第9位 テレビスタッフ殺害事件
1990年12月3日、ヴァレンシュタイン公共放送でアシスタントディレクターとして勤務するオットマー・デリウスさんの遺体が発見された。発見したのは趣味でビオトープの管理をしていた占い師の主婦。夢の中で「ビオトープの林を見ろ」と啓示を受け、朝になってオーデル川沿いの小さな人工林を覗いてみると、木影に隠されるように遺棄されたデリウスさんの遺体を発見したのだという。
デリウスさんの最後の目撃証言をしたのはヴァレンシュタイン公共放送人事部に勤める女性社員。デリウスさんとは同期の間柄であり、12月2日の夜に行きつけの飲食店で食事をとった。店を出ると、自宅の方向が違う2人はすぐに別れたという。数名の店員も2人がこの日に来店したことは覚えていたが、遺体発見現場からはデリウスさんが受け取ったはずのこの店の領収書が見つかっていない。
この飲食店からデリウスさんの自宅までの間にはヴァレンシュタイン唯一の風俗街がある。しかし当時、まだ監視カメラを設置している風俗店はなかった。客離れ防止を理由として警察への情報提供を拒む店が続出し、デリウスさんが自宅に直行したのか、それとも寄り道をしたのかの特定に時間を要した。結局、デリウスさんはメインストリートを素通りしたわけではないことがわかったが、風俗店に入ったのか、それとも他の何かがあったのかは現在も不明である。
警察の調べでは死因は絞殺。デリウスさんより身長の低い人物が犯人である可能性が高いとみられた。デリウスさんが高身長であったことから女性犯人説が浮上する。特に疑われたのは第一発見者の占い師、同期の女性社員、風俗店で働く女性、そしてデリウスさんの母親である。警察に寄せられた情報の中にデリウスさんと両親は関係が悪く、強い殺害動機があるというものがあったためだ。
しかし、デリウスさんの両親は警察の事情聴取できっぱりと不仲を否定した。ヴァレンシュタイン公共放送の職員たちも、デリウスさんが通っていた大学の同級生も、彼の家族仲が悪いという話を聞いた者はいなかった。一方、当時の捜査関係者の中には、実際の家族関係は周囲に見えていないところで崩壊していたのではとする説も根強く残った。
ヴァレンシュタインが東ドイツから分離独立して僅か2ヶ月で発生したこの事件は当初、国民の注目を集めたが、1991年12月のソ連崩壊などの国際情勢に押されるかたちで関心を奪われ、現在も解決に至っていない。ヴァレンシュタイン分離独立後初の未解決事件である。ヴァレンシュタインでは殺人事件に関する時効が存在しないため、警察は現在も捜査を継続している。
2002年9月11日、ヴァレンシュタイン警察がサイバー攻撃を受け、本事件を含む複数の事件に関する捜査情報が流出した。以降はサイバー犯罪への対策が強化されていくことになるのだが、捜査状況を入手した犯人が何らかの証拠隠滅を図る機会を与えてしまったのではないか、と警察に対する国民の不信感を強める結果となってしまった。