ジーク・フリード
私の名前は花咲カノン。
世界一の魔法少女になる事を目指して日夜活動中です。
苦しい道のりではあるけれど、支えてくれるみんなの為にも私は決して諦めません。
『ピンポーン!』
ある日の午後、カノンの家のインターホンがなり響きます。
「はーい。」
そう言って私は玄関の扉をガチャリと開けました。
すると家の前に、見知らぬ男性が立っています。
「はじめまして、貴女がカノンさんですね?」
男は彼女に対し、丁寧に挨拶しました。
「は…はい。どちら様でしょうか?」
私はドギマギと返事をします。
「ああ…、ようやく会えました。私の名は真君二郎。覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その昔…怪人に襲われている所を貴女によって助けられた者です。」
そうして二郎はカノンの両手を握りしめました。
「は…はぁ、すいません。よく覚えてなくて。」
カノンは男の勢いに、少したじろいでしまいます。
「覚えていないのも無理はありませんよ。かなり昔のことで、私も小さかったですから…。」
二郎は遠い目をして昔を思い出します。
「そ……それで、その二郎さんが私に何か用なのでしょうか?」
カノンは少しオドオドしながら尋ねました。
「ああ……申し訳ありませんでした。貴女ともう一度お会いできた事が嬉しくて、つい舞い上がってしまいました。それでは、まずは私の話を聞いてください。」
そう言って二郎は深呼吸をして、自分の事を語り始めました。
「実は私は、貴女の産んだ子供の父親なのです。」
「へ……?」
突然の告白に、カノンは目が点になってしまいます。
「これを見て下さい、貴女のお子さんと私のDNAを調べた検査結果です。」
二郎は大き目の封筒から書類を取り出すと、彼女に手渡しました。
「ま…まぁ。立ち話もなんですから、どうぜ家に上がってください。」
そうして書類を受け取りながら、私は彼を中へ招き入れるのでした。
「突然お邪魔してしまって申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらず。」
こうして私は彼くんと共にリビングのテーブルを挟んで、二郎さんと向かい合う形になりました。
「それで、私はまだ信じられないのですが……貴方があの子の父親という話は本当なんですか?」
カノンは少し不安げに二郎へ尋ねました。
「はい……間違いありません。何しろDNA鑑定書によって、はっきりと親子関係が認められましたから……。」
二郎は持ってきた書類をカノンに見せます。
その書類には確かに私の長女の父親として、二郎さんの名前が書かれてありました。
「で…でも、誰がこんな検査書類を……?」
見覚えのない話に、カノンは首を傾げます。
「実は闇の魔法使いと名乗る男が、先日私の元を訪れて、半ば強引に検査を受けさせられたのですよ。」
二郎はお茶を啜りながら、苦笑いをします。
「ええっ!あの人がですか!?」
私はそう言って驚きの声を上げます。
「私も驚きましたよ。どうやってそんな事を調べたのか、彼はその昔…私が怪人に洗脳されて犯してしまった過ちについて聞いて来たのです。」
そう言われて、カノンは思い出しました。
若い頃に魔法少女として活動していた自分が、ある少年と関係を持ってしまった日の事を……。
「まさか…、あの時の?」
私は空いた口を掌で覆いながら言いました。
「その通りです。闇の魔法使いさんはその出来事について、詳しく調べて私に話してくださいました。そして私と貴女の娘が親子関係であると突き止めたのです。」
そうして二郎はお茶を置くと、続けて話し始めます。
「貴女は旦那さんと二人であの子を育ててこられたと聞きました……、それで居ても立ってもいられなくなりましてね。出来れば一目会わせて貰いたいと思い……今日こうして参ったのです。」
「そうだったんですか……。」
カノンは少し暗い顔で返事をします。
「そんな顔をしないでください。私はあの日から、貴女の姿を何度も夢に見ました。あの美しい魔法少女の姿を…。それがまさか、自分の子供を産んで母親になっているだなんて……。」
話を聞くと二郎さんは中国の方で、既に結婚されていて…。息子さんが一人、娘さんが一人いらっしゃるのだそうです。
ですが、カノンとの間に産まれた女の子は、いわば二人の姉であり。
法律上は遺産の相続権なども一番強く持っているとの事で…、私達はそういった小難しい話もしなければなりませんでした。
