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サソリ座の女

私の名前は花咲カノン。

家庭内での居場所を無くしつつあった私は、仲の良い闇の魔法使いさんの元へ

足しげく通うようになっていました。

闇の魔法使いさんの目標は私を世界一の魔法少女にする事で、その為に日夜新しいアイディアを捻り出し、魔法の研究をしているのでした。

そんな様子でパソコンに向かう彼の後ろ姿を眺めながら、カノンは考え事をしていました。

(私と闇の魔法使いさんは友達以上恋人未満……か……)

彼女は自分の胸に手を当ててみました。トクントクンと、胸の鼓動が聞こえて来ます。

「なんで闇の魔法使いさんは、私を世界一の魔法少女にしたいんですか?例えば闇の魔法使いさんだって、真面目に自分の奥さんにするなら、私よりマキさんの方が良いって思ってますよね?」

その言葉を聞いて、彼は少し作業の手を止めます。

「う~~ん…?そうですねぇ……。」

闇の魔法使いさんは手を組んで考え出しました。

「確かに言われてみると妙なんですよね、率直に評価すれば、マキさんの方がカノンさんより優れてる点は実際多い……。でも俺は貴女に惹かれてるんだ、どうしてだろう?案外シスコンでも拗らせてるのかなぁ。」

そんな風に、彼はしばらく考え込んでいました。

それらを聞いて私の頭に、ピーン!とある一つの考えが閃きます。

「もしかして闇の魔法使いさんは、本当は私のお母さんが好きなんじゃないですか?」

「えっ、リズムさんですか…?」

闇の魔法使いさんは驚いて振り向きました。

「だってお母さんなら、私よりもマキさんよりも優秀ですもん。でも、お母さんの見た目がオバサン過ぎるから、闇の魔法使いさんの中で無意識的に恋愛対象外になってるんじゃないでしょうか?きっとそれで私の方に矢印が向いてるんですよ。」

そこまで聞いて、闇の魔法使いさんは何やら納得したような感じでした。

「あー…、言われて見ればそうなのかな?そっか…それで俺は、カノンさんが精神的に成長してお母さんみたいになって欲しいと思ってるのか……。」

そう言って、彼はウンウン頷いていました。

「そうですよ!だって私、ずっとお母さんの話するの避けて来ましたもの……。お母さんに闇の魔法使いさんを取られるのが怖かったから。」

カノンは自分の嫉妬心を、闇の魔法使いさんに向けて吐露します。

「そうだったのか……。俺はずっとカノンさんにリズムさんを重ねて見てたのかな……。」

闇の魔法使いさんは、やっと答えに辿り着いたみたいに、スッキリした顔をしていました。

そしてそれから私は、彼への気持ちをハッキリ伝えようと決めました。

「私……闇の魔法使いさんのことが好きです……!マキさんやお母さんのことがどれだけ好きでも構わないから……これからも、私と一緒にいてください!」

それを聞いて彼は私に近付くと、こう言いました。

「勿論ですよ。そして出来れば、貴女の才能がどこまで伸びるのか見極めたい。」

その台詞に、私は少しションボリして答えます。

「残念ですけど、私にはお母さんほどの才能はありませんよ、どんなに頑張っても母には追い付けなかったから、今の私の性格があるんですもの……。」

そんな私の手を取り、闇の魔法使いさんは言いました。

「そこで挫けてはダメです。貴女はリズムさんに憧れるだけじゃなく、ちゃんと理解しなければならない。才能ある人間が、なぜあそこまで高みに登れるのかを。」

その真剣な言葉に、私は「はっ!」とさせられます。

「あの人は……リズムさんは天才だ。でもそれは、ただ頭が良いとか運動神経が良いって意味じゃないですよね?」

そう尋ねるとカノンは強く頷きました。

「そしてリズムさんは天才であると同時に努力家でもある。それが出来るのは、彼女が誰か偉大な先人の背中を追い続けているからなんじゃないでしょうか?」

『偉大な先人』……その言葉に、私は心当たりがあるような気がしました。

「だから貴女も、たとえ苦しくても、お母さんを背中を追い続けなきゃいけない。そうすればまた、貴女を追って次の世代がやって来るのです。その姿勢を貫き通してようやく、貴女は自分のコンプレックスから脱出できるんです。」

