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6.異世界ハーレムは男子の夢ですか?(少女視点)

【少女視点】


コップが空になった瞬間、見計らったようにメイドと騎士たちが入ってきた。

戸渡くんの読み通り、歓迎の宴をもうけるのでお仕度をと、引離されてしまう。


「こちらへどうぞ」


同い年くらいの小柄なメイドが案内してくれる。


「私ヘレナと申します!聖女様付のメイドになりますので、何でもお申し付けください!」


素朴な笑顔は、どこか親しみやすい。


(あ、そうかこの子、黒髪なんだ。異世界で初めて会ったな)


連れていかれたのは赤い花びらが散らされた、むせるような香りのお風呂だった。

そこで年配のメイドたちに囲まれ、あっという間に下着まで全て脱がされる。


「面白い構造の服ね。金具がついているわ」

「これはどう使うのかしら」


メイドたちは興味津々で制服やポケットに入れていた髪留めまでチェックしている。

直前に戸渡くんにスマホ預けておいてよかった。


お風呂でマッサージをうけたあと、オイルで磨かれる。


(気持ちいい~ でも絶対帰るんだから!)


日焼けしていた髪と肌がピカピカつるつるになり、鏡の前でうっかり感動していると、後ろで髪をとかしていたヘレナがふふっと笑った。


「失礼しました。聖女様も、女の子みたいなところがあるんだなって」

「聖女じゃないよ!!私、普通の庶民だから!」

「そうなんですか?天の遣いでは?」

「まさか!さっきまで学校にいたのに、急にこの世界に連れて来られただけ」


驚いた様子のメイドに苦笑すると、年配のメイドから声をかけられる。


「聖女様。こちらの正装にお召かえを」


ハンガーに吊るされているのは、キラキラのビジューで飾られているビキニだった。


「あの、これは?」

「この国の正装になります」

「いやこれただの紐では?服としてのやる気が感じられない」

「高貴な方ほど、美しく細い紐を着ておられます」

「ほらもう紐って言っちゃってるよ」

「はりきってどうぞ」

「あの、なにか上に着るものは?」

「ありません」

「ひーーーむりむりぃ!!制服かえしてぇ」


泣きつくが、笑顔の女官たちには相手にされない。


「聖女様はスタイルがいいからお似合いですよ」

「胸もおしりも隠れてないよぉおおおおお!!無理オブ無理!!!」


必死のお願いも、キャッキャ盛り上がる彼女たちには届かない。


「そうだ、マント!私、信者なんです!マントを持ってきてください!!」


紐ビキニよりはビジネス信者のほうがマシだと瞬時に判断し要求すると、女官達はいやな顔をしたが、小柄なメイドが持ってきて羽織らせてくれた。


(うぅ。マントがあるだけマシだけど、スース―するよぅ)


髪と顔を隠すようにという戸渡くんの言葉を思い出し、フードを目深くかぶる。

黒マントに身を包み、豪華な宴席へ向かうと、すでに貴族と思わしき人々が集まっていた。


「あれが異界の聖女か?」

「美しい容姿だとか。私の愛人にしてやってもいいな」

「バカね。男が触ると、祟られるそうよ」


私に触ると腐り落ちるという戸渡くんの嘘のおかげで、私の席は少し離れたところに用意されていた。


(もしかして戸渡くんはこうなることを想定して、あんな嘘ついたのかな)


布のパーテーションに囲まれ、ひとりソーシャルディスタンス状態なので物理的には安心だが、人々の品定めするような視線が気持ち悪い。


(戸渡くんは、どこ?)


彼の姿を探すが、見当たらない。キョロキョロしているうちに王様の挨拶から宴が始まった。


「聖女様、甘くて美容にも良いハチミツ酒なので、たくさん飲まれてくださいね」


給仕の女官たちが花の香りがする酒をしきりにすすめてくる。


(これ、絶対飲んだらアカンやつだ)


口に入れたふりをして吸水生地のマントに吐き出し、飲んだふりをする。

宴は踊りや人々の笑い声で盛り上がっているが、戸渡くんはいつまで経っても現れない。


「あの、彼はどこですか?」

「旦那様なら、別の部屋でお楽しみですわ」

「えぇ聖女様はお気になさらず」


(これ、何か隠してる)


必死にごまかそうとするメイドたちの制止を振り切り、宴の外に出るとすぐにヘレナが小走りで寄ってくる。


「聖女様どうされました?」

「一緒にきた男の子はどこにいるの?!」


小柄なメイドに詰め寄ると剣幕に驚いていたが、すぐにご案内しますと頷き、細い階段を下りていく。


(地下にいるの?!戸渡くん、なにかされてるんじゃ)


地下といえば幽閉…拷問?!昔映画でみたシーンが目に浮かぶ。

不安を募らせ、メイドのあとを早足でついていく。


「この先にいらっしゃいます」


通されたのは、随分と薄暗く奥まった場所だった。美しい透かし柄の入ったベールが幾重にも垂れ下がり、近づくほど、腐りかけの夏の果実のような甘ったるい香りが強くなっていく。


(なにこの怪しげな空間!大丈夫なの?!)


