ベタ過ぎんだろ
「ん…んぐ……」
お腹の当たりがとても苦しくて俺は目が覚めた。せっかく熟睡してたのに結構嫌な目覚めである。
「お…おんもぃ……」
布団では無い何かが俺に乗ってる。そしてそれは動いてる。人間か?うちはペットなんて飼ってないから人間じゃなかったらとても怖いのだが、いや人間でも十分に怖いのだが。
しばらく待ってみたが、動く様子がない……
とにかく起きよう…そう思い体を少しもぞもぞと動かしたが反応がまるで無い。仕方ないので体を無理やり起こそうとしたのだが……
「…誰が重いですって……?」
うん……?この声は……睦月……?重いって何が……
いや、俺の上に睦月が乗ってるのか……。霊的ななにかじゃなくて良かった。
まだ全然眠いしこのまま二度寝に持ち込んでしまいたかったので妹である睦月をそのまま無視しようとしたが、あることに気づく。
…って事は俺の寝起きに放ったさっきの言葉も聞かれてるんだよな?
途端に冷や汗が出る。頭は一瞬で覚めたし意識は完全に覚醒したけどできればこのまま眠ってたい。いっその事一生このままでいようか。
などと考えてると先程からちょっと震えていた睦月が口を開いた。目を開けて確認してみたが、少し顔を俯かせている。頼む、落ち着いてくれ。
「女に重い……?兄貴よりは軽いわぁぁぁ!!」
「わかった俺が悪かったほんと許してくれ殴るのはホント勘弁寝起きなんだが!?」
睦月は手を震わせながら確実に俺の腹に狙いをつけている。目の焦点も若干あってない。が、その拳は確実に俺の腹を捉えている。体勢が体勢だし食らったらほんとに死ねるが???
「これは…いつもの恨みと女の敵への……罰っっ!」
「待ってごめんってぐふぇあぁ!?」
睦月は拳を思い切っ切り振り上げて、俺の腹に落とした。命の危険を感じてスローモーションになっているがどうしようも出来ない。何せ、陸奥に腕ごと馬乗りされているのだから。そして綺麗に睦月の拳は俺の鳩尾に入り、俺の本体にとてつもないダメージを与えた。效果、相手は死ぬ。
一瞬せっかく覚醒した意識が飛びかけたが、根性でなんとかつなぎ止め、しばらく悶絶していた。
深呼吸をしてなんとか喋れる位まで痛みが引くまで待ち、俺に跨ったままの睦月に話しかける。
「あ…ぅ……ほんと……ごめんって…言ったじゃん……。」
「そう言って兄貴何回目?今月で3回目だよ?」
「なんで3回も馬乗りしてくるんだよまずそこだろ」
「この体勢は6回目だね」
「なんで数えてんだよ。そんで多いわ。」
「サービスだよサービス。」
「そのサービスで死にかけた人が目の前にいる件については何も思いませんので?」
「まぁ生きてるし」
「そっかぁ生きてるかぁ残念だねぇ」
「次は首かな」
「ごめんって……んで、そろそろ降りてくんね?」
重いし暑いし痛いしで本当にそろそろ睦月を乗せるのが限界になってきた。じわじわとHPを削られる感覚がちょっと気持ち良くないと言えば嘘になるが、生憎まだ死にたくない。というか死因がダサすぎるので死ぬのは嫌だ。
「…しょうがないなぁ。こんな兄貴思いで優しい妹に構ってもらって良かったね。」
「たしかに優しく構ってくれたなぁ……」
そんな軽口を交わしてようやっと睦月は俺の上から降りてそのまま俺の部屋を出ていった。ふぅ。
改めて考えると中々な絵面だったな。ベットの上で男に女が跨り、男は息遣いが荒くなっている……完全に薄い本案件である。実際は厚い本を使って法廷で戦ってもいい内容だと思うのだが。
そんな考え事をしているが、未だに腹が痛くて動けないのである。中々の威力の物を食らったので復活には時間がかかりそうだ。どこにあんな力があるんだよ。
