず声を上げました。
『気付いていたよ。だけどそれを言ってしまうと君との関係が壊れてしまいそうで、
ずっと言い出せなかったんだ…。』
私はもう何も言い返せませんでした。
『カノンがどんな立場になっても、僕はずっと君を愛し続けるよ。』
彼はそんな私を安心させる様に、優しく話しかけてくれます。
『僕は君を幸せにする為に今までやって来たんだよ?それはこれからだって何も変わらない、だからもう泣かないで……。』
それでも私は嗚咽しながら泣き続けました。
彼女は自分が恥ずかしくてたまりませんでした、そして彼に対して何もしてやれない自分の無力さが情けなくて仕方がありませんでした。
「うわあぁぁ……、うわああぁぁーーーん!!」
そしてついには声を出して泣きじゃくりました。
そんな私を、彼は何も言わずに優しく待っていてくれました。
『ねぇカノン……聞いて?』
しばらくして、彼が話しかけてきました。私は嗚咽しながら答えます。
「うっ……!うぅっ……!」
すると彼は優しい声で言いました。
『君が出産する日はさ、僕も必ず立ち会うから……。』と。
その言葉を聞いた瞬間、私は胸の奥から温かいものが溢れて来るのを感じました。
(彼くん!彼くん!!)
そして私は、再び泣き始めました。
『だからもう泣かないで……?』
「うわあぁぁーーーーん!!」
そしてしばらくの間、彼女は彼に謝り続けました。
ごめんなさい!ごめんなさい!と何度も、何度も……。