「二郎さん。ウチの娘はもう高校生ですが…、今でも十分人並みの生活を送れていると思っています。ですので、遺産相続などの話は親の独断で放棄させて頂きたいのですが…。」
彼くんは神妙な面持ちで、二郎さんと話をしていました。
「それでは私の気が済みません、あの子は紛れもない私の娘なのです。どうか、父親の責任を果たさせて下さい。」
そう言って、二郎さんは頭を下げます。
「弱ったなぁ……、一体どうしたらいいんだ。」
私達はすっかり頭を抱えてしまいました。
「そうだ、二郎さん。一つ提案があります。」
私はふとある事を思い付きました。
「はい……何でしょうか?」
二郎はカノンの目をジッと見つめます。
「一度娘さんと会ってみてはどうでしょうか?きっと何かいい方法が見つかるかもしれませんよ?」
そう言って、彼女は彼へ微笑みかけるのです。
「ですが……。」
二郎さんの顔には迷いがありました…。長い間会う事の無かった自分の娘と顔を合わせるのに、彼なりの戸惑いがあるのでしょう。
「確かに、それが一番良い方法なのかも知れませんね…。」
そう言って、彼は小さく頷いてくれました。
「それでは、私は近くに宿を取っているので、一度出直してから……また来ます。」
そうして二郎さんは席を立ちました。
「分かりました、お待ちしておりますね。」
カノンは玄関まで彼を送ると、彼を笑顔で見送ったのです。
「ふぅ……、まさかこんな事になるなんて……。」
私はリビングのテーブルに一人座っていました。
そんな時、私のスマホの着信音が鳴ります。
「誰だろう……?」
番号を見ると、それは闇の魔法使いさんからの電話だと分かりました。
「はいもしもし、花咲カノンですけど?」
私は少し刺々しい声で電話に出ます。
「もしもしカノンさんですか?どうも、闇の魔法使いです。」
スマホからは懐かしい声が聞こえて来ました。
「一体今どこに……。いやそれより、今日二郎って人がウチに来たんですけど!」
カノンは少々不機嫌気味に言います。
「あっ、すみません。先に連絡しておくつもりでしたが一足遅かったですね…。」
闇の魔法使いは電話越しに申し訳なさそうに答えました。
「内緒でそんな事をされても困ります、私にも心の準備という物があるんですから…。」
カノンは少し悲しそうに言いました。
「何か…、不味い事とかありましたか…?」
闇の魔法使いは恐る恐る聞きます。
「いえ…、とても紳士的な人でしたよ。一旦出直して、また明日来るそうです。」
そうして私は闇の魔法使いさんに、今日の出来事を事細かく伝えました。
「なるほど…、大体分かりました。では明日、彼が来たときにこう伝えて下さい…、『娘はいずれ魔法少女となって、苦しい戦いへ旅立つ事になるだろう。』と……。」
闇の魔法使いはカノンへ言いました。
「はぁ……、どうしてそんな事を?」
私は不思議に思って聞き返します。
「実は今、世界の情勢が非常に不安定になっているんですよ。」
闇の魔法使いさんは少し間を置いて答えました。
「え……?どういう事ですか?」
私は訳が分からず、再び尋ねます。
「恐らく近い将来…、俺たちの次の世代に大きな戦争が起こります。だから、二郎さんにはその時…我々の味方になって貰いたいんです。」
彼は少し声を落として言いました。
「そんな…、どうして戦争なんかに?」
私は闇の魔法使いさんの言葉に動揺します。
「それはまだ分かりませんが……、恐らく大きな力を持った組織が動いているのだと思います。元々は貴女と関係を持った男について調べていたんですが、思ったよりもデカい山に当たってしまったみたいでね…。」
闇の魔法使いさんは深刻な声で言いました。
「あの…、貴方は今一体どこにいるんですか?」
カノンは不安げに呟きます。
「今はー、えーっとー…、ネパールとインドの国境付近の村ですよ。」
「ネパール!?」
思いもしなかった返事に、カノンは驚いて声を上げます。
「ええ、そうですよ。ちょっと遠出になっちゃいましたが…。」
闇の魔法使いさんは平然と言いますが……、私は彼の身を案じていました。
「貴方は大丈夫なんですか?」
私は不安げに尋ねます。
「大丈夫ですよ、こそこそ隠れて動くのは得意ですから。だから心配せずに待っていてください。」
彼は優しい声で言いました。
「……はい。分かりました、どうかご無事で……。」
カノンは祈るような気持ちで返事をします。
「それではまた連絡しますので、今日はこの辺で失礼しますね……。」
そう言って、闇の魔法使いさんは電話を切りました。
「大丈夫……だよね?」
私は両手を身体の真ん中で握り締めながら、その胸のざわめきを抑えていました。




