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彼女の伝え方が独特過ぎる。

作者: 椿時雨

これは面白いはず!

幼なじみの伝え方が独特すぎる


 『この手紙を読んでいるということは、もう私はこの家にはいないんだと思います。思えば、とても楽しい時間でした。初めて会った時の事を覚えていますか? 私は今でも鮮明の覚えています。薄いブランケットに体を丸めて、幸せそうに口からよだれを流しながら眠っていたあなたが。何度起こしてもあと5分とつぶやいて……ふふっ、思い出したら笑っちゃいました。でも、そんなあなたの顔ももう見れないんですね……。私には時間がありません。だからせめて、この手紙でもと思って……。今までの時間は本当に……本当に楽しい時間でした。だからこそ、あなたとお別れするのはとても寂しいです。またいつか会えたら、その時は……』


 なるほど、なるほど。


 秒針の音が聞こえるだけの静かな部屋で俺はそれを読んだ。


 リビングのテーブルには彼女が作っていったのであろうラップで覆われたトーストに目玉焼き。そして、弁当の入った袋。


 そして時刻は、朝の8:30手前。


 なるほどなー。そういうパターンか……。


 『何度起こしても起きないし時間もないから先に行くね』


 と言うわけだな。全く……普通に伝えてほしいものだ。


 俺は、手紙の内容を理解するとトースト一枚加えて家を駆けだした。


 「おい、日向。遅刻だぞ。これで何回目だ? そろそろリーチかかってるぞ」


 「すんません」


 書きなれた遅刻届の紙を教師に渡して席へと着く。


 「おはよ。随分と遅い登校じゃないかね?」


 「そうだな。お前がもう少し粘って俺を起こしてくれてたら遅刻しなかっただろうな」


 「なんとまあ! それは、俺と一緒に暮らしてくれ、って事ですかなぁー?」


 「どう翻訳したらそんなことになるんだよ」


 「よし、ならば私が通い妻になってしんぜよう!」


 「聞いてねえし……それより、ほれ。弁当、忘れただろ」


 「あ、ありがと。やるねーワトソン君。君は実に優秀な部下だよ。お礼に結婚してあげようか?」


 「はいはい」


 「んー。またダメか……なら次は……」


 そんな幼馴染の小声を聞きながら授業は進んでいった。


 幼馴染はいつも突飛なことを言い出す。


 「ねえ、しりとりしましょうよ」


 「何で」


 「だって授業つまんないし。しりとりの方が断然面白い」


 いや、俺はむしろ授業受けてないと成績ヤバいからそんなことしてる暇ないんだけど……。少しは俺の事も考えて? お願いだから。


 「じゃあ、私からね。リス」


 聞いてもないし。あ、ヤバイ。先生と目が合った。ただでさえ素行不良で目つけられてるんだからこれ以上目を付けられるようなことをさせないでくれよ。


 でも……。

 「……すし」


 答えてしまった。いや、しょうがない。これはこいつが悪い。だって、答えてあげないと捨てられそうな犬みたいな顔するし、答えたら答えでこう……パァっとなるし。見てて飽きない。


 「しらす。はい、次!」


 「すいか」


 「かきまわす!」


 ……きょうは、す攻め、か。


 何でこいつとしりとりをすると毎回こう……変な言葉で責めるんだろうな。勝ちたいなら、る、とかの方が良いはずなのに。


 その後もなんとか、す攻め、のしりとりをこなし、一日が終わった。


 そして次の日の朝。


 俺の部屋の机に一枚のメッセージカードが置いてあった。


 『上を見ろ』


 はいはい。今度はこれね。早朝に何かごそごそやってたし、時間もまだある。付き合ってやるか。


 『右を見ろ、左を見ろ、下を見ろ、後ろを見ろ、右を見ろ、斜め前を見ろ、上を見ろ、下を見ろ、後ろを見ろ、左を見ろ、ドアノブを見ろ……』


 いや長くね? こういうのって普通4工程くらいの物でしょ? 時間がない。時間がないけど……ここまでやると最後に何があるのかとても気になる。


 俺は時間を気にしながらもその誘導に従っていった。そして……。


 「……いいな」


 はっ! 遅刻だ。


 俺は部屋で見つけたそれを制服のポケットに突っ込むと慌てて家を飛び出した。


 「おっ、今日は遅刻しなかったんだね」


 「お前な……普通ああいうのは4工程位で誘導するものだろ。おかげで遅刻ギリギリだ」


 「あっはははは、ごめんごめん。やってたら楽しくなっちゃってつい……」


 「はぁ……それよりこれ」


 そう言って、俺は誘導先に置いてあったパンツを出す。


 「うわーっ! ちょっ、こんなところでそんなもの出さないでよ!」


 「なら部屋にこんなもの置いていくな」


 「全く君は……デリカシーってものがないんだから。はぁ……。まあいいや。それより、好きな色を教えてくれないかい?」


 「何だよ急に」


 「いや、昨日の美術で好きな色をテーマに何か描く、って課題が出たんだけど、私好きな色とかが特になくてさ。他の人に聞いてもいいけど、今ここでついでに聞いておこうと思って」


 好きな色……好きな色か。セクシー系な赤? いや黒も捨てがたいな。うーん。


 「……あお……かな。水色寄りの」


 「なるほど水色か……ふむふむ」


 うん?


