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3.制服じゃだめですか?(少女視点)



「ようこそ、ワーゲンシュバルグラン王国へ!聖女様」


怪しげな集団の中でも特に怪しい、黒ローブに金銀の紐を巻きつけた老人が興奮した様子でこちらへ向かってくる。その横にはパフスリーブのきらびやかな衣装を着た金髪の青年。

この組み合わせは、魔法使いと王子様ってとこだろうか。


(出来の悪いテーマパークみたい)


悪夢のような光景にぼんやりしていると、金髪の青年は薄い唇をゆがめて笑った。


「私はこの王国の第一王子のルーイマカアタだ。はじめまして、美しき聖女よ!」


(この人、いま聖女って言った?)


腰が抜けた私に、自称王子が手を差しだしてくる。


「フフ、私の美しさに驚いて声も出ないか。仕方ない、この私が自ら運んであげよう」

「そういうの結構ですー」


太ももに伸びてくる手に迷惑していると、横から戸渡くんが私の肘をつかんで起こしてくれる。


「あ、ありがと」

「はっ!!これって同意のない接触か?!」


異世界にきてから初めて青ざめている戸渡君に、王子がムッとした様子で怒鳴る。


「なんだお前は!聖女の従者か?」

「私の名は、コンコン・ギツネ。彼女はポンポコ・タヌキ。我々は夫婦です」


(なにその偽名!そもそも夫婦って!?)


戸渡君の名乗りに、思わずポカンと口を開く。


「妻だと?」

「ええ、妻に勝手に触らないでいただきたい」


王子の眉間に皺が寄るが、戸渡くんは飄々と続ける。


「御身のためです。私の世界では、夫以外の男性が人妻に触れると大切な部位が腐り落ちますから」

「そ、そうなのか‥」


戸渡くんがおもむろに王子の股間を凝視すると、王子は慌てて手を引っ込めた。

王子は股を押さえながら、黒マントの老人を怒鳴りつける。


「聖女を召喚するはずだろ!どうして男連れなんだ!」

「間違いなく召喚には成功しました。王宮で陛下がお待ちです。詳しいお話はそこで」


何の説明もないまま祭壇から追い立てられ、ドーム中央の花道を進む。


「聖女様だ!なんと美しい」

「黒い髪なのか。珍しいな」

「これで我々も救われるのだ!!万歳!!」


熱狂する黒マント集団に震えながらドームを出ると、真夏のような白く強い日差しの下で黒塗りの馬車が待っていた。馬車というか、正しくは馬のような6本足の獣が引いている乗り物だけど。


「騎車が揺れて、私があの女に触れたらどうするんだ!」

「しかし今から別の騎車を用意するとなると時間がかかります」


王子は、少し離れた場所で黒マントたちと言い争いをしている。


「ヨシッ、今のうちに逃げよう!ってあれ?」


隣にいたはずの戸渡くんを探すと、黒マントたちと親し気に話しこんでいる。


(のんきにおしゃべりしてる場合かーい!)


もぉ男子ぃぃい!とヤキモキしていると、戸渡君はマントを2枚もって戻ってきた。


「はい、これタヌキさんの分」

「いやいや、黒マントとか絶対いらないから!」

「制服だと目立つから、被っておいたほうがいいよ」

「む。まぁたしかに」

「この先、髪も顔もできるだけ隠しておいてね」


渡された上質な黒マントは、紫外線をよく防ぎそうだ。裏地はスポーツタオルのように汗をよく吸い込みそうな吸水素材で、慣れた感触に少しだけホッとする。


「どうやってコレ手に入れたの?」

「わぁ素敵なマント!えっこれ信者になるともれなくもらえるんですか?今ならもう一枚ついてくる?ぼくも今すぐ信者になりたーい!って言ったら快く譲ってもらえた」

「いやいや、そんな深夜の通販じゃないんだから」


私がもたもたとマントを広げている間に、戸渡くんは慣れた様子でマントをさっと羽織り、馬車へ近寄ると御者と談笑を始める。


「騎獣かっこいいなぁ、なに食べるんですか?肉?」

「いやいや、こいつは草食なんだよ」

「え!意外だなぁ」

「オレンジ色の甘い花が大好物でね」


戸渡くんは異世界人とにこやかにおしゃべりを楽しんでいる。


(なんか……溶け込んでるなぁ)


もともと、戸渡くんは目立つタイプではない。


私もあの出来事がなかったら名前も知らずにいただろうし。

こうして大勢の中にいたらすぐに紛れてしまうくらい。そう、少し大人びた雰囲気の、どこにでもいそうな、おとなしい男子。


六本脚の獣を撫でている少年の姿に、なにひとつおかしなところはない。


(だからこそ、おかしい、んだ)


口の中の生唾をのみこむ。


(学校と同じように、異世界でも”普通”でいられるって……絶対、普通じゃない)


人の良さそうな顔で笑う戸渡くんの底知れなさに、ゾクリとする。


ようやくマントを頭までかぶったところで、偉そうな老人の神官が近づいてきた。

マントを着た私たちをみて満足そうに頷く。


戸渡君と一緒に馬車へ乗り込むと、重そうな鎧を着た兵士が両脇を固め、すぐに騎車はガタゴトと結構なスピードで動き出した。


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