蛇蝎の如く
私の名前は花咲カノン。
世界を守る魔法少女だったり、二人の子供のお母さんだったり、情報工学の研究者だったりします。
ですが…自分そっくりのアンドロイドが母親役をやっているのを見て、今はまたこうして自分の部屋に引き籠っていました。
私はこれからどうすれば良いのでしょう?
「えーっと…、拝啓、花咲カノン様…っと。」
闇の魔法使いは、何やら机に向かってペンを動かしています。
どうやら、彼は紙面に何かを書いているようでした。
「まーた、何やってるのー?」
そう言って、マキが部屋に入ってきます。
「ああ、手紙ですよ。カノンさんに読んで貰おうと思いまして。」
闇の魔法使いは後ろを振り返りつつそう言います。
「へぇ、ラブレターか。いいね!アタシにも見せてよ。」
マキは彼の背中に胸を押し付けながら言いました。
「ええっ!?…うーん、でも添削がてら誰かに読んで貰った方がいいのかもしれませんね。」
そう言いながら、闇の魔法使いはさらにペンを走らせます。
「よし、こんなもんかな?マキさん、どうぞ。」
そうして彼は、書き終わった手紙をマキに手渡しました。
「なになにー。俺は最初、才能のある魔法使いだと思って貴女に声を掛けました…。」
「えっ、いやマキさん!?声に出すとは聞いて無いんですけど!??」
闇の魔法使いは慌てて手紙を取り替えそうとします。
「ええー?いいじゃん別にー。どうせアタシ達しかいないんだからーー。」
彼女はそう言って、手紙を読み上げ続けます。
「きっと貴女のような魔法使いがこれからの世の中をより良い方向へ進めて行くのだろう…。そう考えて、俺も貴女と同じ道を行く同志となりたかったのです。そして関係を深めて行くにつれ、貴女が心の優しい…善良な人間であると知る事が出来ました。」
そこまで読むと、マキはフフッ…っと笑い声を上げました。
闇の魔法使いはその様子を、恥ずかしそうに眺めています。
「ですが…貴女が素晴らしい人であると知るほど、俺は自分の理性を抑えられなくなるのを感じました。そして貴女の事を、自分を惑わす悪い魔女だと思い込むようになったのです。これは俺の心の弱さが原因です。なのでしばらく、自分を鍛える修行の旅に出ようと思います。俺と合えなくなっても、どうかお元気でいて下さい。」
「ああっ!もういいでしょ?そこまで読んだら!?」
闇の魔法使いだはたまらず声を上げました。
「ウフフ、ダメダメ。まだ最後の一文が読めて無いんだからぁ。」
そう言って彼女は深呼吸をすると、力を込めて締めの文章を読み上げました。
「俺は貴女を愛しています。我が親愛なる友人、鼓カノン殿……。」
その後、部屋はシーン…と静まり返ります。
そして頭を抱えるながら悶える闇の魔法使いを見ながら、マキは言いました。
「悪くないんじゃなーい?ちょっとキザったらしい気もするけど……ウフフフフッ。」
「ハハ…、それは良かった…。」
彼は喉から絞り出すように答えました。
「ていうか、修行に出るってどういう事?どっか行くつもりなの…?」
マキは少し心配になりながら尋ねます。
「ああ、まぁ少し山籠りでもしようかと。結局俺自身が、まだまだ未熟者なんですよね…。」
「ふーん…。当然私も連れてってくれるんだよね?」
手紙を彼に返しながら、マキは聞きました。
「そうですね…。マキさんがそう希望されるのであれば、断る権利もありませんからね。」
それを聞いて、彼女は闇の魔法使いに飛び着きます。
「やったぁ!約束だからね?」
「ちょっ、マキさん近いですって!」
そう言って彼はマキの身体を振りほどきます。
「えへへー、ゴメンゴメン。それじゃ、アタシもう行くから。」
「あ…はい、ありがとうございます。」
そうして彼女は部屋を出ていきました。
その後しばらく、闇の魔法使いは一人で考え込みます。
「今のって…、マキさんだよな?…まぁ、いいか。」
闇の魔法使いが首を傾げる中、家の外では二人の女性が話をしていました。
「いいのー?あんな事しちゃってー…。」
「あれくらいしないと、私の気持ちが収まりません!」
彼女達は笑いながら道を歩きます。
「ねぇマキさん、私…失恋したんですねぇ。」
空を仰ぎながらカノンが呟きました。
「かなり奥手の恋愛だったねぇ…。まぁ、カノンちゃんらしいと言えばらしいけど。」
マキは困ったような表情で言います。
「私、世界一の魔法少女を目指してみます!そして、今度は私の魅力で彼を振り向かせるんです!」
そう言って、カノンは右手を高く上げました。
「おっ……良いね!頑張れー!」
両手をパチパチと叩きながらマキが声援を送ります。
「マキさんも、協力してくれませんか?」
「ええっ!?アタシがぁー??」
彼女は不安そうな表情で聞き返しました。
「貴女しかいないんです!一緒に頑張りましょうよ!」
そんなマキに対してカノンはしつこく説得を試みます。
「マキナ・カノンが実用化されていけば、私達はもっと魔法少女の活動に専念できる筈だと思うんです。」
そう言われると、彼女も次第にその気になって来ました。
元々、女の子と一緒にいるのが好きなのがマキちゃんの気質です。
「……仕方ないなぁ。やるだけやってみよっか!」
そんなやり取りの後、彼女達はこれからの旅路について、歩きながら語り合って行くのでした。




