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引き籠り娘と理想の彼くん(2)


彼くんとの初めての外出から数ヵ月、季節は春から秋に変わり、

複数回のデートを終えた後も、私と彼くんの交際は続いておりました。

といってもその内容は相変わらず、近所を散歩したり、一緒にお昼を食べたり、

部屋の掃除を手伝って貰ったり、お風呂の介助をして貰ったりする程度でした。

しかし、その状況を快く思っていない人がいたのです。

「あー、もう!じれったいねぇ。」

そう言いながら私の部屋に入ってきたのは、母親のリズムでした。

「どうしたの?お母さん。」

驚く私を他所に、彼女はなにやら手に持った瓶をこちらに向けて来ます。

「これは花咲リズム特製精力剤『テングニナールZ』、

一口飲めば乳首ビンビン、クリトリスバキバキの大洪水の代物だよ!」

勢いに気圧され固まった私を前に、さらに彼女は畳み掛けます。

「正直あんたの付き合い方は見ててイライラするのよね。

これを飲めば、あんな男なんてイチコロだよ!」

母が私に差し出したのはそんな恐ろしい品でした。

「な、なによそれ!私はそんな変な薬飲まないからね。」

そう言って私はお母さんを部屋から追い出そうとします。

「そう言うと思って、事前に今朝の朝食にコッソリ混ぜておいたから。」

部屋を出る間際に、母はそう言ってニヤリと笑いました。

「そ、そんな……お母さん!」

「じゃあ後は彼くんの方にも媚薬を飲ませて来ようかしら?」

そう言って母は去っていきました。

それからしばらくして、私の部屋に彼くんがやって来ました。


「やあ。」

そんな挨拶もそこそこに彼はいつものように私の部屋に入ります。

私は慌てて布団を被り顔を隠しました。

なぜなら、今の私の身体は薬の効果で大変な事になっていたからです。

(見られたくない)という思いが私の心を支配していました。

そんな私の前で、彼くんは何事も無いように散らかった部屋の掃除を始めました。

「そういえば、今日は玄関でリズムさんに会ったよ。何だか余ってるとかで一本ドリンクを貰ったんだけど……。」

布団の中にいる私に彼くんが話かけて来ました。

「ええっ!もしかして、それ飲んじゃったの!?」

私は驚いて聞き返します。

「う…うん、なんか不味かったかな?」

彼くんがそう言って、不思議そうな顔で布団にくるまる私の顔を覗きこみます。

「だ、ダメだよ!飲んじゃ!」

私は布団から飛び出したいのをぐっと堪えました。

「だ、ダメって?」

彼くんが訪ねます。

「そ、それは……」

私はもじもじとしながら答えます。

(あ……あんなの飲んだから私……どうなっちゃうか分かんないんだよ……!)

先程のお母さんの説明がカノンの頭の中で反響します。

そんな感じで布団の中で身悶えする私を意に介せず、彼は黙々と片付けを続けます。

そして部屋の掃除が終わると私の寝ているベッドの横に座りました。

「カノン…実は今日は、大事な話があるんだ。」

いつになく真面目な表情で彼くんが言いました。

「な、なに?」

私は出来るだけ平静を装って返事をします。

「じつは……俺……その……」

(や、やめてよ!変な薬飲まされて大変なのに!)

そう思う私の事などお構いなしに彼は続けます。

「もうここには来れなくなると思う。」

「えっ……!?」

私の頭が真っ白になりました。

「色々、考えてたんだ。カノンの為に、俺に一体何が出来るんだろうって…。」

(な、なに?薬の効果でこんなに苦しいのに、これ以上なにかあるっていうの!?)

私は慌てて布団から顔を出します。

「ど、どういう事?」

驚く私に彼は説明します。

「日本を出て海外に行くんだ、前に母さんと国外で暮らしてた事もあるから、

言葉とかは問題ないし……」

「ちょ、ちょっと待って!」

私は慌てて止めます。

「どうしたの?」

彼が驚いた顔で訪ねます。

「えっと……それはダメ!っていうか」

(ダメだよ!今そんな事されたら私死んじゃうよ!!)

そんな思いが頭を巡りましたが、薬のせいでうまく言葉に出来ません。

「ゴメン、いきなりこんな話して……。けど、これは日本国内だけの問題じゃないんだ。」

彼はそう言って、真剣な顔で説明します。

「俺がカノンにしてあげられるのは……この国に留まる事じゃないと思うんだよ!」

(そ、それは違うと思うよ!!)

そんな私を置いてけぼりにしたまま話は続きます。

「カノンは俺に出来る事があるって言ってくれたけど……。」

(だ、ダメだってば!何も出来なくていいよ!側にいてくれればいいの!)

「でもそれはやっぱり違うよ!だって俺は今までずっと……」

(やめてぇぇぇぇぇ!!!!)

頭の中の感情が言葉にならず、私は彼に抱きつきました。

大きなオッパイの重量に圧されて、二人はそのまま床に倒れ込んでしまいます。

「か…カノン?」

(な、なんで!?なんでそんな事言うの!)

私の思いは言葉にならずに彼の耳へは届きません。

「今までカノンにはずっと助けられてきたと思う……。」

そんなセリフが彼の口から続いてしまいます。

(違うよぉ!!私は何もしてないよぉ!!)

心の中で叫ぶ私を他所に、彼は言葉を紡ぎます。

「ゴメン……」


それからどれくらいの時間が経ったのでしょうか? 薬の効果が切れた私達は互いの身体を抱き締め合っていました。

「カノン……」

彼が申し訳なさそうに呟きます。

(ああ……可愛い……。)

私は彼の腕の中で、幸せに包まれていました。

(これよ!私が欲しかったのはこういう関係なのよ!)

そんな思いで私は彼にキスをしました。すると彼もそれに応えてくれます。

ああ、まるで夢のようだわ、と私は思いました。

そんな幸せに浸っていた私に対して彼は優しく言います。

「カノン、ごめんな。君の気持ちを考えずに、俺の事ばっかり話して……。」

「えっ……?」

(そ、それって……)

「けど、俺は君の事を大切に思ってるから……」

(もうやめて……それ以上言わないで……!)

私は心の中で叫びます。ですが、彼の言葉は続きました。

「だから俺は行くよ……外の世界に……。

でないと、これから産まれてくる子供達は、きっと親を恨むだろうから。」


そうして後日、彼くんは世界へと旅立って行きました。

だけど私は寂しくありません、だって私のお腹の中には、

彼との間に生まれた新しい命が宿っていたのですから。

私は、いつまでも彼くんを待ち続けようと心に誓いました。

そして、1日も早く彼が帰ってこれるように、カノンも自分の闘いを始めて行く事になるのです。

彼女と彼の愛の結晶である、小さな命と、この世界の未来の為に。

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