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第6位 マリアン社長誘拐事件

 2024年4月8日、スーパーマーケットチェーン『マリアン』を営業するマリアンカンパニーのヨハンネス・リュディガー社長は普段通り、黒のベンツAクラスセダンで自宅を出てマリアン本社へ向かった。この日は午後から人事制度の更新に関する会議が行われる予定となっていた。


 途中、運転手に銀行へ寄るよう言った。プライベートの現金を引き出すためとのことだったので、運転手はドイツ銀行ヴァレンシュタイン支店へ車を走らせた。この銀行は普段の通勤コースにはなく、遠回りになる。リュディガー社長は秘書に出勤が遅れる見込みであることを電話したのち、1人で銀行へ入っていった。


 社長を銀行の玄関前で下ろした運転手は、隣の駐車場に車を停めて社長の帰りを待っていた。ところが1時間経っても帰ってくる様子がなかったため自らも車を降りて行員に尋ねたところ、社長は既に用事を済ませて玄関前に停まっていた黒いセダンに乗っていったという。社長が車を乗り間違えたのかと思った運転手は社長に電話をかけたが、その電話は繋がらなかった。


 運転手が銀行で途方に暮れていた午前9時半頃、マリアン本社のお客様問い合わせセンターに1通のメールが届いた。メールには「リュディガーを誘拐した。10億ユーロ用意しろ。CMで回答すること。警察に話せばリュディガーは死ぬ」と簡単なポーランド語で書かれていた。問い合わせセンターの責任者はいたずらだろうと思いながらも処理を社長室へ相談に向かったところ、運転手から社長が行方不明になった連絡を受けた秘書と会い、誘拐事件の可能性が高いと判断して警察へ通報した。


 当然、マリアンといえど10億ユーロを急に用意することは難しい。身代金を要求する期限が指定されていなかったため、期限と身柄引渡しの交渉をメールで返信した。会議を行う予定だった午後には副社長がリュディガー社長誘拐に関する記者会見を開き、その様子はテレビやインターネットのニュースで報じられた。マリアンの株価は暴落し、社長の安否と共に会社の動向にも注目が集まった。


 お客様問い合わせセンターに新しいメールは現在も届いていない。マリアンはメールにある通り、テレビとインターネットのCMで犯人へ再度連絡に応じるようドイツ語とポーランド語で要求している。なお、CM内では10億ユーロを用意したかどうかについては言及しておらず、副社長をはじめとした経営幹部たちも身代金を用意したのかというマスメディアからの質問には答えていない。本事件は現在も捜査中である。




 噂に過ぎないが、本事件には多くの犯人候補、犯行協力者候補が挙げられている。運転手、銀行員、投資家、マリアン経営トップ層、スーパーマーケット『マリアン』従業員、個人商店経営者、取引先企業や顧客……。リュディガー社長は敵を作りやすいタイプの人物だったという話もある。リュディガー社長が誘拐されて以降、マリアン本社の社長室は誰も使用しておらず、半ば物置きと化しているそうである。

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