それを聞いて、カノンは胸が苦しくなりました…。

だって私は、あの背中を追い掛けるのを、とっくに諦めていたからです。

「なら……、闇の魔法使いさんが、もっと私の事を労って下さい。もう私……ヘトヘトなんです。前に進む気力が沸かないんです。」

そう言って彼女は、彼の前に両手を広げます。

闇の魔法使いは、そんな焦燥して泣きそうなカノンを優しく抱き締めてくれました。

「本来こういうのは旦那さんとやるべきなんですけどね…、なんで俺なんでしょうね?」

彼はカノンに聞きました。

「私にも分かりません、でも…たぶん何かの病気なんだと思います。」

彼女はそう哀しそうに答えます。

「ふーむ…、マキさんに代わりに抱いて貰うってのは無理なんですか?」

カノンを抱き抱えながら、闇の魔法使いはそう尋ねました。

「それは……、私って性根がノンケなんですよね。だからマキさんに甘えるのは好きだけど、あんまりドキドキはしないんです。」

「なるほど…逆にマキさんはレズだから、女性を抱いて性欲処理が出来てるのか。」

闇の魔法使いは納得するように言いました。

「私の精神年齢なんですけどね、少し前まで15歳だったのが、闇の魔法使いさんのお陰で20歳くらいに上がった気がするんですよね。」

カノンは、笑顔で闇の魔法使いを見つめながら言います。

「でも、どうせならそれを30代くらいまで引き上げて欲しいんです。お願いします。」

そう言って、私は再び彼を抱き締めました。

「うーん、今のままでもお母さんをやるなら支障はないような気もしますが……。」

闇の魔法使いは困ったような表情で答えました。

「俺がもっと歳を取って、皺だらけの爺さんになっても、ずっとお互い友達でいられますかね?」

それを聞いて、私は少し考えながら呟きます。

「そうですね、皺だらけのお爺さんとお婆さんになっても仲良くしていられるのが理想だと思います。けど…たぶん途中で私の病気が悪化しちゃうんじゃないかな……。」

そう言い終わると、カノンは哀しそうな顔で俯きました。

「うーん、分かんないなぁ。しかし現状貴女をこうやって抱いてあげれば、ひとまず精神的には安定していられる訳ですよね?」

闇の魔法使いさんは頭をひねり、顎に手を当てながら話します。

「はい、だけど自分でも説明出来ないんです。どうしてこんな心理になってしまうのか……。」

カノンはさらに下を向きながら、静かに答えました。

「乙女心というのは、昔からよく分からんものとされていますからね……。まぁ、手探りで少しずつ解明して行くしか無いでしょう。」

闇の魔法使いさんは腕を組みながらそう話します。

「手探りでですか……?」

カノンは顔を上げました。

「そう、貴女の中に隠れている地雷を見つけるには、まず原因を突き止める所から始める必要があるんです。」

彼はそう言って、カノンに顔を近付けます。

「何か他に心当たりとかはありませんか?幼少期に嫌な事があって、それがトラウマになってるとか……。」

そう聞かれて、私は少し自分の記憶を探ります。

「そういえば…、私って昔からキノコが嫌いなんですよね。あのグニョグニョした食感や独特の匂いが苦手というか……。」

するとそれを聞いた闇の魔法使いさんは何かを考え出します。

「キノコ…?グニョグニョ……?匂い………?あっ、そうか!」

彼は何かを閃いたように顔を上げました。

「貴女は性行為そのものに嫌悪感を持ってるんだ。だからその地雷を踏み抜いてしまった旦那さんを愛せなくなってるのではありませんか?」

その言葉を聞いて、カノンはハッっとしたような表情で言います。

「そう……なのかもしれません。」

私は少し自信無さげに言いました。

「恐らくそうなんでしょうね、それで色々な事に辻褄が合います。」

そうして、彼は嬉しそうにカノンの手を取ります。

「ああ良かった、やっと貴女のコンプレックスの原因が分かりましたよ!これでもう大丈夫だ!」

闇の魔法使いさんはそう言って喜びました。

しかし私は少し疑問を感じました。

「でも……、それだと私って、結局一生セックスしちゃいけないって事ですか?」

彼女は不安げに闇の魔法使いさんに聞きます。

すると彼は少し考えた後こう答えました。

「まぁそうですね。でも別に貴女自身、言うほどセックスしたい訳じゃないでしょ?」

そう言われて、私はちょっと考えます。

「うーん……、確かにそんな気はしますね。じゃあ別に、もう良いのかな……?」

彼女は少し嬉しそうに答えました。

しかし闇の魔法使いさんは真剣な顔で首を振ります。

「まぁ、そんな簡単に割り切っていい物でもありませんけどね。これは重要な問題ですよ!貴女が旦那さんとセックスしなければ、当然妊娠もせず子供も生まれないでしょう?そうすると日本の未来はどうなるんです?」

彼はそう言って私を説得しにかかります。

「そうですよね……、私のような女のせいで、日本の少子化が加速したら困りますもんね……。」

それを聞いて、カノンはまた悲しい気持ちになりました。

「何か解決方法があるハズです…、そもそもセックスした相手を嫌いになるなんて、生物的に考えてどこかおかしい……。俺たちが見落としている、隠された女性の神秘が…まだ何処かに眠っているのではないでしょうか?」

闇の魔法使いさんはウンウン唸りながら、必死に言葉を探しているようでした。

「うーん、確かに……。でも、そんな神秘が本当にあるんでしょうか?」

カノンは疑問に思います。

「とにもかくにも…、一度旦那さんとお話した方が良いでしょうね。大丈夫、ちゃんと説明すれば分かって貰えますよ。」

「はい!ありがとうございます。」

そう言って闇の魔法使いさんと私は手を取り合いながら立ち上がり、彼の部屋を後にするのでした。

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