ただまぁ、兄貴に対して優しいかは分からないが、構ってくれるいい妹ではある。
起こし方の癖は強いが、一応起こしてはくれるし。多分朝ごはんも用意してくれているのだろう。まぁ睦月は料理が上手いとは決して言えないのだが、というか「どうしたらそうなるの?」ってミスを連発するのだが。
家事も頑張ってはくれて居るのだが、やっぱりミスが多い。洗濯機に塩を入れた時は目が眩んだ。わざとなのか?ってなったね。俺がやると言っても「兄貴だけに任せられない!」と言って聞かないのでやらせているのだが……そろそろ本格的に家事を教えるべきか。
だが、なんだかんだで兄貴思いの良い妹ではある。
親が共働きで不在なことが多く、妹も少し前までは喘息で動けなかったので俺は自然と家事ができるようになったのだが、最近やっと外に出れるようになった睦月は今までの分を返そうとしてくれているのか積極的に色んな事をやろうとしている。
やっぱりなんかの形で感謝を伝えるか。今日の晩御飯はあいつの好物にするか……
なんて感慨にふけていた。のだが。
ドガァァァン
少なくともドアが起てていい音では無い音がドアから発せられる。怖いって。
突然ドアを勢いよく開けて、というか蹴破って外で待機していたであろう睦月が突入してくる。特殊部隊か?
「兄貴!!遅い!」
「そろそろその蹴破るのをやめてくれ。それ見てみ、誰かさんのお陰でボッコボコになったそのドア君を」
「私の兄貴への愛を受け止めきれないドア君が悪いよね。」
「ドアをボコボコにするほどの愛を受け入れる力を俺は持っていないが?」
「え?受け入れさすけど?」
「え?無理だけど?」
そう言うと睦月は「え〜 ケチ〜」と言いながら俺の部屋から出てった。ケチも何も、ドア君のHPはゼロなわけで。
ドア君のHPを全部けずった蹴りを俺が受けきれるわけなくて。ケチとかそういう話じゃなくて。
まぁあれこれ考えていても自分で起きれない俺が悪いので何も言い返すことは出来ないのだが。
考えるのをやめて俺はリビングへと向かう。
やっぱり朝飯を用意してくれんのはありがたいな。
が、若干こげくさいのは気の所為であって欲しい。
「兄貴、遅い。冷めちゃうよ。」
「いや冷めるも何も焼けた跡じゃねぇか。焦げきって真っ黒じゃねぇか。」
「私の心は真っ黒なんかじゃない綺麗な色だけどね!」
「真っ黒じゃない状態でこれなの怖すぎないか……?というかどうしたらパンを焦がすんだよ。」
「だって兄貴が私を離さないから……」
「事実をねじ曲げないで?というか焦がすの何回目だよ。」
「3回目だね」
「数えてないで学んでくれ」
……まぁ色々とあれな妹だが、構ってくれるだけいいか。
そう思って妹の対面に座り、用意された朝食に手をつけようとして……ポッケのスマホが1件の通知を知らせた。
食べてる最中にスマホを触るのはお行儀が宜しくないので今のうちに確認だけしようとして妹の方を見たが、妹もどうやら同じタイミングでメールかなんかが来たらしい。
珍しいこともあるもんだと思いメールを確認したが、内容を見て俺は椅子から転げ落ちそうになった。それは父さんからのメールだったのだが。
『暁へ、そういえば言い忘れていたが、お前と睦月は血が繋がっていない。今のお前の母さんは実は再婚相手でな。ちなみに同じ内容が母さんから睦月にも今伝わったと思うが、まぁなんとかしてくれ。』
……は?
恐る恐る対面に座った睦月を見ると、睦月もまたこちらを見て、口を開けていた。
俺は自然と口から言葉がこぼれていたが、睦月も同じだったらしく、同時に喋べる形になった。
『いやベタすぎるだろ』
幸楽?誰ですかそれ
設定が似てる?何にですか?