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返り咲きのヴィルヘルミナ  作者: 宝月 蓮
ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・エフモント
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成人の儀にて

 ついに成人デビュタントの儀の日になった。馬車の中のヴィルヘルミナは少し緊張した面持ちだった。

 そんなヴィルヘルミナとは裏腹に、馬車を引く馬は颯爽と走っている。よって馬車から見える街並みは早く切り替わっていくのであった。

「ミーナ、大丈夫だ。絶対に俺がお前を悪徳王家やその派閥から守ってやる。だから、成人デビュタントの儀では絶対に俺から離れるな」

 ラルスはヴィルヘルミナの手を握る。そして力強い笑みを浮かべていた。

「ありがとうございます、ラルスお義兄にい様」

 ヴィルヘルミナは品良く口角を上げる。ラルスの表情に少しホッとするのであった。

わたくしもベンティンク家やそちらの派閥の方々にはあまり近付かないようにいたしますわ。成人デビュタントの儀に出席する方々の顔と名前は一致させましたので」

「もう覚えたのか。それは頼もしいな」

 ラルスはフッと笑い、ヴィルヘルミナの頭をくしゃっと撫でる。

「もう、ラルスお義兄様、髪が崩れてしまいますわ」

 ヴィルヘルミナは軽く頬を膨らませた。緊張はすっかり解けていた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 王宮に到着したヴィルヘルミナとラルス。ヴィルヘルミナはラルスにエスコートされ、会場入りした。

 ベンティンク悪徳王家に取り入って甘い汁を吸おうと目論む者、出来るだけ波風立てず目立たないようにしている者、全てを諦めている者。会場にいる者達の表情は様々であった。

 そしてベンティンク家の者達が入って来た。彼らに忠誠心を持つ者も持たない者も、皆一斉に礼をる。こんな些細なことで悪徳王家に目を付けられて一族連座の処刑は避けたいのだ。

「皆の衆、面を上げよ」

 国王アーレントの声が響き渡る。アーレントの隣には王妃フィロメナと王太子ヨドークスが並んでいる。全員、派手で宝石をふんだんに使用した、誰が見ても明らかに金がかかる服装である。ヴィルヘルミナにはそれがかえって下品に思えた。

(アーレント……。十五年前にクーデターを起こした張本人)

 ヴィルヘルミナのタンザナイトの目がスッと冷えた。

成人デビュタントの令嬢諸君、君達は今後世界の覇権を握る国に生まれたことを誇りに思うと良い。五年前はまだ時期尚早だった。しかし、改めて隣国であるウォーンリー王国に攻め入り、の国の金属資源と豊富な水資源を手に入れる! そしてドレンダレン王国の工業化、更なる軍の強化を図るのだ!」

 堂々と、そしてどこか傲慢さのあるアーレントの言葉である。

(ウォーンリー王国に攻め入って世界の覇権を握る……。そんなことが出来るわけがないわ。五年前、ウォーンリーに攻め入ろうとした時は隣接するセドウェン王国、ガーメニー王国から手厳しい制裁を受けたじゃない。おまけに、それこそ既に世界の覇権を握っているナルフェック王国からも、『他国を侵略するのならいかなる手段を講じてでも阻止する』と圧がかかったわ)

 ヴィルヘルミナは表情には出さなかったが、心底軽蔑していた。


 ベンティンク家のクーデターによりネンガルド王国から嫁いで来た王妃であり、ヴィルヘルミナの実母であるエレオノーラが惨殺された。それにより工業大国であるネンガルド王国との国交は断絶された。更に五年前のウォーンリー侵略未遂により、ドレンダレン王国は国際的な孤立を深めていたのだ。


「それから、我が息子であり王太子のヨドークスはもうすぐ十七歳になる。そこで、上級貴族の令嬢の中からヨドークスの婚約者を選びたいと考えている。上級貴族の令嬢諸君、我々ベンティンク家に相応ふさわしい淑女を目指すのだ」

 アーレントは傲慢な笑みを浮かべる。そしてその隣にいるヨドークスは成人デビュタントの儀に出席している令嬢達を品定めするような目で見ていた。

(ヨドークス・アーレント・ファン・ベンティンクの婚約者……正直嫌だわ……)

 アッシュブロンドの髪にグレーの目で、顔立ちは整っているもののヴィルヘルミナにとっては嫌悪感しかない。上級貴族ということで、ヴィルヘルミナも王太子の婚約者候補に上がっているのである。

 その時、ラルスがヴィルヘルミナの手を強く握り締めた。

(ラルスお義兄様!?)

 ヴィルヘルミナは驚きタンザナイトの目を見開く。

 ラルスはフッと微笑んだ。ラピスラズリの目は真剣である。まるで絶対にベンティンク家へ嫁がせないと言っているかのようだ。

 ヴィルヘルミナは少し安心したように微笑んだ。


 国王アーレントの言葉が終わるとダンスの時間になる。ヴィルヘルミナはラルスに身を任せてステップを踏む。

「ミーナ、ダンスが終われば各自自由に他の貴族達と交流していい時間になっているが……俺から離れるんじゃないぞ」

 ラルスは真剣そうな眼差しだ。

「はい……ラルスお義兄様」

 ヴィルヘルミナは品良く口角を上げた。

 ラルスに守られるようにリードされ、ヴィルヘルミナは再びステップを踏む。

(ラルスお義兄様は……昔からいつも頼もしいわね。だけど……)

 ヴィルヘルミナはほんのり表情を曇らせた。


 ダンスを終え、ラルスと共に他の貴族達に当たり障りのない挨拶をするヴィルヘルミナ。彼女は挨拶回りをしながら周囲を観察していた。

 ゴテゴテと着飾り、下品に笑いながら会話をするベンティンク家。彼らに取り入る者達も下品な笑みを浮かべている。

(民達から集めた税を湯水のように使って自分達だけ良い思いをしている……。わたくしも何も出来ず今の立場に居座っているから、わたくしが言えたことではないけれど……いくら何でもあんまりだわ。少なくともわたくしはこの先個人資産を孤児院などに寄付するつもりよ。お義父とう様達がやっているように。……どうしたらベンティンク家を失脚させて国を変えることが出来るかしら?)

 ヴィルヘルミナは考えを巡らせる。

(やっぱりベンティンク家内部の情報も必要かもしれないわね)

 ヴィルヘルミナはふと会場中央にいる王太子ヨドークスに視線を向ける。

 ヨドークスはとある令嬢とダンスをしていた。栗毛色のふわふわとした癖毛にヘーゼルの目。そして小柄で庇護欲そそる可愛らしい顔立ちの令嬢である。

(ベンティンク家内部……)

 ヴィルヘルミナの中にある迷いが生じ始めた。

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実はサスキア、こちらにも登場しています→『その国を滅ぼしたのは誰?』
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