 「ありがと!」


 そう言って幼馴染は教室を出て行ってしまった。


 その日は何やら難しい顔をした幼馴染を見ながら平和に学校生活が終わった。


 そして放課後。


 俺は嫌な光景を目にした。


 聞こえるのは運動部の掛け声と吹奏楽の練習の音、残っている生徒の廊下での話し声。


 西日の差し込む教室に聞きなれた幼馴染の声と、知らない男の声が細々と聞こえてきた。


 告白だ。間違いない。もしこれでアイツがオッケーの返事し返したらどうなるんだ?


 そのことを想像して、1つずつ消していくたびに喉の奥が痛くなった。


 ……なんか、いやだ。


 あいつを取られたくない。なんで? なんで取られたくないんだ? 分からない。


 けど、何か嫌だ。今すぐここで教室に乱入して雰囲気をぶち壊してやりたい。


 そうすればこの告白も阻止できる。でも、アイツはきっと怒る。


 いや、怒られてもいい。今この場でアイツが誰かの彼女になるくらいならこのまま乱入して……。いや、やめておこう。こんなことしたって、意味がない……。


 『男はあきらめも肝心』


 ずっと、ずっと思ってた。今の関係がずっと続いていくんだって。同じ大学に通って、家賃抑えるために、って名目で同じ部屋に住んで、そのまま結婚して……そんな風になると思ってた。けど、そうじゃないんだな。始まりがあるなら終わりもあるんだよな。


 今この状況はけじめをつけなかった俺が競争に負けた結果なんだ。だから……だから、あきらめるしかない。関係が壊れることを怖がって勇気を出さなかった俺が悪いんだよな。


 どうやって家に帰ったかは覚えていない。気が付いたら自分のベッドの上だった。部屋は荒れていた。俺がやったんだろう。


 「はあ……もう、朝いたずらしてくれる事も、部屋にこっそり侵入して来る事もないんだよな」 


 ……楽しかった。楽しかったなあ……。


 それから一週間、俺はアイツとまともに話せなかった。


 今までと同じ距離感で話したらせっかく勇気を出して告白したあの男子生徒に悪いと思ったからだ。だから、極力あいつと顔を合わせないようにした。


 そんな生活をしている時、母親から一言あった。


 「お隣さんのあの子、告白されたらしいわよ」


 「……そう」


 「あの子可愛いしね」


 「そう」


 だから何だ。そんなこと分かってる。


 「……はあ。いい? ああいう子はね早くしないと誰かに取られてしまうものよ」


 「今更遅いって」


 世間一般では、俺のあの感情は『好き』と言うものらしい。常に隣にいたから分からなかったけど、今ならわかる。


 俺はあいつのことが好きだ。


 ただ、もう遅い。


 「ずっと逃げ回ってる情けなーい息子に一つ教えてあげるわね。返事は、ノー、だって。よかったわね。あんたまだ希望があるんじゃない? ちなみに、いい加減ベランダの鍵開けろ、だって」


 そう言って母さんは部屋から出て行った。そして続けざまに父さんが入ってきた。


 「いいか、よく聞け? 良い物を見つけた時は誰よりも早く行動する事だ。後でもっといいものが出るかも知れない、とか考えるな。今いいものを取りに行け。そして、獲得出来たら大事にするんだ。まあこれは営業の話だけどな」


 そう言うと父さんも出て行った。


 返事はノー。ベランダのカギを開けとけ。俺はアイツが好きだ。人として、一人の女の子として。


 やる事は見えた。


 俺はいつも、アイツのいたずらから一日が始まる。100%捕まえられるのはその時間だ。


 そして、朝を迎えた。


 カラカラという小気味のいい音と共にカーテンが揺れた。


 息遣いから音をたてないように慎重なのが分かる。


 今日の朝はいつもの朝と違う。


 俺はもう起きているし、なにより今までにないくらい心臓の動きが早い。それに合わせて呼吸も早くなっている気がする。


 ちゃんと伝えられるか? いや、伝えないといけない。


 俺は短く息を吐くと、部屋の中で立つ彼女の元へと向かった。


 「おはよ。久しぶりだね」


 「あ、ああ。おはよ」


 …………。


 言え、言うんだ! お前が好きだ、って。


 「あ、あのさ……えっと」


 「うん。なあに?」 

 「えっと、その……」


 口が乾く。上手く舌が廻らない。


 不思議だ。ついこの間までは何とも思っていなかったのに、自分の気持ちに気づいた今の彼女はとても可愛い。


 肩口でふわっとウェーブを描く、漆みたいに滑らかな黒髪。アクセントに水色の飾りがよく映える。そして、朝日が反射するきめ細やかな肌、クリっとした目は長いまつげに守られている。小さな口は時々形を変えて、そのいたずらな表情をころころと変えている。


