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番外編① ギルベルタ・ランガー事件

 1999年7月1日、ヴァレンシュタイン西部にあるマンションの一室で、その部屋に入居する女性の遺体が発見された。被害者はローゼ・ウーレンフートさん。本事件の参考人として警察の事情聴取を受け、容疑者ではないかと市井で噂されたのが歌手であり俳優のギルベルタ・ランガー氏である。


 氏が警察の事情聴取を受けたのは事件現場となったマンションの所有者だったために他ならず、警察も他に強い疑いのある人物が捜査初期に浮上していたことから、この時点では氏を容疑者として扱ってはいなかった。ところが国民的スター俳優が殺人事件について警察の事情聴取を受けたという事実は、国民の注目を集めるのに充分なインパクトを持っていた。


 一般に普及し始めていたインターネットを通じて国内外から虚実入り乱れた情報が流れていく内に、被害者と氏は男女の関係にあった、氏は違法薬物の使用者であると共にサイコパスであった、6月30日夜を2人は同じ部屋で過ごしていた、などと噂されるまでに至った。なお、容疑者逮捕前の警察発表による被害者の死亡推定日時は6月20日前後である。


 ただの噂に留まれば良かったのかもしれないが、影響は出てしまった。氏が当時出演していたハンバーガーチェーンのテレビCMが差し替えられたのだ。恐らく、違約金も発生したものと思われる。また、捜査中に真偽不明ながらも新たな証言があったことから、氏も容疑者の1人として念の為に聴取を受けることとなった。警察は否定しているが、海外の専門家の中には国民の声に押された部分もあったはずだという者もいる。


 警察が氏を犯人候補に加えたとして、いよいよ国民は大騒ぎとなった。CDショップでは氏のシングルやアルバムが販売中止、氏が出演していたドラマは放送打ち切り、氏が主演で公開間近だった映画もあえなくお蔵入り。週刊誌やテレビの記者たちはどうにかして氏の現在の写真や肉声を収めようと警察署やマンションを包囲した。


 11月24日、その後の裁判で有罪判決が確定する容疑者1名を逮捕したと警察が発表。氏を含む他の容疑者の無実が証明された瞬間でもあった。本事件は、全貌が明らかになっていない事件を話題にする危うさを伝える資料としてヴァレンシュタイン報道史に名を残し、同時に氏のファンたちの戒めとなった。




 時は流れ2012年12月23日。氏がヴァレンシュタインメモリアルコンサートホールでクリスマス公演を行った。タイトルは『ノストラダムス』。マヤ文明のカレンダーを根拠とする人類滅亡説が囁かれた2013年を、氏は一笑に付した。現在も、氏はヨーロッパの芸能界を中心として精力的に活動している。

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