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5.本音を言ってはいけません

【主人公視点】


「仕方あるまい、少しだけなら許そう」


王の許可が出ると、すぐに王城の一室へ案内される。簡単なソファとテーブルセットがあるだけで窓のない小部屋だ。


(応接室ってか、高位貴族の監禁部屋ってとこだな)


騎士やメイドが部屋から出ていき、美少女と二人きりになる。


密室・女子高生・二人きり。


(異世界転移、最大のピンチだ)


背筋に冷たい汗が流れる。


(一歩対応を間違えば、元の世界に社会的に戻れない可能性がある)


振り返れば七歳で初めて異世界に迷い込んでから、数多の異世界で何とかサバイブしてきた。魔獣に見つからない方法や気まぐれな魔女をもてなす方法だって熟知している。だが。


(令和の女子高生の扱い方なんて、知らねぇよぉおおお!!!!)


こんなときハーレムチートの一つでもあれば微笑むだけですべて解決だろうが、俺が微笑みかけたところで唾を吐かれて終わりである。下手に話しかけて、異世界までついてきたのストーカー?なんて言われた日にはもう二度と元に戻れない。


(刺激しないように、正面から視界に入って、ゆっくりゆっくり…)


あれこれは動く石像と対峙したときの対処だっけ?

というか、今まで女子と話した回数より魔女と話した回数のほうが多いのでは?


(女子高生って本当に同じ世界線にいるのか‥?)


だめだめ、深く考えちゃだめよ俺。


「うっ、うっ、うっ」


頭を高速回転させていると、ソファーの陰から少女の押し殺した声が聞こえてきた。


(そうだよな、初めての異世界だもんな)


いきなり帰れません!なんて言われたらショックだろう。

配慮が足りなかったと反省して、おそるおそる声をかける。


「あの、大丈夫……?」

「ほっほっほっ」


美少女は元気に膝を伸ばしていた。


「なぜ屈伸?」

「アキレス腱、ヨシッ!」

「ヨシッ、じゃないのよ。何してるの」


少女は狭い部屋を、モモを高くあげながらグルグル回っている。


「フンッ、フンッ、いつでもいけるよ!」

「待って待って、アップ始めないで」

「ほら早くここから逃げよう!」

「いやぁ今逃げてもすぐ捕まるんじゃないかな~」

「大丈夫!私これでも陸上部なの!私が生肉を投げて敵の注意をそらしてる間に!」

「ゾンビ映画じゃないんだから」


(大丈夫か、この美少女)


やる気満々で手首をまわしている少女に呆れながら、マントの中でスマホを起動させる。


『たぶん、ここの会話は盗聴されてる』


こっそり打ち込んだ画面をみせると、少女は目を見開いた。


「とりあえず、落ち着こうか」


どうどうとソファに誘導し、少し間をあけて隣に座る。


「えーとこの度は急に召喚されて驚かれましたよね」

「……どうしたらいいの。私、聖女なんかになりたくない。帰りたい!」


下唇をかんだ少女の大きな瞳が潤む。


「まぁ住めば都というし。この世界もいいところだと思うよ」

『必ず元の世界にもどるから、心配しないで』


適当なことを言いつつ、マントの影からスマホ見せると、うなだれていた少女がパッと顔を上げた。


「この世界の人たちの言うことをしっかり聞くんだ」

『夜になったらもう一度召喚された場所に行く。自分が機会をつくるから、それまで警戒されないように大人しくしてて』


美少女はまっすぐな瞳で小さく頷いた。


「なんとかなるよ、だいじょうぶ」

「本当……?」

「うん、絶対。約束する」


力を込めて頷くと、やっと少女のまろやかな頬に赤みがさす。


(よかった、大丈夫そうか?)


怪しまれないよう会話を続ける。


「今夜はたぶん宴席だな」

「宴席?」

「うん、聖女召喚のお祝いするんじゃない」

「へー!ご馳走でるかな」

『食事になにか盛られる可能性が高い。味や匂いが濃いものは出来るだけ避けて。すすめられたものは食べるふりだけして』


のんきな声に念のため注意しておくと、少女はため息をつく。


「食欲なくなっちゃった」

「とりあえず水でも飲もうか」


立ち上がり、メイドが置いていったティーセットをチェックする。

水差しの水をこぼしたふりをして、右手首に巻いていた紐リングを少し濡らしてみるが、変色反応はない。特殊な紙紐で編まれたこのブレスレットは、リトマス試験紙のように毒性を検知すると色が変わる。


(この水には、変なものは入ってなさそうだな)


さりげなく茶器も一通りチェックしたあとコップに水を入れて、心配そうにこちらを伺っていた少女に渡す。


「ありがとう」

「あ、そうだ。あとこれも。手、出してくれる」


ポケットから手のひらに隠れるサイズのミントタブレットケースを取り出し、少女の手の上で振る。

コロンと出てきたのは白いミントではなく、茶色い丸薬だ。


「これ、なに?」


美少女は手のひらに転がる物体をみて、怪訝な顔だ。


(ハッ、まさか変な薬だと疑われてる?!)


「た、ただの胃腸薬です!!」

「へ」

「初めての世界では、必ずこれ飲んどかないとお腹壊しちゃうから」

「ノリが海外旅行だな」


異世界のものを口にすると身体が拒否反応起こすから、必ず元の世界のものと一緒に食べて中和しないと。胃腸薬を飲んでおけば、胃腸もあれないし、一石二鳥だ。


(えっ、これ常識じゃないの?)


少女は納得していない様子だが、俺が飲み込むのをみて、しぶしぶ水と一緒に飲み込んだ。


「にがい」

「色々試したんだけどこれ一番効くんだよね」

「ねぇほんと何者なの……?」


そんな美少女の質問を遮るように、強いドアノック音が響いた。



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