薄い幕を必死にめくっていくと―――――






「ハイ、ハイ、のんでのんで~~!」

「ハイハイハイハイ!ルーレット!」

「ぷはっ、ウェーイ、次はそこの金髪のカワイイお姉さん!」

「ハイ、ハイ、のんでのんで~~!」


紐ビキニ美女たちの中心で、優雅にくつろぐ戸渡くんの姿があった。

フリルのシャツをはだけさせ、葡萄酒の瓶を回し飲みしながら、キャッキャウフフと美女たちと盛り上がっている。


(コイツ!ま、まさかの……異世界ハーレム楽しんでやがるぅううう!!!!!)


思わず膝から崩れ落ちる。

ヘレナが横でおろおろとしていると、輪の中でひときわセクシーな黒髪の女性が、こちらに気付く。


「あら、聖女様」


グラビアアイドルのような見事なプロポーションが目に毒だ。

ようやくこちらをみた戸渡くんが、のんきに手をヒラヒラ振った。


「どうしたの~?」

「心配してたんだよ!そちらは随分とお楽しみのようですね!!!」

「うん。死にそうなほど楽しいよ!」


仁王立ちで睨みつけるが、美女たちに囲まれた戸渡くんはヘラヘラしている。


(もうっ、帰る気あるのぉ?!!)


ズンズンと近寄り、戸渡くんのヒラヒラした胸倉をつかむ。


「あのねぇ!……ひゃっ!?」

「お?」


その瞬間、蜂蜜酒を吸わせたせいで重たくなっていたマントが耐え切れずドスンと床におちた。


「その恰好も似合うね」


のんびりした声に、慌てて両手で全裸に近い身体を隠す。


「あんまり、み、見ないでくれる」

「へ?あぁ!!ご、ごめん!……こないだまで服がない異世界にいたからそんなやましい気持ちは」


ごにょごにょと気まずげに目をそらした戸渡くんの腕に、黒髪の美女がしなだれかかる。


「うふふ。聖女様は初心なのね」


戸渡くんは美女に微笑むと、肩に手をまわし、艶やかな黒髪をひと房すくいとった。


「綺麗な髪だね、まるで夜空を映しているようだ。ここでは黒い髪は珍しいの?」

「そうね、王都ではあまりみないわね。私の故郷には結構いたわ」

「きみの故郷はどこ?僕も行ってみたいな」

「ずっと北の方よ。今は戦争でなくなっちゃったわ」


黒髪美女は寂し気な顔で、戸渡くんに抱き着く。


「あなたの世界はみんな黒い髪なの?」

「どうだったかな、君のような美しい髪を持つ人はいなかったよ」

「そんなぁ、聖女様がいらっしゃるのにぃ」


戸渡くんは美女と見つめ合い、イチャイチャし始めた。


(おいおーい!こいつ、なんなん?やっぱり異世界楽しんでないか?)


異世界の美女にチヤホヤされたくらいで、チャラチャラ浮かれちゃって!

妙に女慣れしてるし!普段の地味なお前はどこに行ったんだよ!


なんだか無性に腹が立って、戸渡くんに重たいマントを投げつける。


「ぶへっ」

「もういい!」


ずんずん大股でベールの外にでるとヘレナが追いかけてくる。


「今の女の人たちも、王宮のメイドとかなの?」

「いえ、王宮の人間ではなく、その、なんというか、おもてなしのプロの方かと……」


ヘレナが頬を染めて答えてくれる。


(そりゃ男子高校生なんて一発で骨抜きだろう)


ハニートラップにずっぽり嵌った戸渡くんを、あてにするのはやめよう。


(なんとか脱出する方法を考えなきゃ)


ヘレナに宴会に戻りたくないというと、ゲストルームへ案内してくれる。

ソファに腰かけた瞬間、疲れを感じたのか身体が重くなる。


(あれ?なんだか急に眠気が……)


「今のうちにお休みください、聖女様」


ヘレナの声が遠くなっていった。

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