 改めて思う。彼女はこんなにも可愛かったのだと。そして、好意を伝えるのがこんなにも難しいのだと。


 「ほらほらー早くしないとおばさんたち起きてきちゃうよ?」


 言いたいことがあるんでしょ? ほらほら早く言ってみなよ、みたいな口調も今はとても心地いい。


 「いや、だからさ……ほら、分かるだろ?」


 「さあー何のことだろ。ちゃんと言わないと分からないよ」


 言えよ、たったの6文字だ。何でそれが出てこないんだよ。


 「……しょうがないなあ。私がきっかけを作ってあげるよ。いい? 悪いことをしたと思ったら、ごめんなさい、をする。で、私はごめんなさいが聞ければそれでいいの。ほら」


 簡単でしょ? と言わんばかりに右手を出してくる。


 「その……ごめん」


 「うん。よろしい。まあ、私も悪いよね。すぐ話せばよかったのに。だから私もごめんなさい。はいっ! これで元通り。今まで通りだね。それじゃあ、また学校でね!」


 そう言って彼女は、ベランダへと足を向けた。


 『欲しいなら早く動け』


 無意識だったと思う。彼女の腕をつかんで余ったもう一方の手は彼女の肩に乗せていた。


 「あっ、いやごめん」


 「ほほう? これはまだ言い残したことがあるみたいだね。何でも言ってみ? 今ならすべて受け入れてあげるから」


 …………。


 「黙ってちゃあ分からないでしょ。ほら、言いにくい事でも言ってみなよ。今更何言われても笑わないから」


 これが多分、ラストチャンスなんだ。だから、今言わないといけない。勇気を出せ。この関係がずっと続けばいいけどそんなものはいつか終わる。今終わるか、あとで終わるかの違いだ。


 「……き……だ」


 「ん? なんて?」


 「おま……す……だ」


 「もっと大きな声で言わないと分からないよ」


 「俺と結婚してくれ!」


 「……………………………………………………………」


 あれ? 何か今、俺とんでもないこと言った気が……、 え、なに、この間。


 俺はそっと伏せていた彼女の顔を覗き込んだ。


 「ちょっ、ちょっと待って。あんた突然何言いだすかと思えば……」


 真っ赤だった。白い肌だったのに赤いペンキでも被ったみたいに真っ赤だった。


 「あーもう。も、もう私帰るね。ちょっと体調悪いみたい。あー暑い暑い」


 俺の腕を振りほどくとパタパタと手を振って真っ赤になった顔を仰いでいた。いそいそとベランダへ向かう彼女はまた別の可愛さがあった。


 けど、まだ返事を聞いていない。


 俺はまた体温の上がった彼女の腕をつかんで引き留めると間髪入れずに、


 「返事。返事をまだ聞いていない。イエスかノーか教えてくれ」


 あちこち泳ぐ目を真っすぐに見ながら俺は問いかけた。


 彼女の顔が更に赤くなっていくのが分かる。頭からは湯気が立ち上っている幻覚さえ見えるほどに。


 「え、あの、えっと、あ、う……」


 「俺はずっとお前と一緒にいたいと思ってる。お前が告白されている時、この関係が終わってしまうものだと思った。けど、それが俺は嫌だ。だからお前とずっと……ずっと一緒にいたい。誰にもとられたくない」


 「その……私でいいの?」


 さっきまで忙しく泳いでいた眼は、居場所を見つけたようにうるんだ瞳の中で静かに眠っていた。


 「お前がいい」






 この時のことは今でも鮮明に覚えている。

 時間の流れがこの瞬間だけ止まったかのように。

 静寂の中に彼女の鼓動が聞こえた気がした。

 部屋に差し込む朝日は彼女を包み込み、純白のドレスに変わっていた。

 ゆっくりと顔を近づける彼女はとても美しく、次の瞬間には唇が触れていた。








 「なっ、おまっ!」

 「その……これからもずっと、ずーつと、よろしくね」

 上気した頬とくったくのないその顔を俺はずっと守っていきたいと思った。

 

 


もしよければダメだった点、アドバイスを教えてください。


(例)

 ・構成がダメだった。こうしたらよかった

 ・〇〇の部分の地の文の視点が分かりづらい。その書き方をするなら〇〇の視点が良いと思う


等です。

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