天狗の法螺話(1)
私の名前は花咲カノン。
今日も今日とて隠遁生活を送る闇の魔法使いさんの家に遊びに行きます。
そしてある時、彼は私にとある昔話を聞かせてくれるのでした。
その日は暖かい日和で、私達は窓を開けた縁側に座りながら話をします。
「昔々、日本のどこかの山に、ある一人の男が住んでいました。」
闇の魔法使いさんはよくある語り口で話始めます。
「その男は、昼間は野良仕事に精を出していましたが、夜になると『遠眼鏡』を使って夜空を眺めるのを日課にしていました。」
「遠眼鏡?」
聞きなれない単語に私は首を傾げます。
「あー…、今でいう望遠鏡の事ですよ。まぁ詳しい形状とかは分からないんですが。」
彼は話を中断して私に説明してくれました。
「これは俺が闇の魔法を研究していた時に見つけた…というか、
古い伝承から推測した話なんですがね……。どうやらそういう『星詠み』をしていた人達が、この日本には昔からいたみたいなんです。」
「へー…。」とカノンは相槌を打ちます。
「それでその男がいつものように遠眼鏡で天体観測をしていると、夜空であるものをは発見します。」
闇の魔法使いさんは右手で空を指差しながら言いました。
「そのあるものというのは大きな箒星、彗星でした。しかしその彗星は少し変わっていて、どんどんこちらに近づいているように見えました。」
「ふむふむ。」私はまた相槌を打ちます。
「男は他の星詠み仲間にこの事を話し、より詳しい者に意見を聞いて回りました。するとその彗星が、かなり高い確率で、地球に衝突するらしい事が分かったのです。」
「衝突!?隕石がですか?」
私は驚いて聞きました。
「えぇ、カノンさんも何かで見聞きした事があるでしょう?昔この地球に何度か隕石が衝突して、その度に大きな環境変動があったという話。」
そして彼は淡々と話を続けます。
「男は仲間達と共に、彗星が衝突するという事実を触れて回りました。そしてその話を信じた人達は対策として、食料を備蓄したり、城壁や防空壕を建設したり、船を作ったりしました。」
「へー……、そんなに凄い事をした人がいるんですね……。」
私は空を見上げて言いました。青空には白い雲が流れていました。
「まぁ、半分以上は推測ですけどね、そしてその男は彗星衝突の危機を伝えに、ある国へ向かいました。」
「それは…どこですか?」
私は興味深そうに聞きました。
「男が向かった先、それはあの伝説の邪馬台国ですよ。」
「ええっ!?」
唐突に意外な名前を出され、私は驚きの声を上げました。
「恐らくそうなんですよ、そして男に危機を知らされた邪馬台国の人々の一部が、
日本まで避難してきてるんです。」
突拍子もない展開に、カノンは少しワクワクしていました。
「で、結局衝突は起きたんですか?」私は興味深そうに聞きました。
「えぇ、恐らく彗星は地球の大気圏に触れて…そこで大爆発を起こし、その破片が各地へ散らばったんじゃないかと思います。」
「彗星っていうのは主に氷の塊なんですよね。あの尻尾みたいなのは、表面の氷が削れて後ろに流れてそう見えるんだとか…。」
闇の魔法使いさんは話の方を向いて、ジェスチャーを交えて説明しました。
「氷の塊…ですか。」
「はい。さらにその氷は熱で溶け出して、それにより多くの水が発生し、地球に大洪水を持たらしたのです。」
彼は両手を広げて水が波打つ様子を表現しました。
「この洪水により、邪馬台国などの地面の低い場所にあった幾つかの国は、海に沈んでしまったのですね。」
「あっ、それでいくら探しても見つからないんだ!」
私はいつの間にか、ドキドキしながら彼の話に聞き入っていました。
「そして男は助けた人達と一緒に、大きな船に乗って世界中を旅して回りました。」
「わぁ、凄い冒険だ!」
カノンは手を叩きながら喜んでいました。
「その船はいわゆる亀甲船と呼ばれるもので、船底だけでなく天井にも浸水を防ぐ板が張られた亀のような船でした。大洪水を生き残る為にそういう設計がされていたんですね。」
「……それでその人達はどうなったんですか?」
私は少し心配になって尋ねました。
「そうですね、男はたぶん十数年ほど船で世界を巡っていたんですが、中国辺りまで来た時に、港である青年と出会うんですよ。」
「中国ですか…。」私は感心したように呟きます。
「その青年は、なんと自分を男の息子だと名乗ったのですよ。」
「えぇ!?」私は大声を上げました。
「実は彼は日本を旅立つ前に、一人の女性と一夜を明かしていたのですね。そして女性は男の子供を産み、その子が父親を探しに日本から中国まで来ていたのですよ。」
「ふむ……なるほど……。」私は頷きながら話を聞いていました。
「そして男は亀のような船に息子を乗せ、二人で日本へ帰って来てこう言ったのです。
『海の底へ沈んだ都へ行って来ました。』…と。」
それを聞いて私は目を見開いて言いました。
「あぁー…なるほど、昔話がそういう風に繋がるんだ…。」
「何度も言いますが、大半は俺が推測で考えただけですけどね。でもねきっと、それが貴女の先祖なんですよ。」と、闇の魔法使いさんは言った。
それを聞いてカノンは、「は…?」とすっとんきょうな声を上げる。
「いやいやいや、待って下さいそれってどういう…?」
私には彼の言っている意味がよく分かりませんでした。
「いやそうなんです。その未曾有の大災害から世界を救った男が、まさしく貴女のご先祖様なんです。」
闇の魔法使いさんは少し笑いながら説明します。
「で……でも……そんな何百年も前の歴史の話でしょう?なんで私のご先祖様が……?」
カノンは理解が追い付かずにいました。
「信じるか信じないかは貴女次第ですけどね。まぁ…この話の続きは、また今度にしましょうか。」
闇の魔法使いさんは優しく微笑みながらそう言います。
「は、はぁ……まだ続きがあるんですか?」
私は困惑しながら、そんな彼に笑い返すしかありませんでした。




