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11.異世界の常識は常識ではありません


「ただいま、鈴さん」

「ちょうどお芋が焼けたとこよ。また渡ってきたの?」


金髪の巫女が朗らかに笑うと、人形のような縦ロールがくるりんと揺れる。


「まぁね。今回はすぐ帰ってこれたけど」

「ふぅん。それよりお友達を連れてくるなんて珍しいわね」


ちらりと冷やかすように目を向けられ、隣の美少女が元気よく名乗る。


「初めまして、真中 翼です!」

「ん、真中?」


(マナちゃんって苗字だったのか。てっきり下の名前かと)


「あ、やっと自己紹介できたね」


少女はどうぞよろしく、と明るくぺこりとあたまを下げた。


「真中さんね」

「苗字じゃなくて、ツバサって下の名前で呼んでもらえたら」

「えっ!?」


(名前呼びとか…もしやこれが世に言う異世界つり橋効果…!?)


ドキドキしている俺をよそに、ツバサはケロリと続けた。


「真中って、うちの学年2人いるからさ」

「あぁ。そういうね」


所詮、俺なんて異世界いきり野郎である。


「なぁに、名前も知らなかったの?」

「さっき一緒に異世界召喚されただけの仲なんで」

「どんな仲よ」

「異世界では、とってもお世話になりました!」

「役に立つでしょうこの子。私が仕込んだから」


巫女はピンクの艶やかな唇を半月にしてウインクをした。


「この人は俺の大叔母で、鈴さん」

「綺麗な人だね」


ツバサに耳打ちされ、思わず苦い顔になる。

見た目こそ少女だが、年齢不詳の半妖みたいなもんである。


「その火、鈴さんが起こしたの?」

「そうよ」

「なら大丈夫だな。ちょっと燃やしてほしいものあるんだけど」


ツバサに目で合図をすると、カバンから下着の入った麻袋を取り出した。


「これ、お願いします」

「あらやだ異界のもの?ちょっと待ちなさい」


鈴さんは片眉をあげ、長い棒で焚火から芋をかき出した。


「いいわよ、火にくべて頂戴」

「えいやー」


ツバサが勢いよく袋を投げ入れると、赤い炎が異物を拒絶するようにパチパチと青い光線を発した。


「ひゃっ?!」

「異界のものは普通の火では燃えないんだ。巫女の浄化の火でないとね」


ツバサが驚いて口を開けたところに、すかさず鈴さんが芋をつっこむ。


「美味しいわよ」

「いひゃひゃきまふ」


青い火花は丸くなったり薄くなったりしながら、徐々に異界のものを包み込んでいく。

少し離れたところで芋をかじっていると、鈴さんが小声で話しかけてきた。


「あんたの異世界転移に一般人を巻き込んだのかと思ったけど、ちがうね」

「やっぱり」

「あんたも気付いてたか。あの子、巫女の才があるよ」

「帰還の儀式で、ツバサに蠟燭に火をつけてもらったんだ。そしたら行きの時間より帰りの時間が短かった」

「巫女がつけた火は力があるからね。このままだとあの子、また異世界に呼ばれるね」

「最近、俺も召喚頻度が多くなってるからな。早くなんとかしないと」

「アイツがいれば何とかなるのに」


悔し気につぶやく鈴さんに、今回の世界もハズレだったと告げる。


「今頃、どの世界にいるんだか!まったく気が遠くなるよ」


焼き芋の焦げがやけに苦い。

舌に残る後味に顔をしかめていると、大叔母に芋を奪われる。


「ちょっとそこ美味しいとこ!」

「あの子にはあんたがついてなさい」

「なんでだよ」

「あの様子じゃ、異世界のこと何も知らないんだろ。力を持ってるだけにタチが悪い」

「うっ」


たしかにこの状態でまた召喚されると厄介だ。


(異世界リテラシーが低すぎる)


「今時、異世界なんて珍しくもないだろうにね」

「そういや異世界転移の掟って、小学校で習わないんだっけ?」


二人で首をかしげる。


「どうせ恋人ならいつも一緒にいるから大丈夫だろ」

「恋人じゃない!」

「くっくっ、そんなの見りゃわかるよ」

「くそばばぁ……!」


意地悪く笑う金髪ロリババアは、無視することにする。


ツバサは芋を片手に、異界のものを祓う青い火に魅入られている。

踊るように形を変えていた炎は徐々に黒くなり、麻袋を燃やしつくすとボンっと煙をはいて消えた。


ハッとツバサが顔を上げる。


「よし、終わったね」

「ありがとうございます!」

「陽も暮れてきたから今日は帰りなさい」

「あの、また来てもいいですか?」

「いつでもおいで」


大叔母はめずらしくツバサのことが気に入ったらしい。


「ほら、明るい道まで送ってあげな」


境内から笑顔で追い立てられた。




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