第1位 ハウアー事件
2018年6月26日、巡回警ら中のパトカーが何者かに襲撃を受け、2名の警察官が殺害された。銃殺された警察官たちは運転席と助手席にシートベルトをつけた状態で座らされ、パトカーごと燃やされていた。焼け残った青いランプが、ただの黒い炭の山ではなく警察車両であるということを証明しているようだった。設置されていた車載カメラは犯人が持ち去ったのか、焼け跡から見つからなかった。
犯行は深夜、目撃者がいない中で行われた。警察無線の記録によると、殺害される直前まで速度超過の車を追尾していたことがわかっている。報告されたナンバープレートから所有者が割り出されたが、所有者は事件当日の朝、車が盗難されていることに気づいて警察へ被害届を提出していた。この車は現在も見つかっていない。
警察は1人の男に疑いをかけた。元警察官のメルヒオール・ハウアーである。ハウアーは2015年、違法薬物を所持していたとして懲戒免職になっていた。その後は実家に戻って家業の農業に従事していたとされている。尊大な性格で、警察官時代には同僚らとトラブルを起こすことも度々あった。警察官を狙った犯罪を行う理由があったのだ。
7月24日、警察はハウアーを殺人容疑で逮捕した。取り調べでは、ハウアーは容疑について「肯定も否定もしない」と主張。ほとんど何も語ろうとしないため、弁護士ですら会話に苦労していた。裁判ではハウアーが犯行を行ったと充分に認められる証拠が乏しかったため、無罪が言い渡された。退廷時、ハウアーは弁護士にのみ聞き取れる小さな声で「僕の勝ちだ」と話したという。
裁判によって正式にハウアーの容疑が否定されたため、捜査は振り出しに戻った。だが、懸命な捜査も虚しく時間だけが過ぎていく。状況証拠を調べる限り、ハウアーが犯人であれば全ての説明がつくのだ。決定的な物証を探す警察官たちを嘲笑うかのように、ハウアーはOBとして警察署を訪問し、その様子を動画投稿サイトにアップロードするなどのパフォーマンスを行ってみせた。
本事件は現在も捜査中であり、2022年に新築された警察署の正面エントランスホールには犯罪者に決して怯まず立ち向かう姿勢を表すため、全焼したパトカーが展示されている。2024年には本事件で殉職した警察官2名の生前の写真が追加して飾られた。ヴァレンシュタイン警察は今日も国内外の犯罪者たちと戦い、人々の平和と安全を守っている。
ハウアーの警察署訪問などの行動は被害者遺族の感情を逆撫でし、警察を侮辱するもので到底許されないが、ある種の社会への反逆とも受け取れる行為が若者たちの間で話題を呼び、インターネットの掲示板サイトにハウアーを崇拝するような書き込みが見られるようになった。彼らはかつての世界統一委員会のような組織を作ってしまわないだろうか。社会に平安が訪れることを祈るばかりである。